白く狂う悪魔
FEやってました
夢を――悪夢を見ていた。
俺はそいつを許さない。
絶対に殺す。
いつか俺の手でぶち殺す。
何を犠牲にしても
こいつだけは滅ぼし尽くす。
あの子のためにも
そのために
どうか
○○○○を○○○○でください。
灰色の天使と目が合った。
「じりじりじりじり」
自分の声で目が覚める。
「おはよう月夜さん。今日もいい天気だね」
「おはようございます、嘉神さん」
月夜さんが俺の心の中に住み着いて早一週間。
「今日の予定は某国との密会とテロ組織の壊滅。真百合さんの介護、大会に向けての会議となっています」
「はあ。忙しい」
最近真百合があまり仕事をしなくなったから、嘉神一樹ブランドの管理を月夜さんがするようになった。
自分でやってはじめてわかる。
あの人のスケジュール調整は半端じゃない。
「とりあえずシルヴィと逢引して国を裏から牛耳る画策をとればいいんだよな?」
「はいはい。嘉神さん顔はそこそこいいんですから、わたしの言った通りのことをすれば、王女様なんていちころです」
月夜さんが俺の調整をするようになって、日本だけではなく海外の中枢にもはいれるようになった。
彼女の唯一の弱点だった彼女自身のスペックも、俺という存在の心に入り込むことで解消された。
「じゃ、さっさと着替えてください。これから外国に密入国です」
どこかのブランドから送ってきた一着十万越えのスーツを羽織り、ダイナミック密入国。
俺にとっては服を着替える方が密入国よりも難易度が高い。
瞬間移動をした先は長い机が特徴的な会議室。
そのもっとも上座の席の付近に俺はたっている。
時間は1秒たりともずれがない。
これで5回目なのでもう誰も驚きはしない。
「お待ちしておりましたツッキー様」
「ああ。俺もあえて嬉しいよ、シルヴィ」
以前俺が王女様を助けたことがあり、そこからこの国は真百合を経由しなくとも友好的に接してくれる国になった。
「おいで」
ハグでもしてやろうと思ったが
「はっ、いけません。ここにはまだ家臣の者たちが……」
「そう? じゃあ後で?」
「……よろしく、お願いします///」
適当に手懐けておく。
「じゃあ、さっそく議題に移ろうか」
名前も知らない議員のような連中に、話を促す。
「はい。よろしくお願いします」
異国民の俺が仕切ったところで誰も文句は言わない。
「とりあえず現状報告をよろしく頼む」
やりてっぽい雰囲気を出している女に話を聴く。
「はい、嘉神様のご助力のおかげで我が国で超者が2名生まれました」
超者とは世界で影響力のある能力者のことを指す。
ランクとして1000人の席があり、ここに乗るかどうかで知名度や影響力がだいぶ変わってくる。
1000人の枠のうち日本と帝国合わせて9割なので、実質100人足らずの枠を外人たちは争っている。
その枠に入ったということは大スターが2人も生まれたということ。
大変に喜ばしいことであるが、
「とはいってもランクは99番台なんだろ?」
「はい、おっしゃる通りです」
99位ではなく、990位台
このランク体は少し気が抜けたすぐにランク外になってしまう。
「じゃあ、鍛錬はまだ継続」
俺がこの国に対してしてあげていること
1つが兵の鍛錬。
見込みのあるやつに能力の使い方や超悦者のなり方を教え、国力の強化に力を貸している。
もう一つは
「じゃあ、次は誰を殺そうか」
当たり前のことだが、席は1000個すべて埋まっており、新たに獲得するためには、誰かを蹴落として奪い取らないといけない。
その人の上に立つことよりも、その人を土の下にしたほうが、はるかに簡単。
「その……本当によろしいの、ですか?」
「ああ。前も言ったけど、顔も名前も知らない人を殺したところで、俺の世界は変わらないから」
俺にとっての正義は大切な人を守ること。
だからそれ以外はどうなっても知ったことじゃないし、俺の正義は穢れない。
「俺は大切な人さえ無事なら何も気にしない」
心が清浄ならば、この手が血で汚れようと純潔のままで居続けられる。
「それに俺にとって大切な人はシルヴィも含んでいるんだ。君のためにやらせてくれないか」
「はうぅぅ・・・///」
別にこいつのことはどうでもいいんだけど、こういっておいた方が操作しやすいから。
騎士道はないのか、以前そう聞かれたことがある。
ただ帝国だって俺を殺そうとしているし、そのことについて指摘しても証拠の出しようがない。
殺人は、個人として忌避するものだが、国としてなら歓迎するものだ。
「とりあえず、帝国に対して敵対の声明を出していない国の超悦者は殺してもいいから」
神薙信一、王領君子、嘉神一樹
それぞれ行動規範がある。
人、国民、正義と仲間
俺と神薙にあって、帝王様にはないものがある。
それ以外の扱い。
人外を、悪を俺達は許さないが、帝王は違う。
外国人の存在を認めている。
愚かだ。
今の俺と同じ強さだ。
数十年のうち、何度でもあったはず。
天下を取るチャンスが。
やらなかったのは慈悲。
可哀想だとかそんな感情があったかは知らないが、俺が帝王ならさっさと侵略戦争をしかけていた。
以前誰かにこんな事を言った記憶がある。
正義の反対は悪だ。この事実は絶対に変わらない。
自分が賢いと思っている馬鹿が、別の正義といい、若しくは慈悲寛容といった。
なるほど前者は同意しないが、後者は賢い。
つまり、悪は慈悲寛容。
自分の大切なものを守るために、そうでないものを排除しなかった。
これから恐らく戦うことになるだろうが、先に宣言しておく。
それこそが帝王の敗因。
お前は行動が遅すぎた。
俺は違う。
もう帝国を潰す算段はつけてある。
あと半年もあれば金銭だけでなく、国の方針も俺達外道五輪の支持者になる。
そうなれば、帝国も合理的に潰せる。
だが後手後手の帝国だが対策してくるはず。
現在、扱い上は俺と帝王は同格。
俺が帝王を殺せば、帝王が俺を殺せばこの均衡は崩れる。
そして仕掛けてくるタイミングも大方分かっている。
12月下旬
その日に俺と帝王は必ず戦うことになる。
これは相手が計画していたものではなく、初めからそういう風に決まっているもの。
頂上大会
五輪のくせに4年に一度の大会があるが、それはあくまでギフトを使わない前提のもの。
100mを9秒台で走ればニュースになってしまうやつらの大会。
能力者は出場できない制限をかけた、いわばパラリンピック
だが12月に行われる大会は全てOK
能力を使ってサッカーや野球に参加できる。
そしてその中で一番人気が高いのは、PvP
修学旅行でやった5対5の勝ち抜き戦。
あれに一つ、死んでも負けというルールが付け加えられた戦い。
毎年全世界で平均視聴率が30%を超えるといわれるほどの注目されている。
普通のスポーツなら試合の勝ち負けで何かが多く変わることはない。
だがこの全てを出し尽くした5vs5は、国の威厳や国力の証明に関わってくる。
前回1回戦で惨敗した国は、常任理事国から外されたし、逆に準決勝まで進んだ国は入れ替わりで理事国入りした。
今俺が闘い方を教えているのもこの決戦で上位に立つためのもの。
この決戦の注目度は非常に高い。
故に、俺は必ずこの決戦に参加しないといけない。
一応任意には違いないが、これだけ顔が売れてきたため、参加しないのはさすがにまずい。
それに、俺はかれこれずっと変わらなかった帝王一強の時代に大きく傷をつけた。
その俺が参加しないというのはつまらない。
真百合だって参加しないと名誉を守れないとさじを投げた。
名誉を失えば国が賛同することもなくなる。
まあ、ここまでいったが初めから参加するつもりでいたし、有名税として参加するつもりでいる。
勿論、参加する限りは勝ちにいきたい。
数十年続いた帝国1強の時代を終わらせてやりたい。
うまくいけば、その日に帝国が滅びる。
そのためには俺一人では無理だ。
勝ち抜きとはいったが、ルールの都合上3勝までしかすることができない。
最低の最低でもあと1人、戦って勝てる人が必要。
その一人というのはもう内定している。
シュウこと時雨驟雨。
帝国相手にも後れを取らない、彼はこの決戦に必須。
しかし、
なぜかシュウがよそよそしい。
月夜さんの肉体が滅んで、ずっとそうだ。
恐らく俺みたいにまだ立ち直れていない。
心配だ。
なんとかしなければ。




