表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
9章 永劫に沈まぬ太陽
275/353

群青の繭



「やっほ。起きて起きて」

「…………ここは」


 覚えているのは遊園地に浮気現場……じゃなくて許可なく逢引をしている瞬間に乗り込んだはいいものの、神様につれ攫われたところまで。


「神の世界の、いちばん上だよ。本来なら最上神以外は入ることが出来ないんだけど、お兄ちゃんがいる世界の同居人なら別に問題ないから安心して」


 質問をしたのは私だけど、そんなどうでもいいことは聞かなくていい。


「何が目的なの?」


 こんなことをする目的が分からない。


「私達を連れ去った目的は」

「君の悲願をかなえるため」

「つまらない冗談はやめなさい」

「ごめんごめん。でもね、言うわけないよね」


 それもそうだけど。それだけで終わらないでしょ。


「私を起こしたということは、何かしたいことがあるってことでしょ。それに抵抗するか受け入れるかを考えるために目的を話してもいいんじゃないかっていっているの。つまらないことに時間をとらせないで」


 そんな論点のすり替えで黙ると思っているの?

 それで論破される人がいるなら見てみたいわね。


「主人公くんはこれで煙に撒けたのに。頭がいいと本当に困るね」


 まあ、その時その状況があるでしょうから一概にも悪いなんて言えないけど。


「じゃあこうしよう。目的は話さないが、手伝ってくれるのなら君の力になろう」

「いいじゃない。そういうの好きよ」


 実際に私にとってメリットになるかどうかは、この後考えましょう。


「それで、あなたは私に何をしてくれるの?」

「シンボルを授けたいと思う」

「……」


 ずいぶんと厳しい所に来たわね。


 これはいらないともいるとも言いづらい。


「だんまりか。だよね。いきなりすぎる。プレゼンしてもいいかな?」

「ええ。お願い」


 シンボルについてのデメリットメリットは簡単にだが知っている。


 シンボルとはその存在を固定する能力。

 その人の個性や特徴が能力となって表れる。


 それが故のメリット。


 絶対不可侵。


 嘉神君の口映しはあたりまえとして、あの神薙ですら不可侵を貫いている。


 今後もこの不可侵だけは絶対に破られないと考えていいでしょう。


 そしてこの不可侵というのはある意味とっても重要。


 はっきりと私には向いていないといわれた。


「前提の話をしよう。僕は君のことを君が生まれる前から知っている」

「何よその哲学的な話」

「君の前世を知っているって話さ」


 私の前世ねえ。


「そこで君はーー」

「いい。言わなくて」

「聞かないの」

「聞きたくない。私が前世でどこの誰かと逢引してたかって話でしょ」


 私は嘉神君だけのもの。

 不純物はいらないの。


「そうだね。じゃあさ、これだけは覚えておいて。真百合ちゃんは自分が思っているよりも、人に好かれている」


 その相手が誰なのか何となくは察しているけれど


「そう。関係ないわね」


 私は無知を突っぱねる。


「一番大切な人に好かれていないんだもん。そんなものに現を抜かす暇もないか」


 褒めると思いきや、貶してくるとは。


「分かっていないとは言わせないよ」

「………」

「外道五輪の中で、一番いらないのは君だ」

「………」

「だんまりかな。まあ続けるね。嘉神一樹は言うまでもなく、頭だ。そのうえで衣川早苗は心臓だ。彼にとって一番大切なものなんだから」

「うるさいわね」

「まあまあ。でも重要だよ。確かに君のことは3番目くらいに大切にしているさ。でもね、1番じゃない。2択を狭まれたら、君じゃなくて早苗ちゃんを選ぶ。なんなら神の名で宣言してやろうか」


 幸も神様もみんな同じ事ばかり。


「私が早苗より劣るですって……」

「劣るとは言ってないさ。恋愛とはなろうだからね」

「何?」

「底辺からいくらでも逆転ができる。だからどんなに有利であっても、逆転される」


 不条理こそが恋愛。


「まあこれくらいは内心気づいていただろうから、特に言及する気はないよ」

「それで、あなた本当は何と言いたいの」


 要領を得ない。

 煙に巻いた話は嫌いだ。


「真百合ちゃん。君、本当に一樹くんのこと愛してる?」

「あ゛?」


 自分でもこんなに低くて汚い言葉が出るとは思わなかった。


 それくらい悪意と殺意に満ちた反応だった。


「いいね。やっと本心を聞ける気がする」

「訂正しなさい。私が嘉神君のことを好きじゃないですって!?」

「いや、好きなんだろうよ。でもさ、それって恋だよね」

「…………!」

「君の求愛行動っていうなら男が女に貢ぐのと同じなんだよね。下心満載。ヤリ目的の交際」


 私が彼に尽くしているのは、愛しているからではなく、尽くしたという事実で交友を深めるため。


「愛を聞くと気が狂う嘉神一樹のほうが、まだ人を愛している。お前は誰も愛していない」

「…………」


 ○○のためにやる。


 この「ため」が、私は交換条件として、愛は目的としての意味になる。


「いいじゃない。別にそれで。誰かを好きになることはその人と番になりたいってこと。こんな単純な論理に、あーだこーだ考えているの?」


 無償の愛とか、そんなのは哲学者の言葉でしょ。


 性欲を伴った愛が、より現実で論理的だ。


「宇宙は論理で動いている」

「いいや宇宙は感情で動いている」


 私の主張をバッサリと切り捨てる。


「何度もいっているよね。思考こそが至高。人の意思がこの世の最悪で最強」

「……」

「まあいいや。説明の仕方を変えよう」

「なに」

「論理的に感情的になるべきだ」


 なんと矛盾しているようで、全く矛盾していないことをいうのでしょう。


「愛は感情だ。君は愛がほしい。そこに論理的理由はあるかもしれない。でもね、愛を手に入れるためには感情だけで必須。それ以外は不純物」

「………」

「そのためのシンボルだ」


 話がようやく始まりに戻ってきた。


「シンボルはより個性を出す。つまり感情的になりやすい」

「でしょうね」


 デメリットをメリットとしてこの女神はプレゼンしている。


「仮に好かれるとしたら感情的になった君だ。今の論理的な君じゃない」

「……」

「好かれたいんだろ。愛されたいんだろ。だったら知能を捨てて感情をとれ」

「知能指数が下がるって重要な情報を、さりげなく言わないで」

「大したことじゃないだろ。頭良く失恋したいの?」


 こういうところできっと不誠実を働く。

 交渉をする人はいっつもそう。


 重要なことは簡単に流す。


「そんなに周囲が恥ずかしいか」

「………」

「きみは内心、自分以外を無能だと思っているだろ」

「昔はね。今は違うわ」


 その禊は何千回繰り返される死で祓った。


「かもね。でも未来はどうかな。再び無能だって思い始めるだろ」

「……」

「あらら。その反応は既に何人かは思い始めている?」

「黙りなさい」

「いいさ。それが知能だ。どんなにひどい目にあっても、事実を真実として認識する能力は知能として必須だからね」


 …………


「真百合ちゃん。君は賢い敗北者になりたいの? 違うだろ。どんなに無様でも思い人と添い遂げる。それが女ってものだ。女の価値はそこにある」


 どいつもこいつもジェンダーばかり。

 頭のいいフェミニストなんて一度もあったことがないけれど、それでももう少し私の周りに頭のいいフェミニストがほしいわね。


「じゃあこうしよう。理性的に知能を否定させてやる」

「理性的?」

「最初の話に戻るけど、君の価値はなんだ?」


 自惚れでもないが、私は天才だ。


 やろうと思えば大体トップになる。


 そんな私の価値なんて、探そうと思えば


「頭の良さ? それって予知能力に負けるだろ」

「……」

「じゃあ金? まさか、確かに君はこの世の5割を持っているだろうが、暴力の前に金なんてものは紙切れだ」

「スペック? 超悦者スタイリストで足りるよね?」

「……」

「劣等だよ。今の君は」


 私が劣等?


「ふうん。面白いことを言うじゃない」

「その劣等を一気にひっくり返す方法は、1つ」

「シンボルねえ。確かに時雨君を見れば一気に力関係をひっくり返すことはできる気がするわね」


 早苗のシンボルも使い方をちゃんと守ればものすごく強い。


「はっきり言うけど、真百合ちゃんには才能がある。彼らなんて一瞬で抜かして、嘉神一樹の隣に立つことが出来るだろう」


 いいじゃない。

 さっきまでの暴言は見逃していいと思えるほどのメリットを提示してもらった。


「それともう一つ。これはメリットデメリットの話じゃなく、僕が本気で君にシンボルを持ってもらいたいっていう、泣き脅しをしたいんだ」

「泣き脅し? 土下座なら見飽きたわよ」


 一週間以上土下座する人を見なかった日はない。


「僕が今日この日のために何をしたかを伝えたい。それで僕の熱意を分かってほしい」

「続けて」


 正直熱意なんかで私の気持ちが動くとは思えないのだけれど。


「大前提として、真百合ちゃんは今この瞬間でしかシンボルを得ることが出来ない」

「何よそれ。神様の啓示?」


 断ったら二度と上げないなんていうのかしらね。


「いいや。ただ簡単なことだ。君にシンボルは向いていない。だから絶対にお兄ちゃんは君にシンボルを与えることはしない」


 シンボルは結局神薙がメープルからでしか、得ることが出来ない。

 だから実質私はこの女神からでしかシンボルを手に入れられない。


「僕が隠れてやろうにも、無理やり連れ去ったらお兄ちゃんが本気で連れ帰る」

「そう」

「あ、安心して。お兄ちゃんは男性。真百合ちゃんは女性。大事なところは覗かないようにしてある」

「……」


 お天道様はすべて見ている論理で気にしないようにしていた。

 全力で嫌だったけど。


「観測者視点でとんでもないことを起こしておけば、誰もこっちに気を向けない」


 にやりと意地の悪い笑みを浮かべる姿を見て。


「あなた、何をしたの?」


 私は悪寒を感じた。


「いずれ知ることになるさ。ハヤテには人外の救済という第二の目的を伝えていたけれど、僕たちが地獄でやったことの本当の目的は、君を監視している怖くて強いお兄ちゃんから意識をそらすため」


 早苗のところで何かがあった。


 私達のあずかり知らぬところで、最低を起こした。


「シンジにではなく、ハヤテに殺すように命令した。ワンチャンスを残すために、話を長引かせるために。だからいまこうして行動回数を稼げている」


 殺す?

 誰を殺すの?


 早苗?


 いやそれはない。


 早苗が死ねば私はシンボルを得ようとはしない。


 理由が完全になくなる。


「殺すことで目的を達成したと見せかけたのは、すべてはこの一瞬の選択肢を提示できる場を整えるため」

「まさかあなた……幸を」




「ああ。殺すよ。デコイにはちょうど良いからね」




 一切悪びれず、純粋な悪意を感じる。


「ギフトのせいで殺意を湧かなかった日はない。いつか絶対に殺してやると思っていた。でもね、ここまで我慢したのは、君のため。君にシンボルを与えるため」


 私達を攫ったのは、幸を殺すためと思わせるため。

 幸を殺す、それが主目的だと勘違いさせるため、殺意をため込んでいたというの?


「頭悪いんじゃない?」

「肯定するよ。ただ僕からしたらお兄ちゃん以外のすべてが悪いから」


 なにが黒白の悪魔だ。


 この女神、悪魔より最悪じゃない。


 必要であれば笑顔で全生命体を踏み潰すに違いないわ。


「今この時を過ぎれば、君は一生シンボルを得ることが出来ない。嘉神一樹と隣に立つことが出来ない」




「メリットデメリットは説明した。僕らの本気も示した。返答を。どうかyesの返答を」

「……………はあ」


 正直答えは決まっていた。


「幸を殺すって言われて、正直怒りが湧いた」

「そうかい。でもごめん。この瞬間のために殺さないだけで、あいつは絶対に殺す」


 この怒りはなんでしょうね。


 あのことは友だと思っていた。

 たとえ多幸福感ユーフォリアでそうなるように仕組まれていても、私は案外それでよかった。


 幸と話すときは相手がこっちに合わせてくれるので、非常に話しやすかった。


 お世辞抜きで、同性と話をするのに楽しいなんて思う日が来るなんて思わなかったわ。


 だから後継人くらいには私名義でなっていいっておもっていた。


 でもね、それはそれとして


 あいつが私に黙って嘉神君とデートしていたなんて許せるわけがない。


 だからきっとこの怒りは、幸が殺せないことじゃなくて、幸の頬を引っ叩けなくなることの怒り。


「仮に私がここで嘉神君か神薙に助けを読んだら?」

「すべてがおじゃんだ。覗きはしないといっても「その気」を感じるようにはしているだろう。君を救い出し月夜幸も救い出して、終わりだ」


 まったく、相変わらず嫌なことに気づくわね。


 こんな取引をひっくり返せば、きっと昨日と同じことの繰り返しになる。


 いつものように学校に行って、嘉神君と話をして、早苗と喧嘩して、幸と語り合って、ついでに時雨君を励まして、おまけで世界を牛耳る。


 悪くはないと思う。


 過去を振り返って今が一番楽しいって言える。


 理想基準でも95点だ。


「それでもまだ、私は嘉神君ともっと一緒にいたい」


 そのために、私は大切なもの一つ残して全部捨てる。


「答えはYESよ。私にシンボルをよこしなさい」

「……ありがとう」


 生活上色々な人にお礼を言われたことはあったけれど、ここまで感謝をこもったお礼はされなかった。


「真百合ちゃん。今だから言うけど、僕は人間の天敵をやっているけれど、君のことは大好きだから。知らないと思うし、知る気がないだろうけど、君がいたからお兄ちゃんが生き残ったし、世界も救われた。例え敵であっても、真百合ちゃんだけは絶対に助ける」

「…………御託はいいわ。さっさとしなさい」


 私のシンボルで、私はもっと嘉神君に近づけるように――――









「だからごめんね。僕、シンボルを与えるのド下手糞だから。死ぬほど苦しいけど、許して」





え?


 脳天と心臓を同時に貫かれ、私が溶けて、私が塗り替えていく。


「っぁあ ぅ ッぅぅぅうう」


 くる くるし


 きつい


 しんどい


 でも


 それでも


 彼の思いだけは忘れずに




 私は私になった。




「できた。大丈夫?」

「……」

「……まじかよ」

「…………」

「やっぱ天才ってすごいね。まさか一度でこの領域に来るなんて」

「………………」

「ああ。せっかく生まれたんだ。第一声くらい自分が好きな言葉をいいたいよね。聞かせて」






「大好き嘉神君。愛している。心の底から。だから早く私と彼の恋。アイラブユーを伝えたい」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ