最強の天敵(視点変更有)
「あっ、そろそろ来ますのでちょっと待っててください」
「そろそろって、神薙のこと」
「はい。あの方が来るので、あなたを救出したらすぐ帰ってしまいそうです。せめてその前に直接見たいんです。いいですよね。はい許可取りました♡」
「何も言ってないのだけど」
神薙が神薙をして何分経っただろう。
1時間は経過していないだろうが、さすがにそろそろぶっ殺される神の数が足りなくなってきた。
「残念だ」
「……?」
不意にらしくない独り言を残したと思うが
「さてと、この層のカスもいよいよ打ち止めか」
無限を超える神をモノの数分でぶっ殺したのか。
早いような遅いような。
神様とはいえ、やはり本気で戦うことはできないんだろう。
敵の十倍。
神であっても百倍とか千倍とかだ。
無限の能力を持っている人にしては相当の弱体化だと思っている。
「次いくぞ」
「かしこまりました」
車椅子で移動しているが、ずいぶんと上品な人だ。
きっと昔はどこかで姫様をしていたに違いない。
よくこんな下品な人と会話をして、品格が落ちないなと思いながら、俺達は上を目指す。
上の層にたどり着いた。
そこに見知った存在がいる。
名をトコハ。
真百合を連れ去った女神だ。
「あひぃ!」
「うわぁ」
その女神が、出会って1秒でア〇メ決めてた。
確かに階数が1000を越え、いよいよ佳境に入ったころだと思ったので、そろそろこの神様がいてもいいかなって思ったが、こんな姿で出迎えてくれるとは思わなかった。
「……」
見ろ。あの神薙が何とも言えない表情をしている。
「んほぉぉぉぉぉぉぉぉおぉ」
強い存在が好きすぎて神になった存在。
あの神薙から生き延びている元人間の神様。
メープルシンジハヤテは神薙の血縁者なので、ある意味神薙の次に強いのがこの女神になる。
「見てるだけでぃ こんなっに 幸せに、気持ちよくなれるなんてぇえ!!!」
「……」
「すみませんっ! わざわざご足労いただいたのに服なんか着てしまい! ドレスコードがなっていませんでした! 今すぐこのみすぼらしい服を捨て去ります!!」
そういうと大した布面積ではない服を破りさり土下座を始めた。
土下座なのか?
土の上に両膝や脛や手のひらをつけることを土下座というのならそうなのだろう。
しかしその顔、目線を神薙から外さないために、首の関節が90度超後ろに曲がっている。
きめえ。
エロいかっこうをしているのに、まったくそんな気分になれなかった。
「あの、さすがにそれは品がないかと」
車椅子に座っている女性がまっとうな突っ込みをする。
「黙れ雑魚。あ、すみません。土下座なんて人間様が取るポーズを神風情がとるなんて烏滸がましいですよね。神様なんてペットのようにあなた様に仕えるべきなんです!」
強さしか興味がないこの神様には無意味だったようだ。
「切腹します!」
犬が強者相手にするポーズをとったかと思いきや、その格好のまま指で自分の腹を掻っ捌いた。
「きもっちい。謝罪切腹ぅきもちぃ」
人間は水分が70%だといわれているが、神様は腐敗物が100%じゃなかろうか。
ありえないだろ。この頭の湧きよう。
蛆ですらもっと清潔な所に住むぞ。
「…………おい」
不意に神薙さんが低めのトーンで投げかける。
さすがに下品すぎだと注意するかと思いきや。
「宝瀬真百合を引き渡せ」
そうだった。忘れてはいないがあまりのことに呆気に取られていた。
俺達の目標は早苗と真百合の救出。
こんな奴は神薙に任せてさっさとずらかりたい。
「あぁ。あなた様がこの愚神に声をかけてくださるぅぅぅぅ。もう死んでもいい」
これまでにないほどの光悦とした表情でうっとりとしている。
「さっさとしろ」
さっさとこいつから離れたいんだろう。
かなり投げやりに問いかけるが
「知りませんよ。もっと上にいるんじゃないですか」
「そんなわけないだろ。何しろ……」
ん?
今まで完全にスルーしていたけど、それはないだろ。
真百合を連れ去ったのはこのトコハという女神だし、そもそも一緒にいただろ。
前書きで会話してたじゃん。
しかも2回。
視点変更してまでちゃんと描写している。
「おい!」
「あひっん♡♡♡♡♡」
神薙が首を握りしめつかみ上げる。
首を絞められ感じていた。
こいつ無敵だろ。
しかし神薙さんのうすら寒い笑みが消えている。
それが何を意味するか分からない俺ではなかったが、同時に分かりたくないとも思った。
「愚妹が貴様に出したオーダーを教えろ」
「『ここ場で一人待ってろ。何もするな』ですっ。あぁっぁあ こんなに強く締められるなんてしあわせ///」
下からの大洪水で、地面が5cmほど沈没した。
だがそんな変態行為をみてもそれ以上におかしいことがある。
矛盾している。
ここであったのが3回目だが、神薙相手に嘘をつくとは思えない。
明らかに、おかしい。
「ミステリーはなんでリアリティがないんだろうね」
そいつは俺の大敵。
因縁の度合いでいうのなら、こいつこそが俺のラスボス。
「僕はね。それは伏線の有無だなんて思ってる」
今までおれとあっていた時の恰好ではなかった。
茨の冠。
純白の衣服。
黄金の聖杯。
「仕掛ける側は騙す気で実行しているのに、証拠を残すような伏線を残すべきじゃない」
ああ、間違いない。
「本気でしたいことがあるのなら、僕なら一つも伏線は残さない」
神だ。
「これ以上はくどくなるから、一言だけ言うね」
神様が降臨なさった。
「僕の声真似は上手かった?」
神薙も神様も、後書きに干渉している。
神薙に至っては感想欄やタグにすら干渉してしまっている。
だったらいったいなぜ「前書きや章タイトルに干渉できない」なんて思える?
そしてようやく俺は考えることを始める。
女神がこうまでして偽装したかった事。
前書きで偽装したのは誰と誰だ。
トコハは今この場にいるから、もう一人。
それはまさしく俺達の大切な仲間。
「獄景】
女神メープルではない。
全くの第三者の力。
だから誰も反応することが出来ず、それを許す。
世界が群青色になる。
超悦者に呼吸は必要ない。
だが息が苦しい。動けない。
これは狂気だ。
狂気の海である。
思いの深さで、何もかもが沈んでいく。
意識が遠くなり、死に絶え……
「あっ」
氷よりも冷酷で、炎よりも熱血な肌で抱かれる。
何かされた。
溶かされ、縛られ、絡められ、舐められ、食われ、貪られ、侵された。
怖いことに恐怖を感じない。
だって彼女に敵対心を感じなかったから。
それこそが畏れ。
「ずっと言いたかった】
彼女はいったんそれをやめ、俺と向き合う。
魔性。
今この場で神薙がいなければ、トコハの惨めさを見ていなければ達してしまったかもしれない。
昔からシミ一つない肌だったが、今は透き通った白磁のような神聖な白き肌に。
美しき藍色の髪から汚れを捨て去り、水縹に変貌している。
女であるはずなのに、子を作る身体ではない。
男を惑わし、まぐわうための身体。
蠱惑してやまないその血肉に目を離すことはできない。
異性ならば彼女から意識を背けることはできない。
事実神薙ですら、呆気にとられ何もできていない。
しかしその彼女は俺しか見ていない。
情欲を孕んだその瞳は俺しか映していなかった。
いとおしそうに、あいらしく、あいきょうたっぷりに、微笑んで。
それを容易く言ってしまった。
「嘉神君、あなたを――――愛している】
群青の魔女が俺の禁忌を踏み潰した。




