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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
9章 永劫に沈まぬ太陽
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地獄の中心で愛を叫んだけもの



 吠えて……やりました。


「ハァー はっぁー ぅっはぁ」


 声帯ではなく、腹式でもなく、魂を使って全身全霊で吠えました。


「だからなんだっていうです?」

「その通りだ」


 ですが多幸福感ユーフォリアと神様にそれは無意味です。


「何もできない小娘が、この状況をどうひっくり返す?」


 神様の疑問はもっともなこと。


 相手は現在存在する中でなら5本指に確実に入る神様。


 嘉神さんですら戦ったところで、戦いになるか怪しい。


 それを何の能力ももたない


「さっさと死ねば楽になれたのに」


 ハンデすら背負ったJKが相手をしないといけないなんて、無茶を通り越して無能と言いたくなります。


「ですがどうした! たとえ可能性がなくたって……! 可能性の神様がわたしの可能性を否定したってっ!! わたしは生きることを諦めない!!」

「そんな根性論でどうにかなるほど、この世界は甘くないことを知っているでしょう?」


 言われなくても分かっています。

 意志の強さが必要なのは上位者や超越者の話。


 わたしのような下層の人間には力がいります。


 その力がわたしは持っていましたが、今はこうして敵になっています。


「諦めなさい。あなたがここから抗う方法などない」

「嘘です。あります」


 自信がある。

 本当に多幸福感ユーフォリアの言う通り、何も手段がないのならこうして止めにこない。

 17年一緒にいたんです。どんな能力なのかわたしが一番わかっています。


「絶対にある。この状況を打破する手段が、ある」

「……」


 もはやこれ以上の問答はヒントを与えるだけと判断しましたか。


「はやくわたしを殺しなさいよ」

「断る。正直興味がある。この状況をいかにして覆すのか」


 舐めプといえばそれまで。

 でもどうでしょう?


 人はありを潰すのに本気になるでしょうか?

 靴の溝にありが入らないように念入りに注意をするでしょうか?


 わたしは否だと思っています。


 強いから舐めるんです。


 心臓の速さは弱さの証。


 後手で勝てる存在こそ強者。


 今神様がやっている観察という舐めプは、別に不思議なことではない。


「……」


 だから、考えろ。


 考える時間くらいならあるはず。


 1秒でいい。


 いまわたしは蛇ではなくネズミ。


 心臓の速さで勝たないと!


 走馬灯が高速で流れていき、人生のすべてを思い出し


「…………あっ!」


 恒星が爆発したかのような閃きが、脳内を駆け巡ります。


 頭の悪いわたしが起こした最後の奇跡。


 これしかない。


「やめなさい! それだけはやめて!!」


 だんまりを決め込んでいた多幸福感ユーフォリアが、終ぞ動き出します。


 わたしの左手が右手をつかんだんです。


「うるさいですね」

「やめてって」


 取っ組み合いの大ゲンカです。


「何をやっている……」


 よそから見ると滑稽でしょう。


 でもそんなの分かってます。


 今はあれをやらないといけない。



「それだけはいけない! それをやるとすべてがずれる・・・・・・・!」



 ほんの少し、嫌な予感がしました。



「知ったことですか! たとえこれから先何があろうが緊急避難ってやつです!」


 ですが今は未来のことより今を考えないと。


 ……わたしつい数十分前に今のことより未来を考えろなんて言っていた気がしましたけど、それはそれってやつです。


「これが答えです!」


 わたしは左腕の支配を掌握し、両手で唇に触れます。


「チュッ」


 そして投げキスを天頂に向かっておこないました。


「…………?」


 理解できないって顔をしています。


「何をした?」

「わたしがしたことは今ので終わりです」

「理解不能。正直未だに狂ったとしか思えん」


 さっきまで一人でずっと敵対の会話をした挙句、暴れ始め、最後に天頂に向かって投げキスです。


 他人がこんなことしていると、問答無用で黄色い救急車を呼びます。


「説明、してあげましょうか」

「そうだな。その不可解な行動を説明してもらえると助かる」


 ならば結論から話をしましょう。


「わたしたちは口映しマウストゥマウスのことで2つ勘違いをしています」

「なぜそこで嘉神一樹のギフトが出てくる?」


 もしやと思っていましたが知らされていませんでしたか。


「1つは条件、もう1つは能力についてです」

「条件……? まさか……?」

「気づいたようですね」

「いや、それは違うだろ。いきなりすぎる」


 神様が文句を言っていますが問題ありません。


 これはわたしがそうして、できたという話です。


口映しマウストゥマウスは、キスした相手の能力を使えるようになる能力。いいですか、キスです」


 キスとしか言っていない。


「口と口以外でも問題ありません」

「あるだろ。能力がそのまま口映し マウストゥマウスと言っている」

「そうですね。ですがそれはあくまで能力名。実際の能力とはかけ離れています」


 ブラックホールという能力名で本当にブラックホールを出したキャラクターはごくわずかのように。

 レーザーでもビームでも現実的には光速に達しないように。


「能力名は嘘をついていい」

「おいおい」

「文句はないはずです。だって鬼人化オーガナイズもそうじゃないですか?」

「あの女のギフトがどうした?」

「本当に鬼人や鬼神になってしまったら、神薙さん案件じゃないですか」

「そうだな。その通りだ。朕が間違っていた」


 だからギフト名はあくまで表現の話。


 口といっていても、口じゃなくていい。


「手でも足でもいい。そして無論、投げキスでも問題ありません」


本人は知らないでしょうが、自分から投げキスをすれば能動的に人のギフトがつかえるようになるんです。


 理不尽すぎますね。


「条件についてはわかった。何がしたかったかもだ。だがそれで何の役に立つ?」


 そりゃそうです。

 投げキスをして多幸福感ユーフォリアを押し付けた。


 嘉神さんのために少しでも自分ができることをなんて聞こえはいいですが、それではわたしの死を覆すことはできません。


「重要なのは能力の勘違い、正確に言えば未知の部分があるってことです」

「未知?」

「あのギフトにはキスした相手の能力がつかえるようになるとありますが、本当にそれだけでしょうか?」

「それだけだろう。それ以外の伏線なんてなかった」


 いいえ。あったんです。


「重要なのは嘉神さんではなく、その相手」

「……」

「少し気づきましたね。振り返ってください」


 基本的にあの人は敵をすぐに殺す。だからその後の描写が少ない。

 ですがここに3人キスをした相手のサンプルがあります。


「早苗さんは使えなかった鬼神化が、嘉神さんと出会えたことで使えるようになりました」


 それだけじゃなく、やがては超悦者抜きにして、どんどんどんどんうまくなっていきました。


「真百合さんは時間制限を完全に克服しました」


 そのせいで強すぎてナーフされましたけど。


「そして時雨さん。神薙信一から教わっているという究極の免罪符がありますが、それを加味してもギフトの伸びが異常だと思いませんか?」


 当然あのくそチート先生は知っていたはず。

 分かったうえでああいう態度をとっていたんです。


「成長」

「その通りです」


 気づきましたね。


 これが口映しの隠された能力。


「互いの好感度が高いとき、相手側の能力を成長させる効果があるんです」

「知らなかった」


 ええ。わたしもついさっき気づきました。

 多幸福感ユーフォリアは知っていたようでしたけど。


「だからいまわたしがしたことと、わたしの狙いをもう分かってもらえるはずです」

「なるほど、謝罪がいるか。これ以上ないほどに合理的な行動だった」


 多幸福感ユーフォリアが敵になった今、別の何かにして補う必要があった。


「これがわたしの成長させた能力」


 名前は誰に聞かなくてもわかっている。


倖せの唄ソングオブサチ


 どんな能力かもわかっています。


「だが問題ない。どんな能力だろうと、朕のシンボル淵薙淵努には絶対に勝てん」

「本当にそうですか?」

「そうだ。はったりが通じる相手と思うな」


 そうですね。

 あくまで成長しかできません。


 進化じゃない。


多幸福感ユーフォリアは悪くない能力だが、それ止まり。朕らの領域に到達できる能力ではない」

「……確かに」


 せっかくの切り札ですが、それでも恒常的に相手さんの力のほうが強い。

 冷静に考えて戦力差が酷すぎます。


「でも問題ありません」


 成長しても、搦め手は搦め手。


 強さに張り合う気はありません。


「前提としてあなたはわたしのギフトを真っ向から潰すことはできません」

「理由を聞こうか」

「はい。『物語』のかち合いが起きるからです」


 わたしの能力は一歩先を行った。

 おそらく嘉神さんの口映しと同程度です。


 多幸福感ユーフォリアなら、弱すぎてかち合いにはなりませんでしたが、そのランクならギリギリかち合いが起きるでしょう。


「こちらとしては、それを歓迎してもいいんですけどね」

「……」


 『物語』と『物語』がぶつかったときどうなるのか。

 わたしは何となく知っている。


 最悪な災厄。


 神薙先生が本気をだしても、勝てるかはわからないほどの虚。


 空亡惡匣の封印が解かれる。


「だから絶対にそれを神薙さんが許すわけがない」


 今も本当は監視しているんでしょう。

 知っていて見殺している最低なクズです。


「すべてをおじゃんにしましょう」

「さすがにここまで来て、父上の介入オチは全力で回避しよう」


 そうです。

 こんな状況であっても、アリが噛みつこうとしても、神様たちは神薙先生にリソースを割かないといけません。


 いてもいなくても迷惑な人ですね。


「だが問題ない。かち合いの起きない範囲で定義をし直せばいい」


 言っていることは分かります。


 走攻守、どれをしてきてもぶつからず倒せばいい。


 攻撃技なら打たれる前に殺す。

 防御技なら攻撃以外の手段で殺す。

 回避技ならどうしようもない技で殺す。


 かち合わせなければ問題ない。


 それができるほどのシンボル。


「…………」


 何でもできる相手に、たった一つしかできないわたしができること。


「使ってみろ。どんな能力か興味がある」

「じゃあいきますよ」


 倖せの唄ソングオブサチの能力は――――



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