表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
9章 永劫に沈まぬ太陽
268/353

〇〇〇のための1つの方法

多幸福感


最大多数の幸福を得るための行動ができるギフト

発言もギフトの一部になるため、思考と言動が一致していないことを予めご了承ください。






 時雨さんが死にました。


 そして薊さんが2人を担いで狐のくせに脱兎のごとく逃げ出しました。


 これでわたしはギフトをもう使えなくなったことになります。


 ざえんどってやつです。


「すべてあなたの思うとおりになったか」


 さっきまで敵対したハヤテさんが、敵対心をなくして話しかけます。


「はい。ありがとうございました。わざわざーーーー」


わたしは感謝を伝えないといけません。






「わたしの自殺につきあってくれて」






こんな茶番に付き合ってくれたんですから。


「本当にそうなのか」

「そうって、知らなかったんですか?」

「母上からそういうことだと聞いていたが、実際に本人の口で聞くまでは信用にならん」


 メープル監修のわたしのダイナミック自殺である。


 双方了承済みの演目です。


 あの場で知らなかったのは時雨さんと狐だけ。


 だからわたしは初めから神薙先生の連絡をする気はなかったので、ボタンに指だけおいて適当な番号にかける準備をしていただけです。


 きつそうなのも演技です。どう演技するかは多幸福感の指示ですので、絶対に騙せたと自信を持って言えます。


 つまり、多幸福感をはじめから使っていなかったので、『物語』のかち合いがおきることはなかったわけです。


「なぜこんなことをした」

「聞いてないんですか?」

「朕は母上の命を守ったのみ。何を目的か知る気はなかった。ただ……そのような態度をとられてしまうと俄然興味がわく」


 まあ、いいでしょう。


「わたしの都合と、人類の都合です」

「お前の都合から聞こうか」


 これは単純な話です。

 単純すぎて気づいてくれる人はいたんじゃないでしょうか。


「生きるのに疲れました」

「本当に自殺する人の言葉を使うのだな」


 そりゃそうです。

 わたしは死にたいんですから。


「理由は……必要ですか?」

「いる。なぜ十数年しか生きていないのに、生きるのに疲れたといえる」

「……普通に考えてくださいよ。全能人ならわたしの過去を振り返ってください」


 わたしの過去。


 思えばむなしい人生でした。


 わがままで両親を人殺しにして、関係のない人を巻き込みました。


 それからずっとギフトの命令にしたがっていました。


 そのためにいろんなことをしました。


 いっぱい人を殺しました。


 戦争を終わらせるため、独裁者を暗殺し

 戦争を始めさせないため、テロリストを抹殺し

 戦争を広げないため、暗君を誅殺し


 介護に苦しむので老人を殺し

 入院費で苦しむので病人を殺し

 夢破れたので怪我人を殺し


 殺しに殺し


 殺しました。


「先週、キルスコアは1000を越えました」


 直接殺した人はみんな顔を覚えています。


 苦しまないように殺したので、みんな安らかな死に顔でした。


 だれもわたしに文句も悪口もいいません。


 誰も私を罰しません。裁きもしません。


 だからわたしだけです。


 わたしだけがわたしを裁ける。


「そうか。単純な話か」

「はい。限界なんですよ」


 精神がもうもたない。


「嘉神さんのように狂っておけばよかった。

 早苗さんのように純潔であればよかった。

 真百合さんのように無関心でいたかった。


 そして


 時雨さんのように、殺人を忌避できればよかった」


 わたしは全部中途半端でした。


「わたしはもう、生きていられない」


 精神の寿命がきてしまったんです。


「これ以上自殺をしない理由がありますか」

「1つ、疑問がある。お前が自殺をしたがる理由は分かった。だがそんな誰もが不幸になる行為を多幸福感が支持するとは思えん」


 するどいことを指摘しますね。


 腐っても神様ってことですか。


「おっしゃる通りです。ただの自殺なら全力で回避してしまうでしょう」

「……ああ。そういうことか」

「はい。だからこういうイベントを挟んでもらったんです」


 こうしないと死ねないギフトなので。


「誰かを守って死ぬ。誰かを助けて死ぬ。誰かを逃がすために死ぬ。かっこいいですよね。自殺なのに」

「……性格が悪すぎる」

「性格が悪いのはみんなでしょう?」


 お互いを知っているという条件でなら、性格の悪い人の交流が多いです。


 類は友を呼ぶ理論だと言われたらぐうの音も出ませんが。


「それだけじゃ死ねない可能性があるのでもう一つ準備していました」

「もう一つ?」

「これがさっき言った人類の都合ってことです」

「そう。それはどういう理屈か?」


 理屈っていうほど難しいものではありません。

 簡単なこと。


「人類を守るためですよ」

「分からん。もっと詳しい説明を頼む」

「全知神……」

「知ろうと思えば知れる。ただ考える能力はそれほど高くない」


 全知全能もだいぶ安くなりましたね。


 まあ困っているのなら助けましょう。


 それがわたしだから。


 それこそが多幸福感です。


「わたしたちは本当に強くなりました。もうあなたたちくらいしか敵はいない」

「そうだろう。神の力を使ってでも宣言してやる。お前たちはありとあらゆる存在の中で100位以内には入る」

「でもそれは、外道五輪だけの話です。わたしたち以外はそうでもない」


 わたしたちはどんな脅威だって勝てるだろう。


「一昔前なら人の死因の一位は蚊でしたが、今は断トツで人。人が人を殺す時代。その防衛策が人類は乏しすぎる」

「なるほど、人の命は確かに軽い」


 言ってみるとそうですね。

 どの国でも帯刀ならび帯銃が許可されています。


 しかし、そんなもの意味をなさない力と悪意を持った人間が地球にはごろごろいるんです。


「だから、これ以上人の幸せを増やすためには、人をある程度制御する必要があります」

「ほうほう」

「3人とも表現を変えましたが、多くの人の幸せを考えてほしいって遺書を送りました」

「それが?」

「いいですか。遺書ですよ遺書。遺言といってもいいものです」


 いつもの経験で分かります。


 ああ、これからきっとわたしは最悪を口にする。


「死ねば、意志を受け継いでくれるじゃないですか」

「…………ぉう」


 何とも言えない声が神様の口から洩れてしまいます。


 言わされているとしてはなんですが、だいぶ酷いこと言ってますね。


「どんな酷い死にざまをしても、人は人の死を神聖視してくれます。神聖視しない人は神聖なものを貶しているという認識ですので、例外はありません」


 敗北者だろうがブレーキが壊れていようが、その作品内ではきっと何かを残しています。


「わたしの遺言で外道五輪を誘導できる。だから人類が幸福になる」

「そんなことを……鬼っこや悪魔ならともかく、あの女がそんな約束を守ってくれるとは思わん」


 真百合さん。

 嘉神さん以外何も必要としていない人。


 何もかもを持っている人。


 わたしが何で話しかけていられるのかわからないくらい、身分も格も違うヒトです。


「問題ないです。そのために仲良くなったんですから」


 ……だと思いました。


 そうですよね。わたしなんかがあの人と友人になんかなれるわけがなかったんです。


 多幸福感がなければ成立しないんです。


「対等といえる友達はいないんです。愛している人にはゲロアマですが、友人にはスイーツ並みに甘くしてくれる。それが宝瀬真百合という女性です」


 もうこの場には誰もいない。

 だから納得こそが最も特になる、そういう理屈は分かるんですが、万が一誰かに聞かれていたらどうするんでしょう。


 いえ、そういうのがあり得ないから『物語』という分類になるんでしたね。


「追撃として喧嘩別れもしました。ぽんと100兆くらいの融資はしてくれるはずです」


 ここまですれば嘉神さんほどじゃないにしても、お願いくらいは聞いてくれるでしょう。


「性格が悪いといったが訂正しよう。性根が悪い」

「ありがとう。最低の誉め言葉です。ですが一番重要なことを忘れていますよ」

「重要なこと」

「時雨さんですよ。嘉神さんやわたしよりずっと主人公している人です」


 純粋な人です。

 ただまっすぐすぎて、まぶしくてうらやましいので


 あんまり好きじゃありません。


「時雨さんの行動動機は嘉神一樹に勝つ、そのために強くなる。悪くはないが弱いって思いません?」

「……」

「そんなものじゃ、あの悪魔には勝てない」


 まあそうでしょう。

 これはわたしもうすうす気づいていました。


 嘉神さんのギフトの本質。

 それは超成長


 圧倒的な成長速度により、その他の追従をさせない。


 もう勝てないでしょう。


 唯一可能性があったのは初めてシンボルを手にしたときです。


 万に一度のチャンスは、最初の一回で消費していた。


 今時雨さんがしている努力は、死に札をなんとかしてかき集めようとしている藻掻きそのもの。


 藻掻きでは厄災を掻きわけるなんてできるわけがなかったんです。


「せめて一度、勝てるように、いったん精神を再構築させる必要があります」

「……」

「世の中自分のためにではなく、誰かを理由に何かをしたほうがうまくいくようにできているんです。その何かにわたしがなってあげる、そのための茶番です」


 純粋な人。

 どうすることもできないのに、自分のせいだって勘違いするんでしょう。


 そして自分を苦しめ、自問自答し、ワンランク上にたどり着く。


 しかし酷いですね。


 納得して死ぬとは言え、好きでも何でもない人の強化フラグのためにこの命をささげるなんて。


「まあ、問題ないですね」


 そう。問題ない。


 この命なんて初めから無価値なのだから。


 月夜幸はギフトを構成するただの肉袋にすぎないんです。


 本当に皆さんに迷惑をかけて申し訳ないです。


 でも仕方ないですよね?


「じゃあ、さっさと処分してください。できるだけ痛くないように」


 だって多幸福感ユーフォリアもこう言ってますし。





挿絵(By みてみん)

https://29469.mitemin.net/i384730/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ