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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
9章 永劫に沈まぬ太陽
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遊園地と敗北者

引っ越しをしたから投稿が遅れるのはあたりまえ体操



 週末、待ち合わせの遊園地にて


「こんちはっす」

「ど、どうも」


 名前を雷久保至さん。


 うーん。

 シュウの彼女にしては微妙。


 もう少しグレードアップできないのか。


 まあ、シュウが選んだ人だし俺がどうこう言うのはマナー違反だな。


「今日は急に来てもらってすみません」

「いいさ。文系の大学生は大体暇だからね」

「そうですか」


 でもやっぱり気になる。


 顔はまあいい。

 体もいい。


 心が悪ければ、それとなく別れさせようか。


 シュウの教育に悪いし。


「ただ今一度念を押したいことがあります」

「今日あったことは、誰であろうと伝えることは禁ずる。だよね」

「はい。分かっていただければいいです」


 そういって月夜さんは俺の手を握る。


「早苗さんも」

「うむ」


 月夜さんの右手を俺が、左手を早苗が握る格好だ。


「なんというか、デートではなく親子連れにしかみえないんだけど」

「おれも思ったが言っちゃ駄目だろ」


 失礼なことを言っている二人組がいるが、今は無視して月夜さんを遊園地に連れ込む。


 連れ込む。


 連れ込む。


 連れ込む。


「連れ込みたいんだけど」

「いやぁ。そのここまで集まってもらって何ですがやめません?」


 彼女にしては珍しく泣き言をいう。


「駄目だ。今日は何があろうと遊園地で遊びという約束だ」

「そうだ。約束はすべてに優先するのだ」


 早苗と二人で月夜さんを持ち上げる。


「あ、ちょっと待って待って」

「待たない」


 ぶーらぶらとハンモックのように月夜さんを振り回す。


 俺は180早苗の170をこえている。振り回すと地面に足がつかない。


「早速空中ブランコか。月夜さんは意識が高いなあ」

「ひぃぃぃぃ」


 分かっていると思うが俺達は超悦者であり、訓練されている人間である。

 すっぽ抜けてけがをさせることなんてないし、スリ以外に人とぶつかることはない。


 そうしている間に無事入園を負える。


「ほらほら可愛いよ。名前を忘れたこのねずみのマスコット」

「そうですね。著作権怖いんですぐ帰りましょう」

「おいおい。今は23世紀。ネズミの著作権はすでに消えている」


 なんとかマウス法は更新する企業がつぶれた。


 もっともこの遊園地には関係ないか。


「最初はどこに行く?」

「ジェットコースターにのるのが相場ではないのか?」


 確かにテンションを上げるために激しいアトラクションにのるのは定石。


「そうだね。ボクもそれがいいと思う」

「いいんですか。あなた運が悪いそうじゃないですか。こういうのってジェットコースターに乗ると事故に合って死んじゃうんじゃないですか?」

「恐ろしいことを言うね。そしてなまじ否定できない自分がいるんだ」


 何やら彼女は彼女で何かありそうだが


「関係ねえ。いたるさんに降りかかる火の粉は全部おれが払ってやる」


 か、かっこいい。


「じゃあジェットコースターでいいのだな」

「ああ。一番近いあそこでいいな」


 数分待ちそのまま流れるように乗車。


「「きゃぁああーー」」

「「…………」」

「ぎゃあああああああああああああああ」


 上二人が早苗といたるさん。

 真ん中二つが俺とシュウ。


 そして最後の1つが月夜さん。


 わかってはいたがジェットコースター程度の速度では光速が1単位にしかならない俺達には刺激が少なすぎる。

 むしろ何で早苗が楽しめているのかが理解に苦しむ。


 あいつまだ超悦者になれていないのか。


「おろろろろろ」


 そんなことを考えていると月夜さんがゴミ箱に向かってリバースしていた。


 予想以上に多幸福感を使っていない彼女がポンコツだった。


「次はどこ行く?」

「そうですね。お化け屋敷はどうですか?」


 俺達に身体的衝撃は無力。

 刺激を欲するなら精神に。


 つまりジェットコースターよりもお化け屋敷。


 特に否定意見もなくそのままお化け屋敷に。


 5人で入るのは人数オーバーなので当然月夜さんと俺と早苗で先に進む。


「そういえば一樹の前の家は幽霊屋敷だったな」

「懐かしい。誰も住めなくて4ケタ台で住まわせてもらった」

「そうですね。そういえばこのお化け屋敷ホンモノがでるって銘打っていましたけど、やっぱいるんですか」


 大分落ち着いたのか、それとも心理的揺さぶりに強いのか。

 幽霊屋敷は月夜さんを怖がらせるに至らなかったらしい。


「ああ。いる」

「え?」

「例えば今そこから(なんの誤字かわからない)に襲い掛かろうとしている人の背後に、死後10年たった女性の幽霊がいる」

「へ、へえ」


 少しだけ動揺した。


「ほら。地面にはいつくばっているのが見える?」

「ああ。あれか」


 薄暗い中にさらに黒い物体が。


「あれは火事にあって潰されて逃げられずこんがりと焼けたからなんだって。だからそこの人。あと数センチ右にずれてスタンバイしないと、呪われますよ」

「ど、どうも」


 医者のコスプレをした人からお礼を言われ先に進む。


「そういえば一樹は昔、幽霊に慣れたといっていたな」

「ああ」


 俺が前住んでいたところは霊脈がよすぎて、一日に10匹幽霊を目撃していた。


「どういう心境をもって怯えを消し去ったのか聞いてもよいか」


 うーん。


「多分早苗は共感しないだろうけど、それでも聞く?」

「わたしは聞いてみたいです」


 月夜さんがそういうのならまあいいか。


「見方を変えたら怖くなくなった」

「見方ですか?」


 そう。気持ち悪いとか恐ろしいとかそういったものの先に、とある視点を持った。


 それですべて終わり。




「だってさ、幽霊は所詮、先の時代の敗北者だろ」


「ハァ ハァ ハイボクシャぁ? トリケセ イマノ言葉ぁあ……!!」


 なんかリアル幽霊が因縁を吹っかけてきたが問題ない。


「断じて取り消すつもりはない。そりゃそうだろうが。一般人はその生涯を終え(なんの誤字かわからない)の命と共に偉大な眠りにつき、子たちに新たな時代の扉を開いた。まだ生きている俺が言うのもなんだが、まさしくあこがれを感じずにはいられない生涯だった…………!!


 それに比べて“幽霊”はどうじゃぁ……? 果たして生涯の目的をまともに達成する気があったのかどうか。大方安全な場所で引き籠もり、人の足を引っ張って満足してたんじゃありゃせんのか?


 世間では幽霊の名で今も色んな人にちょっかいをかける馬鹿どももいるようじゃが……たかが自分のホームで相手に睨みを利かせたくらいで捕食者気取りとはぁ 笑わせる……!!


 つまり永遠に生者には勝てん。永遠の敗北者!! それが幽霊じゃ。どこに間違いがある


 思えば悲しい女じゃのう

 カワイイカワイイとホスト達に慕われて、恋人まがいの茶番劇で夜をのサボり、何年の間貢ぎ続けるも「恋人」にはなれず、何も得ず、しまいきゃ保険金の為に殺され、そいつらを探すためにさまよい続ける。 実に空虚な人生じゃありゃせんか?


人間は正しくいきなけりゃぁ生きる価値なし!!!

お前ら陰キャの幽霊なんぞに、生きる場所はいらん!!


幽霊は敗北者として死ぬ!!

ゴミ山の歩兵にゃあお誂え向きじゃろうが!!!」


 ちんこついた井戸女も、マザコン障害ホッケーマンも、商品紹介いきりピエロも。


 所詮みんな敗北者。


「アタシタチヲ バカニスルナァ」


 恐ろしい形相で呪いをかけてくるが


「実態のつかめない幽霊だからといって油断しとりゃせんか。貴様はただ存在しないだけの霊体、こっちは霊体すらぶっ飛ばす超越者じゃ。明確に上下関係にある」


 逆にぼっこぼこにしてやった。


「ああ、いいことをした後はすっきりした」


 人にアダなす、幽霊なんて百害あって一利なし。

 神薙さんは同じ人だからセーフ理論で見逃しているんだろうが、俺はそうはいかない。


 積極的に除霊してやる。


「えっと、なんでわたしたち遊園地に来ているのに除霊をしているんでしょう」

「さあ? そこにそれがいたからじゃない?」


 それにしても遊園地のお化け屋敷では全く恐怖を感じない。


「まったく、この程度の脅かしで人がおびえるわけ……」

「きゃあああああ!」


 後続から叫び声が。


「……まあいっか」


 いまだ名前覚えていないけど、シュウの彼女は楽しそうだから。


「次はどこ行く?」

「そうですね。時間が時間ですし、ご飯でも食べますか?」


 特に反対意見もなく、合流してご飯を食べに行く。


 そこで各々が好きな食べ物を注文するのだが


「む……」


 早苗がピリ辛系のチキンを一口加えただけで、口を動かすのをやめてしまう。


「すまん。この肉、消費期限が過ぎている」

「え? そう。俺はそんなこと感じなかったけど」

「一樹の舌は下限がないから分らぬだけだ」


 確かにどんなにまずくても消化できるのなら食える自信がある。


「すまん。中の様子を見せてもらってもよいか?」


 早苗がスタッフにクレームをつける。


「えっと……申し訳ございません。一度こちらのほうで確認しますので、どうかご容赦ください」


 お互いの言い分も客観的に考えればもっともなことだが、あいにく俺はこの状況で、客観視はしない。一方的に一方の見方をする。


「へえ。そうなんだ。まあいいや。勝手に入るから」

「お客様!?」

「お前俺たちが誰だか分かっていってる?」

「そ、それは……」


 分からないわけがない。

 嘘偽りなく、世界で一番有名な高校生だ。


 殺されても罪に問われない、法が守ることを放棄した人間だ。


 そんな人間相手に強く言える人はいない。


「少々お待ちください」


 マニュアルなら規則なら、そんなものより自分の命のほうが大切。


 強引に押し切り調理場に。


 中の職員が何かを言い出す前に、物の確認をする。


 商品の半分が消費期限を過ぎていた。


「よくわかったな」

「これも一種の超越者だ。私は強くない分こういったどうでもいい技術が伸びた」


 攻防ができない分、味覚による分析ができるようになったと。

 料理漫画ならデフォルトでもってそうな能力に目覚めたわけだ。


「どうします?」

「デートが終わったら通報でいいんじゃない?」


 俺たちが通報すれば、警察はどんな些細なことでも対応する。


 もはや金も権力も必要ない。


 正直気分的には戦略ゲームの終盤をやっている気分。


 もはや天下統一は間近。


 あとは帝国を落とすだけ。


 もう少し戦力をそろえれば勝てると思う。


 そうしたら俺は何をするんだろう。


「……」


 俺は何をしたいんだろう。


「2人ともさ、将来の夢ってある?」


 ふと気になった。

 だから聞いた。


「わたしですか……そうですね。世界平和なんてどうですか?」

「あ、私も世界平和が将来の夢だぞ」


 2人とも言っていることが恐ろしい。

 何が恐ろしいかってきっと実現できてしまうことが。


「私には聞かないの?」

「あ、じゃあ……?」

「以前に言ったと思うけど、将来の夢は自分の子供で野球の試合をすることよ」


 その声の主は誘わなかった、本来ここにいてはいけない人だった。




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