いつか訪れる決別の前に
長かった8章もついに終了です
7章よりも短かったですが、8章の方が圧倒的に長かったですね。何がとは言いません
「四天王諸君、急な招集に皆集まってもらい、王は大変うれしく思う」
帝国の最大戦力が5人一同一つの部屋に集まっていた。
「本来ならここで御託を並べるべきなのだろうが、今はそのようなことをする余裕はない。速やかに伝えないといけないことがある」
「「「「……」」」」
「嘉神一樹は敵だ。それも帝国史上最悪の敵となる。あんなもの生かしてはおけぬ。王の威信にかけて、あれは殺す」
四天王はこれほどまでに鬼気迫った王を見たことがない。
当然長年付き添った氷室も同じだ。
「出来ることなら今すぐにでも殺すべきだが……それは出来ない」
四天王にはすでに神薙信一の存在を教えてある。
「あれが教員としている以上、うかつに生徒に手を出すわけにはいかん」
皮肉な話だ。
帝国は力こそすべてとする国だ。
その国が他の力によってなすすべもない。
「だったら、高校を卒業するまで待ってるってことかっ!」
「それは猶更悪手だ。嘉神一樹は半年で王を超える。それまでに片をつけないとまずい」
嘉神一樹の悪意は帝王の強さをいずれ上回る。
「嘆かわしい。絶対の王がそのようなことを言うべきではない」
「そういうな、崇。そろそろ王は王を辞する」
四天王は覚悟を決めていた。
嘉神一樹を殺すのは帝王以外存在しない。
だが王がそんなことをすれば帝王でいられなくなる。
「そこで、次期帝王最終候補を2名指名する」
それが四天王がいる理由。
次期王の育成。
「まず祟目崇」
超者ランク3位
帝国がまともに動かせる最大戦力。
「そして」
通常ならば九曜白夜か、叢雲天狗のどちらかだ。
だが2名といった瞬間、各々覚悟は決めていた。
「時雨驟雨」
超者ランク7位。
日本人
本来ならばあり得ない人選
机をひっくり返してでも止めるべきなのだが
「……まあ、自分は仕方ないと思います」
「残念だっ。だがおれもっ 悪くない選択だと思っているぞっ!」
以外にも高評価だった。
「意外だな。正直王はもっと反対意見が出ると思っていた」
「帝王。あなたが時雨に入れ込んでいることはここにいるみなが知っています。その上で一度、皆で彼が王になった時、そしてならなかった時を夢想しました」
「ほう。後継者候補が皆優秀で助かる」
時雨驟雨が王候補になりえる理由
強さはもちろんのこと、人間関係にある。
帝王が嘉神一樹を殺す。それはいい。
だがその後が問題だ。
日本とその同盟国との戦争は避けて通れない。
その中で時雨驟雨がいるかいないかで戦況は大きく変わる。
その時の報酬として帝王のポストを用意するのも仕方のないことだと考えている。
それくらい時雨驟雨の評価は高かった。
それくらい嘉神一樹の評価は低かった。
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帰りの飛行機の中、一人で考え事をする。
修学旅行に行くか行かないかは迷っていたが、結果を見れば言ってよかったと思う。
まず誰も欠けることなく帰りの飛行機に乗れたこと。
次に帝国側の戦力を実際に目の当たりにできたこと。
俺の感想はあの国は帝王で保っている国。
超悦者の集団がいるのはちと厄介だが、肝心の能力者の育成が疎かになっている。
あの国は模擬戦の練習しかしていない。
本気の殺し合いの経験がない。
こういってはなんだが、四天王全員が一度に戦っても殺せるだろう。
問題は帝王。
仮に俺がそいつと殺し合いをするとして、勝てる見込みは薄いだろう。
人間の強さを心技体で表現するなら、技術以外で俺は帝王に劣っている。
体である、超悦者。
本来身体能力が均一化される能力だが、超悦者の次のステージがあるとなれば大分意味合いが変わる。
何よりシンボル。
俺は持っていない、限られた人間しか使えない能力。
俺は一度あれを見た。
勝てないだろうと思った。
弱気でも何でもなく、俺のギフトとシンボルは相性が悪すぎる。
だから勝つ方法として2つある。
1つは新たに強いギフトを会得すること。
だがこれには問題がある。
帝王が1位と公に決まっている。つまり帝王の能力を超える能力は存在しない。
いや、正確には母さんとか神薙さんとかいるにはいるんだろうが、そいつらはそもそも別の理屈でコピーすることが難しい。っていうか不可能。
必然、2番手3番手の能力で妥協するしかないのだが、果たしてそれで勝てるのか?
帝王以下の能力をかき集めて絶対に勝てるのか?
よってこの方法は現実的ではない。
もう一つの手段は同じになること。
そう、俺も超悦者の次のステージ、そしてシンボルを得ることを目標にする。
ただこっちもかなり難しく、まず超悦者の次がなんなのかは帝王か神薙さんしか知らない。
またシンボルも神薙さんかメープル経由でしか得ることが出来ない。
結局神薙さんに頼るしかないという絶望。
……この程度を絶望というのは流石に不謹慎だな。
神殺しが終わり、全員集合した時神薙さんがとあることを言い出した。
「神の選別、もっと基準を上げるか」
その時の神々の表情を忘れていない。
今にも泣きだしそうだった。
そんな姿を異に求めず
「勝手に人の星に入って人を殺そうとするなんて、そんな連中駆除するに限る」
神は人を殺せない。
そんなことこの男にとっては関係ない。
「でも殺そうとしただろ?」
だってこの男は、かつて神優位だったシステムをひっくり返した男。
この世で最も強く、そのくせ強さを最も冒涜した男。
「銃は俺が構えさした。照準を俺が定めた。球を弾倉に入れ、遊底を引き安全装置も俺が外した。だが引き金を引いたのは神の意志だ」
意志だ。
この男にとって何を成すかは重要ではない。
どんな意志を持ったのか、それが重要。
「ふざけんなよ! 洗脳し誘導し導いたのはお兄ちゃんだろ! それともなんだ! お兄ちゃんは神の意志を認めるのか!!」
メープル
俺の友を奪った存在。
許せる存在じゃない。
だが同時に哀れだとも思っている。
あれと対面しないといけないなんて。
「あー、一理ある。納得した。じゃあ理由変えてなんとなくうっとおしかったから殺す」
神薙は己の非を認め、その上で、より最悪を告げる。
そうだった。
当たり前なんだ。
この男こそ邪悪にして最悪。
ただその悪意が俺達に向かわないだけ。
「さてと、そういえば親善試合が途中だったな」
最早神々など興味なく、当事者の俺ですら忘れていたことを告げる。
そうだ。神々が乱入したのは試合が決まるほんのちょっと前。
「面倒だから無効試合でいいだろ」
「…………」
本当は嫌だと言いたい。
どう考えても俺達日本側、別名外道五輪の勝利。
それを無効だなんて横暴極まる。
だがあれがそうしたいというのなら、別にいい。
こんなのに意見するリスクを負うくらいなら、引っ込む方がよっぽど理性的だ。
俺は理性ある生き物なんだ。
人として、引っ込むべきところは引っ込む。
だってこんなのに、関わったら命がいくつあっても足りないから。
ただ忘れていた。
この章で神々の魂は人の命よりも軽いことを知った。
だがそれは
人の命の重さを保証するものではない。
人の命も同様に軽いことを、後に思い知らされることになる。
これにて8章終了です。2年間ありがとうございました(自傷行為)
ここまで読んでくださった方、また誤字報告をしていただいている方本当にありがとうございます。
次のキャラ紹介が終わったら1か月くらい更新しないので、よろしければ感想や評価をお願いします




