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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
8章 人という名の
221/353

罪悪感 sideA

「というわけでさ、なんか嫌な記憶があるかもしれないけど、それは神薙先生のせいだから。俺は悪くないから。そこは勘違いしないでね」


 仲間を襲ってしまうという絶望的状況に見えたが、ようは神薙先生がムラムラしたからそういう空気になっただけの、ちょっとエッチなラブコメの世界が混じったものだ。


 そうと分かれば俺には全く責任がない上、珍しく神薙の首をとれたので気分としてはむしろ上々


「…………」

「…………」


 しかし早苗と真百合はそれを聞いても黙ったままだった。


「一樹、ちょっと確認しないといけないことがある」

「どうぞどうぞ。珍しくお説教を受けているから見つけるのは簡単だと思うな」

「いや……そっちじゃなくてだ」

「いいじゃない。気にしなくて」

「いや、真百合。これは絶対確認しないとだ」


 早苗と真百合で意見が分かれている。


 いつものことだ。


 そしてそういう場合2通りの決着で話が付く。


「いいんじゃないですか。気にしなくて」


 真百合の意見が通る。若しくは月夜さんが間に入る。


 今回はその両方が採用される。


「それより水持ってきてくれます。吐きそうで仕方ないんですが」

「はい」


 空想具現化能力で水入りのコップを手渡す。


「わたしたちの方は正直自分たちの問題ですので特に重要視はしなくていいでしょう。問題は時雨さんたちの方です」


 そうなんだよなあ。


「客観的に見て男5人の部屋に女が2人が一夜過ごしたらどう思う?」

「やっちゃってますね。間違いない」

「しかもその相手は」

「帝国四天王の一人」


 よその国の要人の女に手を出した。


「まずいなあ。しかも明後日親善試合があるし、なんか問題が起きないといいけど」

「起きるでしょ。間違いなく」


 月夜さんが言うんだから絶対に起きるんだろう。


「だったら対策はしておいた方がいいよな」

「そうね。とりあえず私に何かできることは?」


 基本全ての人間の上位互換の真百合だが、荒事に限っては俺の方が上。

 だからこそ俺に任せたと言ってくれる。


 それがとてもうれしい。


「親善試合のことで、知恵を貸してほしい」

「そうね。去年も参加したけれど、今年のは意味合いが違ってくるからあくまで予測の域を超えることは出来ないわ」


 それで十分。


「まずはルールの確認からしましょうか。嘉神君がどういう認識でいるか確認しても?」

「基本的に5対5の勝ち抜き戦。最初は審判に先鋒だけを告げ、あとは状況に応じて誰が次鋒や中堅になるかを決めるタイプ。世界大会では戦闘不能になるまで続けることもあるけど、今回のは交友を深めるのが目的だから、出血とか骨折した時点で勝ち負けが決まると言っていい」


 くしくも世界大会も一か月後、そして俺が選抜されるのが有力視されている。


「勝ち抜き戦と言っても1人が全部勝つことは出来ない。3連勝した時点で次の試合は不戦敗となる」


 これが一番忘れてはいけないルール。


 仮に神薙のような化け物がいるとすれば、そいつ一人で勝ってしまうのは、つまらない。

 しかしだからといって勝者数法にすると、個人の強さより組み合わせが重要視されてしまう。


 そのため3連勝すると次の試合は不戦敗というルールが作られた。


 以前言った帝国の三累権(有能さによって権利が三倍三倍されるやつ)が参考にされたルール。


「時間切れは引き分けとして両者落ち。ただし大将だけは一度だけ引き分けを勝ちにできる」


 引き分け狙いの時間稼ぎなど恥ずべきことなのでこの処置は当然と言える。


「1つ1つの勝利条件は?」

「ない。ただし敗北条件がある。足裏以外が10秒以上地面に接する場合。場外に10秒以上出た場合。度が過ぎる反則行為を犯した場合」

「その反則行為は?」

「有名なのは対戦している人間以外が能力を使いサポートをすること。これをやると問答無用で敗北。あとは事前に宣言した武器以外の武器を使うこと」


 武器は1つだけ持ち込める。

 日本刀でも拳銃でも、持って動けるのならバズーカ砲でもいい。


「よかった。しっかりルールは把握しているわね。じゃあ今度は攻略法について考えましょうか。特殊55のルールにおいて、重要なのは何番目の選手?」

「俺は分かっているけど、あえて早苗に聞きたい?」

「ふぇ? 私か?」


 指名されるとは思ってもいなかったのか素っ頓狂な声を出した。


「55の団体戦で、重要なのは先鋒、中堅、大将の中のどれでしょうか?」

「えっと……答えは」

「はい違いまぁあああーす」

「ま、まだ何も言っていないぞ」

「どうせ間違えるのだからさっさと答えなさい」

「大将」


 沈黙。


 そして


「ハイ外れ。ばーかばーか」

「予想通りでしたね。少しでも予想を裏切るのではないかと期待したわたしが愚かでした」

「ち、違うのか?」

「違う。そもそも団体戦では先鋒こそがエースだ。最初に1勝して有利に事を進めたいのは少し考えれば当たり前だろ」

「それに大将は参加する前にチームの敗北が決まっている場合だってあるんです」


 おののきながらも早苗は納得した様子をとる。


「それにこの特殊ルールって、結局先鋒のためのなのよ」


 真百合は財布からお札を数枚取り出した。


「お金の額が戦力の値だと考えなさい」


 そういって10万円の束と5万円の束と1万円札を3枚渡す。


「お、お金で遊ぶのは……」

「私が許可するから問題ないわ」


 地球上の資産の半分は宝瀬のもの。

 だからこそその傲岸不遜な態度も、正しくなる。


「321のカウント後、好きな額を出しなさい」


 3 2 1


 早苗が出したのは1枚 真百合が出したのは3枚

 真百合の勝ちだ。


「次は早苗よ、好きな額を出しなさい」


 負けた方が次の選手を出す。


「……はい」


 早苗が出したのは5枚。

 早苗サイドの勝ちなので、次は真百合の番。


「8枚」


 真百合の勝ち。


 だから次は早苗。


「……真百合。思うのだがそっちの手札が分からないというのはフェアでないと思うのだが」

「いいから続けてください」


 月夜さんにそう言われてしまえば、続けるしかない。


 早苗は10万円を出し、勝利。


 これで2勝ずつだが、早苗の10万円には勝ち星が1ついている。


「これと、これを」


 真百合は3万円を2回だし敗北。


「最後に」


 最後のセットでも3万円を出した。


「どうぞ。早苗の番よ」

「いや……もう負けだというのはいくら私でもわかる」


 何せ1万円が2枚。

 勝てるわけがない。


「早苗、この金額の意味するところって何だと思っているの?」

「真百合の気まぐれではないのか?」


 まったくこれだから早苗はバカ扱いされるんだ。


「戦力だよ。俺達の」

「戦力……?」

「分からないか。この十万は俺だ。そして五万がシュウ。一万が早苗たち女三人」

「そして真百合さんが持っていた八万が、帝国の九曜白夜さんを表していました」


 ここまで行ってようやく気付く早苗。

 自分が今やっていたゲームは親善試合の簡易シミュレーションだったということに。


 そして真百合が勝ったということは、帝国サイドが勝ったということ。


「いや待て。なぜ戦力に察しが付くのだ」

「超者ランクですよ。嘉神さんは2位。人間では二番目に強いとされる男です」


 ただし神薙先生と母さんは除く。


「そしてその数個下に九曜白夜とさらに下に時雨さんがいるんです」

「だが待て。私達だって戦力に」

「なるわけないでしょ? 新しい超者ランクは本人が及ぼす影響力のランクです。強さも基準の一つですが、権力も評価されてしまう項目になっています」


 だから真百合がシュウの上になっている。


 実際に戦えば、3秒も持たない力の差があるだろう。


「私は?」

「早苗さんのシンボルは、判定勝ちには便利でしょうが、今回のルール相手にしっかりと一撃入れないと勝ちにはならないんですよ」


 必中の拳。

 零体に効くのはもちろん、遠くにいる敵も目の前に引き寄せられる拳。


 しかし絶望的に火力が足りない。


 なんとか超悦者(スタイリスト)になったのはいいが、切り替えはいまだ下手糞で数呼吸の間がある。

 戦力と考えるのは難しい。


「だから勝つつもりでいるのなら、嘉神君と時雨君で最低四つ勝たないといけない」

「そういえば大切なことを聞いてませんでした。嘉神さん、あなた勝つつもりでいますか?」


 月夜さんの言い分はこうだ。

 まじめに戦わず勝ち星を譲ってやればいいのではないか。


 非はこちらにあるのだから、花はあちらにやったらどうかと。


「そんなひっかけ問題は間違えない。絶対に勝つ。少なくとも俺はそのつもりでいる」


 異国の交流会と銘打ってはいるが、実質的に日本のトップ戦力と帝国のトップクラスの戦力がぶつかるわけだ。


 下手に負けると日本そのものが不利になる。


「女の涙と、日本国の進退。どちらが重いかと聞かれれば、当然後者と答えるな」

「相変わらず正論で暴言を吐きますね」


 そうは言いつつも、月夜さんだって同じ考えのはずだ。


「一樹が勝つつもりでいるのは分かった。だが結局どういう話をしている?」

「じゃんけんですよ。最初の1手がグーを出すかチョキを出すかパーを出すかの話をしています」


 最強のグー、次点のシュウチョキ、最弱の早苗パー


「しかも厄介なことにですね。あいこになるとは限らないんですよ」


 お互いのグーが同じ強さとは限らない。


「だったら出たとこ勝負をするしかないのではないか?」

「……」


 …………


「真百合。後は頼んだ」

「初手時雨君で、十中七八で必勝」


 はっきりと言い切った。


「理由は?」

「相手視点、最悪はどうなることだと思う?」


 帝国側の視点か……


「俺が九曜白夜に勝つことか?」

「いいえ。嘉神君と九曜白夜が戦わないことよ」

「あっちだって馬鹿ではない。まともに戦えば嘉神君が勝つことくらい分かるはず。それなのに主力を出してきたということは、嘉神君の情報を抜きたいのよ」


 なるほど。

 そこら辺にいる相手だと、手を抜かれて勝たれてしまう。


「あと視点の違いがありますね。わたしたちはトップ10の内の5人。向こうは一人。それだけしか情報が無ければわたしたちが勝つと思うのは当然でしょう」


 だから負けるのはそこまで恐れていないわけか。


「仮に向こうが初手で切り札を出した場合、相手が嘉神君でなければ3連勝して終わるだけ」

「ちょっと待て。その場合私達が負けるのではないか?」

「ええ。でもそれは私達の視点の話。帝国視点ではどうかしら?」


 帝国視点ねえ。

 俺が2位。真百合が5位。九曜なんちゃらが6位。シュウが7位。月夜さん早苗が、9位と10位。


「あ、これ詰んでるんだな」


 切り札越えが2枚あるわけだ。


「でもさ、新しいランクが強さじゃなくて影響力だというのは向こうの方が知っているわけだよな?」


 逆算して大したことないことはばれないだろうか。


「嘉神君、私はね。あの女神から好きな異能を貰ったことになっているのよ」

「その能力って……ああ。そういうこと」


 真百合が貰った能力は記憶の上書き。

『時間』の能力故、警戒の必要はない。


 だがこれはその能力を貰っていると知っている話。

 四天王はそれを知らないうえ、渡したのは自分たちをボコボコにした男の上となれば警戒するに決まっている。


 向こう側は真百合を9くらいに見ていることか。


「早苗、分かったか?」

「3行でまとめてくれ」

「帝国のノルマは俺と九曜白夜をぶつけること。

そのため初手で九曜白夜は出さない。

だからこっちはシュウを出す」


 ぴったしだ。


「それでさ、ちょっと保険のことで相談があるんだ」


 真百合には話してあるが、早苗と月夜さんにも伝えておこう。







「「……」」

「どうした?」

「いや、さすがにそれは……ダメだと思うのだが」

「あまりお勧めできませんね。ただまあ、効果はあるでしょう」


 無事それなりの評価が得られたので満足する。






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