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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
8章 人という名の
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玉座にて3 sideA

クリスマスなんて必要ねえんだよ



「怪我はないか。シュウ?」


 俺としたことが、

 こんなどうでもいい連中を相手するよりも目的を達成することが重要


「あ、ああ。大丈夫だ。何もされてないよ。だから――――」

「それはまずい」


 よくない。

 何かされたと言ってくれた方がまだまし。


「考えてみろ。誘拐や拉致をする連中が何もしないなんてあるわけがない」


 たとえば誘拐された女の子が公判で何もされませんでしたと証言しても、果たして誰が信じるか。


「シュウ、あまりこういうことを言いたくないが洗脳されている可能性がある」

「それは----」

「うん。認めたくないよな。でもそういうギフトがある場合だって同じように否定できないだろ?」


 だって計画的な犯行。

 用意していないわけがないのだ。


「なんて言われたの?」

「えっと、ごめん。言えない」

「言えない? それはおかしい。やましいことがなければ言えるはずだ」


 シュウは一度帝王をチラ見した後


「帝国に来ないかって勧誘された。それだけだ」

「それだけなら言えないなんて言わないよな? 何かほかに隠している」


 シュウの優しさに漬け込むなんてどこまで腐ってるんだこの国は。


「言えなかったのは帝国がおれを欲している内部的な理由を説明してくれたからだ」

「あなただけに教える情報? 詐欺師の常套手段じゃないか」


 儲かる株がございます。

 この不動産は近々数倍の価値に膨れ上がります。


 言っていることは何も変わらん。


「それにギフトだって教えてくれた」

「嘘だな。それもまた詐欺だ」

「でも実際に使って見せて」

「見せて? 俺がギフトを使っても、それが俺のギフトだって証明になる?」


 鬼人化でも、反辿世界でも使って見せようか。


「否定できないよな」

「でもそれって悪魔の照明じゃねえか。何を言っても信じることなんてできねえだろ」

「だな。この世すべての証明事は結局悪魔がやりましたで論破できる。だから状況でどっちが疑わしいかの天秤で量るべきだ」


「シュウ。俺に何も言わなくていい。ただ振り返ってくれ。帝国がやったことは誘拐だ。帝国が話したことは虚偽だ。そして帝国がこれからすることは暴力だ。違うか。暗君」


 さっきから殺気もれてる。


 つまらんジョークだが、心象的に俺の感情はもっと面白くない。


「どうした? そんな顔して。国家ぐるみの犯罪を暴かれたのがそんなにショックだったか? だったら今度は北の大地で幼女をさらってくるといい。作戦部の即戦力になるだろうな」

「一つ、聞こうか。王の兵をどうした?」

「は? そんなどうでもいいこと気にしてどうするの」

「どうでもいいだと? 貴様は蹴散らした人間をどうでもいいと?」

「当たり前だろ。蝦夷の大地で育つと、脳まで凍傷するらしいな。これは一つ勉強になった」


 シュウと帝国軍。

 どっちが大切なのかは考えるまでもない。


「さすがに言いすぎだろ」

「そうだな。名誉棄損は事実でも適用されるらしいしな。悪い悪い」


 こんなところで俺のクリーンな経歴を汚すわけにはいかない。


「なるほど、よくわかった。白夜にだした指示を変えねばならんか」

「何独り言いってるの? 頭おかしいのは元からだから、ついに脳が凍死したか?」

「帝国をここまでコケにして、黙っているほど王はお人よしではない」


 初めて王が玉座から立ち上がる。


「あのさあ、なに被害者ぶってるの。先に拉致行為を働いたのはそっちだからな」

「確かに先に非があったのはこちらかもしれませんが―-」


 おいおい。外交官が非を認めちゃいかんだろ。


「もういい。下がっておれ。王が今ここでこいつを始末すればいいだけのこと」

「ふうん。やるんだ。でもいいの? 俺のバックには誰がいると思ってるか分かってやってる?」

「宝瀬のことか。だが―――――」

「何言ってるんだ。俺が真百合に自主的に迷惑をかけるわけないだろ。もっと根本的な話をしているんだ」


 金とか超悦者スタイリストとかギフトとかシンボルよりも先の話。


「やっちゃってください。先生」

「古今東西俺を用心棒代わりに利用したのはお前が初めてだぜ。嘉神一樹」


 初めて先生が神薙信一に変わってよかったと思う。


「やーいやーい。どうした? さっきまでの威勢が無くなってるけど。俺を殺すつもりだったんだろ? どうした? ここにいるからщ(゜Д゜щ)カモーン」


 いやはや。絶対的な安全圏で煽るのは楽しいな。


「自分の生徒の教育がなってないのではないか。神薙」

「そういうなって。俺が道徳心を鍛えることが出来ないのは分かっているだろ。王領」


 もはやバイオレンスでは勝ち目はないと判断し、皮肉でしか攻撃をすることが出来ない。


「さあさあ。世界一位なんて遠慮せずにやっちゃってください」

「いつき。なんかお前悪代官にしか見えねえんだが」


 何を言うか。俺の前世は……振り返るとこの神薙か。

 はあ。


「いや、確かに連れ戻しに来たがボコボコにはしないぜ」

「ええ。そこをこうほら。結局先生強いやつとは戦っていないじゃないですか。雑魚専ピエロの異名が欲しいんですか?」

「俺は雑魚と戦うことしかできないんだが」


 暗に実力では自分以外は誤差の範囲と明言した。


「普通に考えて連れ戻すのとボコすのは一致しないだろ」

「は? あんたが普通を説くのか?」

「俺は普通だぜ。異常でもあるだけだ」


 今この場は敵地だ。

 俺一人なら緊張し続けて周囲を警戒しないといけないが、完全に弛緩していた。


 誰も目の前にいる男に勝てないんだから戦うという意味がない。


 20世紀に各国が戦艦や核爆弾を開発した気持ちがよくわかる。


 抑止力が半端ない。


「時雨驟雨、ここで俺が職務を全うして連れ去られた生徒を連れ戻してもいい。だがそうするとこの邪険した空気を払拭することは出来ない。そのままでいいならこのまま帰るが、何かしたいことはあるならやっておいた方がいいぜ」


 何を。

 洗脳されているかもしれないのに、好きに行動させるなんてありえないだろ。


「…………いつき。助けに来てくれてありがとう」

「まあ、仲間だし当然」

「大変だっただろ」

「まあな。さっきはああいったけどなんだかんだで兵は強かったよ。受け身の対応を取り続けていたら捕らえられていたかもな」


 超悦者スタイリストの兵はいるだけでなかなか厄介だった。


 それがおのおのギフトを使ってくるんだから楽勝ではなかったよ。


「それでも勝てるあたり流石はいつきだな。ほんと憧れる」

「そう? 嬉しいよ」

「やっぱおれもお前並みに強くなりてえんだ。そして一回ちゃんと勝っておきたいんだ」


 こう褒められると悪い気はしないな。


「だからさ、守ってくれるのはうれしいんだが、強くなれそうな機会は少しは待っていてほしいんだ」

「ん?」

「ほら。例えばここから逃げるときにも強くなれると思わないか」

「確かに……」


 強者から命からがら逃げるのもそれはそれでいい経験になる。


「でも普通に鍛えた方がよくない?」

「そうだけどよ。ずっと同じことしていたら修行の訓練にしかならねえだろ」

「なるほどなるほど」


 すごく納得した。


「じゃそういうことなので早速」

「追わないぞ。だが時雨驟雨の気持ちはよく分かった。過失は確かにこちらにある。だから貴様は王を含めた帝国の誰かと模擬戦をする権利を与えよう」

「え? いいんですか」

「ああ。問題ない。これでそちらも問題あるまい」


 あ、俺に言ってるのね。


 少し考える。


 個人的な観点で言わせてもらえば、滅ぼさない理由も戦争を仕掛けない理由もないが、別に恨んだり憎んだりする動機はない。


 だったらこいつらをシュウの踏み台にするのも悪くない。


 そう仮定すると猶更俺が帝国を亡国にするのはまずいな。


「そうだな。それなら俺も文句はないな」


 さっきまでの怒りはどこ吹く風。

 もはやマイナスの感情を帝国には抱かなくなった。


「じゃ、えっとそういうことですので。おれはまだあなたの提案を受け入れることは出来ません」

「なるほど、貴様がどういう立ち位置なのか理解した。そしてその目標は崇高なものであることも把握した。だが猶更貴様の評価はあがった」


 そういって王領君子はシュウにカードを投げ渡す。


 それを人差し指と中指で挟みとるシュウは中々様になっていた。


「記念だ。とっておけ」

「……はい。ありがとうございます」


 こうして俺は無事シュウを救い出すことに成功したのだった。







「オーダーの追加と変更する。状況が変わった」

「自分は何をすればいいのですか?」

「時雨驟雨はこちら側の人間だ。あの男は素晴らしい。生まれる場所を間違えていると王に思わせるほどだ。できるだけ好印象を持たせておけ」

「そこまで、ですか」

「そうだ。初めは候補としては5番目くらいのつもりであったが、現在は崇と同等の評価だ」

「……では変更は?」

「嘉神一樹の勧誘行為は一切するな。あいつは帝国の敵になる可能性が著しく高い」

「て、敵……ですか」

「今後接触するときは敵対者の情報を抜き取るつもりで行動しろ」

「かしこまりました」

「もう一つ。これは絶対ではなくこうではないかという想定の話だ。恐らく嘉神一樹のギフトはキスした相手の能力をコピーする能力だ」

「え? それはどうして?」

「嘉神一樹の父親嘉神一芽のギフトがキスをした相手の能力を奪い取る能力だと王は知っているからだ」

「それだけですか?」

「ギフトは父親のほうから遺伝し、それは似たり寄ったりの能力になりやすい。その知識は学内で必修のはずだが」

「でも必ずしもそうでないことも習っています」

「そうだ。だが最右翼である。注意しろ」

「注意って……」

「あれほどの成長は能力を模倣しなければ起きるものではない。それもただの模倣ならば崇の上をいくことはない。十割ではなく二十や百でものにする能力だとみるのが妥当だ」

「な、なるほど。自分はそこまで頭が回りませんでした」

「だから接触するとき、やつの口先は注意しておけ。そのことを他の同輩にも伝えろ」

「注意しろと言われても……まあ、季節が季節ですしマスクを着用するよう言っておきます」

「それでいい。なにより白夜。お前のギフトは厄介だ。王でもてこずる。その能力が敵の敵わたるとなると痛すぎる。絶対にキスはするなよ」

「自分は野郎とキスをするつもりはありません」

「それでいい。くれぐれも注意しておけ」






ちなみに時雨君が嘉神君より先に帝王様に声をかけていたら開戦ルートに突入しました

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