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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
8章 人という名の
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いざ帝国に sideA

今回は嘉神君視点ですが、この章は多くの視点変更が起きると予想されます

sideAは嘉神君 sideBは時雨君 sideCは真百合さん、sideDが第三者です

「いよいよ待ちに待った修学旅行の当日だ」


 午前8時に学園に集合予定。

 その後点呼を確認、約一名は事前に空港で落ち合うと事前に申告していたため、2年生全員がしっかりと時間内に集まっていた。


 因みにその一名は我らの宝瀬真百合であり、理由は空港まではバスに乗っての移動なのだが、彼女はバスに嫌な思い出が多いため拒否をした。


 そういうわけで俺達5人の中では珍しく真百合以外の4人で集まっている。


「この話をするのはかれこれ5回目になるだろうが、今一度確認をしよう。帝国に行くうえで注意しないといけないことを、衣川早苗、述べてみろ」


 神薙信一が彼女を指定したのは、恐らくこの中でも特に頭が悪く、逆に言えば彼女が知っていないことを自分が知らないのは恥になるということを知らせたいからだろう。


「帝国は……国だ」


 なんとまあ抽象的な回答だ。


「日本は認めていないが、他国というのが多くの国の主張であり、何より帝国側の主張だ」

「それはなぜか」

「前国王の王領天子が北海道を奪いとった……いや、帝国側の主張としては勝ち取った」

「そうだ。だからこそ北海道は自分たちの領土であり、何より昔の名前である北海道と呼ばれるのを嫌う。くれぐれも北海道ではなく、帝国と呼ぶように、それが一点。ではもう一つ、三累権の制度について知ってることを言ってみろ」


 回答は沈黙


 ……あれほど習っていたのに忘れやがった。


「お助けカードだ。答えてくれそうな人を一人指名しろ」


 早苗の交友関係でも勿論もっとも賢いのは真百合だが、ここにはいない。そうなると次点で


「一樹。頼んだ」


 俺が指名されるのは分かりきっていたことだ。


「では嘉神一樹。代わりに三累権の制度が何なのか説明せよ」


 俺は真百合という例外を除けばクラスの中でも一二を争うほどの聡明な人間のため、この程度の問題は楽に答えられる。


「三累権の制度とは、状況によって権利が3のx乗になる制度です。要するに差別や区別を国の法として認めているという制度です」

「その通りだ。ではそれが適応されるxはどういった人間になるのか」


 言っておくが、多分早苗以外はみんな知っているし覚えているので、完璧に説明したところで流石嘉神君なんて言われはしない。


「ギフトを基準に考えてます。何も能力がない一般人を0、二親等内に能力者がいるのならプラス1、更に自分が能力者ならばプラス2、そして能力の強さ、俗に超者ランクの値によっても加算される制度です。帝王である王領君子には3の7乗である2187の権利が保障されています。この権利は政治はもちろん日常にも適応されています」


 例えば元は日本なので帝国にも裁判員制度がある。


 裁判で有罪が4、無罪が5となると日本の場合、裁判官3人とも有罪判決を下していなければ無罪になるだろうが、帝国の場合有罪側に能力者の身内がいるのならば、有罪判決になってしまう。

 勿論この中に能力者がいようものなら、9の権利が保障されているため裁判官1人と能力者の裁判員2人を説得できれば2対7でも2の勝利となる。


 強引な話だが、選挙で1万票と5万票でも1万側全員が能力者で5万側が無能力者ならば9万と5万扱いになり、1万票を稼いだ立候補者が当選する。


「何より行列があったとしても、身内に能力者がいれば3人、能力者ならば9人。更に親も能力者なら27人。超者ランクに乗っていれば81人や243人といった順番抜かしが権利としても保障されています」

「その通りだ。2日後、遊園地で遊ぶことになるが、その時は平然と行列に割り込む人がいるが、帝国では当然のことであり、文句を言う側が糾弾される」


 日本では義務が三倍になり、帝国では権利が三倍になると揶揄されている。

 そのためか帝国の能力者の比率は10%近くもあるのだ。


「そしてもう一つ。これは気づいてほしかったからこれまで俺の口からは伝えることはなかったが、当日になったので伝えておく。帝国は外国人にもその権利は保証している。無論参政権や選挙権は帝国民だけの権利だが、日常的な権利というのは日本国民にだって適応する」


 それは知っていた。

 つまり、超者ランク2位である嘉神一樹、並び1桁代のシュウや早苗、そして真百合は1位の次である729の権利(月夜さんは身内に能力者がいないため一つ下の243の権利)がある。


「そしてこの権利が、所有者は一番多く持つことを条件に、一時的に分配してもいい。この意味を分かる人は挙手をしろ」


 誰も口を開かなかったので仕方なくであろうが、月夜さんが挙手


「わたしには243倍の権利があります。つまりわたしと2人で遊園地に回れば122人の順番を飛ばしてもいいことになりますし、4人で行くならば60人くらいの順番を抜かしてもいいことになります」

「その通りだ。尤も帝国には多くの能力者がいるため243の権利で抜かすことのできる人数は文字通りになることは滅多にないが、それでもかなり多くは優遇処置がとられるだろうぜ」


 さっきは月夜さんを基準に話をした。

 つまり俺の場合はその3倍。


 729倍の権利があれば、時間内にすべてのアトラクションを巡ることだって可能。


「ちなみに先生は確かに誰よりも強いが、戸籍が存在しないうえランクにも載っていないため、9倍の権利しか存在しない。それでも一緒にまわりたい生徒がいれば2つ返事で応じよう」


 あんたと遊園地に行きたがる奴はいない。

 便所に連れ込まれたらどうするんだ。


「先生が何を言いたかったのかを纏めてみろ。衣川早苗」

「うむ……差別、いや区別されるのは分かっておけ。ただし3倍や9倍の範囲内での話。耐えられなければ先生や私達外道五輪に頼れ。そういうことでいいだろうか?」

「その読解力をテストでも発揮してほしいところだぜ」


 案にもっと勉強しろと言われているのであろう。




 そこから後の話は大体特筆すべきものはない。


 夏休みの日記を書くように無理やりひねり出すのなら、空港で待っていた真百合と合流し、汚職事件を起こした政治家のようにパシャパシャと写真を撮られたり、うっかり飛行機の中でテロに出くわすという微笑ましいことはあったが、時間通りに目的地の帝国空港に到着。


 俺達がどういった扱いになるかは言ってみないと分からないというのが事前に話し合っていた結論だった。


 いきなり襲ってくることもあり得るし、逆に丁重にもてなされることもあり得る。


 結果はそのどちらでも正解であった。


 大勢の兵が1cmの狂いなく道のりを挟んで50人2列に並んでおり、各々の武器を所有していた。


 その武器は有名どころの拳銃はもちろん、マスケット銃やフェンシングのあれといった十人十色の武器であった。


 これを見て通常の神経ならば、武器を統一しない無能共になるのだろうが、超悦者スタイリストの観点で見れば逆。


 100人全員が超悦者スタイリストの可能性がある。


 星砕きが可能な人間が100人。


 とはいっても所詮こいつらは見掛け倒し。こいつらはあくまで見せ札にしかならない。


 真百合から気を付けないといけない能力者の顔を叩きこまれた。


 しかし俺が知っている顔はここにはない。


 逆説的にここにいる軍隊は警戒するに値しないということだ。


 こういうことをする理由は、やはり一つか。


 どういった反応を取るのか見たいのだ。


 慌てるのか、戸惑うのか。

 慌ててくれるのなら不意打ちが有効、戸惑うのなら搦手が有効。


 しかし残念なことに約一名の知能は物足りないが、こっちにはブレインが2名。


 帝王本人が何処かにいるかもしれないというのは、真百合の推理内のうえ。


「10時の方向、首を上に11度傾けてください」


 最幸の手をうってくれる月夜さんがいる。


 帝王君子がガラス越しにこちらを見ていた。


 ハートのKキング


 恐らくこれが簡潔に、そして最も分かりやすく王領君子を表現する言葉だ。


 そこまで老けてはいなが、彼のイメージカラーが赤いこと、王であること、何より誰もが一度は見たことがあるという点で共通している。



 無論俺も例にもれず、王領君子の姿を忘れたことはない。


 しかしそんな有名人がこうして俺達の影響で、わざわざ足を運んでいるというのは、自分の立場が本当にとんでもなくなったことを実感させる。


 バスの乗車中の話はあくまで博優学園の生徒としての話。


 外道五輪の話になると別。


 帝国側としては俺個人がどういった思想をもっているのか判断しかねるだろう。


 俺の情報は出来る限り真百合に秘匿してもらっているので、もしかすると情報は俺の顔のみかもしれない(さすがにそれは楽観的かもしれないが)


 なにより俺、嘉神一樹が帝国にどういった思想をもっているかすら知らない。


 心に右側の翼を所持しているのなら最優先事項であり、逆に左の翼を所持しているのなら取り込めるかもしれない。


 実際はそんな翼はないんだが、あるかもと知れないと思っているのが帝国。


 だからこその見にまわる。


「随分と注目されたものね」


 真百合のつぶやきの意味を理解するのに、数秒かかったがやっと理解した。


 帝王だけではなく、四天王全員が俺達を見ていたのだ。


 再び1から10までが揃ったことになる。


 なるほど、この緊迫した空気はそれが原因か。


「シュウ。どうだ? 前回はクソ女神が邪魔で集中は出来なかったが、今回は集中できるだろ? 四天王には勝てそうか?」

「逆におれからも聞きてえ。いつきはどうだ?」

「俺? 帝王以外なら多分勝てるよ」

「言ってくれるじゃねえか。強者のオーラがビンビン感じるってのによぉ」


 因みに多分の原因は、3時の方向にいるホスト風の男。


 祟目崇だけが絶対に勝てるとは言い切れなかった。


「一樹、言っておくが私達は修学旅行にきているのだからな。くれぐれも変な気を起こすんじゃないぞ」

「そうだった」


 こう殺気立たれると、俺達の目的を忘れるところだった。


 やっぱ遊びたいんだよ。高校生だし。


 勉強して、遊ぶ! だからこそ余計なことはしない。


「嘉神一樹さんですね」


 遠くから一瞬で駆けつけた老人に見覚えがある。


「あなたは……氷室さん」


 帝王の側近。

 以前は兵の格好をしていたが、今回は軍服を身に着けまさに将の格好。


 なるほど。優秀だ。


「本来これを渡すのは係員の仕事ですが、いささか役者不足でしてね」


 渡されたのは免許証のようなカード


 それが何を意味するのかは聞かなくてもわかるが


「これを見せればあなた達5人は多くのサービスを得ることが出来るでしょう」


 やはりそうだ。自分が能力者だと嘘をつく人だっているだろう。

 そういうのを防ぐための証明書か。


「へえ。どうやら帝国民は能力を鍛えることにかまけて、頭を鍛えるのを怠っているようですね。俺の顔くらい知っているものだと思っていました」


 煽りは礼儀。古事記にも書かれている。


 しかしそんな安っぽい煽りに軍隊として鍛えられた彼らには効果がなく


「無論小生らはあなたを知らないわけではありません。しかし例えばあなたの顔を悪用する同年代の方がいるかもしれない。そしてその顔に変身できる能力者がいるかもしれない。それを防ぐためのものですよ、これは」


 逆に煽り返される。


「へえ」


 てめえまさか俺のクラスメイトが詐欺を働くとでも!?


 ぶっ殺してやろうか。


「他愛のない話をするのはいいですが、今は集団で動いていますので、これ以上はほかの方の迷惑となります」


 危ない危ない。月夜さんが仲裁してくれなければ引っかかるところだった。


「言っても分からないようですなら、先生呼びますよ」


 先生を呼ぶという小学生的な脅し文句だが


「…………」


 やっぱり露骨に嫌そうな顔をした。


 そりゃそうだ。どのような形であれ神薙信一が関わってくるなんて御免被る。


「確かにそれは嫌ですので、要件を済ませておきましょうか」


 そういって真百合や早苗に一人ずつ手渡しで証明書を渡す。


「あっ、申し訳ございません。こちらの手違いで時雨殿の証明書にミスがございました」


 自然な演技だ。


「時雨殿。直ちに作り直しますのでお時間がある日を教えてはもらえないでしょうか」

「おいおいおいおい待て待て待て待て」


 真百合は俺のことしか話をしなかったが少し立ち止まって考えれば、シュウはランク7位


 狙う理由なんて五万とある。


「まさか貴様シュウを暗殺する気か!? だとしたら許さねえ。今ここでぶっ殺して―――-」

「いや、そんなことはしねえだろ。少なくともおれが暗殺される可能性は0にちけえよ」


 実際に0であることと0に近いのでは意味合いは全く違う。


「作り直すのにはどれくらい時間が必要ですか?」

「小生らは能力者故、2時間で作り直して見せましょう」

「いや、さすがに遅すぎるでしょ。10分で出来るでしょ」


 移動の時間が必要ないと考えると、修正と印刷するだけの時間だけでいいはず。


「そもそもそっちがミスをしたんだからそのままでもいいだろ。俺達がこれから行くところを先回りして「くしゅん」」


 あんたが権利を保証すればいい、と言いかけたところで真百合がくしゃみをした。


 無論寒くてくしゃみをするなんて軟弱な存在ではない以上理由があるはず。


「確かにその通りですね。こちらの不手際です。でしたら滞在時間どこに行かれるのかをお教えください」


 やられた。

 ずりいぞ。こいつ。


 こっちの予定は初日と2日目でスキー。

 3日目で遊園地

 4日目で同年代との交遊会と自由行動


 どこに行くかを把握されればいつでも簡単に接触されてしまう。


 ここにきてなんて単純なミスを。


「ちなみにどんなミスだ。名前の間違いならおれは気にしねえが」

「いえ、データが月夜殿と混合しており、親が能力者ではないという扱いに」

「……それは――困る」


 そりゃそうだ。シュウは自分の親を尊敬している。

 その親の繋がりを否定しているようなものだ。


「現実的に3時間集団を待たせるなんて出来ないので、結局どこかで落ち合う必要がありますね」


 このままやられてばかりでは悔しいので


「あっ、そうだ。いいこと思いついた。先生に渡しておいてください。神薙先生に」

「それは結構ですので、連絡してからお渡しします」


 ちょっとだけすっきりした。




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