宝瀬真百合 2
「止まれ」
俺は冷淡に命令した。
「どうしたの?」
「見ない方がいいと思いますよ」
五つの死体が転がっていた。
「……そうね。これは見ない方がいいわね」
しかもその死体は切り刻まれていた。
制服から判断するに全員一年だ。
これで天谷以外の一年全員死んだことになる。
天谷以外の一年が全員死んだということは感知の能力をもった空見伊織という女の子も死んだことになるわけだが、顔がすべて破壊されてどいつがどいつか分からん。
「どうしたんですか?」
天谷が後ろから声をかける。
「悪い。すげえトイレ行きたくなった。小だけど見る?」
「見ませんよ。さっさとそこらへんで済ませてください。豚」
天谷にはそう伝えておく。
いずれ伝えないといけないとはいえ、天谷に自分以外の同級生が全滅したなんて事実を伝えることはできない。
「何かあったのか?」
早苗が後ろから声をかけた。早苗なら大丈夫か。
「五人死んでた」
それだけ耳打ちをする。
女子たちにどこか部屋に隠れてもらうように頼んだ。
その間に俺が何をするかというと、
「こいつでいいか」
宝瀬先輩が言っていた解毒剤の件だ。
俺は最もお腹の損壊が少ない生徒を選んで、鬼人化した爪で柔らかいお腹をサクリ。
嫌な臭いがあたりに広がったが構わず作業を続ける。
そして、
「あった」
手探りでお腹の中を触り続けた結果、胃のあたりにスーパーボール大の、カプセルがあった。
血をふいて確かめると中には薬が。
確かに宝瀬先輩の言っていることは本当だったようだな。
「あったのか」
いつの間にか早苗がいた。
「ああ。どうやら宝瀬先輩が正しかったようだな」
「一つ気になっていたのだが、一樹。何でお前は人の死体を見て恐怖をしないんだ?」
「ん?」
「前から気になっていた。私は親が親だから納得できるが、お前は少なくとも普通に生きてきたのであろう?」
確かに普通に考えて発狂物の光景を見てきたな。
「俺。昔からスプラッター映画とかホラー映画大好きで八歳の頃からずっと見てたんだよ。知ってるか?今の映画本物よりリアルなんだよ」
「本物よりリアルな物などあるわけ無いだろ」
まあな。実際嘘だし。
「死体の状況から切り傷が確認できたんだが誰か心当たりあるか?」
周囲に斬った痕が多くあった。日本刀を考えたが、ずぶの素人があそこまで綺麗に斬れるわけがない。
「……飛鳥部翔夢。同級生だ。知っているだろ」
あいつね。クラスで髪の色がファンキーなやつだ。
惨状から察するに、一度に五人やったのだろう。
とはいえ、チートスキル柳動体の前には噛ませ犬と化すんだけど。
移動中にて
「そういえば、主催者俺のギフト知っているのか?」
「分からんが、多分知らないのではないか?知っていればバランスが崩壊してゲームが成り立たない」
口映しはそこまでバランスブレイクしないと思うな。
「ねえ嘉神君」
「何ですか?」
宝瀬先輩が話しかける。
「嘉神くんのギフトはキスした相手の能力を使えることに出来ると言っていたわよね?」
「そうです」
「つまり、もしも今私にキスをした場合、現在使うことの出来ないギフトもコピーできるのかしら?」
「えっと……同じクラスの福知曰く、出来るそうですよ。俺の能力は相手の能力を写し取るだけだから、相手に全く影響がない。だから防御不可だそうです」
例え万が一防いでもキスした事実は残るため能力を得るのが一瞬遅れるだけらしい。
「そう」
そんなことを話していると
「なあ早苗。さっきから殺気を感じてるんだけど、何かあったのか?」
背中が痛い。
「何でもない」
ならいいか。てっきり昨日見た映画みたく、好きな人が別な女と話してジェラシーとかそんなだと思っていた。
まあ最も、早苗俺のこと死ぬ程嫌いだしな。そんなこと世界が一巡してもない。
「ん!?あ、おーい。時雨!こっちこっち」
前方に時雨がいた。
「おい。嘉神。お前何この非常時にハーレム侍らせているんだ?」
言われてみれば、今俺の後ろには女子が五人いる。
それも全員綺麗か可愛いことで有名だ。
「で、ほんとのことお前は何をやってるんだ?」
「戦わずに勝つ戦法を取っていると言うべきかな。数の暴力で押し切る」
「その数におれも加わっていいか」
「もちろんさ。と言うよりこれから加える気だった」
これにより、宝瀬先輩が二段目に下がり四楓院先輩は三段目に下がった。
「それにしても時雨。お前何でそんなに無傷なんだ?」
「実を言うと、さっき起きた所なんだ」
おい。
「おれ結構薬の効きやすい体質で目安の半分で充分なんだ」
一時間眠る薬が二時間になったと。
これで会っていないのは、飛鳥部ただ一人。
がその一人は五人を殺している。
注意しないとな。下手をすれば全滅だ。
「あ!舘前じゃねえかよ。それに湧井と飛鳥部も。元気だったか?」
俺の心配を返してくれ。
何と舘前や先輩たちは俺の頼んだとおりに動いてくれたのだ。
結果、全員集まった。
「先輩。真子のクラスメイトはどうしたんですか?」
飛鳥部。目を逸らすな。
「死んでたよ。誰が殺したのかは知らんが取り敢えず死んでいた」
「えっ!?………嘘ですよね?そんなの嘘ですよね?」
「本当だ。三十分前に進行方向変えたろ。あんとき死体があった」
「うそです。せんぱいそんな……うすです。信じません」
友達もいたのだろう。
「ゴメンな天谷。守れなかった。俺の責任だ」
救う方法もあったはずだ。実際死んだのは十六人中五人しかいないのだから。
「俺はお前を守るだけで精一杯だった。無力な俺を許してくれ」
「わかってます。先輩は何一つ悪くない(ヒック)ことくらい。でも(ヒック)、みーちゃんが死んじゃったのが」
みーちゃんが誰なのかは知らないが、恐らく天谷の親友なのだろうな。
「みんな。これから俺の言うことをよく聞いて欲しい。これ以上被害者を出さないために、そしてあのふざけた大人たちに格の違いを見せつけるため頼みたいことがある」
さてと。反撃を開始しよう。