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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
8章 人という名の
207/353

帝国に向けて

今回は事実上のプロローグなので、戦闘はありません


 俺達5人(別称、外道五輪)は、真百合限定食堂で話し合いをしていた。


「何の話なんだ……つってもあれしかないか」


 シュウが初めに議題は何かを聞き出す。


「はい。この5人が集まった理由はとあることを決める為です。修学旅行をするかどうか。そしてそれに参加するかです」


 本来博優学園は、9月に体育祭が、10月に修学旅行が予定されているはずだった。


 しかし沈黙の666により、9月の日程はまるまる潰れたため体育祭は行われない。


 では10月の修学旅行は実行するのはと言われると微妙な所になる。


 まず何より授業の日数が足りていない。


 なにせ丸々1カ月の講義が浮いてしまっている。


 どこかで消化しないといけない。


 既に土曜の登校は決まっているが、それでもまだ足りない。


 修学旅行を潰して授業をするべきという主張は、確かに納得のいくものである。


 それと何万何十万と人が死んでいるのに修学旅行にいくのは不謹慎だという主張が、外部から流れてきた。


 もう1カ月もたっているのにそんな事を未だに蒸し返しているのはどうかと思う。

 この主張には納得しないが、迷惑なことに納得できない主張ほど声の大きさと比例関係がある。


 最後にもう一つ。これが大きい。


 上二つは実を言うと例のごとく宝瀬パワーで解決できるから、実は問題でも何でもない。


 例えば、今まで日本の入学式は4月からだが、それを全て1カ月ずらして、これからずっと5月にするようなルールにしたりすることで、問題を解決できる。


 うるさい声なんてものは金の暴力で沈黙できる。


 だが最後の一つがこの状況を面倒くさくしている。


 昔から修学旅行の行き先が、『帝国』なのだ。


 これはずっと前から決まっていたことで、かれこれ十年ずっと帝国にいきだった。

 既に三か月ほど前に宿等の予約は済ませており、準備も抜かりなく進んでいた。


 別に『帝国』に恨みといった負の感情があるわけじゃない。


 面倒なことに巻き込まれるのが、予知なんか使わなくても察することが出来るのが、厄介。


 『帝国』は完全異能主義の社会であるが、その異能力は俺に食われている。


 いや、俺だけじゃなく新システムになった今、俺達(通称外道五輪)は帝国の敵でしかない。


 うーん。敵というか違うな。

 例えばフランス人が初めて1年で横綱になったり、ドイツ人が奨励会すっとばしてタイトルをとったりするようなイメージ。


 自国の誇りを穢したようなものに近い。


 やっかみの対象になっている。


 だから行き先としてはあまり相応しくない。


 じゃあお金の力で行き先を変えるのかと言われると、それもまた難しくなる。


 実は帝国側に先手を取られた。


 『我々は博優学園の修学旅行を歓迎する』といった内容を世界各国に放送された。


 仮に行き先を変えようものなら、世間は俺達を帝国から逃げたと判断する。

 実際逃げているんだからそうなんだが、


 そしてだ。


 これが俺個人の問題であればいい。


 でも実際はそうならない。


 俺は超者ランク2位。帝国の王陵君子が1位である以上、俺が日本人としてトップ。


 そして帝国は元々北海道という場所の日本領土。


 民族が勝手に独立した結果、領海権が死んだ。


 こういえば、日本国民の帝国民に対する怒りは理解できるかもしれない。


 戦争になれば帝国が勝つわけだが、それが今俺達の所為で絶対ではなくなってきている。


 そのまま攻め落とせ、刺激するな、降伏しろ。様々な意見に理がある。


 その意見を全てまとめるのは不可能であり、どれかの意見を裏切らなきゃいけない。


 つまり俺達に残された選択肢は3つ。修学旅行に行くか、行かないか、中止するか。


 今俺達はそういった内輪で政治的な話をしている。


「まずおれから意見言っていいか?」

「どうぞ」


 まずはシュウから。


「行きてえ。おれ個人の話だが、帝国には一度言って見たかったし、帝国の人達がどんな考えで生活しているのかを触れてみてえんだ」


 シュウは賛成。


「では次にわたしからです。多幸福感ユーフォリアを抜きにした場合、つまり完全にわたし個人の意見だと中止を望みます。理由は最悪の想定をしたときにどれが一番被害が大きいかという点ですね。行くとなるとかなりの確率で国際問題になるでしょう。わたし達に政治は早い」


 月夜さんは反対。


「早苗は?」


 赤髪の少女、俺が高校生になって最初に仲良くなった女。衣川早苗に意見を仰ぐ。


「むぅ……正直な所、こういうことがなければ私は行く気ではなかった」

「ん? 化物はもう退治しただろ?」


 かつて早苗を襲った化け物は一人の人間の悪意からだった。

 帝国とは関係ないはず。


「そうじゃない。私は衣川の娘だ。北に近い所を丸腰でいくわけにはいかん。だが護衛をつけるとなるとそれこそ修学旅行ではなく、ただの企業取引になる」


 言いたいことは納得するが、仮に早苗を誘拐したとしてもそこが衣川北支部になるだけだ。


「じゃあ早苗は行かない。という意見なのか」

「いや、今年は私よりも行くことが問題になる人が行くかもしれないから、そっちの意見を聞いてから、私も意見を出したい」


 その行くことが問題になるのはこの人。


「嘉神君が行くなら私も行くわ。行かないのなら行きません」


 藍色の伸ばした髪を携えた、宝瀬真百合。


 多分この人が一番金を持っています。


「そういや真百合は去年も行ったのか?」


 去年も真百合は2年生だったので、修学旅行に行く機会はあったはず。


「ええ。行ったわ。ただ修学旅行にではなく、修学旅行と同じ時期に帝国に旅行するという形でね」


 乗る飛行機の便も機種も違う。

 個人が往復するだけで億を動かした女が、俺の目の前にいる。


「話を戻してその理由は?」

「嘉神君が単独で帝国に向かう場合、帝国が政治的措置を働く可能性があるわ。そういったものを誰が対応できるかといわれたら、もう私しかいない」


 納得のいく理由。

 俺に政治の話は出来ないから、餅は餅屋に任せておきたい。


「これまでを纏めると、時雨さんは確定的に行く気で、わたしは中止をするべき。早苗さんと真百合さんは嘉神さんが行く気でいるなら、自分達も行くつもり。こういった感じです」


 そうなるな。


「こうやって5人で集まっても、結局は嘉神君が決めることになるのよね」


 俺が行くとなれば早苗も真百合も多分ついでに月夜さんもついていき、行かないとなれば、行くのはシュウだけ。中止するなら全員いかないことになる。


「どうするんだ。おれとしては中止しなけりゃどっちを選んでも問題ねえとおもっているけどよぉ」

「心配するな。もう答えは決まっている」


 俺の答えは


「正直あーだこーだ言われると思うけど、俺は行きたい」


 修学旅行にいく。


 そもそも俺は勉学と青春をするためにこの学園にいるのだから、そこを度外視するとなると本末転倒な話になってしまう。


「厄介事には巻き込まれると思う。でも、巻き込まれるだけで大事には至らない」

「それは、あの人がいるから、ですか」


 あの人。

 人類悪。


 現俺達の担任。


「俺はあいつの強さをみんなの次に信じてる」

「それは大層な信頼ですね」


 すべての能力を無限に持っているという、考えるだけでも悍ましい能力者。


「何かは確実に起きる。それはあいつが手を引いているのかそれとも裏で操っているのかは分からない。でも担任の先生を演じている以上はクラスを守る義務がある」

「守るのか。神薙が、その義務を?」


 早苗の反論も理解できるものもある。


「守る。絶対に」


 だがこればっかりは言い切れた。


「よほど自身があるようね。だったら私はそれを信じるけれど、理由は説明できるようなものなの?」

「うーん。例えばだけどさ、今日どうやって学校に来た?」


 徒歩が3、車が1。


「聞くけどなんで超悦者スタイリストやギフトは使わなかった?」


 この質問の回答者はシュウ。


 早苗は形までしか出来ていないし、月夜さんはギフト遂行時にしか使えない。


「シュウの場合、物体全部を電気にすれば0.001秒でたどり着けただろ」

「そりゃ……まあ、遅刻しそうなときは使うけど、普通の時は徒歩で登校するもんだからよぉ」


 実際俺も色々な手段はあるが、歩くという非効率的な手段で登校している。


「出来ることが増えると、価値を見出し辛くなってるってことなんだ」


 これは多分、万能ではなく五千能の俺だからこそ言える。


「あいつは何でもできる。だからこそ全ての行為は同価値なんだ」

「そうかぁ? めっちゃ自分の価値観で生きていそうな気がするが」

「自明だな。だからこそその一個前に、一度自分で決めたこと以外を付け加える必要がある」


 例えばあいつは人間が好きだと言った。

 だが俺から見れば人間を好きでいようとしているから、そう言っているだけにしか聞こえない。


「良く言えば頑固、悪く言えば話を聞かない」

「嘉神さんと同じですね」


 失礼なことをいうなあ。


 話を聞かないなら、俺が勝手に決めているだろ。


「あいつは自分から教育者として生徒を守る義務があると言った。俺達の手で何とかできるものでしかない。仮にそれを上回った事態になった時は介入して制裁する」


 教育者になったのだから、その義務は果たす。


 俺はそう思っているからこそ、逆に修学旅行として帝国に向かうのは安全だと推理した。


「どうした? 何か不満があるのか? 早苗?」

「不満というより不可解なことがある」


 それは何だと尋ねると


「説明してもらって理解は出来た。だがその導入は神薙信一ならこうするに違いないという、いうなら人間性を信じた考えだ。確かに一樹の説明には納得する。自明なことを。だがそれ以上に私にはあいつがどういった考えで動いているかを読み取ることはできん。何より出来た所で、それはあいつがそう思わせているだけに過ぎないのではないか?」

「「「「…………」」」」


 こいつ――


「早苗がそんな頭のよさそうな話をするはずがない! 偽物だ! ひっ捕らえろ!!」


 間違いない。

 偽物だ!


「え? ちょっとまっ――痛いッ!? ほんといたいいだいいぁあ」

「そりゃそうよ。痛くしているんだもの」


 真百合がいち早く早苗が偽物だと気づき、関節技を決めていた。


「いいから吐け! 本物の早苗はどこだ!」


 まさかもう敵の攻撃が始まっていたとは――!


 前書きですら嘘をつくとは……見損なったぞ!


「話すも何も、そうしていると話せねえだろ」


 シュウのツッコミも一理はある。

 俺が聞きたいのは偽物の苦痛めいた叫びではなく、本物の早苗の居場所


「絶対にやめない。今はまだ一時の痛み。このまま解放しても嘘をつく可能性があるわ。だから一度徹底的に痛めつけてから情報を履かせないと意味がない」


 だが真百合の反論は百里あってしまった。


「人間の骨は206個あるらしいから、6本くらい抜いた方がキリがよくてすてきね。取りあえず頭蓋骨と脊髄あたりは抜いておきましょう」

「そんな歯を抜くような感覚で重要な器官を抜こうとするはやめるのだ――ってイだぁあああ」


 偽早苗の耳をつんざくような雄叫び、もとい雌叫びが響く。


「その人本物ですよ」


 月夜さんからのお告げ


「ばかな。あり得ん」


 しかしこのタイミングで月夜さんがそういうということはそうなのだろう。


「真百合、離してやってくれ」

「………………………………………………そうね」


 その無駄に長い間、秒にして12秒。ずっと関節攻めをしていた。


「うぅ……痛かった」

「そりゃ痛くしたもの。痛がって当然よ」


 ポンポンと制服についたホコリを掃う早苗に、真百合がおくびも無く言い捨てる。


「…………」

「…………」

「……何?」


 早苗が俺達をじっと睨むが、その意味が分からない。


「私に何かいうことがあるのではないか?」

「何を?」

「さっぱりよ」


 真百合が分からないのなら、それはもはや質問文が悪い。


「こういうことをした一樹達が私に謝るべきではないかと言っているのだ」

「は? 何で?」


 こいつは一体何を言っているんだろう。

 いかれてるのか?


「自分達が間違えて攻撃したことについて、謝罪の言葉を告げるのが正しい人としての在り方ではないかといっている」

「それは視点の違いだな。逆に聞く。盗賊団員が『合言葉を間違って告げただけなのに攻撃するなんて酷い』なんて言ったらどう思う?」

「つまりあれか? 一樹は私が馬鹿の代名詞だと思っているということなのか?」

「そうなるな」


 狼少年は狼が来たと言ったから信じられなかった。真面目な顔をして『狼は来ていない』と何度も言い続ければきっと村の人達も信じてくれただろう、


 天使は虚偽を告げてはならない。

 悪魔は真実を告げてはならない。


「あなたが先に私達の信頼を裏切ったのよ。謝るのならまずは早苗からが道理ね」

「うぐぐ」

「それに超悦者スタイリストをしっかり身に着けていれば今のは簡単に抜け出せたはずよ。結局早苗はあれから何も成長していない。そのくせ苦言だけは垂れ流すのね。はっきりいって害悪よ」

「う……」

「やめたら? 生きるの」


 真百合がいつにも増して辛辣な言葉を向ける。


「ストップです。これ以上は収まりがつかなくなるのでやめましょう」


 こういった仲介役は九割九分月夜さんが務めるな。


「嘉神さんが早苗さんをいじめるのは小学生並の理由ですから可愛げがありますけど、真百合さんのはそろそろ止めないと洒落にならないので」

「そう?」

「自覚あるくせに、とぼけるのはやめましょう」


 小学生並の理由は何だろうと考えていたが、そんなことどうでもいいことに気が付いた。


「それで何の話をしていたんだっけ?」

「修学旅行にいくかどうかと、神薙さんについてです」


 そうだったそうだった。


 まったく、早苗の所為で脱線してしまったじゃないか。


 これを口にするとまた揉めそうなので黙っておく。


 俺もずいぶん大人になった。


「やれやれ」

「大人になったのなら、最後の一言までを堪えてほしかったです」

「話を戻して早苗の言う通り、神薙さんの手がかかっているかもしれない。でもあいつは逆に何でも言える。『修学旅行に行きたくなる能力』も、『1人だけ行かないようにする能力』も持っているんだぞ。『1人だけ気づかせる能力』だって持っているんだから、はっきりいって何もしても何を考えても無駄」


 しょうもない異能力もインチキの異能力も、皆等しく所有していることこそあいつが真に恐ろしい異能者だと思っている。


「今までは関わらないことこそ真の対策だと思っていたけど、それすらもう無理な状況。だったら役に立つよう利用する気概を見せとかないと、呑まれて死ぬ」

「……一応ギフトを使えば行った方がいいと言っています。ただ……ねえ」


 それも結局はあいつの借りものに過ぎないのだが。


「そうね。だったら早苗だけ置いてけぼりで4人で行きましょう」

「待て待て! 一樹達が行くなら私は行くと前以っていっていただろ!」



 結局俺達の結論は何しても無駄なんだから、楽しめそうな方を選ぶという、なんとも頭の悪そうな結論だった。




 案の定、非常にとんでもない事態に巻き込まれたりしたんだが。




*************************


 神層最上位にて


「…………決めていたことがある」

「どうした母上?」

「今回僕らは本格的に介入する」

「そうか」


 返答はしたのは一柱のみ。


「そしてだけど、覚悟しておいて」

「覚悟とは?」

「死ぬ覚悟」


 沈黙。


「もちろんここではまだ死なせるつもりはないけど、最悪その可能性もあるってこと」

「ならばそうならないよう努めるまで」

「シンジもいいかな?」


 これまで一言も口を開かなかった男


「700時間も震えてたら、流石に治まるぜ」

「上等だよ。僕は初めてあれを受けた時、立て直すのに3カ月かかったんだから」


 あれの瘴気にあてられて、自力で立て直す。

 それだけでこのシンジという男がいかに優れた存在であるかの証明と言えよう。


「朕もシンジ程の高みに臨めば、ああなるのだから笑いはせん。むしろまだそうならないことを恥ずべきなのだ」

「ったく、ほんとだぜ。さっさとお前もぶるってこい」


 こうやって軽口をかけあうのは、ただの信頼か。

 それともそうでもしないとやっていられないのか。


「それでね。シンジとハヤテが死ぬのは詰みだけど、僕が死ぬのは必至がかかるだけで、続けることはできる」


 ただし敵を詰ますことができるとは一言も言っていないが。


「僕に万が一の事があったときは、この子に柱を継承させる」


 呼ばれて昇臨したのは1人の少女


 神薙信一が関わらないという条件付きならば、最も高位に位置する正真正銘の神


「覚えているかな? 出産の時助産してもらったんだけど」

「うっすらとだけなら」

「俺様は――まったく」


 ただしその神は、弱体化したメープルにすら戦慄を覚えるほどの強さしか持ち合わせていないが。


「名はなんだっけ」

「ありません」


 基本的に神は階級で呼ばれる為、名というのは存在しない。


「だったら僕が名をつけよう。いいよね」

「はい」


 神に名をつけて貰うのだから、とても名誉なこと。


 それに断る理由はない。


「お前の名は○○○だ。良い名前だろ?」


 黙って頷く○○○


「ほんと、頼んだよ」

「歴代にて最も脆弱で慈悲に溢れた柱神メープル様。わたしはあなたの下でいたことを、そしてあなたの次を継げることを誇りに思います」

「それって褒めてるのか貶しているのか分かんないかな」


 最も詰んでいる陣営は、最もその場の空気は良かったのだった。




 そして――――




「遊ぶか」


 最も邪悪な男は、薄気味の悪い笑顔を浮かべていた。




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