悪魔と番人の再戦
鹿島明石長門山風朝風プリンツゲットできて満足です
9月もそろそろ終わりに近づき、『沈黙の666』騒ぎも少しは落ち着きを戻しだした頃。
どうしても俺達は1つ清算をしないことがいけないことがある。
「ルールは3本勝負。安全のため人形のデコイをお互い5つ用意してあるが、先に3つ破壊された方が負け」
「ああ。分かってる」
俺とシュウの決闘だ。
約束したもんな。
早苗の件はなあなあに出来たと思うが、この件はちゃんと約束は守る。
「場所の指定はそっちに譲る。どこがいい?」
高層ビルが並ぶ都会風のフィールド?
それとも素で天変地異が起きている魔王がいそうなフィールド?
「……折角だから火星でやってみないか」
「いいな。そういうわけで、父さん。もう帰っていいよ」
最初の予定としては父さんに戦闘フィールドを作ってもらう予定だったが、リアルに火星にいけば他の人の迷惑にはならない。
良い案だと思うし、それなら俺一人で賄える。
回廊洞穴で、一ワープ。
うん。火星。
探知したけどゴキブリはいません。
まさしく火星だ。
「開始の合図はどうする?」
「コインを投げて落ちた瞬間から、決闘スタートでいいか」
よくある決闘方だ。
特に異論はない。
「投げるのは?」
「いつきからで頼む」
「分かった。ではいくぞ」
100円玉を親指で強く弾く。
この強さで弾いたら、落ちてくるまであと3秒くら…………!?
やられた!
シュウの奴、電磁波を使って落ちる速さを強引に速めた!
3秒ほどで落ちるコインを、1秒で落としたのだ。
約束したのは決闘のスタートであり、何もしないとは約束していない。
言うなら合法の裏技。
油断していたとは言わないが、不意を突かれ一手遅れてしまう。
「!雷電の槍!! 混沌回路――感電!!」
そしていきなりの最大火力。
喰らったら間違いなく人形一つ持っていかれる。
だがそんな馬鹿正直に受けるわけがない。
「獄落常奴――閻魔」
全長20mほどの巨大な閻魔王を召還し、盾にして攻撃を防ぐ。
その閻魔は一瞬で感電し焦げてしまったが、俺の盾になるという役割を十分に果たしてくれた。
「絶対に耐えると分かっているから、えぐい事をさせてもらうぞ。獄落常奴――血池」
赤い水の洪水で一面を呑み込む。
まさに赤い星。
これで前方にいるシュウをそもまま呑み込んで……消えた。
その消え方はさながら電気のようだった。
「どこ狙ってんだ!!」
いつの間にか後ろに回り込まれた。
そしてその理由を考え一つの結論に辿り着く。
「電気で分身体を!?」
「その通りだっ よぉっ!」
雷の鎌で背後から一閃を入れられるが、
「反辿世界!」
世界の活動を止めることで防ぐ。
停止時間は10秒ある、まずは一撃入れさせてもらう。
「……ちっ」
俺に襲い掛かったそれも分身体。
後手後手に回ってしまっている。
研究されたかというのが、ここまでやられた感想だ。
残り9秒で本体を探すのも手だが、その成果は芳しくない結果になるのは分かっている。
何故なら俺個人の索敵能力は『論外』程度でしかなく、シュウが隠密するつもりがあればなかなか見つからないからだ。
だったらこれから繰り出される策を予測するべきだ。
思考時間の延長は超悦者の特権だからな。
シュウが俺に近づかなかったのは、反辿世界で狩られることを恐れたからだ。
シュウは常に耐性をはっているため、あいつが気にするべき能力は次元に穴を開ける回廊洞穴、世界の停止反辿世界、次元変換二次色の筆。そして地獄を支配する獄落常奴シリーズであろう。
これ以外に差し込む手段が無いが、逆を言えばこれらをうまく差し込むことが俺の勝利条件になる。
攻撃手段としては獄落常奴で一任出来るが、それ以外の補助ではやはり反辿世界が頭2つ抜き出ている。
その事は当然俺よりもシュウ本人が一番分かっているはず。
だからこそ今度はしっかりと対策を取っている。
その一つが今やられた発動の誘発。
俺の反辿世界は10秒しか持続しないのをシュウは知っている。
そして一度発動してしまえば体感5秒ほどのインターバルが必要であることも知られている。
ならばその間をつくのが正攻法になるだろう。
これからの5秒で、シュウは何か仕掛けてくる。
それを上手くかわせるかが勝負になると予測。
ならば俺は今のうちに防御態勢を整えておこう。
ガラス壁を創造し、更に存罪証明で強化。
これで俺が握っている小石を破壊しない限りはこの壁が壊れることが無い。
ただこの能力は『法則』で、シュウの混沌回路と同じクラスだ。
同じクラスの場合どちらとも影響し合うので、このまま壊れなくても逆に簡単に壊れても不思議じゃない。
だがどの道、混沌回路の使用回数は消費させられる。
沈黙の666の時は4回だった。
さっき一度使ったので、成長を加味して残り4回といったところ。
これを凌ぎ切れば俺の勝ちだ。
客観的に考えてやはり俺の方が圧倒的に有利。
ポカをするつもりはないので、シュウの奇策に泥沼として嵌らないかの勝負。
「1秒。世界は胎動する」
反転した色合いは元通りに戻り、この世界の活動が再開する。
さあこの5秒間に何をする。
「雷電の電竜」
地から雷を纏った竜が、昇竜として俺に襲いかかる。
「おっと」
それを俺は見てかわし、竜はそのまま天に昇った。
以前にこの話をしてもう一度言っておくが、ゴムやガラスは絶縁体だ。
だがそれ以上に空気の方が絶縁体の為、空気を駆け巡る雷をガラス程度の絶縁体では防げない。
しかしこうなると、ガラス壁を作ったのは逃げ場を減らす悪手だったか?
まあいいや。いざとなったら回廊洞穴で逃げよう。
さて。残りは3秒。
「雷電の流星」
今度は頭上から雷の隕石が無数に降り注ぐ。
1つ1つが大きなクレーターを残すほどの破壊力しかない。
ガラス壁を破壊できるほどのパワーは無い。
しかし
「まあこうなるよな」
その中の一つに性質を付与されている場合。話は変わる。
混沌回路は応用性もさることながら、どの攻撃に付与されているか第三者視点では分からないのも長所である。
ガラス壁はすぐには熔解しなかったが、じわりじわりと溶け始める。
不壊なのに溶けるのを嘆くべきか、一瞬で解けなかっただけマシだと考えるべきか。
それでも時間稼ぎにはなる。
残り1秒。
この状況でシュウが頭上にいることは分かっている。
10秒もあれば捕らえることは簡単にできるだろう。
0秒。
「これで終わりだ。反辿世界」
「雷電の朧」
世界は再び活動を止め、動いているのはこの星では俺一人になる。
溶けたガラス壁から抜け出して天にいるシュウを探す。
「ほう」
感心してしまった。
これが反辿世界の攻略法か
空には確かにシュウがいた。
しかし1人ではない。
ざっと100人ほど存在した。
これもさっき受けた分身体のためだろうが……困った。
どれが本物か分からない。
雷体だったら電波のブレによりちょっと見たらどれが偽物か判別は出来る。
しかしこの止まった世界において時間的揺れは存在しない。
全てが同じように見える。
つまりだ。
停止した世界では精巧な人形の判別がつかない。
このまま10秒稼ぐつもりだろう。
だがしかしだ。
それはあくまで反辿世界の攻略法であり、俺の攻略法じゃない。
俺の能力が世界を止めるだけならこのまま負けていただろうが、残念なことにそうじゃないのはご存知の通りだ。
手数の多さが真骨頂
「獄落常奴――骸」
骸骨を作り出し、見えている範囲全てをそれで埋め尽くす。
その圧倒的物量は、箱が無くても中にいるシュウを鮨詰めにすることを可能とした。
再び世界は動き始め、観察を始める。
俺の複製とは違い、シュウの朧は人形に近い。
自立していないため、一々命令を与えないと動かないと推測できる。
ならばこういう即時の対応を求める事態が起きた時、最初に動いた人影が本体だと予測し
「そこだ!!」
「くっ」
都合のいい聖域で、いい感じに攻撃する。
「手ごたえあり。残り2回」
「まだまだっあ!!」
不利になったと判断し、直線的に挑んでくる。
やはり小細工では俺の方が数段上手だったな。
だからこそ最終的に直線的な戦いになるのは読めていた。
まあ、単純だからこそ対策を取る余地が少ないのも事実だが。
「雷電の球 混沌回路――必中」
早苗のシンボルのお株を奪う必中技。
当たるまでは消滅しない。逃げてもどこまでもついていく。
ならば一度当たるしかない。
とはいってもシュウのシンボルは、1つのモノに複数の性質を付与することはできないので、この攻撃は受けてしまっても問題ない。
「雷電の球 混沌回路――破壊」
ただし一度に一回しか使えない訳じゃない。
使用することだけは複数回可能。
2つの球を握りしめ、俺に向かって突進してくる。
1つは当たらなくてはいけなく、1つは当たってはいけない。
ただしその2つはどっちがどっちかは分からない。
一見どうしようもないように見えるが、対策を思い付いた俺にと手は悪手に近い。
「えいや」
手刀を加え、自分の首から下を切り落とす。
1µs足らずで胴体などを再生し、生えてきた足で数歩引き下がる。
残ったのは首の無い身体。
2つの球はその体に命中し、無事その役目を終えた。
無論その間に出来た隙を逃す俺じゃない。
空間に穴を開け、シュウの右肩を切断する。
無論コンマ数秒で、人形がダメージを吸収するわけだが。
「これで残り1回」
残りライフもだが、使えるシンボルもそれくらいだ。
つまりもう使い捨ての攻撃は出来ない。
しかし俺は1度も攻撃を受けていないので、それでも勝つために出来ることは
「混沌回路――麻痺」
そのナイフに性質を加えることだろう。
つまりもう俺はあのナイフだけを気をつければいい。
だったら距離をとる必要はない。
速やかに決着をつける。
一瞬ヒヤリとしたが、やはりまだまだか。
戦って分かるがシュウもまだまだ先がある。
このまま俺も停滞していたら、いつか抜かれるだろう。
「二次色の人生 贋工賜杯」
無数の点牙を創造し、そして複製。
「…………っ」
それを見たシュウは逃げ出した。
「ん?」
少し違和感があるが逃げたら追うしかない。
ほんの数十キロ先まで移動し、その歩みを止める。
「どうした? 負けるなら大人しく負けるものだと思っていたが」
「おれもそのつもりだ。ただ、まだ負けたわけじゃない」
何やら策ありと。ならば問題ない。
「とはいっても残り3回も当てるのはきつそうだからよ、一発だけ当てて負けることにするよぉ」
「ふうん」
ならばそのナイフにだけ注意していればいいか。
「ではもう一度。今度は逃げるのではなく躱してみろ」
無数の刀剣をロケットのように発射する。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!」
その攻撃をギリギリのところで躱しながら、一直線に俺の方に突入。
その速さは光ですらモノの単位にならない。
宇宙の果てから果てまでを1秒ほどで到達できるほどの、圧倒的な超スピード。
その速さで、わずか10メートルほどの距離だ。
0が負の方で何度も続くほどの刹那すらも十分な時間。
しかしそれでも時間があるのだから、超越者は対応できる。
「これで、終わりだ!」
真横から胴体を真っ二つにするように、持っている刀を振りかざす。
しかしその一撃はシュウに届くことは無い。
「うぅうおおお」
人間物を投げて生活してきた。
だからこそここでナイフを投げるという行為は人間らしい行為だ。
しかし唯一通用する武器を投げ捨ててどうするんだという気持ちがあったが、それは残り1回の攻撃をしてからだ。
これでもうシンボルは使えない。
とはいえ十全の力でそのナイフから避ける。
だからこそか一瞬だけ、ほんのちょびっとだけ、注意がシュウではなくナイフに移った。
その間でシュウはいなくなった。
というか消えた。
ごめん嘘ついた。
シュウは転んでいた。
何やってるんだ。そんな感情が芽生えたが、それを一瞬で投げ捨てる。
超悦者がバランスを崩す?
あり得るのか? という疑問が変わりに俺の思考を支配した。
結論から言えばそれはあり得ない。
シュウはわざと転んだ。
しかしその理由に到達するのに思考時間が足りなかった。
というより足らないようにするために、超スピードで突っ込んできたんだと後になって振り返る。
転ぶ、その先には大地がある。
火星産の土がある。
それだけだ。そう思っていた。
転んだ先にある衝突から顔を守るため地面に手を伸ばす。
しかしその手は防ぐのではなく、突っ込んだ。
大地に手を突っ込んだ。
そして引き抜いた――――!!
長めの日本刀。そう点牙だ。
そしてその刃先は俺の股下に存在する。
このままその手を引き上げれば、俺の右腿から下は切られてしまう。
何でそこに存在したのか、今は重要じゃない。
速さを考えれば超悦者同士は同側だが、明らかに理は向こうにある。
ならば防御に専念する。
斬りやすい刀といえど、所詮は量産品。
完成した超悦者には届くわけがない。
これに耐えて、俺の完全勝利。
「一発だけ……入れさせてもらうぜぇ!」
刀がささり、そのままバターのように俺の足がすっぱりと斬られる。
人形の力でダメージは吸収されるが、間違いなく一撃は入れられた。
なぜか、その疑問は後で聞くとして、持っていた刀をそのまま振り下ろす。
地面と平行に浮いていたシュウに防御の手段は無く、そのまま3回目の致命傷を受け、これにて決闘は終了する。
結果的に言えば3:1で俺の圧勝だが、完勝じゃない。
壊れた人形を見ながら聞いて見る。
「その刀は?」
「実を言うと初めから埋めておいた」
あー
納得。そして理解。
「最初から嵌められいたんだな」
火星を指定した理由は、単に邪魔されないからだけじゃなく、隠していた装備があるからだ。
そしてそれだけならまだいい。
重要なのはシンボルの回数の誤解。
「1日に数回使える。1つのモノに複数の性質を付与できない。別々のモノになら複数個付与できる。そして、その能力は意図的に消さない限りは消えない」
「そういうことだ」
昨日か一昨日か、もしくは先週かは知らない。
事前に武器に性質を付与しておいて隠していた。
「道理で雑に使っていると思っていた」
「残り0回にしておかないと、警戒するだろ」
実際0回になった時に緩んだんだから、ぐうの音も出ない。
「でも気になるのはこの作戦、全部シュウが考えたのか?」
言っちゃ悪いがこういう小細工を考えるの、苦手なイメージを持っていた。
「いいや。実を言うと相談した。福知とか涌井とか」
なるほど。ならば納得。
俺は太く少ない交友関係を持っているが、シュウは太く長く多い交友関係だ。
悲しいかな、友人の数には勝てません。
飲むしかないです。
「―――嘉神君!!」
俺達2人しかいないはずの星に、突如として3人目が現れる。
「真百合じゃないか。どうしたんだ?」
何やら少し取り乱していて、らしくない。
「ちょっと……予想外で……本当に大変なことが…………」
真百合の予想外は、俺らにとっての完全な思考の外。
だからこそ心して聞かないといけない。
彼女が語る真実を。
まあぼかしていますが、普通に7章ラストのことですので気にしないでください
あとそろそろ7.5章も終わります。思ったより長かった