九曜とモンスターと
フラグ立てないと話進められない人
仕方ないもん。前章で8割以上回収してしまったんですし。
というわけで今回は次章とかの伏線回
九曜十日という人がいる。
誰だよそれ、ここに来てまた新キャラかよなんて思うのも無理はないが、実はこの人新キャラでも何でもない。
1章に1度だけ登場し、3章で存在を示唆した既存のキャラである。
一体どんな人なんだよと聞かれたら、幽霊アパートの管理人と答えよう。
この情報で少ししかいない読者を、更に少なくして思い出す人がいるのではないだろうか。
神陵祭町は地脈的にはそんなことないのに、なぜか異様に霊が集まりやすく、なぜか陰陽師間におけるパワースポットにもなっている……らしい。
特にアパートがある土地は最も集まりやすく定期的に見張っていないといけなかったとか。
そこで派遣されたのが九曜十日さんらしい。
何故陰陽師がアパート経営なんかしているんだろうと思っていたが、どうやら先々代の衣川が、陰陽師というカルト的存在を俺達の街に入れてたまるか! そんな事をするなら土地は売らん!! という微妙に納得できる動機付けがあったらしく、仕方なく九曜家はアパート経営という形で土地を買い取ったらしい。
早苗は知らなかったが香苗さんはそう言う土地があることは知っていたから、彼女から後程聞いた。
これだけなら、へーそうなんだで終わりそうな話だ。
しかしその九曜家の総本山が帝国にあることを知った時リアルで『あっ』と口を漏らした。
これ絶対に面倒なことになると察しがついたからだ。
けれど面倒になりそうなことになると分かっていても、彼女は俺が住まっていたアパートの管理人であり、引っ越し時には挨拶をするのが礼儀。古事記にもそう書かれている。
もっと言うと彼女がいなければ、俺は住むことができなかったわけで、個人的な好感度で言うならかなり高い。
例えるなら俺がまだ衣川を詳しく知らなかった時における早苗との好感度といった所だな。
そういうわけで俺は2万相当のお茶っ葉をもって、彼女の元に挨拶をしにいった。
濃い紫色の髪を、毛先に近い所で結んでいるいつも通りの恰好。
三十路とは思えず、許婚はいたらしいが、結婚する前に死んだ、未亡人のようでそうでない人。
おっとりとした糸目の女性は、それはそれで大人の魅力を醸し出している。
「ねえー。いっくん時間あるー?」
とはいってもこの発言にそう言った意味は無く、やはり俺個人のことについてだろう。
「あ、はい。大丈夫ですけど」
帝国の人とは言っても、彼女にはお世話になった。
義理で話せるところまでは話すつもりでいる、
「ありがとー。ちょっとお話ししたかったから」
さて、なんの事を聞かれるか。
「いっくんって、いっくんなの?」
「…………?」
哲学かな?
俺の在処を聞かれても回答に困ってしまう。
「あっ、違った」
「はあ」
「いっくんテレビ出てた?」
なるほどな。
つまり(普段知っている)嘉神一樹は、(テレビとかに出ていた)嘉神一樹なのかと聞いたわけか。
「はい。九曜さんが知っている俺と、公共の電波で流れた嘉神一樹は同一人物です」
「そーなんだ。すごいねー」
この人マイペース過ぎて、何を思っているのかわかんないや。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
あれ?
「あの。他に何か?」
「ん? ないよー」
これで終わりかよ。
身構えたぶん損したじゃないか。
「いいんですか? ギフトの詳細とか聞かなくて?」
「んー? 別にギフトとかは興味ないからねー わたしも持ってたけど、どんなギフトかは忘れちゃったし、そもそも「ぎふとほるだー」だってことも忘れてたよ~」
まさか自分のギフトを忘れるなんて人がいるとは。
「じゃあ九曜さんってギフトか関係なく本物の陰陽師なんですか?」
「そうだよー」
陰陽師であることは知っていたが、ギフト込みの話だと思っていたので、これは個人的には衝撃的な事実である。
しかしそれを知ってしまうと、俺が知っている常識というのはかなり変わってきてしまう。
「あの、次は俺から質問していいですか?」
「何―? いいよー」
九曜さんは気軽に承諾してくれる。
「ぶっちゃけ陰陽師って何してるんです? そりゃ幽霊退治をしているんでしょうけど、それだけですか? 妖怪とかはいたりいなかったりするんですか?」
俺がイメージしているそれと、実際九曜さんが関わっているそれは果たしてどれほどの隔たりがあるのだろう。
思うに百鬼夜行とドンパチするのが陰陽師なのだが、現実的にそんなのはあり得るのか。
それを聞いて見たい。
「んー。一昔前は妖怪とかいたらしんだけどー 今はいない」
昔だったら存在したとも思っていなかったから、今はいないというより昔はいたという発言が気になった。
「昔って江戸時代の?」
「違うよー 21世紀に、九曜で確認されているから200年前の事だねー」
割と最近で、文明レベルはほとんど同じの時代じゃないか。
そんな時代で魑魅魍魎なるものが観測されたというのはにわかに信じられないが、かといって否定から入るのも難しいことだ。
「それってどういう妖怪だったんです?」
「そこそこ種類があったからねー。どういうというのは答え辛いかなー。でも一番報告が確かだと思ったのは狐の妖怪だよー」
「狐?」
覚えがある。
流石にこれは無視できない。
「それって人間に変身出来たり、一人称が妾だったりする女だったりします?」
「おー。そういう記録はあるよー」
これだけでは特定できない。
だからもう少し絞って質問する。
「何より名前は薊と名乗っていたりしました?」
「すごいねー! 大正解だよ」
俺が今こいつの事だと思っているのは、神薙さんのハーレムズの1人、神薙薊という女だ。
初対面は山の奥だが、それだけではなく文化祭の時もいたし、支倉戦の時にいた3人のうちの1人だ。
ハーレムズの中では一番キャラが立っているので、個人的には印象深い。
しかしだ。帝国だけならまだしも神薙が関わり出しただけでもう全力で帰りたい。
巻き込まれる厄介事は神薙>メープル>帝国>>>>その他である。
聞かなかったことに出来ないかな。
そうだな。聞かなかったことにしよう。
だから別の話にすり変える。
「現在は具体的に何を?」
壺とか売ったりするという偏見がある。
「いっくんがさっき言った悪霊退治がほとんどだけど、たまにモンスターの退治をしたりしてるよー」
モンスター?
なんか1回だけ聞いたな。
「モンスターって?」
とはいえ大人しく聞き返しておこう。
「それはねー んー? あれれー?」
「どうされました?」
「忘れちゃった」
さて。これはどう考えるべきか。
九曜さんの事だから本当に忘れている可能性も否定できないが、アルツハイマー病でない限り自分の職業の内容を忘れるなんてあり得ない。
考えられる一番高い可能性は、何者かによって情報制御されている場合。
その何者かは見当もつかないが、可能な輩は沢山想像できる。
しかし何で話をすり替えたのに、大魔王からは逃げられないと言わんばかりに厄介な連中が関わってくるのか。
もういい。
こうなったら前回ぶりの切り札、困った時の月夜さんを使う。
「そうですか。残念ですがそろそろ」
「そうだねー。忙しそうだからね。ごめんね」
一先ずお別れのあいさつを済ませ、さあ来いと念じる。
前回は繋がってくれたが、今回は無理だった。
やはり誰かがいないと難しいか。
わざわざその誰かを探すのも億劫なので、登録された番号に電話をかける。
しかし彼女は電話に出ることは無かった。
おかしい、何かあったのではないかとストーカー気質な思考がよぎったが
『学校の裏庭に来てください』
との留守時の録音が流れたのを聞き、ほっとする。
やはり月夜さんは万里をよんでいる。
彼女はこうでないと逆に不安だな。
言われた通りテレポートで博優学園の庭に向かう。
月夜さんは花壇に塀を作る作業をしていたのだ。
縦に1m横に4mほどの小さな花壇だが、そこにしっかりと白い塀を打ち付けていた。
しかもなにやら鉄線を巻き付けており、近づきづらい雰囲気すらある。
そして何も書かれていない看板を打ち付けていたのだった。
「どうしました?」
そして俺が来るのと同時に作業を止める。
そのまま本題に入っても良かったのだが、もう一つ気になることが出来た。
「いっつも思うけど、月夜さん学校指定の服しか着ないよな?」
体操服でガーデニングをしていた。
因みに我が校では普通の短パンであり、ブルマはありません。
この時代でブルマは絶滅しました。
「むしろそれしか持っていません」
道理で私服を見たことが無いと思っていた。
「それともう一つ確認するけど、学校に許可は取ったんだよな?」
「ええ。真百合さんから好きにしていいと言われました」
なら安心。
「で、モンスターって何ですかってことですよね」
で、本題に入る前に本題を話してくれる。
「そう。何?」
「一応確認しておきますけど、わたしのギフトは出来るだけ多くの人を幸せにしようと頑張らせるギフトです」
笹見先輩や九曜さんを忘れても、月夜さんのギフトは流石に忘れない。
「その事をふまえて、よく聞いてください。『そんなものは知りません』」
「Oh……」
ジーザス。ホーリーシット
「まあ、oh my Godとでも言っておきましょうか」
「Need not to knowってことか」
知る必要の無い事、知らないほうがいい事。
小学生探偵が言ってた。
「ところで嘉神さん。英語の勉強はしてますか?」
英語の話題になったためか、今度は相手側が話を変え出した。
とはいっても話さないと言われた以上月夜さんは絶対に話すことは無い。
大人しくその話題に乗る。
「しているかどうかで答えたら、していない」
そんな時間はありません。
ただ一応言い訳するが、米国だろうが中国だろうかまず日本語を話す。
支倉、宝瀬、帝国とやばい組織が全てメイドインジャパンであるため、21世紀と比べ英語の価値は下がり、逆に日本語の価値が上がっている。
そもそも未だに英語圏の人が最も多いんだから、論文とかは流石に英語やドイツ語を使っている所がまだあり、外国語の授業は必修だ。
というわけで俺はあちらから下手くそな日本語を話してもらっている。
しかしどういう教育をしているんだ外国人は。
日本語下手すぎ。ちゃんと勉強してほしい。
「そんな嘉神さんに一つ問題があります。『この花壇はわたしの物です』を英語にしてみてください」
自分が耕した花壇を見ながら、そんな事を言い出した。
なんでこんなことさせるのかと思ったが、月夜さんの事だ。なにか理由があるのだろう。
「The garden is mine.」
「発音が悪いです。ザガーデンイザマインと言います」
絶対俺の方がよかった。
頭悪そうな発音である。
「所でだけど、月夜さんの地頭ってどれくらいなわけ?」
内容は理解していないが、証明は出来る能力。
人生をカンニングしているわけだから、彼女に頭の良さはあまり必要とはいえないが、気になってしまったものは仕方ない。
「…………」
「沈黙は困る」
まさかとは思うが。
「ひょっとして早苗クラス?」
「そこまで酷くありません!」
全力で否定する。
俺も酷いが、月夜さんもまた酷い人だ。
「まあ、流石に早苗と比べるのは月夜さんに失礼だったな。ごめんごめん」
「わたしと早苗さんは損得なく友達だというのを忘れないでくださいね。早苗さん以上時雨さん以下です」
シュウの頭は平均の平均だから大分低いな。偏差値40~45くらいだ。
「それでこの行動に一体何の意味があるんだ?」
「ありません。敢えて言うなら前回の仕返しです」
やられた。
そういう使い方もあるのか。
攻略したかと思っていたが、向こうも何もしないことが前提だった。
こっちはどれがフェイクなのか分からないのも痛いな。
「というわけでわたしは謝りません。文句は受け付けません」
謝る気はないし謝ってほしくもない。
というわけでノーカン。
「見てわかると思いますが、忠告します。入ると怪我しますよ」
そりゃ有刺鉄線が張り巡らされているんだから、怪我するのは見て取れる。
「最悪死にます」
「お、おう」
でも言われてみれば引っかかって喉に刺さったら死ぬよな。
「危ないんで嘉神さん。『入るな』と一筆書いてください」
「何て俺が」
「馬鹿が絶対に入るじゃないですか」
俺も頑張って良くしようとはしているが、学校の治安は良いとは言えないからな。
「とはいえ馬でも鹿でも脳はあります。今のあなたに喧嘩を売れるのは、嘉神さんの事を知らない無能だけです」
追記として策を一切必要としない上からぶん殴る勢を含む。
「断る理由はないな。ペンは用意してあるんだろ」
「ええ。どうぞ」
スラスラと看板に『入るべからずby嘉神一樹』と書き込む。
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
礼は大事。当然だな。
「それで何の種を植えたんだ?」
「まだ植えてはいませんが、スイセンを冬に咲かせようと思っています」
スイセンか。
それ以外の感想は持たないが。
「ところで花言葉の意味知ってます?」
「知らないけど、ぶっちゃけ花言葉そのものが酷いよな。種族に名前を付けるだけじゃなくかってに意味をつけるんだろ?」
「それもそうですね」
例えばエルフに高貴、吸血鬼に純潔と感じに種族に名前を付けるわけだ。
それがいい意味だったらいいが、中には当然悪い意味がある。
それこそ日本人の人言葉を堕落、無気力なんてつけられたら、怒って当然ではないか。
「というわけで知らないし聞く気はない」
「ええ。わたしも教えるつもりはありませんし構いませんよ」
じゃあ聞くなよ。
さて、俺も聞くべきことは聞き終わったし月夜さんもこれ以上話すこともなさそうだ。
「これ以外に何かしてほしい事はあるか?」
「特にないですが…………わたしは入るなと言いました。しかし、嘉神さん。あなたがもしもどうしようもなくなった時は踏み荒らしてもいいですよ」
そんな事を言われて入ろうとする奴なんていない。
「恐らく次会う時は、またこの博優学園内になると思います」
この言葉は学園が始まるまでは用は無いという意味だと思っていた。
しかしそれは真逆で、俺達にとっての重大な転換期になることを予期していたのだ。
「ではまた。“善意の矛先”で会いましょう」
E-4で詰まった。ヲ級死ね