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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
7.5章 外道五輪
195/351

朝雛ざくろという女

艦これメンテ読みなろう移住読み更新





 以前俺は現人神と扱われたりしたこともあったといった。


 正直これ、デメリットの方が大きい。


 100万の信者からちやほやされようが、その他大勢が『何やってんだこいつ』と、冷やかな目で見てくると、おつりがマイナスになってしまう。


 人様の視線なんてあんまり気にしないんだが、もう一つ面倒なことが起きたのだ。



 そう、それは9月の中旬を過ぎたころ。


 とあるホテルで一休みしていた。


 なぜか空室はあるのに、真百合の部屋と俺の部屋がブッキングするというよく分からないハプニングがあったが、それ以外は特に何もないような一日。


 共に着いてきているアンビちゃんと真百合は40階に、俺は5階に泊まっていた。


 3日ぶりにゆっくりしようかなって、いうそんな日のこと。





 温泉があるらしいので、折角だから大浴場で汗を流そう、そう思って部屋から出ると、1人の女の子がいた。


 その人は立っていたわけじゃない。

 両膝をカーペットににつけ、両手は指と指で結び、ただ一心に祈っていたのだ。


 キリスト教徒が被っているフードみたいなのを身に着けているため、その顔はよく見えないが女だと分かったのは、祖の服からも分かるダイナミックなメロン様を御持ちになっていた。


 具体的には真百合クラスの物をお持ちだった。


 しかしそんなのが部屋の前で両膝を立てて祈っているような姿を見れば


「なんだこいつ」


 といった感想を抱くのは、常識の範囲内だろう。


 まず10時間ぶりの敵襲の可能性を考えるが、それにしては俺がこうして目の前にいるのに、何もアクションを起こさないのはおかしい。


 祈ることが目的でそれ以外の事なんて目に入っていなかった。


「どうされました?」


 基本的に俺は同世代かそれ以上の女には敬語を使う。

 それに敬語を使っていれば、取りあえず馬鹿にされることはあるかもだが、常識知らずと恥をさらすことも無いだろう。


 ついでに強キャラぽく見えるというハッタリも兼ねているが、恐らく効果は薄い。


 敬語使っただけで強くなれるとは思っちゃいけない。


「はっ!?」


 女は俺が目の前にいることに気づき、最初の1歩は脱兎のごとく跳ね上がった。


 しかし動いたのはその一歩だけで、1歩後ろに下がった後土下座した。

 正確にいえば、土下座じゃない別の何かなのだが、敢えて言わない。


「嘉神様! お会いできて光栄でございます!」

「お、おう」


 頭と手のひらを床に叩き付けて、大層な挨拶をされたものだ。


「取りあえず顔を上げてくれるかな?」

「めっ、滅相もございません!! 不肖のワタシ如きが嘉神様を直接拝見するのは、身に余るというものです」


 いや、顔が分からないとどうすればいいか対応に困るし。


「俺は顔を上げろって言ったんだけど、もう一度言わせるつもり?」

「申し訳ございませんでした!!」


 勢いをつけて顔を上げたため、セミロングの金髪が宙を舞う。


 知っている人に近寄った顔なら、このまま放置するのも良くないと思ったから確認したかった。


 しかしそれは無駄足だといえる。

 エメラルド色の瞳に黄金色の髪の毛。


 その無駄に高い鼻は外国人を思わせる。


 何よりその褐色の肌は、ギャルか日焼けじゃなければ、ここもまた日本人とはかけ離れていることを語っている。


 ギフトホルダーは髪の色や目の色が通常と異なる場合が多々報告されているが、肌の色はそのままだ。

 つまりこの色は自前だと考えていい。


 早苗が凛々しく真百合が美しく月夜さんが可愛らしいならば(ただし内面は全員無視するとする)、この人はエロい。


 どちらかと言うと姉さんに近いフェロモンを持っている。


 ただ俺をくぎ付けにしたのは彼女の容姿ではなく、その恰好だった。


 シスター服、というのが一番近いのだが…………何というか凄い。


 胸元を大きな十字架型にくり抜いているため、その胸が一部露わになっている。

 スカートも膝上20㎝しかなく、多分土下座していた時に回り込めばパンツを拝むことが出来たであろう。


 肩も露出し、腋が見えるのも実にグッド(腋が見えたので俺の中の好感度はぐっと上昇した)


 しかしそれでもまだ真の意味でくぎ付けにはされない。


 彼女は倫理観だけではなく、色んな所に喧嘩を売っている。


 その足には白いニーソックス……ではなく足袋を着用していたのだ。


 手をよくみてみると、数珠を左手に絡ませ、右手方向には錫杖(お坊さんがもっている、しゃりんしゃりん鳴る杖)が置いてあった。


 和洋折衷といえば聞こえはいいが、単に宗教服を適当にミックスしただけのような恰好だった。


 あえて彼女の事を一言で表すなら、破滅僧と言っておこう。


 外的特徴を観察したが、やはり話をしないとそいつの本質を知ることはできない。


「名前は?」


 まずは名前から聞いておこう。


「“朝雛ざくろ”と申します!」


 完全な日本姓だが、見た目的には外人にしか見えない。


「日本人?」

「部分的にはいと答えます。父は中東系、母は北欧系ですので、日本人の血は一滴も入っていませんが、生まれも育ちも帝国なので日本語以外話せません」


 帝国人かよ。

 あいつら戦闘民族だからあんまり関わりたくないんだよな。


 真百合狙いが8割だが、俺個人を狙いに来る人だっているわけで、その更に8割が帝国人だった。


 謝罪と賠償を要求したい。


 というか警備員何してるんだよ。こんなのを連れてこないために警備に…………


「ん?」


 ちょっと目の前の女のことが印象的すぎて大事なことに気付かなかった。


 警備員どうした。

 いやマジで。


 真百合と共に泊まるこのホテルは、かなりセキュリティが高かったはずだぞ。


「警備員はどうした」

「さあ? 気を失っていると思いますが……ぐっぁ」


 先手必勝で蹴り飛ばす。


 50kg以下の軽い体を宙に浮かせ、続いてその胸元を掴み壁に叩き付ける。


「これからなんか変なことをして見ろ。その四肢が繋がったままでいられると思うなよ」


 超悦者スタイリストは常に防御として使用。

 耐性はすべてオンにしてある。


 更には支倉ユエンの人形にダメージを押しつける能力を発動済み。


 何があっても俺を傷つけることすら敵わない。


「うっ、うぐぅ……ぃたいですぅ」


 痛くしたんだから。当たり前だ。


「辛い……です。きついです」

「知ってる。で、何が目的だ」


 どんな理由であれ来た目的が個人事なら、この場で始末して終わるが、雇われなら雇い主を始末しないといけない。

 プロならば簡単に口を割ると思えないが、それでもやった方が理になる。


「あっはっはっは……きゃっぅたぁ」


 甲高い笑い声が廊下に響く。


「あぁ……これが…………天罰……なのですね」


 口がだらしなく開き、そこからだらだらと彼女の唾が流れ出す。


 ばっちいので、取りあえず床に投げ飛ばし、今度は足で再び押さえつける。


「余計なことするなよ。今お前の殺生権は俺が握って――――」

「今ワタシは神の御心に触れています!」


 ん?


「こんなに……こんなに痛いのに――――嬉しくて仕方ありません!!」


 ん? ん?


「ありがとうございます嘉神様! こんなワタシに慈愛の罰を与えくださったのですねぇ!!」


 おめめぐるぐる

 よだれだらだら


「(やべよこいつ)」


 久しぶりに対面した。

 魔夜ちゃん以来の頭おかしい奴だ。


「答えろ。さっき警備員は気を失っているとお前は言った。それはお前がやったのか」


 しかしここで退いてはいけない。

 頭おかしいから無罪なんて、あり得るわけないでしょ。


 そんな世界があったら見て見たいな。


「半分はっ イエスです。ワタシが原因ですがぁ……事故ですよぉ」


 大人しく、ではなく興奮を無理矢理押し殺したかのように、朝雛ざくろは口にした。


「事故……だと」


 取りあえず敵意はなさそうなので? 警戒ランクを一つ下げ対話を試みる。


「はい。ワタシのギフトの能力は……『嫌な思いをしたら厄災を周囲に振りかざす』ことなんです」


 まじか。

 『これは酷い』と本人には言わないが、心の中ではそう思った。


「辛かったり苦しかったり痛かったりマイナスの感情が芽生えたら、ワタシの周囲に厄災が降りかかります」


 間違いなくいらない・・・・


 持っていないほうがいい能力。


 マイナスの異能力。


 絶対にキスはしないと心の中で決めた。


「で、それが何で警備員が気絶したことになる」

「聞いてくださるのですか!」


 聞きたくはないが、聞かないとまずいだろ。


 しかし朝雛ざくろは、俺の返事を聞かずに勝手に語り出した。


「今日この日、このホテルに嘉神様が泊まっているであろうという情報を2週間かけて調べ上げました」


 この時点でオチが読めた。


「でもどこの部屋に泊まっているかは分からなかったんでフロントに聞いたんです」

「教えてくれたの?」

「いいえ。何度聞いても教えてくれませんでした。しかも警備員が途中で追い出そうとしたんです」


 残念でもなく当然。

 警備員らしい行動といえる。


「夜も6時間しか寝ずにずっと調べていたのにこの仕打ちはあんまりです」


 そんなに真面目に調べてないな。


「ワタシとっても嫌な思いをしました。だから天罰を受けたんです」


 結論。

 10割こいつが悪い。


「しかしこうして痛い思いをしたのに平然としているなんて、流石は嘉神様です」

「ああ、そうだな」


 空返事で答える。

 その能力面倒だけど結局『論外』だから俺個人に意味があるわけじゃない。


 弱い。ウザい。めんどい。

 要らない異能力マイナス三拍子をトリプル役満だ。


「その厄災と言うのはどの程度の事を指すんだ」

「そうですね。ワタシのテンションによってまちまちです。できの悪い映画を見た時は別の椅子に座っていた観客に頭痛や腹痛が。暴漢に襲われかけた時は100名ほどが緊急入院し、未だ5人の意識が回復していません」


 これで本当の意味での災厄ならこの場で始末していたが、その程度ならまだ厄介なだけだ。


 厄介なだけ。

 その厄介が本当に厄介だが。


 うーん。

 かなり難しい。


 こいつを生かしておくべきか、それとも殺しておくべきか。


 敵意や悪意が無いのは確かだ。


 無駄な殺生はしない主義故、出来れば生かしておきたい。

 だが無視できないほどの有害とするなら、俺が責任を持って処理しないといけない。


 今はまだ生死を問うのはよそう。


 取りあえず情報を集める。


「何歳?」

「先月19になりました」


 真百合の1年上か。

 精神年齢は知らんが。


「今までどうやって生きてきたんだ?」


 こんな能力なら普通に生きるのは無理だろ。

 隔離するべきだ。


「嘉神様。愚かなワタシをお許しください」


 両膝を地面につけ、再び何かに祈るポーズをとった。


 文字通り神に懺悔するかのようであり、その神とは俺の事を指すんだろうが、聞き入れるなんて言ってないことを朝雛ざくろは気づいているのだろうか。


「嘉神様という唯一神がいながら、他の邪教に現を抜かしていたワタシにどうかお慈悲を」


 俺を知る前は苦痛を修行として生活してきたわけか。


 そうしないと生きていけないとはいえ、大変なことだ。


 この子は一見魔夜ちゃんにそっくりだと思ったが、その本質は月夜さんに近い。


 ギフトによって倫理観を狂わされた。


 月夜さんと同類と考えると、少しだけ親近感がわくというモノだな。


「これからどうしたい?」

「嘉神様の御心のままに」


 つまり何も考えていないと。


「ふむ」


 実は何も考えていないが、考える素振りをする。


 こういうのは俺が一人で考えても良くない。


 最近真百合に頼り切ってばっかりだったから、今度は月夜さんに相談する。


「なんて呼んでほしい?」

「朝雛と。今のワタシに嘉神様から直接名を呼ばれる名誉は、身に余ってしまいます」


 じゃあ朝雛な。

 憶えた。


 携帯電話を取り出すが、ここでそのまま月夜さんに電話をするのもつまらないな。


 折角だから多幸福感ユーフォリアを攻略する。


「朝雛。今から神の力を見せてやる」

「本当ですか!!」


 ものすごく興味がありそうで何よりである。


「そうだ。しかしただ俺がそれらしいことをするのは二番煎じだ。朝雛に1回だけ能力を与えてやろう」

「それはどのような」

「神といえば予知。朝雛。好きなタイミングでこの携帯に着信が入るように念じろ。遅くても5分以内に」

「かしこまりました。嘉神様」


 いやー。こんなに大見得きってしまったから、仮に朝雛が念じた時に電話が来なかったら、どうなるんだろう。


 俺は恥をかくし、朝雛は信じていた神に裏切られる。


 かっ~つれーわ。


 そうならないためには、朝雛が念じたその瞬間に電話がかかってくるなんて奇跡がおきないといけない。


 それから少しの時間が過ぎ、携帯のバイブレーターが振動する。


「ほっほんとうに……あわわっ すごっ……すごいですっ!!!」


 逆に奇跡が起きてしまえば、奇跡を目の当たりにした朝雛と、自尊心が満たされる俺とでWIN-WINの関係になる。


 流石にずっといいように使われたりはしない。


 あのギフトはインチキ故、それなりの対抗策は考えついている。


 多幸福感ユーフォリアは自爆特攻に滅法弱い。


「わたしのギフトを酷い風に使いませんでした?」

「気のせい」


 こういうふうに逆に行動を誘導できるってわけだ。


 多幸福感ユーフォリア 破れたり


「じゃあ俺これから電話の向こうの人と話をするからそこで適当に祈っていて」

「はい!!」


 元気が良くて結構。

 この調子だったら廊下で一人待たせていても嫌な思いをしていないだろう。


「知ってる前提で話すよ」

「知らないんですけどどうぞ」


 会話の内容を知らなくても、会話が可能。


「どうしたらいいと思う?」


 主語も目的語もなくても、彼女ならば対応できる。


「どうでもいいです」


 すごくどうでもよさそうに返された。


「嘉神さんが面倒を見るなら問題ありませんし、見ないならわたしが暗殺して終わりです」


 やっぱりいざとなったら暗殺はするんだな。

 そう言う選択肢は必要となる場合もあると憶えておかないと。


「嘉神さんの面倒事が増えるか、わたしの面倒事が増えるかの違いです」


 結果は変わらないから放置していたわけだ。


 納得。


「ただ一つ忠告を。ちゃんと責任を持って飼わないと、勝手に始末しますから」


 飼うと表現されるのは傲慢かもしれないが、宗教における神は人を飼っているといえるのだろうか?


 そんなものを信じて、よくプライドが傷つかないなと思う。


「それが聞けただけで満足。ありがとな」


 さて、月夜さんから好きなようにしていいって許可を貰ったところだし、本当に好きなようにしようか。


「仮に俺が何も指示しなかったら、朝雛は何をするつもりだ」

「そうですね……嘉神様の偉大さを世間に知らしめるための活動をしようかと」


 絶対にNG

 そんなことしたら後世までアレな人と思われそうだ。


「それはダメだ。救いは救われたいモノにしか与えられん」


 余計なことをされないようにそれっぽい事を言って誤魔化す。


「なるほど。流石は嘉神様です」


 何が流石なのかは分からん。


「ではワタシは何をすればいいのでしょう」


 何も余計なことはするな、と言ってやりたいのだがここは我慢。


 こいつにもこいつで利用価値がある。というか丁度ある。


「今教えを作って言うからそれをそのうち公表してほしい」


 信者がうるさいので真百合と共に作った経典を、こいつに発表させようと思っている。


 厄介事は全部こいつに押しつけてしまおうってわけだ。


 仮に俺がこんな教えを作りました何て言ったら、痛いを通り越してやばい人になる。


「そんな大役をワタシに!?」

「そうだ。期待している」

「あ、ありがとうございます!」


 うーん。

 興味ないけどちょっと引っかけるだけでヤれそう。


「そういや親御さんは何をしてるの」

「家出してきましたからいません」


 家出しようが親はいる。


 どうやって来たかを考えたが、ヒッチハイクでもして手を出されたら、ギフト発動の繰り返しで何とかなるのか。


「じゃあ宿は?」

「今はまだ安いホテルですが、いずれ神陵祭町を宅にしようかと」


 俺の情報ばれてーら。


 しかもこれからも関わってくる気満々じゃん。


 来るななんて言ってやってもいいが、そこまで干渉してしまうとただの道具になりそうだからなあ。

 アンリちゃんは立場的に良心が痛まないからいいとして、まだ何もしていない。


 だからできるだけ自由にさせたいのは、人として当たり前のことだ。


「そうだ。一つ聞き忘れたことがあった」


 ふとどうでもいいようなことが気になり始める。


「何でしょう?」

「ギフトの名前は何て言うの」


 常時発動系に名前なんて意味あるのかとは思うが、多幸福感ユーフォリアだって名前はあるんだから朝雛のギフトにも名はあるはず。


 ここで聞かないとしばらく聞く機会がなさそうだから聞いておこう。


聖母の大欲情ホーリーマザーファッカーです」


 ・・・・・・


 取りあえず一つ命令しておくべきことがあった。


「それこれから人前では絶対に口にするなよ」




最近頭おかしいの少なかったので、新ヒロインを増やしました

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