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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
7.5章 外道五輪
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動き出した666

この章タイトル、超好き。


10話は使わない はず。

多分。



 外道サミットを終え、ひとまず一息つけた頃。


 俺は世界全体の状態を八目十目サイトシークで探った。


 分かってはいたが、世界はやはり混沌と化していた。


 今回の件は敵を倒したから終わるんじゃなくて、むしろ敵を倒してからが本番になる。


 これからの情勢を、俺達は新たに作らないといけない。



 取りあえず分身1000体を真百合の護衛として残し、本体の俺は神陵祭に向かった。


 博優学園は、他の施設とは比べて異能力者の設備が整っている。逆を言えば、今回の事件で被害を受けている人も多くなる。


 それに早苗だ。


 早苗は超悦者スタイリストではなく、ギフトホルダー。

 もろに被害を受ける。


 早苗は大丈夫だという自信が俺の中であったのも事実だが、確かめるかどうかは別の話。


 予想通りに早苗は生きていたとしても、その選択は間違いじゃなかったことは間違いない。



 羽衣会の一件で俺は早苗を避けていた。

 少なくともあの事件の証拠となる早苗の記憶が薄れるまでは、会わない予定だった。


 だがこのプロジェクトノアのお陰で、それどころじゃなくなったはず。


 きっと早苗は忘れている。


 もう会わない理由はない。


「早苗! 生きてるか?」


 無論早苗の位置は、八目十目サイトシークで察知済み。

 公民館の中にいた。


 目の前にワープする。

 驚くかもだが、驚いた反応をしてくれるという事は、生きているという証拠。


 驚かせにいった。


「一樹か!? びっくりした―――――だが良かった。お前も生きていたのだな」

「ああ。俺は死なないよ」


 予想通りの対応で、予想通りに生きていた。


「早苗は死なない。信じていたから心配はしていない。だがよかった。生きていてくれて本当に良かった」


 自然と目頭が熱くなる。


 良かった。本当に良かった。

 それしか言葉が見つからない。




 だからこの時、早苗に疑問を持つことはできなかった。




「苦しくは無かったか?」

「無かったといえば嘘になるが、平気だぞ。それよりもこの苦しみを町の皆が受けていると思っているとそうは言っていられない」


 そう言って早苗は放送機材を見た。


「何でこんなところにいたの?」

「幸に夏休み最終日には、ここにいろと言われたのだ」


 なるほど、やはり月夜さんは知っていたんだ。


 ただ止めなかったというのは少し気掛かりだ。


 プロジェクトノアを止めれなかったのか、それともあえて止めなかったのか。


 まさかね。


 後者だったら出た死者よりも、救われた人が多くないといけない。


 それこそ天から神様(善良に限る)が降ってきて何とかしたなんて無い限り、無視なんて選択肢はないと思う。


 大方あのヤンバイ野郎の神薙がなんかしたんだろう。


 この世のすべての不条理は神薙の所為で解決する。


 今回の件で俺が学んだ最大の事である。


「これをつかって町の人が暴れ出さないように呼びかけていたのだ」


 月夜さんの勅命といっても早苗も辛かったはずだ。


 何だかんだで早苗も頑張っていたんだろう。


 だってぱっと調べたが、町の人は誰も死んでいなかった上、暴徒化していない。


 きっと初動が完璧だったんだろう。


 …………


 何か考えないといけない気がしたが、考えない。


 それにあんまり早苗の近くにいると余計なこと(羽衣会)を思い出しかねないので、あと少しだけは離れていたい。


「わりい。これからちょっと忙しくなりそうだから……またな」

「ああ。一樹。私も私なりに頑張ってみるぞ」


 こうして俺達の会話は終わる。




 『頑張る』の意味を俺が真に理解するのは、その数週間後だが。







 もう一度言う。


 全世界を巻き込んだ支倉の暴走は、主犯格を退治したから終わりなんて事にはならない。


 地球上を全て巻き込んだ今世紀最大級のテロは、多くの国に爪痕を残した。


 まずその被害を詳しく明記しておく。


 まず俺達ギフトホルダーがギフトを使えず、代わりに中毒症状を訴えたのが11分6秒


 この間に死んだギフトホルダーを第一次被害者

 また例えばそのギフトホルダーが車を運転していたりするだろう。その時の事故で死んだ人たちもいるわけだ。


 つまり666の間で死んだ、非異能力者を第二次被害者


 はっきり言ってこれだけなら、死ぬのは精々10万100万単位だ。


 この次が問題になる。


 支倉は世界経済の3割を回している。


 それが一晩で吹き飛んだ。

 それも痴漢とか事故とかじゃなくて、トップが世界を滅ぼす目的での悪事を働いた。


 弁明のしようがない。


 支倉関係の仕事をしている人が一晩で無職に早変わり。


 しかも支倉は第一次第二次産業が主であるため、食料品といった生活に関わる物資の流通が一気に悪くなった。


 デパートでは買占めがおき、ネット通販は常に1か月待ち。


 まさに世紀末である。


 結局この第三次被害者で1億の人が死んだ。


 そして被害が起きた所は改善しないといけない。


 そこでとある役者がやってくる。


 そう、真百合である。


 まずぶっ倒れた剣さんの全権限を、一時的に彼女が引き継いだ。


 宝瀬当主を引き継いだ瞬間である。


 そして真百合、普段でも有能なんだが、それすら手を抜いていたんじゃないかと思うくらいに働いた。


 1億の死者が出たと言っても、失業率3割の状態でその程度で済ましたわけだ。


 だからこそ1次2次ではあまり人が死ななかったわけで、

 そして真百合はそれからも優秀であり。


 1週間寝ずに行動した結果


 世界的には、ほとんど復旧した。


 まず支倉が担っているほとんどの事業を宝瀬が引き受ける。


 株もストップ安だったので、安く51%を買い取った。


 事実上宝瀬が支倉を乗っ取った形になる。


 賠償も宝瀬がある程度引き受けることになるが、その賠償金で何をしようが結局宝瀬に帰ってくる。


 食糧もそれを運ぶ運輸もそもそもその上の派遣する企業も、みんなみんな宝瀬なわけだ。


 つまり宝瀬は、一切の比喩なく、世界の過半数を手にしました。



 666で入院していた宝瀬剣さんが、このことを知ったら胃潰瘍で再入院したらしい。



 そして真百合のお母さんのマアラさんは、嬉々としてナース服で看病したそうな。



 はい。


 それはいいとして宝瀬がガチで天下人になった。


 その時の真百合の台詞が印象的だった。


「あそこに150億のビルがあるでしょ。今の私だと自動販売機の缶コーヒー買う感覚で買えるのよね」


 総資産1京の家主の発言である。


 もちろん1つの一族が世界の半分の財産を得たことに反発が無かったとは言えない。


 支倉はかつての神話的栄光があったため、黙認されてきた。

 しかし宝瀬にはそういう歴史が無い。


 ただの成金野郎(メインは女)なわけだ。



 だがよくよく考えてみれば、世界の半分を手にしている存在が非難された所で、『ほーん。で年収は?』のごとく、金の力で圧殺できる。


 マスコミなんて所詮は金で動くし、例外的に自分の信念(笑)があるとして、それを発表しようにも、報道会社がすでに宝瀬の中にいる。


 宝瀬がかけた首輪の中にいる。


 この国は一応報道の自由(爆笑)があるが、事実上それは無くなった。


 宝瀬の宝瀬による宝瀬の為の報道になった。


 とはいえ、ある程度の情報を公開しないと暴動が起きてしまう。


 国民の知る権利もとい、知っていると思いこむ権利を侵害してしまう。


 一部の情報は公開しないといけない。


 支倉に何があったのか、何が目的だったのか。


 ここら辺の情報は素直に(多少脚色しながらも)流した。


 だが俺達を悩ませたのは、ギフトの正体について。


 再発防止のため、何をしたのかは知らないといけない。

 だがその情報を出すには、とある1つの情報を知らないといけない。



 ギフトは1人の男の気まぐれによって持たされているという事だ。



 歴史的観点で考えるならば、自分達のルーツは変態科学者によって遺伝子改造されましたといっているようなものだ。


 これ単独だけで十分まずいのに、更に悪いことがある。


 もう言わなくても分かるが、俺が本気で暴れれば地球なんて軽く侵略できる。

 だがそれは出来ない。


 矛盾しているようだが、前者は他に能力者がいない場合の発言であり、後者は実際の状況なため間違っても何でもない。


 俺が本気で世界を支配しようとすれば、帝国が総叩きで俺を狙ってくるし、逆に帝国が侵略しようとすれば、俺達が一人残らず殲滅戦を仕掛ける。


 これはあくまで強弱はあれど、戦力は多少なりと拮抗しているからだ。


 だがギフトが元々は1人の人間の物なんて言われたら、戦力比も糞もあったものじゃない。


 日本刀の時代に宇宙戦艦で攻め込むようなものだろう。


 匿名のそいつ(神薙で始まって信一で終わる人)が帝王のように国民に信頼されるような人柄であれば良かったのだが…………そんなこと天地が3回ほどひっくり返ってもないのはもう言わなくてもいいだろう。


 そんな事実を知らない世論は、知らせろ知らせろと暴動が起きかけたため、仕方なく一部でたらめを混ぜながら公表した。


 その内容は


《『巫木』と呼ばれる通常見えないモノに親和性があればギフトホルダーになり、今回の件は別のモノに差し替えられたからあのような事態になった》


 うん。勘違いをするように公表したが、嘘はついていない。


 それともう一つ公表したのは超悦者スタイリストのこと。


 仮に超悦者スタイリストであれば、今回の件で死ぬことは無い。

 だが残念なことに超悦者スタイリストは神陵祭町住民か帝国民でしか、その存在は知らない。


 だから帝国民は人口の異能者が占める比率に対して、その死傷者がはるかに少ない。


 統計的に何らかの存在を隠しているのを一部の有能が発見し、それをしった大部の無能が暴れ出し、その存在が明るみになった。


 仮に超悦者スタイリストが広まっていれば666はここまで酷い惨状にならなかった。


 まあ超悦者スタイリストを別の事件に悪用する輩が増えるだけだから、最終的な結末は変わらないだろうが。


 ただそんな事を市民が考えるわけがなく、なぜ広めなかったのかとの不満が爆発しかけた。


 結局超悦者スタイリストは、かなり脚色してその存在を明らかにした。


 明かしたのはその効果のみだが、これもまた全世界を震撼させた。


 軽い条件下で、岩を砕き、核を耐え、光速で動くと明言したのだ。


 スポーツが軒並み茶番になる。


 むしろ結果的に無能力者の存在意義を奪うことに繋がった。


 まあわざわざいう訳でもないが、あれ教える側か、それか環境ががある程度狂っていないといけない。


 俺なら父さんよりうまく教えるが、大学の教授が中等教育を小学生に教えた所で、習う側が分からなければ意味がないように、頑張れば誰でも使えるんだろうが、その頑張りに才能が無ければ数年数十年必要になる。


 ただそれがあると明言されたら、それに狂う人も多く居た。


 無理な努力をして無駄に命を散らせた人も、少なくない。


 笑えない笑いごと繋がりに、もう一つもっと笑えない笑いごとがある。




 A3(アンチアブノーマルアソシエーション)が復活した。




 かつて俺が知らずに潰したが、潰れた理由はトップが異能力者だということ。ヒ○ラーが実はユダヤ人、教皇がイスラム信者なみの状態が発覚したわけだ。


 信念そのものを潰したわけじゃない。


 その火は確かに残っていた。


 そしてこういう活動は、世界が混迷したころに激しさを増すのが、どの時代でも同じなわけで…………多分だが10万くらいは潜在的に入会している。


 しかもその主張が、地味に理にかなっている。


 第三者によって、簡単に倒れる存在を、トップを任せるわけにはいかない。


 主張に間違えはない。

 大統領が肺炎で動けませんじゃ、そいつがどんなに頭が悪くても別の候補者に票は流れる。


 今回は真百合がいたから良かったが、宝瀬剣さんは有事に参加できなかった。


 しかも宝瀬は、ギフトホルダーを優遇している(帝国未満支倉以上)ので、そういった管理職も動ける人は少なかった。


 真百合がいなければ、復興すらままならなかった。


 まあ奴らの真意は、異能力者を追い落とすために議席を寄越せといっているわけで、誰もがそれを察しているわけだが。


 しかも超悦者スタイリストが露見されたことにより、99%の『論外』異能力者が価値を失い、能力差はだいぶ狭まっている(逆に光速で動こうが勝てない存在が1%で存在することが露呈したともいえるが)


 厄介なことに、超悦者スタイリストはああいったプッツンしている連中には、とても効果的だというのがある。


 しかも本当に面倒なことに、あいつらまだ何もしていない。

 何もしていないのに、万単位を殲滅するのは流石に無理がある。



 というわけでいつ爆発するか分からない危ない組織が復活した。




 長々と語ったが要するに


・1億が死んだ。

・支倉は宝瀬が乗っ取った

・普及活動は、案外早い段階で終わった

・ギフトの存在を一部世間に知らせた

超悦者スタイリストの存在が露呈した

・A3が復活した



 これが取りあえずの世界全体の大まかな変化になる。



 だが俺達の状況の変化は、また別の事。



 これもまた怖ろしいほど面倒なことになる。




今回はただの導入。


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