四つ巴
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帝国に名前は無い。あえて言うなら帝国が名である。
真の帝王は古今東西ただ一人であり、その帝王の国なのだから帝国で十分。というのが帝国に名が無い由来だ。
かつて日本は47の都道府県が存在したが、23世紀の今46県の都府県となっている。
王陵天子という人が、自分の異能力を使い日本から独立した……と主張している
無論これは帝国側の主張であり、日本は認めていない。
北海道という扱いで登録されている。
通常一人で国に反乱を起こした所で、簡単に鎮圧できる。しかしギフト社会になった今になら話は変わる。
王陵天子は一騎当千の異能力者を数千と集めたのだ。
近代兵器は精々ダイナマイトだった当時の日本は、あっけなく領土を奪われた。
だからこそというべきか、帝国は異能力者を優遇する。逆に非異能者を迫害する。
世帯に必ず一人以上異能力者が登録されていなくてはならない。
国籍は新たに取る場合、異能力者でなくてはならない。
だが逆に世帯の3割が異能力者ならば不動産税もかからないし、異能力者であれば人種関係なく帝国の国籍を取得できる。
税も異能者として登録されていれば、消費税すら免税される。
つまり130円の缶コーヒーが100円で買える。
殺人権は日本にもあるが、これは精々20位まで。
日本では俺が7人目で、生きている人ならば俺以外いない。
しかし帝国の場合1000位以内であれば、殺人が許される。
はっきり言って法治国家としては失格だ。国連からも何度も苦情のメールが送られているだろう。
平等なんか糞喰らえ、強さこそ正義。
国民の不満がたまるのは当然だが、建国から数十年。テロらしいテロは起きていない。
強者を優遇しているため、必然的に強者は帝国側につく。
何度も言うがこのご時世、1人で万を相手獲れる。故に鎮圧は容易であることは、弱者でもたやすく理解出来ること。
なにより国民の多くが政治に不満を持っていないことが大きい。
国民の不満というのは大きく分けて2種類ある。
現状の不満と未来への不満。
まず現状だが、帝国には資源が潤沢にある。無論ここでいう資源とは人材の事だ。
燃料や食料は人間で賄える。だからこれについては憂いている人は少数だ。
未来の不満。まあ、日本っぽく言えば周辺国が侵略してこないかとか、地震が怖いとかそんなのだろう。
だがこれも心配している人はいない。
軍事費は人件費だけだが、それで十分なのだ。
帝国はGDP1位の日本よりもはるかに強力な軍事力を持っている。
だから最終的に日本が何をしようが、帝国としては「死ね死ねボム」をぶっ放せばいい。
解決できない議論を8割解決してしまっているのが帝国なのだ。
ただ、だからこその心配事がある。
正義と悪は真逆の存在だが、薬と毒は等しい存在。
帝国の支えている異能力者が謀反を起こせばどうするのか?
優秀な人だけを取るといえば聞こえはいいが、それは自分の懐に爆弾を設置するということでもある。
信頼できなければ無能も有能も敵より恐ろしいのは道理。
しかし一人の王によってこの問題は解決されている。
建国の王の一人息子、王陵君子は、二十過ぎてから今日この日まで一度も1位の座を明け渡したことが無い。
有史最強といわれる絶対強者。
強者は絶対と教え込まれた帝国人に、これほど惹かれるものは無い。
そして目の前にいる王陵君子には、王としての才能が一般人の俺からでも分かるほど溢れていた。
蓄えた顎髭は、まさに王と呼ぶにふさわしい風格を放ち、日本人の血を引いているとは思えないほど巨大な筋肉の鎧で覆われている。
背丈も相応に高く目視190半ば。
彼こそが他者を見下すべきであり、何人たりとも王を見下させないと、天が恵みを与えたようであった(なお神薙さんは220㎝を超えているので、普通に見下す形になる)
髪の毛は……赤い、はず。
ただ見た感じ早苗の赤とは根本が違う。
早苗の赤は血の赤だが、この帝王の赤は炎の赫だ。
温かい赤と、熱い赫
まあこれは俺個人の感想であり、色盲の俺に色に対する印象がどうこう言われたくないだろう。
もう俺の目に色を見る機能はほとんど残されていない。
超悦者と過去の記憶で、多分こんな色だって探っているだけなんだから。
自分語りはどうでもいいか。
重要なのは目の前にいる漢は支倉罪人で間違いないということ。
写真で見たことは何十回もある、そしてその溢れんばかりのオーラ。
人は顔よりも衣服で立場を判断するが、この人の場合それは違う。
いや、本来これほどの存在ならばどのような服を着ようが、王であることを偽れない。
一時期の支持率が100%(小数点以下切り上げ)だったことも、目の前の男を見てしまえば納得してしまう。
一目見ただけで、人を惹きつけるカリスマのようなものを感じ取ったのだ。
長々と理系少年が高校で学ぶ世界史を話してきたが、つまりアホみたいな法整備だが途轍もない暴力によって成り立っている国、それが帝国。
その最強が、なぜか今ここ支倉ビル跡地までやってきた。
いや。ここでなぜかと考えるのは少々白々しいか。
理由は少し考えただけで、もう分かる。
ある意味俺と同じだ。
支倉罪人を殺しに来た。
ギフトが無くなった原因をこの短期間で突き止めた。
原因を突き止めたのなら、その原因を無力化や制圧、そして首謀者の殺害。うん、聞かなくても分かる。
「王は自らの怠惰を恥じる」
俺が初めて聞く王陵君子の生声は、強引に冷静を装っているが、怒りが込められていた。
むろんそれはここにいる誰もが感じ取れるほどの覇気であった。
「支倉罪人が生きているのは知っていた。何かを企んでいるのも気づいていた。だがここまでモノとは想定していなかった」
それは真百合も同じだ。
そもそも俺は支倉が何かを企んでいることすら気づいていなかったんだから、あまり責める気はない。
「もっと早く気づいていれば、王の所有物を失わずにすんだ」
その怒りは支倉罪人に直接向けられているからこそ、俺達は冷静でいられる。
仮にその延長線上に俺達がいれば、はたしてまともな思考をすることが出来ただろうか。
恐怖で足が震えるか、畏怖で足が竦むか。
支倉罪人には歴史の重みがあったが、この人にはただただ暴力の重みを感じる。
「帝王! 独断行動はあれほど控えてくださいと」
続いてやってくるのは痩せた老兵。
「そう言ってやんなって。こういうのはスピードが大切なんだ」
肩にジャンパーをのせただけの、30代のオッサン。
「禍々しい。これほどまでの邪気を感じたことは生涯一度もない」
顔の奥が見えないホスト風の20代の男。
「あ、あの……自分場違いすぎません?」
唐傘を携え謎の学生服を着こなす爽やかな好青年。
とりあえずここでやってくるのはこの5人だけで打ち止めだろう。
一見戦場にくる服装をしているのは約一名だが、支倉孫ズに比べれば比較的マシか。
「て、帝国四天王……!」
シュウが思わず口にしたおかげで、俺も彼らが誰なのかを思い出した。
強者を集めた帝国だが、無論全員が等しく強者であるわけがない。
そんなに強くない人もいれば、狂っている性能を持った人もいる。
全世界の異能力者をランク付けした超者ランクにも、上位ほとんどが帝国人であることがその証明だ。
そこから王陵君子を除いた上から4人を、帝国四天王として帝国幹部に配属されている。
顔出ししているのは4人の内2人だが、このタイミングで出てきたという事はそういうことなんだというのがシュウの判断であろう。
確かランク4位の老兵の名が氷室鴻丸なはずで、残り3人のうち1人が祟目崇だとしか記憶していない。
そして恐らく残りの2人もランキングが1桁代にいることは明白。
ランキングが1桁という事は神に等しいとすら揶揄されるくらいの兵。
そいつらは俺達の向かい側に位置を取ってあつまる。
「うゎあ」
時計回りに俺達、メープル、帝国、神薙の四点をとり、神薙とメープル以外はにらみ合っている。
多分このメンツが協力すれば、全宇宙全世界を掌握することすら余剰戦力になる。
だがそれは絶対にありえない。
メープルと協力することは論外だし、神薙さんは信用できるかどうか本当にわからない。
じゃあ帝国はどうなのか? 分からないが察することはできる。
「腹立たしい。あのまま死んだままでいればよかったのに」
「無理じゃろ。死んだところで立ち止まる様じゃ小生を超えたとは言い切れん。その点はやはり小生の上じゃな」
「嘉神一樹かあ、一度戦って見たかったんだよなあ」
「や、やめましょうって。国際問題になりますよ」
そうなのだ。
こいつらはみんな戦闘狂で、遠くの勝てる敵より近くの強敵と戦いたがる。
今こうして共存することすら怪しい存在が帝国人なのだ。
だがそれでも纏まっているのは何度も言うが、たった一つの理由。
「沈まれ四天王よ。そしていつ王は気を抜いていいと言った」
こいつの存在。
「す、すまん帝王」
「謝れとも言っていないぞ。王は気を抜くなと言った」
四天王が有象無象とすら言われるくらいこの男は強いらしい。
「で、ですがそこにいる嘉神一家さえ気をつければ問題ないでしょう」
「そうか。分からんか」
俺個人は表裏含め3位、そして父さんはその次に属している。
帝国からすれば、強敵であることには間違いないが、有利な状況には変わりない。
ただもちろんそれは人間技の範囲内での事。
いまこの4グループでは、俺達が最下位にいる。
「王は自らの強さに誇りはある。だがその誇りを守るために家臣の身を危険にさらすのは御免被る。一度しか言わない上、この事はすぐに忘れろ」
「て、帝王?」
四天王は気づかない。
彼らが理解できる程度の強さしかない俺達しか、その強さを把握できない。
が、帝王は気づいていた。
「今、王は頂点ではない。その上がここに2人もいる」
有史最強が、己が最強ではないと認めた。
「信じられない。帝王よ、冗談にしてはたちが悪いぞ」
あり得ないと騒ぎ立てるが、その中で老兵一人が冷静に分析している。
「まさか……あの男が、神薙だと?」
「そうだ。鴻丸。お前には話したことがあったな」
どうやら王陵君子は神薙さんと面識があったらしい。
「あれの正体を王は知っている。大きいだの強いだのそんな次元ではない。そういうのではなく、敢えて言うなら勝つためだけの存在だ。この世の道理の先に王の意思があるが、それすらも超越するのがあの……人間狂いだ」
人間狂い。
人類の中で最も狂った性能を持つ最強が、更に狂っているとすら評する男。
神薙信一
「王は確実にあの男の首をもぎ取るつもりだった。しかしそれは阻まれた。この状況で阻むようなことをするのは神薙ただ一人だけだ。そしてあいつが一度阻む意思を示した以上、もう王らはあの男を殺せん」
今にも死にそうなあの老人を、俺達誰一人として殺せない歯がゆさ。
「だが迂闊な行動をとるなとは言わん。あの男は余程馬鹿なことをしない限り、好意的に接する。殺意を向けて攻撃しようが撫でるだけで終わる」
余程の馬鹿と言ったあたりで、多くの視線が父さんに向けられた。
あんた本当に何をしたんだ。それか何をしなかったんだ。
今は家族という名の他人として扱ってきたが、正直これ以上株を下げることがあると本気で縁を切りたくなる。
「故に、真に警戒するべきはあの女だ」
今度は全員がメープルの方に視野を向ける。
「分からんか。あの女の殺意を」
「そうなんですか? 自分はニコニコして敵対心はなさそうに見えるんですが」
「そう思うのならまだまだ先は長いぞ」
残念なことに俺も殺意を感じとれてはいない。
ひょっとしてまだ俺はメープルの殺気を感じ取れる領域すら到達できていないのだろうか。
「折角こうして集合しているんだ。撫子、椿と薊を起こせ」
「はい、かしこまりました」
その豊満な胸から携帯電話を取り出し、待つこと数秒。
「…………胃が痛いのじゃ」
「こっちはドМ巫女に起こされて頭が痛いです」
と、合コンにいくJDのような軽いノリで登場される。
何か7人いるのは確かなんだが、出現率に差があるな。
何か記憶薄いけど、2人か3人一度しか会っていない。
「じゃあ僕らの陣営も紹介しようか」
「陣営、だと?」
「そそ、おいで、シンジ。ハヤテ」
瞬間移動というありきたりを、この1分足らずで何度見ただろう?
そんな疑問すら生まれるほど、突如として2人の人型が出現した。
「俺様、登場ッ!」
「満を持してこの星に降りてきたか。長く待たされた」
なんかみんな左眼を隠しているなというのが、第一印象。
そしてそいつらがちっこいことに気付く。
「小学生かよ」
思わず漏らしたその感想に、白く四角く大きい帽子を被った男の子が否定する。
「朕は生後3か月だが?」
朕であることと生後三か月であること。
どっちにツッコミを入れればいいか考えてしまったが、その一瞬が命取りだ。
一度機会を逃すとツッコミというのはその効力を逃す。
ここはある意味万能の悪札をきる。
「父さん」
「ロリとペドとショタを一緒にするな」
面倒だからいいじゃん。
どれも一般的感性からすれば、変態なんだし。
変態が理解されようなんて無理な話だ。
しかしここまで人が集まると、収拾がつかなくなるなと思った矢先。
「こうやって4つのグループが一堂に集結した。いろいろ思うところもあるだろうが、まずは話し合いからしようじゃないか。それとも話し合いをするか暴力で解決するかの決定を、暴力で解決してもいいぜ」
神薙が胡坐をかいてその場に座り込む。
誰一人として否を唱える者はいなかった。
主人公最強ですが、このメンツだと真ん中あたりに嘉神君がいると思います