守護者、侵略者、来訪者
7章終了まであと数話、長かったなあ(しみじみ
あとはもう流れ動作だった。
父さんに封印解除を指示、10分ぶりにギフトが使えるようになる。
いくら近くにある異能力を無力化する短刀を持っていようが、種がばれればどうとでもなる。
現実改変、次元移動、因果関係の削除、奈落落とし、未来操作etc.
負ける道理など無く、ものの数秒で天我を叩き折った。
思ったより柔らかくてびっくりした。
「くっ…………」
嘘偽りなくこれは本当に追い詰められた時の表情。
勝ったなと確信。
しかしその確信の所為で後手を踏んでしまったのも事実。
油断なく今俺ができる最大の技で倒そう。
「シュウ、危ないから離れれて」
「お、おう」
俺が最初に使おうとした最大の切り札。
獄落常奴――夢幻
誰かが近くにいたら使えない、ただ暴力のみに特化したギフト。
詳細は詳しくはあかせないが、この能力に防御や回復は通用しない。
何があっても死ぬことになる。
「あんたもその腕で寝ているアンビちゃんも纏めて葬ってやる」
さあ、いざ。
「それはちょっと困るぜ。だから不本意だが止めに来た」
「――――!?」
まさかの来訪。
意思を持った反則技。
「神薙?!」
巫女服を着た女性をお供に連れ、不敵に笑うインチキ野郎が崩れたビルの上で無駄なポーズをとっていた。
「青い欲望を守るため、股の鼓動が天を突く! 神薙信一、悪の現場にただいま参上!」
ドSカレイヤー、原作のリスペクトが足りない。0点。
馬鹿(敬称蔑称含む)は高いところから飛び降り、無駄にかっこいいポーズを取りながら着地。
……この流れなら失敗したことにしてあいつ始末できないかな。
ワンチャンやってみよう。
「獄落常奴――夢幻」
簡単に言うと固有結界のような能力なのだが—―――
「やめろ」
お? もしかして少しは効果あったのか?
「詳細を明かしていない能力を使われて、防いだり耐えたりした所でちっとも凄さを感じないだろ」
はい。知ってた。
少しでも期待した自分を恥じる。
「いまいつき何をした? 一瞬いつきの周りが――――」
「ごめんシュウ。俺は自分のギフトをシュウに全部教えてもいいと思っているが、こればっかりは教えられない。意地悪でも何でもなく、知らない方が絶対に良い」
これはシュウの為である。
だからシュウに隠し事をするなんて悲しいことをしてしまう。
「で、何でお前がここにいる?」
「数カ月ぶりか数分ぶりか、どっちにしろ忘れるには早すぎるぜ。聞いたはずだぜ。ギフトが何なのか」
確かに聞いた。
ギフトとはバランス調整。
強大なあの男の存在を許すために、こっちを強くした。
ギフトのバランスが崩壊したついさっきまで、この星に存在することができなかったとでもいいたいんだろう。
「そういうマクロのことを聞いてるんじゃない。何で今この場所にいるんだって聞いてるんだ」
神陵祭の山に引きこもっていてほしい。
そうするのが、人類並び全ての生物の為だ。
「勿論。親友を魔の手から助けにきたに決まってる」
「ぐふっ」
爆笑と動揺が合わさり、恥ずかしい笑い方をしてしまう。
「親友? あんたが?」
「そうだぜ。支倉は俺の唯一無二のフェイバリットフレンド」
「……」
マジかよ。冗談だと思っていたが、事実だと?
200年前とかいっていたから少し関わりがあるかもとは思っていたが、こいつにそう言わせるとは想定外。
「というか。あんたそう言うキャラだっけ?」
なんというか、そう。ロクデナシがしっくりきていた。
世を捨て女と寝を共にする。
《男の口で言えない憧れをそのまま形にした》ような存在
だから男には興味ないと思っていた。
「そんなことないぜ。そもそも俺はバイだ」
「「「はあ!?」」」
今明かされた衝撃の真実!!
今世紀で一番びっくりした。
黙って聞いていたシュウと父さんも同じ感想だろう。
「俺がツッコむのは穴っぽこだけ。だれも女のとは言っていないぜ」
3章辺りにそういったけど…………ええぇ。
なんかすっげえ尻の穴が痒くなってきた。
「じゃあなんで女しか連れていないんだ」
「よく言うだろ。好きになったのが男だったって。それの反対が8回続けて起きただけだ」
なんじゃそりゃ。
だが確かに女しか抱かないとも、言ってなかったのも事実。
「俺は人間が好きだ。男も女も若人も老人も美人も醜人も皆等しく愛せる。例外は一つ」
「…………」
あれはちらりと父さんの方を見た。
その例外はひょっとしてロリコンか? いや、ロリコンなら若人なんて言わないよな。
「だがその愛の量は等しいわけではない。差は存在する。愛したものくらい守らせろ」
そう言って瞬間移動か0秒移動か知らないが一瞬で倒れている支倉の元に辿り着く。
「まさか本当に助けにきただけなのか?」
「そうだって。俺はいつだって優しさで行動しているだけだぜ」
どの口がそれを言うかとツッコミを入れれば、『↓の口』といいそうなため何も言わない。
「嘉神一樹。支倉を倒したければ俺を倒してからにしろ」
その弱そうなキャラが使う台詞で、絶望的な事を言うのを辞めてほしい。
「なっ、……なぜ」
少し時間が経過したから、支倉の意識がはっきりしだした。
もう少しボコるべきだったと思ったが、境界線間際を狙ってやってきたんだろうから結局は同じだったと思いなおす。
「心配するな支倉。俺は本来相手の10倍程度しか力を使えない。だが、友情パワーでその制限を一部解除してある。今回は嘉神一樹の1万倍パワーで守護る。安心しろ」
何一つ安心できない。
そして会話になっていない。
「だが守護る前に、一つ確認しないといけない。支倉、お前はこれからどうしたい」
「黙って聞いていれば、なんだそれは。あんたはこいつがやったことを知らないのか」
「知ってるぜ。だがそれがどうした」
「……恐らくこの事件で数百万数千万の命が吹き飛んだ。犯人は問答無用で死罪。1人を殺せば殺人犯、10を殺せば殺人鬼、10000を殺せば英雄と言うが、100万までいけばそれはただの戦犯だ。A級戦犯、即銃殺刑」
こいつの死は俺個人の感情だけでなく、社会からみても必須。
覆すわけにはいかない。
「誰も責任を取ることはできないが、少なくともこいつは責任を取らないといけない。その責任の取り方は死以外あり得ない」
至極真っ当なことを言っている自信はある。
「なるほど、確かに支倉一人に地球上に存在する全ての人類が被害をうけたといっていい。それはよくない。ならば仕方ない。こちらも妥協しよう」
妥協?
今日はこいつから聞かなさそうな言葉がバンバンとび出る。
「嘉神一樹に洗脳の異能をかけ、支倉を殺したと錯覚させる。同時に支倉のダミーを一寸狂わず作り出す。これで世間も嘉神一樹も支倉罪人が亡くなったつもりでいられる」
その妥協は、こいつがこちらの想定外を行くという意味での想定の範囲内。つまり結局想定外のことをいいだした。
「なにが……妥協だ」
「妥協も妥協、出血もとい出精大サービスだ。あまり使いたくない洗脳の異能を使うという事。友の死体をレプリカとはいえ作ること。どうみても妥協案だろ?」
支倉はこいつがギフトの源流と言った。
つまり地球上に強いては過去に迫上って存在するギフトは、元をただせばこいつの能力。
持っていてもおかしくない、というより持っていないとおかしい。
少なく見積もって1億の異能力を所持している。
だから洗脳の異能力を持っていると聞いて何も不信感は無い。
しかし許容するかと言われれば、論外だ。
話にならない。
「そんなの認めない。正しくもなんともない」
「嘉神一樹は自分を正義だと信じ切っているが、実際は違う。単に自分に害するものを悪として排除しようとしているだけ。そうだよなあ、嘉神一芽」
「――――!!」
何でそこで俺にではなく、父さんに話を振る。
内容はもちろん荒唐無稽のほら話だが、だとしてもその話をするべきなのは『俺に』だろう。
「もういい。あんたが支倉を守りたいのは分かった。そして俺は馬鹿じゃない。あんたの存在は許しがたいが、今はまだ挑むべきじゃないことくらい分かっている。だからやり直す」
ギフトが戻ったんだから、反辿世界も使える。
これはやり直しても文句は言われない。
「おっと、それはさせない」
首筋に何者かが――――いいや、ぼかすのはやめる。
糞女神、メープル。
中学生らしい幼い見た目。
姿は左眼にしている包帯を除き平凡だが、しかしその性格は残忍。
俺に友人を殺させた非道の者。
「いつき? ひょっとして」
「そうか。シュウは初めて見るのか」
「父さんも初めてだ」
ふうん。父さんも初めてなんだ。
正直意外だ。
「話だけはしたと思うが糞女神こと――――」
「僕の紹介はもう少し待った方がいい」
「少し?」
「二度手間は好きじゃないからね」
同時に入れ替わるかのように人と人の位置が変化する。
メープルがいた場所に突如現れたのは、煌めく藍色の長髪を携えた美少女。
その存在を間違えることはできない。
俺達の中で最上の存在。
宝瀬真百合。
恐らく周囲の様子を見て俺が支倉討伐に成功したと知った。
だがひょっとしたら刺し違えた可能性もあったので、その時の為の救助ってとこか。
真百合はギフトを持っていないながら、超悦者であるため、この様に光速移動が可能。
例えギフトが使えなくても、彼女の存在は百人力といっていい。
「出来れば生きた嘉神君との再会を喜びたいのだけれど……」
ただ――――
「…………なにこれ」
百人じゃ足りない事態が今なわけで。
状況的には3つのグループがある。
まずは嘉神君の最高の仲間達+ロリコン
神薙さんと巫女さんと倒れたままの支倉罪人とまだ気を失っているアンビちゃん。
最後にメープル単独陣営
正三角形じゃなく俺を直角とした二等辺三角形になるような位置取りになっている。
さて、こういうのを三つ巴か三竦みか、どちらとも意味としては正しくないと思うが、近い方は三竦みだ。
足が竦みそうになる。
「さて、“初めまして”が3人いるから一旦自己紹介をしようかな。初めまして、僕の旧姓は神薙楓、今はメープルと名乗っている」
頭痛い。
なんだろう、NARUT○でうち●の名が出てきた感じ。
初めから厄なのは知っていたが、それ以上の厄だった。
「一応柱神をやらせてもらっているかな」
柱? そういや支倉は中心の事を柱と呼んでいたが…………
神様の主人公。主神公だともいっていた。
「何をしにきた」
「今回は全力で逆行を止めにきたから。もう君に敵意は無いよ。安心していい」
こういう奴の安心していいは、絶対にしてはいけない。
「そうそう、真百合ちゃん。僕の肖像権を勝手に使ったことは怒ってないから安心して」
何の話だかよくわからない。というか考えるとノイズが走る。
「けど別の事で怒っているかな」
「別の?」
「そう。何てことをしてくれたんだ」
真百合がしたことって……あ。
「40億1245万2901の人間がこの星に存在する。この『沈黙の666』で僕は3億ほど殺す予定だった。というかそうなるはずだった。君が何もしなければ」
そう。言うなら責任を取るのが大好きなくせに責任者になりたくない日本人の代わりに、真百合が色んな所の指揮をとっていた(※歴史認識のギフト使用)
「なのに結局この件で死ぬのは1億ほどになりそうだ。しかも肝心のギフトホルダーは想定の25%しか減っていない」
「別にいいことだろ」
「ちっともよくないかな。こっちは人間が自滅するのを期待していたのに」
「「「「――――!!!!」」」」
「ここまで来たんだ。サービスして僕の目的を教えよう。共食いの強要だよ。お前達人間が同じ人間を殺すことこそ僕の目的かな」
何ということを……何ということを!
俺にかつての友を殺させたのも、そういうことかよ。
邪悪醜悪最悪
滅さなければ。
間延びすればまた何かをやらかすかもしれない。
ここで決着を—―――――
「それで、その理由は」
つけれなかった。
勢いよく特攻しようと思っていたのに真百合が遮る。
「理由? まさかとは思うけど理由を話せば納得するのかな」
「いいえ。ただあからさまだと思って」
あからさま? 何が。
「少なくとも先制攻撃は必ずこちらに譲っている。最低限正当防衛を主張できるような形をとっている。―――貴女、生きている人間を殺せないでしょ」
「…………」
え?
真百合が明かす推測は俺にとって眉唾の話だった。
「待て真百合。それはおかしい。だったら――――」
「嘉神君の記憶に存在する八重崎咲が殺されるのを直接見たのかしら?」
言われてみれば。
存在そのものが消したことはあっても、命の火を消したのは俺だ。
直接は一度も殺して無い。
「だが早苗を明確に殺そうと」
「で? 早苗は今死んでいるの?」
生きている。はず。
あれ?
「じゃあなんだ。単に今までの事は全部ハッタリだって言いたいのか?」
「そうね。多分だけど」
何だよそれ。
じゃあ俺は手のひらで踊らされていたのかよ。
「だが真百合、明らかにこいつは神薙ほどじゃないがオーバースペックだ。人を殺すなんて簡単なことができないっておかしいだろ。例え『法則』で出来ないと定められていたとしても抜け出すことは容易のはず」
『物語』のシンボルを3つ持っていると確かに言った。
それが嘘だと言われたらそうですかと返すしかないが、これは本当である自信がある。
それにメタ発言をしていたんだから、絶対に『物語』の能力は持っていたはず。
出来ないことくらい出来てもおかしくない気がする。
「これもまたただの推測でしかないのだけれど、出来ないというのは能力として出来ないんじゃなくて、約束したから出来ないんだって思うの」
「約束?」
「実際に人間を簡単に殺すことくらいできるでしょう。あくまで能力的にはね」
能力としては出来るが、実際には出来ない。
誰もその気になれば自殺は出来るが、実際はまず出来ない。
「つまり精神的に無理なのか?」
「嘉神君はメープルが人を殺せないような人間に見えるの?」
「いいや全然」
「だったら残りは一つね。法律として無理なのよ」
法律だと? あれが?
自称神様が?
「法律というのは国家並び市町村という強力な暴力をもった存在が、非力な存在を抑えるために存在する。それこそ正当防衛を主張しない限りは人を殺しては即処刑できるなんてことがあったら?」
いやいやいや。
「仮にも神だぞ。性根が腐っているが神様なんだぞ。それよりも圧倒的に……」
「ん? ピースピース」
邪悪が意識を向けたら反応し、挑発といってもいいような行動をとる神薙信一。
言っていて気付いた。
「おい、どっちでもいいから答えろ。メープルは人間を殺せない取り決めをしているのか?」
「そうだね。その通りだ」
神薙信一。
全ての中心に存在する極限。
全ての元凶にして大体こいつの所為。
「なん……で?」
「何度も言わせるな、なんて言わない。何度だって言ってやる。俺は人間を愛している」
中学生が好きな漫画のフレーズを何度も連呼するように、神薙さんはただ人間愛を囁いた。
「人間が好きだから神という愚者から人間を守る。理屈としては何一つ否を唱えることなんて出来ないはずだぜ」
主張はそうだ。主張だけは納得する。
だがこいつがやってきたことは…………ん? 何をした?
あえて文句をつけるとしたら真百合の首をバッサリやったことだが、今にして見れば『世界』の真百合と『物語』の月夜さんを衝突させてはいけないのは理屈として納得する(だとしても完全に許す気はないが)
真百合といえばギフトを奪わせたのだって、こうなることが分かっていたからだ。
真百合が普通に行動出来なければ、メープルの言う通りもっと被害が増えていた。
「あれ……?」
やっていることが下品すぎて悪だと決めつけていたが、実はそこまで酷くなかったりするのか?
「結局私の質問には答えてもらっていないわね。結局なんでこんなことをするのかと聞いていたはずなのだけれど」
「それは――――」
「そんなの聞かなくったって明白だぜ。神という存在が、下等で無能で雑魚だからだ」
メープルの代わりに神薙さんが答える。
「違うか? 愚妹よ」
「……間違えては無いんだろうね。お義兄ちゃんにとっては」
以前メープルは神薙さんの事をどちらかといえば俺達の味方だと言った。
神の目的が人類の殲滅で、神薙さんの目的がそれを守る事なら発言としては間違いじゃない。
ただなあ。まだなんか、明らかに隠している所がある気がするんだがなあ。
「というわけだ。俺が人間を守るために、神という悪魔から人間たちを守るために、俺はバランス調整が必要だった。弱くなるのではなく、周りを強くするしかなかった。分かってくれるよな? 嘉神一樹、そして支倉」
英雄色を好む
仮にこいつの言っていることが正しければ、神薙さんは英雄そのものであり、メープルは侵略者そのものである。
イメージと戦力差が大幅に異なるが、意味としてはこれが一番物の喩えとしては正確だ。
だがこれを本当に信じていいのか?
こいつの言っていることを一から十まで、というか、一すら信じていいのか分からない。
「ヘルプ、真百合!」
止まった時の反辿世界、困った時の宝瀬真百合
丸投げする。真百合のいうことなら何とかなるだろう。
「結局神薙さんはどうなんだ? 善とか悪とか以前に、益なのか? 害なのか?」
その質問に真百合は答えなかった。
「左に避けろ支倉」
「…………!!」
突如天から一人の男が隕石のように落ちてきた。
反射的に左に避けた支倉だったが、右肩から脇腹までを潰されていた。
仮に右に避けていれば心臓を潰されていたわけだから、指示としては正しい。
だが仮にも俺達の前に現れ助けようとした支倉を、ただ声をかけるだけで手を出さないなんてあり得るのだろうか?
ただその疑問は目の前の男を見てかき消された。
初めて会う男だが、そいつの名を俺達は皆知っている。
支倉罪人が過去上の偉人ならば、こいつは現在の偉人。
旧北海道、現帝国の帝王。
超者ランク19年連続1位。
23世紀の人間にとって最強といえば誰かと聞かれれば、皆この人と答える。
王陵君子
設定はずっと始まる前から、名前だけは3章から出てきた人