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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
7章後編 プロジェクト ノア
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沈黙の666 墓地

やっと嘉神君のターン

「ふぁあ~あ」


 眠い。なんかくっそ眠い。

 一応深夜だから眠くても問題ないが、まるで眠くなるようなストーリーの映画をずっと見せられたように眠い。


 そういう時ってどうするかは人それぞれだが、今の俺のテンションでは過去を振り返るというのがベストだ。




 正当な理由で支倉を攻めた俺達だが、汚い支倉は孫たちに自爆特攻をさせ時間を稼いだ。

 その理由は長年研究してきたギフトホルダーを殲滅する為の充電時間を稼ぐことだった。


 卑劣な作戦に引っかかった俺は一度死んでしまう。しかし、優秀な仲間であるシュウによって無事『復活』することが出来た。


 急いで150階に存在する装置を破壊しないと、地球上に存在する全てのギフトホルダーが滅んでしまう。





 さて、長々と待たせたうえでこんなことを言うのもあれなんだが、正直に言わせてもらえばもう勝っている。


 将棋で例えるなら、こっちは必至がかかった状態だが手番はこっち。更に手駒は強力かつ潤沢に存在し逆に詰め切る手段は無数に存在する。

 最短は5手くらいで終わるが、別王手をかけ続ければ7手11手でも問題ない。


 ミスさえしなければ勝ち確定。

 ミスをしても、致命打さえ打たなければ、勝ち濃厚。


 ここで言う致命打とは、攻撃アクションに移っている時に近づかれること。


 天我によってギフトの封印を解かれたら、他の人達の数十倍の薬物中毒が俺を襲う。


 逆にそこさえ気をつければ勝ちが決まる。


 位置取りは俺を中心に10m向こうに向かい合うように支倉罪人がいる。

 逆に3歩後ろにシュウが、5歩後ろに父さんがいる。


 まずは差しさわりの無い手から。


「シュウ、遠投はやった?」

「ああ。一応は」


 やっぱ人間たるもの物を投げないと。

 手を使わないなんて、象が鼻を使わなかったり蜂が針を使わなかったりする茶番。


 サッカーという茶番劇が好きなヨーロッパ系の人達は別だろうが、生憎俺は日本人。


 利を取らせてもらう。


 ただし投げるのはボールではなく、空気。


 上手くいけば見えずにそのまま終了なんだが…………


「それが最初に思いついたのか」


 流石にこれくらいは止められるのは分かっていたよ。

 ハゲ倉は普通に斬撃を飛ばして相殺。


 ならば次の手段。


「ぉおおああらあああ」


 片足で大きく蹴り上げる。

 ただし蹴るのではなく、蹴り裂く。


 空気をカマイタチのように、切り裂く足蹴り。


「ふんっ!!」


 老害も俺と同じようなことをする。


 ただその衝撃により、となりに建ててあった高層ビルが2つ、縦にぱっくりと割れた。


 大地を揺らす轟音をBGMに次の作戦を考える。

 一撃でダメなら多数撃ちがいいと判断。


「おららおららおらおろあらおろあろああ」


 両脚を使った斬撃(1000/s)で何度も攻撃するが、やはりすべて防がれる。


 無論これらの一撃一撃は、山をも切り裂く一撃なため周囲の建物はほぼ全て崩壊したといっていい。


 うーん。このままじゃじり貧だな。


 やっぱメンタルを揺さぶる攻撃を挟まないと。


 近づかれたら敗北なため、必然的に大声で挑発する。


 夜遅くなのでおねむのベイビーが起きてしまわないか不安が残るが、その時はまあその時だ。


「結局聞けなかったけど、あんた自身孫の事どう思っていたの?」

「…………」

「答え辛い質問だったな。いや、言い辛い事を答えにして悪かったな。道具か駒か玩具か、3択だったらどれが近いんだ? ABCで答えていいぞ」

「ふざけるのもいい加減にしろよ。このガキ」


 おーお。目に見えて怒ってる。ひえ~こわくないこわくない。


「儂が家族を愛していないだと……どの口が」

「どう見たってそうだろ。ギフトを滅ぼすため家族を天秤にかけただけで飽き足らず、前者を傾けさせたんだから」


 それ以外どういう見方がある。


「逆だ。儂はもっと前に完成していた。だが孫達と共に生きるためあえて延期した」

「そんなの闇討ちにあうんじゃないかって心配したんだろ。だから精一杯の命乞いで延期したんだろうな」


 この状況をそうとしか受け取れない。

 家族愛とか辞書には定義として載っているが、実際には存在しない。


 友のためになら死ねるが、家族のためには死ねない。


「闇討ちだと――!? そんなことを孫たちがするはずがないィ!!」

「そうだろうね。実際にあんたの為にゴミのように死んだんだからするわけがない。でもそれは孫達の視点であって、あんたの視点じゃない」


 いやー。弱い者というより悪い者いじめは楽しいなあ。


「怖かったんだろ? ギフトホルダーが」

「……!!」

「実は最初から俺らの件とは関係なしに、皆殺しにするつもりだったんだろ」

「そんなつもりはない」

「一体殺すつもりの無かった殺人犯の何厘が、本当に殺すつもりはなかったんだろうな?」


 人殺しなんて潜在的にロクデナシなんだ。

 機会があればまず殺すし、無くたってはずみで殺す。


「信じ切れなかった。死んでもいいって人たちだったのに、あんたはその言葉を疑った。結果がこれだ。孫達は信者として死んでいき、あんたは裏切り者として一瞬だけの生を受けた」


 レッテルを貼る。ペタペタと、ね。


「黙れ黙れ黙れ黙れェ!!」


 激昂、そうさせたのは俺だがやはり見っともない。


 そして勝ちを確信する。


「おまえに――――おまえに、お前に儂らの何が分かる!!」

「はあ?」


 挑発を入れたのは俺だが、何を言い出すんだ急に。


「儂がいったいどういう思いで……ここまでやって来たとおもっているっ!!!」

「知るか馬鹿」


 魚が見え透いた罠に引っかかりやがった。


「悲しい過去があった? どうしようもない理由があった? そういうのどうでもいい。というか俺達が勝手に判断する」

「なにをなにを」

「知らないのか? 犯罪者の家宅捜索で大体はアニメやゲームが趣味だとか、少女趣味があったとか誰も聞いていない情報から入るだろ」


 そいつがどういう教育を受けたとか、どういった勉学を進んできたかの方が重要なのにも関わらず、どうでもいいことをさも大ごとのように報道する。

 そしてそれに大衆は一喜一憂する。


 真偽は問わない。


「犯罪者の情報なんて、事実かどうかなんて関係ないんだよ。知りたいように情報を捻じ曲げる。これが世論だ。だがそれは悪じゃない」


 悪い奴には何をしてもいいんだから。

 どう思おうが、どう思わせようが知ったことじゃない。


「そもそも麻薬と同じだ。快楽の絶対量から考えれば、人生全ての幸福をこえる快楽を得ることが出来る。幸福を求めるなら使うことこそベターだ」


 だがそうじゃない。

 人は義に寄って生きなければならない。


 最期の一時ならば使ってもいいかも何て言う意見があるが、そもそも存在するということそのものが悪。


 排除すべき存在。


「仮に、仮に万が一。あんたが納得のいく理由があるとしよう。それこそアカデミー賞を受賞できる感動物語があんたのバックストーリーにあったとして、そんなの発禁になるに決まってるだろ」


 善悪を考えきらない馬鹿が感情移入したらどうする。

 悪は悪のままでいい。


 事情なんて知らない。

 そんなのは俺が勝手に捻じ曲げる。


「俺もあんたの動機を勝手に作る。家族の為とかのたまうんじゃない。お前なんかただの負け犬だ。それでいい。ボケ爺の価値はその一点だけだ」


「・・・・・・」


「人を殺そうとした奴が、世界を滅ぼそうとした奴が、他者に理解かってもらえると思うなよ」


 言いたいことも言い終わったし、そろそろ切り札使うか。

 位置関係を一度確認して問題ないと判断。


 切り札、投下。


「なんでかつての日本人は犯罪者を生け捕りにしようとしてたか知ってるか?」


 200年前の存在に歴史認識を説くのは、ちょっとおかしかったか。

 理解しているかが正しかったな。


 もう俺の問いかけに反応する気はないと思うので、さっさと答えを教える。


「勿体ないからだよ」


 だってほら。


 こうやって。


「父さん。こいつ殺していいぞ」


 シャツを脱がし、父さんの方に放り投げた。


 投げたモノは物ではなく者。

 女の子。


 シュウは俺をナイフで刺して助けた。

 その際ボケ老人の目を掻い潜るため。ある工夫をした。


 支倉ゲノムのときに作った不認のシャツで、再生のナイフを包んでいたのだ。


 だからあれは見逃していたわけではなく、そもそも認識できなかった。


 そしてもちろんそのシャツは復活したときに俺の手元にあった。


 体型の所為で、俺がその服を着ることはできない。

 だが仮に女の子なら着ることができるだろう。


「よかったな。支倉アンビは生きてるぞ」

「—―—―—―!?」


 でもまあ、それも今だけだ。

 今一応、彼女は生きている。


 生け捕りするのは苦労した。


「いいの? 今度は本当にお孫さん死んじゃうよ」

「あ、ああっあ」


 直線上に父さん・気を失った支倉アンビ・俺・罪人・ビル


 今までは俺がビルに近づかせなかったから防ぐことが出来た。

 しかし糞爺が孫を助けるためには、俺の後ろにいかないといけない。


 その状態になった場合、もう防衛は成功しない。


 最後のチャンスとして、俺を巻き込みながら助けるという手段を潰すため、高々と跳躍。


 二次元的には1直線だが、三次元的には直線上に存在しなくなった。


「選ばせてやる。投了するまであと何手欲しい?」


 もう俺は最善手を取らなくていい。



「ごの゛あ ぐ ま があ゛ああ゛あああ゛あ」



 悪手を勝手に選んでくれるから。



 結局支倉罪人は、アンビちゃんを見捨てられなかった。


 だからその報酬として、俺も大人しくチャンスをものにする。


 握り込んだ小石を投げてからの、無駄に前方10回転。


 物事にはすべて、作用反作用が生じる。

 リンゴが地面に押す力と、地面がリンゴを押し返す力。


 本来のジャンプだって下に力を込めているのに、上に力が働く。

 それはもちろん地面から押し返す力が、強力に働いているから。


 ただそれは地面が強大かつ頑丈なため働く。普通に考えて砂粒では起きない。


 だがゼロじゃない。


 圧倒的な力で押し返せば、その何億何兆分の1で押し返してくれる。


 本来秒速1京光年移動できるパワーで蹴り上げても、たった1京分の1しか伝わらなくても十分。


 たかがビル一つ真っ二つにすることくらいわけがなかった。




 そして悪いシュウ。




 一緒に戦おうって約束したのに破っちまった。


 折角とどめのダブルライダーキックとか、W螺○斬とか考えていたのに無駄になった。


 もっと強いかって思っていたのが、こちらの失策だった。


 やはり研究職はかませ。


「思っていたより強くなかった」


 一人で何とかできてしまった。




 プロジェクトノア発動から停止まで計11分6秒。つまりは666秒


 この事件を人はいずれこう呼んだ。




 沈黙の666と。




悲報 主人公さん。あれだけ引き伸ばしていたのに1話でケリをつける

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