沈黙の666 録
恐らく読まれている方の多くは、この作者め○かボッ○スの影響を受けているなと思っている人も多いかと思います。
実際多くの影響を受けていますが、枠としてはBLEA○H枠を狙っています
そう言う意味で、連載が終わってとても悲しいです
侵略者が突如消え去ってから数年がたった。
当然だがこの戦争に勝者はいない。
気が付いたらいなくなっていただけであり、戦利品や補償なんて存在しない。
23世紀では支倉は宇宙人の技術を独り占めしているのではないか、と考えられているがそれは誤りである。
本当に何もなかった。少なくともその当時は。
だからここからもまた恐ろしいことになる、そう支倉は思っていたがそれは予想外の方向で裏切られた。
なぜか侵略者を倒したのが超能力者になっており、ギフトと呼ばれる異能力者が数百人ほど確認されたのだ。
確かにあいつが用意した兵器は呪いじみているが、あくまで兵器として容認されてきた。
しかし戦争中に超能力者は外敵として迫害する、共通認識であったはずなのにいつの間にか消えうせた。
支倉罪人は優秀な男である。
おかしいと思ってはいたが、その時代では何よりも復興が最優先される。
異能力の存在が復興に必須であると理解できない脳ミソではなく、またそれを耐えることのできる精神力を持っていた。
ギフトと呼ばれる異能力の存在を、苦虫を噛みしめる思いで耐えてきた。
その結果は23世紀が存在することが証明している。
しかしその恨みが消えることなく、逆に心の内に積もっていく。
耐えて耐えて耐えて耐えて
耐えて耐えて耐えて耐えて
耐えて耐えて耐えて耐えて
耐えて耐えて耐えて耐えて
それこそ突然キレる若者のようであった。
周りは突然キレたと思っていても、本人からしては今までの積み重ねが破裂した。
2番目の妻の孫が産まれたが髪の色が黄土色だった時彼は自分の子を地面に叩き付けたのだ。
なぜか自分の子孫はすべてギフトを持っており、ついに爆発した。
周囲からはギフトを持っていることを流石は支倉と尊敬の目で見られたが、そんな事本人にしては侮辱でしかなく恨みをつのらせる原因にしかならない。
この一件で支倉罪人は決断する。
大方の復興は終え、もうあとは勝手に自力で元の世界に戻せると判断した支倉罪人は、社会的に死んだ。
もちろんその間何をしていたかの想像は簡単だろう。
彼が決心したときには時間がかかりすぎた。既に世間一般に異能力は広まり、奴らが受け入れられたのだ。印象操作ではどうにもならない所まで時が過ぎていたのだ。
だからこそ自力で何とかできる手段をとった。つまりはギフトと呼ばれる異能力を滅ぼす研究である。
周りは異能力を研究するなんて馬鹿げているというスタンスで手伝いもしなかったが、支倉罪人にとっては実際に起きているのだから解明できる、出来るのならその対策もとれるという当たり前の道理を理解できない周囲は必要なかった。
支倉が表舞台から姿を消し10年、計画は難航を極める。目途は全く進展しなかったが、その日を境に急転する。
突如一人の男が自らの部屋に勝手に入ってきた。
その傲慢と暴虐は数十年の時では忘れさせることは無い。
「神薙か?」
「ああそうだ。俺だ」
数十年ぶりの再会。
しかしそれを喜ぶのは神薙信一のみ。
支倉は長年培った疑問を解消できるという期待のような何かしか感じ取っていなかった。
「どういうことだ。超能力者が侵略者を撃退したということになっていること。それはまだいい、だがギフトと呼ばれる異能力がこの世界に蔓延っている。なぜだ?」
この男なら知っているだろうという歪な信頼。
「どちらの疑問も答えは一つだぜ。俺がやった」
そして説明されるギフトの正体。
この世のバランス。
そしてこのタイミングで現れたのはバランスが、自身が降りたっても問題ないレベルまで人類が成長したからと説明をされる。
嘘だと否定したかったが、こういう荒唐無稽の話は逆に真実なのがこの神薙という男だと知っている。
だからこそ怒りは思ったより無かった。心のどこかでこいつが関わっているのではないかと思っていたからだ。
しかし疑問がすべて解決するわけではない。
「バランス調整だといった。だが他の方法は無かったのか」
それこそ魂の質量を重くするだけでよかったのではないかという問い。
「バランス調整だけじゃない、といったらどうする?」
「それはなんだ」
「言えない。これだけは俺だけの秘密だぜ」
聞いていない事は勝手にしゃべるが、言わないといったらこの男は言わない。
「そうか。結局何をしに来た?」
「…………はあ」
自身の生涯で、億劫になるこいつを見ることになるとは思わなかったと支倉は驚嘆するが、それは次の言葉でかき消される。
「能力者にならないか」
支倉は手元にあった電気スタンドを全力で投げつけた。
回避も防御もせずただあるがままに受け止められる。
「やはり断るか。なあ支倉、お前が能力を受け入られるようになるために俺はどうすればいい?」
「能力を受け入れるだと? 儂が?」
「覚えているか? かつて夢を語り合ったことを」
言われて思い出す。
それはかつての夢。
幻想に散った悪夢。
「異世界に行ってみたいってことか」
「そうだ。ネタバレになるが、異世界もそこにいく手段も確かに存在するんだぜ」
「……」
例えばの話、野球少年に君は将来プロになって活躍できるとプロ野球選手が言ったとする。間違いなく喜ぶであろう。
しかし既に別の夢に変わった中学生にそんな事を言ったって意味がない。
支倉罪人は全く心が踊らなくなる自分に驚いた。
「分かっていないとは言わせないぞ。悲しいことに貴様は誰よりも儂のことを理解しているはずだ。少なくとも儂が貴様を理解しているくらいは知っていてしかるべきだ」
もう夢なんかなくて、夢をアンチして。
アンチだけが原動力になっている。
「ああそうだ。間違いない。俺の真の理解者は支倉だ。だからこそ、もっと同じになってほしい。もちろん無理にとは言わないが」
「・・・・・・変わったな。お前」
「それはお互いだろ?」
「ああ。そうだ」
支倉罪人も神薙信一もかつてとは違う。
お互い何処かで歪んだ。
「お前は優秀だ。嫌だ嫌いだとは言っても有用性は理解している。対抗策が無いとこの先どこかで暗殺されてしまうかもしれない。そう思ったから隠居したくせにこの過剰な防衛設備を設置している」
生理的に嫌悪しているため、能力で殺されることを嫌う。
「とはいってもこれでは足りない。分かっているはずだぜ」
神薙が簡単に侵入したように、いずれは施設に侵入されるだろう。
そして不死になったとはいえ殺されない訳じゃない。いつかは殺される。
「だから対抗策を俺が用意した」
「対抗策だと?」
「ああ、それも1つじゃないぜ。2つだ」
そう言って手渡したのはこの世の美を集大成したような、美しい短刀。
「お前の為に作った。どんな能力、それこそ『物語』の異能力だろうが問題なく否定する、テンガシリーズ最強にして最終の業物。その名を天我」
テンガシリーズを支倉は幾度も見てきた。
よく切れる日本刀、国一つ賄える蓄電機能を持ったナイフの他に、最後に傷つけた者の居場所を追尾する短剣、その刀身を見た物の意識を向けさせる大剣、逆に反射的に意識をそらさせる槍などなど、その種類は数十を超える。
どれも何百年の時代をかけた所で到達することのできない、現代のオーパーツ。
しかし天我はその中でも群を抜いていた。
武器としての極地の一つを見て何も感じない支倉ではない。
胸の中で浮かび上がる衝動を確かに感じる。
「斬りたいように斬ったところで切れ味が落ちることなんてない。まあ、これはおまけだしダイヤモンドより倍硬い程度だから、案外すぐ壊れることに注意しろ」
「本当に、いいのかと聞くのは野暮か。では物の興味で聞きたいんだが、これ1つ作るのにどれだけの費用を費やした?」
仮に能力を使って作っていたといったら送り返していただろう。
しかしそんな事お互いに分かりあっていた為、あり得ない可能性だが。
「ドラゴン4000匹、外なる生物3000匹、神2000匹、俺の髪の毛1本」
「…………」
この件についてはもう何も聞かないと決めた支倉であった。
だからこそ用意した2つ目の情報を聞く。
「本来は100年後に解禁する予定だったが、お前だけは特別に教える。超悦者っていうんだぜ」
その超悦者が何なのか、もはやここでは説明しない。
ただ真剣にあれがモノを教えたことと、ずっとあれと一緒にいたことにより1カ月程度で超悦者を習得することが出来た。
それから幾度の春を越し、西暦が一つ変わったころ。
「分からん。なぜ貴様はギフトを滅ぼす手伝いをする」
神薙信一は支倉罪人の手伝いをしていた。
案を出すなんてことは無く、ただ言われた通りに、やりたいように手を貸すだけの手を貸すだけ。
しかしやはりそれでも十分に破格であるが。
「お前の手伝いくらいやらせろよ」
「そうじゃないだろ。仮に儂が計画しているプロジェクトが成功したら、貴様の目的は破綻するのだぞ?」
バランスは崩壊し、神薙信一はこの世界に存在できなくなる。
そう聞かせたのも、教えたのもこいつだ。
「質問に答えようか。俺個人の最終的な目的はおおよそ200年を計画している。そして今のペースだとプロジェクトノアが完成するまで、300年は必須」
つまりプロジェクトノアが完成したとき、すでに神薙信一の目的は達成している。
だからこそ、目的を果たしているためギフトに価値は無い。
「ならば儂の計画が100年で完成したらどうする?」
神薙信一の目的が完遂されるより先に、プロジェクトノアが発動したらどうなるのか。
支倉罪人は優秀な男である。
神薙が何かをしようとすれば、嘘よりも容易く道理は引っ込むことぐらい知っている。
「何もしない」
「本当にか?」
「ああ、たとえ支倉のプロジェクトによって、ギフトホルダーが全滅したとしても、人類すべてが滅亡したとしても、俺は手を出さない」
その回答は何度も聞かされた本音と真逆だった。
「人間が好きじゃなかったのか?」
「好きだよ。大好きだ。エルフの腐った魂よりも、醜女のレバーの方が何兆倍も愛せる」
それが嘘誇張ではなく、むしろ神薙信一にしては謙虚に物を例えていると支倉は知っている。
「ただ――――」
ただ、のその先に
「人が人を殺すのに、一体何の問題がある?」
その一言に、この男の闇を見た。
「宇宙人も隕石も自然災害にも人は絶対に殺させない。そもそも俺が手を貸さなくたって何でもできるのが人類だし、仮に手が届かない所から攻撃されたとしてその時は俺が全身全霊をもって護ってみせる。退治してやる」
聞こえはいいが、掻い摘んでいえば人類による他の種族の虐殺である。
「だからこそ人類の死因はもう決まっている。自殺だ」
「それでいいのか?」
「いいわけがない。悲しいよ。とっても悲しい。きっと涙をこらえることはできないぜ」
22世紀最大のジョークだと笑い飛ばした。
「一人の、もしくは少数の人間の意思が、その他大勢を上回ったってことだぜ。そいつの意思を組んで当然だろ」
よって支倉が人類を滅ぼした所で、神薙信一は邪魔をしない。
「逆を言えば、誰かが先に感づいて排除をしようとしても、俺は伝えないし守ってあげられないぜ」
「いらん。自分の身は自分で守る」
とはいっても、これは誤りである。
かなり未来の話になるが、知っての通り支倉の計画は成功する。
だがその時に嘉神一樹が攻め込んでくる。
その際、友人と父親を一緒に攻めさせるが、そうさせたのは神薙信一であった。
一見邪魔をしないという口約束を破ったように見えるが実際は逆である。
支倉罪人の計画を最後まで遂行できるように、時間稼ぎをこの男自身が手伝った。
もしも嘉神一樹1人で攻め込んできた場合、彼の孫たちは時間稼ぎを出来ずあっけなく死んでいた。
友人に見せ場を渡すから、父親という邪魔物がいるから、もちろんそういった理由はある。しかし最たるは使われたら終わりの切り札を使えたからというのだろう。
嘉神一樹が持っている中で最恐最悪の能力。
獄落常奴――無幻
周囲を巻き込むから使わなかった最低奥義を、全力で使うことが出来た。
いいや。それも結局は舞台装置だ。正しいがそうじゃない。
結局のところ、嘉神一樹は…………戦う理由を他人に押しつけているだけで、戦いそのものは一人で戦った方が強いんだから。
過去編が長い、中々本編に進まない。まさにブ○ーチ