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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
7章後編 プロジェクト ノア
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プロジェクト ノア

チート戦線、異常あり。レギュラーにして唯一とも言っていい常識人。時雨君のターンです。

「お、おい。一樹?」


 いつきの父さんが狼狽えるのも無理はねえ。

 3人で襲うって話だったのに独断専行をしかたけた一樹が、電池がきれた人形のように崩れ落ちたんだからよぉ。


「一樹? おい!? ああ、おい! からかうのはよせ!」


 おれも嘉神さんがいなけりゃ、そうなっていたと思う。

 周りが慌てたら逆に自分は落ち着いたってやつだ。


「おい! 返事しろ!! 生きてるだろ!!」

「呼吸できない。心臓は止まっている。脳波も止まっている。そんな人間をお前は生きているというの」


 支倉・リンクイナ・アンビのという通り一樹は呼吸をしていない。

 生きているか死んでいるかで聞かれたら、満場一致で死んでいるとなる。


 突然いつきが倒れたことは狼狽するに十分な事柄だが、それと同じくらい重大なことがあった。


「嘉神さん、気づいてるか?」

「あ? いや何のことだ?」


 おれより先に気づいていると思ってたがそんなことはぁねえようだった。


 そして気づいていないのなら早急に伝えないといけねえ。




「ギフト、使えません」




「はぁ?」

「なんか、本当に雷電の球も槍も鎌も全部使えません」

「そんなばかな…………」


 おれもばかだって思ったが、本当の本当に使えなくなっていた。


「何をしたんだぁ。支倉ぁ!」

「っんくっ……ぅぅう」


 支倉はおれたちを見ちゃいなかった。

 倒れているいつきを眺めながら言葉にならない喜びを、支倉罪人は口から漏らしていた。


「…………長かった。この時を儂は200年待った。やっと叶った……プロジェクトノアは成功した!!!!」

「おめでとう御爺様、アンビも嬉しい」


「ああ、儂も嬉しい。確実に成功するとは分かっていたがやはり実際にプロジェクトノアが成功するとなると……喜びも一入ひとしおだ。だがもう少し待っとれ。全て終わらないと儂は――――」

「分かってる。アンビはちゃんとわかってる」

「そうか。愚問であったか」


「うん。アンビもミミ姉もクーフィスもゲノム兄もトミーもユエン姉も大麻兄もみんな同じ。御爺様が大好きだから」

「だが…………こいつの、こいつらの――――」

「だからちゃんと決着をつけよう。決着をつけて、みんなにありがとって言おう」

「儂が墓参りをしてもいいのかの」


「むしろちゃんといかないと駄目。アンビは御爺様の為に死ぬつもりで戦ったよ。結局生きていた。それでも、もし死んじゃったら、お参りくらいはしてほしい。きっとみんなも同じ」

「すまんっ……ほんとうにすまん。儂の為に――――尽くしてくれたあいつらに」

「怒るよ。御爺様。アンビは許す。みんなもきっと許す。だから御爺様は謝らなくていい」

「っ――――」


 おれたちを目にもとめていない。


 一樹が生きていた頃とはうって変わり、二人は勝利を確信していた。


「だから何をしたんだ――あんたらは!!」

「おう。そうだ。雑魚がまだいたか」


 やっとの思いで口を開いたのに、あいつは口が塞がらなくなるとんでもないことを独白する。


「ところで神薙を追い出す手段の説明の途中だったの。先に儂はギフトをサーバーとアプリケーションと説明したが、アプリケーションではなくサーバー側をウイルスで侵食したらどうなるか、その答えは目の前に転がっている」


 支倉罪人は事切れたいつきを眺めながらほくそ笑む。


 おれたちはもう何が何だが反応する余裕はない。


「もちろん儂にサーバーを破壊するなどは出来ん。だがサーバーから送る能力を個人個人から1つのギフトに代表させることなら出来る。むしろ今やっている。それこそ儂の悲願であった」


「小僧らにもっとわかりやすく言えば、ホームページのサイトがいつの間にか他のサイトに強制ジャンプし、そこからPCを破壊するウイルスが流れ込むといったところか」


「これをやるには大量の電力が必要だった。時間稼ぎ、その通りだ。電力がたまるまでずっと待っていた」


「そもそもだ。儂の目的がいつ神薙の追放と言った? 追放に繋がると言ったが、目的そのモノとは一言も言っていない」


「儂の目的はただ一つ。ギフトホルダーをこの星から一人残らず滅ぼすこと」


「出来るわけがない? できるから計画し、できたから今がある」


「長く険しく難しい道のりであった。途中何度も諦めようと思った。しかし今日この日、大願がやっと叶った!」


「選ばれた無能力者だけが生き残り、外れた能力者が死の海にのみ込まれる」


「これこそが儂の悲願、プロジェクトノア・・・・・・・・


 つまり、支倉罪人はすべてのギフトをたった一つの害あるギフトに変換した。


 能力の上書き。

 使えるギフトから使えないギフトに入れ替えた。


 だからいつきが倒れて、おれたちが倒れていない理由はわかる。


 超悦者スタイリストだ。いつきが防御から移動に移行したから倒れた。


 だからもしおれたちが防御から攻撃、若しくは移動に移せばいつきのように…………



 そのかわり一つ納得したことがある。


 いつきが気にしていた、なぜ支倉・リンクイナ・アンビは超悦者を防御から学んだのか。

 その答えは自分の身を守る必要があるってわかっていたからだ。


 これからギフトが使えなくなることがあると知っていやがったから、防御から学んだんだ。


 ああくそ! もう一つ。

 支倉見実がいっていた自分の所為は、自分はまだ超悦者の防御すら出来ていないってことかよ。


 ウイルスは完成していたが、孫らは全員能力者。


 一緒のに乗るため、システムが完成してすぐは、プロジェクトノアを発動しなかった。

 だが悠長にしているとおれたち(主にいつき)が攻め込んできた。


 このまま何もしなければ全滅。

 残された術はプロジェクトノアを発動させるしかないが、そのためには充電する時間が必要。そのためにあいつらは自分の命を捨ててまでも時間稼ぎをした。


 少しでも自分たちの家族が助かるように。


 支倉見実にとっては、自分が不甲斐ないせいで兄弟が恨み言一つ残さず死んでいった。


 きっとおれたちが戦っている間も見実は支倉罪人から防御を学んでいたんだ。でもできなかった。

 だから仕方なく、無力と分かっていながらも最後の防衛は見実がやっていた。


 どのみち絶対に助からないからせめてもの、ほんの少しだけの時間稼ぎをしにいったんだ。


 でもいつきの所為かおかげかは分かんねえが、手遅れになったところで超悦者スタイリストの防御が完成してしまう。


 自分の家族を殺しまくった男から、どんなに頑張っても完成できなかった超悦者スタイリストを学んでしまったという皮肉。


 よって最期に泣き崩れたってわけかよ。




 こんなん事前に察しろなんて無理だぞ! しかもきっといつきなら、ギフトが使え無い現状を知っても、家族の絆なんて分からないと思うから、何ですぐ完成して使わなかったのかが連想できるわけがない。




 そして振り返ってみりゃいつきのやってきたこと、時間稼ぎを認めた以外は完璧じゃねえか!



 けどよぉ、けどよぉ。そんなことしたら。


「ギフトホルダーは地球上に何人いると思っているんだ!?」


 40億人の人間がいて、その内の1%が能力者だと言われている。


「4000万、いや。素質などを考えたら1億か2億の人が死ぬのであろう? 


それがどうかしたか? 


考えてみろ。お前達は知っているだろうが儂は英雄だぞ。ここは儂が救った世界だ。儂が好きにして何が悪い」


 人類の英雄がそんなことを言ってしまうのは耐えがたい。


 それこそジャンヌダルクがフランスはゴミとか、リンカーンが奴隷最高なんて言うよりももっと酷い。


「それに、だから儂はせめて被害を減らそうと能力者の宝瀬剣を脅し、株を譲りうけさせ宝瀬の指揮権を貰おうとしたのに。それを小僧らが邪魔しに来たのではないか」

「――――!?!?」

「奴らが優秀なのは儂も認めんことは無いが、それはギフトがあるが故。宝瀬剣も宝瀬嬢も、もう新しい世界には存在できない。苦しんで死ぬであろう」


 宝瀬さんが脅されたっていってたのはおれも聞いていた。だが違うだろ。

 その主張はまかり通らねえ。


「貴様ら小僧らの所為で、人が大勢死ぬぞ。ギフトに頼った資源は底をつき、ギフトに頼った人事は裏切られ、ギフトに頼った供給は空になる。死ぬであろう。何万、何十万、何百万、何千万、ひょっとしたら億をも超える人が更に死ぬ」

「ざっけんな! 責任を転嫁すんじゃねえよ!」


 いつきじゃなくっても、言わせてもらう。

 おれはわるくねえ。


「そうか。まあどちらが正しいかこの先わかるじゃろ。こちらの想定は2億程度だがそれよりも多く死ねばのぉ。儂は儂で努力したし、今からだって出来るだけ減らす努力をする。アンビ、準備は」

「滞りなく、御爺様」


 小型のビデオカメラを片手に罪人を映す。


 いつの間にか巨大のスクリーンが降ろされ、そこに25種類の番組が映し出された。


『緊急ニュースです。深夜未明突如ギフトホルダーと思われる方々がそろって苦痛を訴える症状が発生しました。政府は特別非常事態宣言を発令し――――』


 惨劇は終わらない。


『たった今入った情報に寄りますとこの集団中毒事件は全世界同時に起こっているようです。アドルフアナウンサー?』

『こちら真ドイツ駅、大変なことになっています。運転手が発作でブレーキを破壊し、時速300㎞で前方に止まっていた新幹線と衝突。中にいた乗客の生存は絶望的とのこと。続報が入り次第――――「あああ゛ああだああ。だれかああああ。いだみどめをくらあえあああああああああああああああああああ」  「カメラ止めろ!」』


 惨劇は止まらない。


『ちぇっ、折角原子炉に飛行機を追突させるテロリスト雇ったのに、なんで逆にテロられるだよ。え? カメラ回ってる。ごほん。失礼しました。えーと、なんと日本人が旅客機をハイジャックする事件が発生しましたが天罰によって突然苦しみだしたようです。いやーいい気味じゃなくて同じ日本人として残念ですねー』


『え? 支倉から通達がきた? はい。速報です。支倉グループから緊急の中継メッセージがあるとのこと。ただいま繋ぎます』


 当然ニュースは右も左も同じ内容。


 ぽつぽつと番組の多くが、同じ画面に切り替わり、やがて1つの画を25分割しているようになる。


 映し出されているのは今この場所。


 この支倉ビルの最上階。


 支倉アンビが持っているビデオカメラと繋がっているようだ。


「始めろ」

「はい。御爺様」


 言うならこれから始まるのはゲリラ演説。


「儂のことを知らない人間などいないと思うが、初めまして諸君。支倉罪人だ」


 歪み切ったその破顔。

 ああ、なんということだ。


 いつきとずっといたから分かる。

 こいつもいつきと同じ、目的のためになら何でも犠牲にするタイプ。


 破滅型の人間だ。


 最初から気づいていれば、まだ対策の余地があったかもしれない。


 だがもう遅え。

 ゲーム・オーバーだ。


「なぜ生きているのかという質問はあると思うが、この際それはどうでもいい。重要なのは今何が起きているか。儂が伝えるということに意味がある」


「――――今宵ギフトは滅び、ギフトホルダーは滅亡する。そのことを諸君らに伝えに来たのだ」


「何故に何故かは分からないと思う。そして説明した所で分かる輩もそうはいまい」

「よって下々の民衆はどうすればいいか。その指示だけを儂が出そう」


「まずギフトを持って今苦しんでいる諸君。これからよくなることなど無い。大人しく死ね」

「次に身内にギフトを持って苦しむ姿を見ている諸君。ただちに殺して楽にしてやれ」

「最後にギフトホルダーに恨みがある諸君。復讐のチャンスは今しかない。出来るだけ惨たらしく殺してやれ」


「そして儂が保証しよう。これから諸君らが犯す殺人は緊急避難であると」


「それでもまだ殺せないというのなら、その罪を儂が背負おう」


「全ての殺人は儂がしたと保証する。儂が殺した。その免罪符を与えよう。英雄が罪を赦そう」


「だから殺せ」


「今苦しんでいるモノがいるのなら、殺してやれ。それこそが優しさだ」


「そうしなければ人は救われない」


「そして何よりそれこそが救済であると。諸君、もう一度儂に英雄をやらせてくれ」


 人類の英雄に諭されて、誰がNOと言えるのか。


 いや――――いつきならはっきりと言えただろう。


 だがおれはいつきじゃない。


 無理なんだ。


 格が違うってのが分かる。


 おれには勝てねえ。


 英雄が世界を塗り替えるように、結局おれは見ていることしかできねえのか。

 英雄をやらせることしかできねえってことなのか。


 嘉神さんはいつきが死んだことによって傷心し、その場から動けていない。


 誰も拒否なんて出来るわけが――――


『だが断る――――なんて言ったら、はたしてどんな顔をするのかしらね、“元”人類の英雄さん』

「んなあ? なんでお前が生きている!?」


 マジかよ。

 その人の声をおれは多分聞き間違えない。

 ただここで聞くということが意外過ぎて、反射的にうつむいていた顔がすごい勢いで上がってしまう。


『前を向きなさい、時雨驟雨。これくらいで諦めるようじゃ、嘉神君のライバルを名乗るなんておこがましいにも程があるわ』


 スクリーンの向こう。画面の真ん中一か所だけ女性が映し出される。


 最強はいつきだと思っている。

 最兇は神薙さんだと思っている。

 最高は王陵君子だと思っている。

 最幸は月夜幸だと思っている。


 ならば最優はこの人だと思っている。


「宝瀬……さん」


 元センパイ、現クラスメイト。


 宝瀬真百合がスクリーンに映し出されていたのだ。





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