都合のいい聖域
主人公兼ネタキャラKGM
天井をつき破りながら進むこと。15階。
人はいても俺達を見ると関わらないよう逃げていたが。ここに来て挑んでくる存在が現れた。
「やーやー。いけませんねー。アポなしの訪問は支倉ではどのような状況でも受け付けておりません」
フロアに待っていたのは小太りの男。
見るからに服を全部ひん剥いてもお金持ちだって分かるくらい脂が光沢する。
「ですが初対面の人に名乗るのは支倉では礼儀。一期一会がヴォクら支倉の家訓となっています。では名乗らせていただきます。ヴォクは支倉トミー。君達は?」
白々しい。知っているくせに。
「おれは時雨驟雨。巷では『刈安の番人』と呼ばれている」
「え? 名乗るのか?」
「そりゃ聞かれたら答えるべきだろ。逆に俺達が聞きたい時名乗られなかったら嫌じゃねぇ?」
「た、確かに。でも刈安の番人って何だよ」
「2桁になると二つ名が出来るんだぞ」
それは知っている。ギフトホルダーといえば髪の色が一般とは違う。
だからその色の名前を用いて、2つ名を作る。
刈安とはイネ科の植物で染めた黄色っぽい色。
シュウにぴったりだ。
「じゃあ俺にもあるのか?」
「……………」
「なぜ目をそらす。父さんもだ。二人とも俺に視線を合わせろ。俺の目を見て答えを言え」
「どうぞ。嘉神さんから真実を。おれには無理だ」
「ええ。これまたオレが不憫な目に合う流れじゃん。一樹、出来るだけ平常心を保ってくれよ」
「あのさあ。俺はこれでも高校生。モノを冷静にみることが出来るお年頃だぞ」
「分かった。言うぞ」
「で、何?」
「黒白の悪魔」
「ファアアアアああああああああああああアクククっ」
死ね! 死ね! 死ね!
「ぎゃああああ。やっぱこうなったああああ!!!」
超悦者で攻撃。ダメージはきっとある。
「黒白の悪魔、嘉神一樹。知っているさ。むしろ今の時代で君を知らない方が珍しい」
「何ということだ。何ということだ」
“悪”魔なんて俺には似つかわしくない。
天使とか聖人とかのが良かった!!
「そちらは?」
「嘉神一芽。濡羽の勇者と呼ばれている」
何で父さんが勇者で俺が悪魔なんだ。
逆だろ逆。
「ああ。御爺様からですが聞いたことあります。嘉神一芽、こいつほどの無能を見たことがないと言っていました」
「………………」
なんか凄い顔してる。ただの悪口じゃなくて事実だから否定できずにいるんだろう。
折角だから俺も畳みかけよう。
「親が子供を認知しない制度があるなら、子供が親を認知しない制度があってもいいと思う」
「一樹のツンデレ、ツンの方が圧倒的に多くてしかも的確に急所を狙うの。止めてほしいんだが」
やめるのはデレの方。
そしてこれは草食系男子の弊害だな。
こうなりたくなければ肉食になるべき。
「それで支倉トミー。お前一人で俺達に挑むのか?」
「やーやー。残念ながらヴォクはあなた達3人どころか1人も倒すことができません。ですから交渉にきました」
「そう。ただ俺も交渉に来たんだ。支倉罪人の嫌がることをして、その後殺したいんだけどなんかいい案ないか?」
お互い交渉しに来たんだ。きっとうまくいく。
「苛烈な息子さんですねえ?」
「まったくだ」
「交渉ですが、それは無理です。ヴォクらは皆、御爺様のことを尊敬していますから。裏切るようなことなんて出来ません」
すると支倉トミーはどこからか銃器を出現させた。
取り出す瞬間を見れなかったからこれがギフトなんだろう。
「これがヴォクのギフト。課金術師。能力は……その場でモノを購入できるってことです」
黒いカードを見せびらかす。
そのカードでたった今銃を購入したのか。
「で、そんな弱い能力で挑もうとするのか?」
「やーやー。強さは最後まで聞いてから判断しないといけません……よっ」
発砲。だがそんなの超悦者の前では…………
「!!!!」
ギリギリのところで回避。
「お前……!」
「やーやー。お察しの通りです。ヴォク……いいえ。ヴォクら支倉は超悦者です」
今の攻撃、直撃したらダメージが確実に入っていた。
「確かに、ギフトだけで強さを判断するべきじゃなかった。だが超悦者なら何とかなると? 俺達もそうじゃないとは考えなかったのか?」
「やーやー。当然考えていますよ。そうですとも」
両手に手榴弾。
超悦者において自分の攻撃で、自分が不利になるようなことは考えない。
だがそれは自分がであり、それを敵に利用されたら話は変わってしまう。
「おい、この部屋でその爆弾をぶっ放したらお前もタダじゃ済まないぞ」
年長者の父さんが第一に動く。
超悦者は誤魔化しの体術。
誤魔化せない事態になったら封じられる。
これが超悦者相手の適切な回答。
まあ、実力差が離れているとそれすらぶっちぎって使われるが。
超悦者では無かった俺がツッコミを入れても父さんが普通に使えたり、神薙さんの存在がその証拠。
「やーや。分かっていますよ」
「ならば防御しながら普通に攻撃するのか?」
「あり得ません。こっちも攻撃の超悦者を使わないとあなた方も超悦者で防いでしまうでしょ?」
ならば自爆か?
自爆はなかなか重いから、気合を入れて防がないとな。
「こうするんです!」
手榴弾を投げた。
炸裂する前に、シュウは言う。
「おれ攻撃特化だから……どっちかおれ守ってくんねえか」
確かに。雷電の球系列は『論外』。こういうのを防ぐには混沌回路が必要だが、回数制限がある能力をこんなところで使いたくないだろう。
「じゃあ、オレが時雨を守ろう。一樹は別にいいだろ?」
「ああ」
因みにこの間、0.01秒。
取りあえず俺は占里眼。そして二次色の人生
変えられない未来を視るギフトと、想像したモノを創造するギフト
まず写真のように俺が見たいモノを展開する。
その未来を俺が視る。
今回の場合、爆弾と爆弾が何やかんやで衝突して、俺がいる所に衝撃が飛んでこないシーンをイメージ。
これが普通の人ならばこれから能力を発動しないといけない『運命』が待っている。
だが俺は『運命』なんて無視できる。
ギフトを発動するという未来を無視。
だが耐性というのは自分がどうするのかということ。
発動させないんじゃなく、自分が効かないだけ。
俺が視た『爆弾と爆弾が何やかんやで衝突して、俺がいる所に衝撃が飛んでこない』という『運命』が残る。
爆風や爆熱が部屋の中に拡散する。
しかし、そのどちらも俺の所には届かない。
見たい未来を現実にする。
要するに現実改変。
ただ、現実改変するギフトがあるのならその能力は恐らく『世界』以上。
こっちのは『運命』。執行能力は下。
それと能力2つと耐性を使っての発動なのでかなりめんどくさい。
取りあえずこれからはこのコンボを都合のいい聖域と名付けよう。
「天時新命。空間を操作しオレ達には攻撃が届かないようにした」
特に心配もしていない。この程度の回避は出来て当然。
「やーやー。少しでも傷をつけられればと思っていましたが……やっぱ難しいですね」
「しかしなぜお前も無傷でいられる。確実にくたばる威力だ」
部屋はボロボロになっているのに、支倉トミーに一切傷がない。
「なあに。簡単なことです。ヴォクのギフトではなく、違う人のギフトを使ってもらっただけです」
「それはどんなギフトだ?」
「やーやー。いけません。家族とはいえ他人。そしてそのギフトを敵に教えるわけがないでしょう?」
「確かにな。でも早いとこ話をしたほうがいいんじゃない? 少しでも長く生きたいだろ? 支倉のことだ。能力のクラスは知っているんだろ?」
あいつのギフトは『論外』に違いない。
勝てる道理など何一つない。
「分かってますとも。ですが勝てないこと、挑まないこと。一致はしません」
「そりゃそうだ。お前分かってんじゃねえか」
シュウが同意しながらうなずいた。
「イツキ、明日やっぱ時間作ってくれねえか」
「分かった。明日な」
シュウってやつは。仕方ないなあ。
「まったく、男の子ってなんで勝てない戦いって好きなんだ」
ここにいるのは全員男子だがその声は女性のそれだ。
「……ユエン!?」
「助太刀に来てやったわよ。といっても助太刀というより殿の兵が足りないからその増援に来た……いいえ、それでも無力だから意味ないか」
ユエンと呼ばれた女性は少し動けば中身が見えそうなくらいのチャイナ服を身に着け、かなり踵の高いヒールを履いてこっちに歩いてきた。
かなりむっちりしててエロい。
「こいつが無傷な理由しりたくない?」
「知りたい」
「それは私のギフトの力によるもの。被蔑人形。人形にダメージを押しつける所謂『法則』の能力」
胸元の隙間からてるてる坊主を取り出す。
その人形はまるで爆撃に合ったかのように燃えさかれていた。
何より恐ろしいのが『法則』
どんな攻撃だろうが人形にダメージがいってしまう。
そして重要なのはその数を指定していないこと。
多分だが、幾つでも作ることが出来る。
だから一個無くなったところでこいつは気に掛けなかった。
そしてこのユエンという人もギフトで自分を守っているに違いない。
人形が残っているまで無敵。
ただ気がかりがある。
「そりゃ他人に言いふらしたくなる良い能力だけどさ、何でここにやってきた? 後衛が前にくるなんて殺してくださいって言っているようなもんよ」
俺の見立てだが、腐っても支倉。頭が悪く生まれたとしても調教されていると思っていたんだが勘違いだったか?
「そ、そうだ。ユエン。なんで…………」
「取引よ。こいつを見逃してくれたらかわりに私が何でもするから」
「…………」
「私そういうの得意だから」
それは誇って言うべきことじゃない。
本来なら論ずるに値したいところだが、このトミーの顔がとっても面白い顔になっているから少しだけ考えてやる。
「オレはいい。ロリコンだから」
「知ってた。俺もいいや。こんな性格悪そうな女を抱くくらいなら殺した方がマシ」
「あんたら男としてどうなんだ」
据え膳食わぬは男の恥というが、人を辞めるくらいなら恥晒しでいいです。
「シュウはどうなん? 30分くらいなら待っておくが?」
「こういうの男が言うのはどうかと思うが……好きでも無い女を最初に抱きたくねえ」
「んぅぬんんんんうぅぅううう」
ほぼイキかけました。
「一樹にキモイキモイ言われ続けたオレだが、一樹も大概だと思う」
「その……これでも親友なんでノーコメント」
父さんが何か言っているが気にしない。
「そうだ。その通りだ。俺が間違えていた。こんなのを相手にしたら穢れてしまう。やっぱ友人はともに高め合ってこそ」
「いやそんなことおれ言ってねえ」
能力的ではなく精神的にも更に一ステージ駆け上がった。
「嫌がらせ目的で来たからんだから、豚でも馬でも触手でもけしかけてそれを録画して見せてやろうかって思っていたが、シュウのおかげで気が変わった。二人とも等しく殺してやる」
妖精は告げている。
時代は男女平等だと。
「逃げろユエン! ここはヴォクが」
「もういい。どうせ逃げられないならトミーと一緒に死ぬ」
「ゆ、ユエン……!?」
あれ? ひょっとしてこいつら親族間でデキちゃってる?
「きっも」
あーやだ。
かゆい。
折角絶頂に近い気分だったのに水にさされた気分。
この被蔑人形の対処法は簡単。
死ぬまで殺し続ければいい。
早速実行しよう。
「もういい? だったらさっさと――――」
「ちょっと待て」
「どうした父さん?」
「それ、オレにやらせてくれないか」
「本当に急にどうした?」
「やっぱ自分の息子が平然と人を殺すの見たくないかなって」
「今さらだろそんなの」
「そうなんだが……それでもやっぱ思うところがあった。これでも父さんは殺し屋なんだ。殺すのは得意。餅は餅屋に殺しは殺し屋に任せてくれ」
「あっそ、ならいいけど取り逃がしてでもしたら――――」
「愚問だ。そんなことオレがするわけない」
折角のこの機会。
そろそろ父さんの本気というか実力を見たいと思っていた所だ。
お手並み拝見といこう。
次回の更新は今週の祝日のどこかに。
頑張ったので期待してください