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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
7章後編 プロジェクト ノア
153/351

イヌマユバーサーク

こんなにまじめに書いたのは連載以来初めてです。

その所為で長くなりましたが、満足のいくものがかけたと自負します。


なお、もはやいうべきことでは無いですがこの小説はR-18よりのR-15ですので15歳未満の方は5:5評価を入れてからブラウザバックをお願いします。



「気分が悪い。吐きそう」


 その日の特訓を終え玄関で出迎えてくれた真百合に対しての第一声がこれである。


「どうしたの? 本当に顔色悪いけれど」

「あ、うん。何があったか説明するけど真百合は安全だって言うのは最初に保証する。いい?」

「いいわ。では改めて聞くわね。何があったの?」

「被曝してきた」

「……そう、なの」


 真百合が引くという珍しい状況を見て楽しみたかったが、そんな余裕がないほどに俺の頭の中がガンガンする。


「今日真百合が分け分かんないことしてくれたおかげで、俺の中の常識がまた一つ砕け散った。だから今日予定してあった光速移動も5分で完成した。真百合のおかげだ、ありがとう」

「どういたしまして……で、いいのかしら?」


 逆に言えば俺がこうなっているのは真百合の所為でもある。


「だから明日する予定だった特訓を前倒して、それが核の攻撃に耐えるってこと。新しく世界を創ってそこで原爆水爆入り乱れでドンパチやって、そこで座禅を組みながら耐える特訓をしてた。あの馬鹿ロリコン、死んでもどうせ戻れるからって手加減なく爆破しやがって今度母さんにあったら、浮気してたってデマを流してやる。実際その所為で5回くらいは本当に死んだ。でも終わったら検査して、忌まわしき神薙宅まで出向いて椿さん……ものすごい治療能力を持っている人に見てもらったから真百合たちに影響はないと保証する。ただその時受けた熱とか放射能とか真空状態での活動とか爆風とかが頭から離れなくてな」


 というわけで頭の中が物凄いぐちゃぐちゃして気持ち悪い。


「多分一日寝たら治ると思うからそっとして----」


 おいてくれと言おうとしたが、そっとしてくれない軽い事件が起きた。


「バウ ワゥ ググワゥ」


 買っているゴードンセッターという犬種の大型犬が俺に向かって吠え始めた。


 確か名前はレノンだったはず、そろそろ寿命が近いので最近は大人しいと聞いていた。


 そんな犬だったが、なぜか俺に吠え始めた。


 犬は嫌いじゃないが、人間様に吠えるとは言い度胸だ。

 忠犬ハチ公みたいに秋田犬に変えてやる。


 獲った獣の皮算用アニマルマネジメント


 動物に変えるギフトだが、別に自分がなんて指定されてない。


 残り少ない余生を人間様に盾ついた後悔の念で過ごすがいい。


「あっ」


 目測を誤ってしまい、狙いが犬から真百合にチェンジ。


「…………ワンワンワンワンワン!!」


 見事真百合は秋田犬になってしまいましたって……!!


獲った獣の皮算用アニマルマネジメント


 急いで人間に戻す。


 服は脱げてしまったが何とか人型に戻すことに成功した。


「セーフ?」

「客観的に考えたらアウトになると思うわ」


 真百合の頭から犬耳が生えている。

 秋田犬のような立派なお耳をしているのだった。


「もう一回……獲った獣の皮算用アニマルマネジメント


 犬の尻尾が生えた。

 そのピンとたった尻尾は勢いよく左右に揺れていた。

 それこそご主人様に遊んでもらっている犬のような動きだ。


「あれ?」


 調子が悪いせいか狙い通りにギフトが作用しない。


「……寝たら体調が戻るのよね? だったらまた明日治して。正直今の嘉神君だと足掻けば足掻くほど泥沼に沈みそうで」

「分かった。そのごめん」


 真百合のいうことが一万里あるため素直に従うのだが、尻尾や耳を生やしてしまった申し訳なさがある。


「いいのよ、気にしないで」


 ありがとうございます、お優しい真百合様。

 これ場合によっては一発実刑だからな、頭ぐるぐるしてそんなこと考える余裕ないけど朝起きたら罪悪感で自殺する可能性すらある。


「また明日、お休み」

「お休み~」


 シャワーだけでいいや。さっさと寝よう。




 zzz


「ワンワンワンっ」

「んぅ………誰だ。眠いんだ静かにして……ひゃんっ」


 首筋を舐められ一気に目が覚めた。

 すっごい間抜けな声を出してしまったが、一体何者だ?


 折角気持ちのいいベッドで寝ていたのに、こと次第によってはただじゃおかない。


「ゥゥアン」

「…………」


 それは首筋を舐めるのをやめ、頬を舐め始めた。


 くすぐったい気持ちを我慢し、正体を探る。


 闇夜に光る濃い藍色の髪。

 その小さな下着でよく押さえつけている張りきれんばかりの胸。

 陶芸細工のようにつややかな肌。

首輪型チョーカーを首に装着。


 そいつの正体は真百合だった。


 普段は犬っぽいところがあると思っていたがついに本当に犬になったのか。


・ ・ ・


 これ俺の所為だな。

 どう考えても俺の責任。


 先のギフトの副作用でこうなったんだな、うんうん。


「洒落なんねえぞ」


 宝瀬家の娘を犬にしたなんて知られたら、首が幾つあっても足りない。


「 !! グルルル ハッハッ」


 何やら獲物を捕らえたようで、顔を舐めるのを止めとある一点を睨んだ。


 その視線の先には俺がYシャツ以外で身に着けている唯一の服……の向こう側。


「バッウ!!」


 その姿はまさに猟犬であった。

 獲物を襲うかのような、まさに狩る側の移動。


 それを見て、体をひねらせベッドの下に転げ落ちる。


 猟犬だったから超悦者で回避できた。

 真百合だったらそのまま食われてたな。


 着地するのと同時に再びこっちを狙う。その前に


「お座り」

「ワン」


 冗談で言ったのに本当に座った。

 こうなったらどこまで通じるのかを確かめよう。


「お手」

「ワン」

「おかわり」

「ワンワン」

「伏せ」

「わぅ~ん」


 従順な超いい子。

 理性はないが言葉は通じるのか?


 頭のいい真百合が元だから賢いのか、そもそも頭の中身が真百合なのかが分からん。


「俺のいうことわかる?」

「ワン!」


 分からん。


「真百合としての意識あるなら3回回ってワンといって」


 くるくるくる


「ワン」


 あるらしい。


「アゥゥアウ……ああ―――ご主人様ワン」

「シャベッタアアアアアア」


 まさか喋るとは思っていなかった。

 でも一呼吸いれて考えてみると、体は尻尾と耳がついている以外は完全に人間なんだし、そりゃ話ことはできるよな。


「ご主人様~、お散歩に連れて行ってほしいワン」


 猫なで声でお願いをするという器用な真似をするなこの犬。

 しかし、理性が犬と人間が混ざり合っているのかな。


「おさんぽ。おさんぽ」


 「さ」と「ち」って結構似ているよな、


「ご主人様聞いているのかワン?」

「いいや、絶対に聞かないようにしてる」


 聞いているが反応したら負け。


「お願いだワン。お散歩に行きたいワン!!」

「こら、騒ぐな!!」


 防音設備はしっかりしていると思うが、今は扉が開いており音漏れする可能性があった。

 今の状況を他人が見たらどう見えるかというと。


・耳と尻尾を生やした美少女

・身に着けているのは下着と首輪

・犬の様にお座りをしている

・その目線の先にはYシャツとパンツの男


 数えダブル役満はありそうな誤解しない方がおかしい状況。


「ご主人様ッン おさんぽおさんぽにいきたいワン!!」


 さっきよりもどんどんボリュームが大きくなっている。

 犬のくせにチキンレースを仕掛けてきた。


 なお、どちらが負けても俺の方のダメージがデカい。

 だが人間の精神力を舐めてもらっては困る。


「絶対にチキンレースには屈しない!!」




「チキンレースには勝てなかったよ……」


 女騎士もにっこり(アヘ顔)の速さで屈した。

 だって仕方ないもん。

 物音に気付いた使用人がこっちの様子を見に来て顔を真っ赤にして逃げていった。


 どうやらあの使用人は俺達が情事を働いていると勘違いしてくれた。

 それはそれで困るのだが、男と女がベッドプレイの一環として犬の恰好をさせるのと、強引に力技で精神と肉体を犬にするのでは鬼畜度が違う。


 見つかった瞬間、真百合を連れて逃げた。


 屋敷内は使用人が複数いそうで、かといって敷地内の庭は警備が厳重と。

 ならばもうこの屋敷にはいることができず、一旦俺の家まで回廊洞穴クロイスターホールを使い次元に穴を開けテレポート。


 なお、服を身に着ける時間が無かったためお互いに下着+αの恰好をしてしまっている。


「おさんぽおさんぽ♪」


 尻尾をふりふりさせながら、これから散歩に行くんだと疑わないまゆりん。

 本気でNOと言いたいが、ここでそんな事言ったらわき目も振らず大泣きするだろう。

 そうなったら近隣住民が様子を見て、発見。そのまま社会的死が待っている。


 ギフトで何とか解決できたらいいが、吐き気と頭痛がまだ治まっていない。

 さっきはたまたま成功したが、次も上手く発動するとは限らない。


 あと数時間眠れば回復できると思うが、今の真百合から目を外すわけにはいかないのは火を見るよりも明らか。


 じゃあどうするかといったら眠ってもらうしかない。眠ってもらうためには疲れてしまうしかない。疲れてもらうためには散歩に付き合おう。


 まさかの散歩をさせるが最適解と導いた。頭の中身が沸いてるし今もそんな気分でいる。


 せめてお互いに被害が小さくなるようなプランを考える。

 ここから人通りが少ない道を通っていけば……目的地はあそこだ。


「公園まで行くぞ」

「ワンワン!」


 小学生くらいなら野球をすることができそうな公園があり、ここからなら家の塀に挟まれた人通りの少ない小道をつたっていけば徒歩10分くらいでたどり着ける。そこを目指そう。




 空には雲が多く星や月はその奥に隠れて、それはまるで天が俺達を闇夜に潜めるよう応援しているかの様。


 しかし天が応援しようとも人の世はそれを許さない。

 街灯がスポットライトの様に俺達を照らし続ける。


 闇と光のコントラストはいつでも何かがやってくる可能性を秘め、常に周囲に気を配らないといけない。


 女は人の証である二足歩行を辞め、掌と膝小僧をアスファルトにつけながら前に進む。靴も手袋もなく衣服は闇夜と同じ色をした下着のみであった。

 その下着も己が身を隠すとはお世辞でも言い難く、取りあえず見せてはいない程度の面積しか存在しない。


 それだけでも異彩を放つのに、何より目を引くのが頭には茶色の犬の耳が、そして左右対称に分けたであろう臀裂の先には大きな尻尾が覗かしている。

 一歩進むごとに右に左にゆれる尻尾は振り子そのものだ。


見失わないよう数歩前に女を歩かせそれでも気を配りながら歩調を合わせ歩く。


 頭の中は速く公園につけと意識すればするほど、無限淵アンタッチャブルを使われたかのように、1秒が何倍何十倍にも感じる。


「アンワンワン」


 そんな俺の気を知れず子供が遊びに行くかのように楽しそうに一歩一歩前に進む。


 人の気配。


「こら、こっちへおいで」

「ワン」


 足下へ呼び戻す。命令してもないのに脛を擦られ、こそばゆい。


 前からスーツ服を着た青年が歩いてくる。

 暗くて顔はよく見えないが、足取りがおぼつかない様子を見ると、上司に飲みに誘われた帰りなのだろうと推測した。


 久しぶりに感無量ナンセンスを使う。

 このギフトは感覚の拒否。視覚を拒否すれば何をしても見えなくなり、聴覚を拒否すれば何を言っても聞こえなくなる。


 これを真百合に使い、真百合を見えなくした。


 最初から使え何て言われそうだが、対象が全体なため使用者の俺も見えなくなってしまう。超悦者を使いこなせるようになれば問題ないのだが、使えはすれど使いこなすまでの境地には至っていない。


「うぃい~ヒック」


 どうやら気づかずに素通りすることができた。

 息の音でばれるかもと思ったが、酒に酔っていてそこまで気にしなかったのは幸運だ。


 さて、見えなくなった所で解除。


 いない。

 見失った。

 どこいった?


「……っ!!」


 見つけた。

 場所は数メートル先にある電柱の下。


 そこで真百合は四つん這いのまま片足をあげていた。


 犬が電柱のそばで片足をあげる。そこまでキーワードがあれば誰でも分かる。


 何をやろうとしているかすぐに察した俺は急いで止める。


「雌犬のくせに片足上げてションベンしようとすんじゃねえよ!!」

「きゃうん」


 ジャンピングキック。


 とんでもなく酷いことを言っているが、向こうもとんでも無く酷いことをやろうとしていたためトントンということで納めて頂きたい。


 しかし蹴るのは良くなかった。

 これだと愛ご団体に因縁をつけられてしまうな。

 優しい言葉でなだめることにしよう。


「こら、駄目だぞ」


 軽いチョップで自らの間違いを正させる。


「嫌だワン。おしっこしたいワン」


 ビンタした。

 尻尾がもっと激しく揺れる。


 再び降ろしていた足をあげた。


 桃尻を引っ叩く。

 言葉で言っても分からない奴は肉体言語で語り掛けるしかない。

 苦渋の決断である。


 こうすればきっと犬になった真百合も尻尾をしゅんとさせて落ち込むだろ…………………………………………………………………………


 千切れんばかりの速さで喜びを表現した。


 なんやこれ。俺の知っている常識とはかけ離れている。


 犬って叩かれるのを嫌がるんじゃないの?


 未知の恐怖を知った俺は危うくSANチェックをするところだった。


「あとちょっとで公園まで辿り着くからそこまで我慢しような」

「無理だワン」


 公衆便所で用を足たせようと思ったのに、この犬やはり犬なのか聞き訳が悪い。


「ご主人様、そろそろ限界だワン。これ以上歩いたら漏れちゃうワン」

「分かった。俺が抱っこしてやるから我慢しろ」


 叩いた時と同じくらいで尻尾が揺れた。


 ダムの決壊の恐れがあったが、電柱の下でされるよりかは問題ないだろうから仕方のないリスクである。


 お姫様抱っこをして、反辿世界リバースワールドで世界を止めながら目的地まで走りながら向かう。


 今気がついたんだんだが、最初ミスをしたときに巻き戻せばよかったな。

 どうしても反辿世界リバースワールドは止める能力だと先入観があって、意図的に巻き戻す感覚がないんだよな。




 公園の公衆便所までなんとか無事?に辿り着いた。

 その間に胸元を犬の様に舐め続けられたが、こうなってしまえば誤差の範囲で見逃そう。


「女子トイレに俺は入れないから、一人で……」

「やだワン。ずっと一緒にいてほしいワン」

「ずっと一緒って、男子トイレにでも入るのか?」

「ワン」


 肯定でいいんだよな?

 外で突っ立っているのは見つかる可能性が高いため、取りあえず一緒に男子トイレに入った。

 こういう所でのトイレとしては比較的綺麗な部類になるのだろう。


 壁には油性ペンで書かれている落書きがあるが、スプレーで書かれていないだけマシか。


 長居をすればシャツに染みつきそうなくらい芳香剤がきつくはなにつく。


 流石にこのような場で四つん這いにさせると、本当にまずいため無理矢理直立歩行をさせかつスリッパを強引にはかせたが、それでも……ねえ。

 どう取り繕ってもアウトにしかならない。


 トイレの中には誰もいないと油断したため、個室のドアが開くのに対応できなかった。


 脂ぎったオッサンがトイレの個室からでききた。

 くさい、でぶい。生え際が頭のてっぺんまで侵食している。

 見るからに不潔な、男性の俺ですら生理的嫌悪感を抱く。


 そいつがこっちを見て、一瞬だけ固まったがすぐに薄気味悪い顔を浮かべた。


「おい兄ちゃん、楽しそうなことやっとるやないか。ワイも混ぜらせえや」

「あ゛?」


 上段回し蹴りをぶちかまし、便座の中にシュート。


 便座が可哀想だが、丁度いいゴミ箱がここしかなかった。


 こいつが扉を開いた途端にたばこの煙が目に見えたのに、このラードはそのたばこを持っていなかった。確認すると予想通りトイレの中にポイ捨てられたタバコがあったため俺の行為が正当であったと保証される。

 こんな汚いところとはいえ、公共の場。そこでタバコを吸いあまつさえポイ捨てするなど言語道断、糞からやり直せ。


「人間のトイレの仕方はわかるな。人間のようにするんだぞ!」

「くぅ~ん、分かったワン」


 隣の個室に半ば無理矢理押し込んだ。


「あ~あ~あ~あ~」


自主的に発声をして、音を聞かないようにする。

 その間、これからどうするかを考えた。


 今からでも遅くないから人間に戻すよう能力を使おうとも考えたが、流石にこんな場所で戻すのも非道がすぎる。

 そもそも真百合のことだから自力で何とかしてくれるなんて考えも芽生えた。


 根拠としてはアスファルトに膝をつけていたのに、痕一つついていなかったため超悦者スタイリストになっているんじゃないかと、そしてなっているなら対処しきれるんじゃないかというのがある。


 そんな希望を抱いていると扉が開きちょっとだけ期待したが耳が生えているのをみて希望は無事打ち砕かれた。


悲しいなあ。


「…………」

「どうした? 眠くなったか。眠くなったんだよな? 眠くなったはず。眠くなったといえ」


 大人しくなった真百合犬をみてもう一度だけ希望を抱く。


「……ぜ、全然だわん。もっと遊びたいわん」


 心なしもじもじしているように見えたが、今は俺の希望が完膚なきまで粉砕されたことに打ちひしがれ気にしている余裕なんて無かった。


「あそんでほしい……わん」

「遊ぶってフリスビーでもするのか?」


 小さくだがはっきりと頷いた。


「もうどうにでもなれ」


 この流れになってしまったらもう断れないというのは学習してしまった。


「そのかわり、満足したら家に帰るぞ」

「分かったわん」


 闇夜の中でも見えるよう蛍光色のフリスビーを作り出す。


「とってこーい」


 公園の広場めがけて投げた。


「わんわんわん」


 綺麗なカーブを描き重力に従い地面に墜落。

その落ちたフリスビーを口に咥えて俺の元まで届ける。


「良く出来ました。ほーらよしよし。愛撫してやる」


 愛撫は国語辞典で撫でさすってかわいがることとある。

 別の意味を考えた人は心が毒されているため反省すること。


「っっっっっ!!!?!?!?!」


 異様に驚いた素振りを見せたが……すぐに大人しくなった。


 ここまで来たら戻った時に真百合が覚えているかどうかであるため、諦めに近い達観が今考えていることである。

 記憶があやふやだったら夢だってことにして押し切る。


「ほら、腹ばいになって」


 夏の暑い日だが、夜風にあたり続けたらお腹が冷えてしまうだろう。

 女性はお腹を冷やしてはいけないと聞くためそこを温めてあげるという善意。やっぱ俺って紳士だな。


「早くしろ、ご主人様のいうことを聞けないのか? この駄犬」

「わ、わんわん」


 そして俺も人間たるもの。学習はする。

 下手に出たら調子に乗るというのはもう分かった為、こう強く言えばおとなしく従う。


 ほら、言われたとおりに命令を実行した。


 背中を地面につける、通称へそ天の格好。


 数回ほど撫でただけですぐにやめる。


 やめたときに残念そうな顔をしたのを俺は見逃してはいなかった。


「してほしい? して欲しいなら、してほしいといわないとしてあげない」

「……してほしいわん。いっぱいいっぱいご主人様ほしいわん」

「そうか。なら好きなだけなぶってやるよ」


 おなかだけではなく、ほぼ全身を撫で回す。


 その間


「あぁう……あっ!くぅ……ん っぁあ!!」


 となにやら危ない声を出し、危ない気持ちになったが自制の精神を忘れない。


 実に10分ほど撫で続け


「っんぅぅぅ!!!!」


 ばたりと浮かせていた手足が地面に落ちた。


痙攣

汗がびっしょり

主に下半身。


 全身の汗が下半身までつたっていったのかな。


「あ。おーい」


 呼吸はあるが意識はない。

 やっと寝てくれた。

 最初からこうすればよかったな。


 無事ミッションコンプリート。

 家に戻って寝よ。俺ももう眠い。




 朝起きてからの一言。


「…………よし、死ぬか」


 心は負の面で晴れやかだった。

 マイナス方向に一直線である。


 でもことを起こす前に、真百合の安否を確認して置かないと。

 最低限の責任は取らないといけない。


 結局昨日というか今日は、真百合を俺が使うベッドで寝かせ、俺はカーペットの上で眠った。

 尻尾の有無の確認。あったときは元に戻さないといけない。


 恐る恐る覗いてみると、まだ真百合は寝ていてその美しい体には耳や尻尾はついていなかった。


 あれは期間が過ぎれば勝手に消える能力だったようだ。

 長い間使っていなかったし、まじめに使う気もなかったから今はじめて知ることになる。


 後は、意識と記憶の有無。


 ベストは昨日の夜のことを一切覚えていないこと。ベターは覚えているがあやふやで夢かもしれないと押し切れる程度であること。

 それ以外はバッドだと考えていい。


 そういや語尾にワン? わんだっけ? なんか途中で表記が変わったんだよな。

 登場人物にすら誤字を指摘されるってどういう神経をしてるんだ。


 計画を立て終わったのとほぼ同時に、真百合の目が開いた。


「おはよう。早速で悪いんだけどどこか体調が悪いところない? 具体的には頭とか」

「いいえ。そういうのはまったくないわ。すこぶる健康よ」


 そういうと自分の頭に耳がついていないのを確認した。


「俺も勝手に確認したけどついていなかった」

「ここは……?」


 あ、やっべ。

 勝手に部屋に入るのはまずいと思って俺の借りている部屋に連れ込んでいたんだった。


「昨日は確か嘉神君の元に……」

「夢遊病だと思う。期間限定の」


 ベスト、消滅。


「そうなんだ。やっぱりあれは夢じゃなかったのね」

「夢だよ。俺の部屋に入ってきた後はぐっすり寝てた」


 ベター、消滅寸前。


「………………」


 沈黙が長い。真百合の沈黙って限りなく真実に近づける答えを導くフラグだから主犯の俺としては裁判長の判決を待つ容疑者の気分。


「その……私昨日のことあんまり覚えていないの」


 お? これはいけるんじゃないか?!


「だから、忘れちゃいましょう。お互いの為に」


 裁判長、無能。真百合、有能。


 ベストではなかったが想定していたベターよりかはずっといい。


「それと、これからしばらく部屋にこもると思うから……食事は扉の前において置いてってメイドの誰かに伝えてほしいわん」

「了解……ん?」

「噛んじゃった」


 ならいいや。


 一瞬まだ昨日の犬化が抜けきれていないんじゃないかって思ってしまった。


「それと嘉神君はすぐにこの部屋から出て朝食をとっていて頂戴。出来れば部屋の掃除はめしべのギフトに任せて」

「お安い御用さ。ではさらばだー」


 余計な一言を言う前に逃げる。

 今はなんとか誤魔化せたが、早苗の件があるためとんでもないヘマをやらかす可能性が否定できない。


 今日一日はできるだけ距離を置こう。




 結局丸一日、真百合は部屋から出てこなかった。


 なにしてるか知らないし、なにも分からない。




獲った獣の皮算用アニマルマネジメントを出したときからこの話は書くと決めていました。

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