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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
7章後編 プロジェクト ノア
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宝瀬家のゆかいな仲間達 5

 俺と真百合が裸で抱き合う構図を弟君がキャンパスに描く。


 下半身は布で隠しているとはいえ、画像媒体ならお茶の間には流すことはできない格好だ。服の上から自己主張が激しい真百合の四肢は、服を脱げば俺の体にバイオレントしている。


 そんな真百合を描きたくなる気持ちも分かる気がしないでもない。


「すんばらしいですよ。お兄さんは正直期待してなかったですけど、なかなかいい肉体してるんじゃありませんかぁあ」


 テンションが高すぎな弟君を流し目で見る。


「でもそうよね。嘉神君は特に激しい運動はしていなかったはずよね?」


 質問ではなく確認をするかのように真百合が聞くのを、ほんのちょっとだけ気持ち話する差を感じた。ただ、真百合のことだからという理屈で説明がついてしまうので俺の思い違いだろう。

 俺がやっていた運動は、最近止めた朝のジョギングくらいだ。


 でもギフトを手にしてから辞めてしまった。


鬼人化オーガナイズとか使っていると筋肉質になるらしい」


 と、早苗が言っていた。

 早苗の場合は、筋肉が付くというより脂肪を消費するんだがな。


 よって動いて筋肉つける必要性がなくなったわけだ。


 更に更に、超悦者スタイリストの所為で二度と筋トレはしないだろうと思う。


「だからあいつの胸は寂しいのよ」


 一応訂正しておくが、早苗はCだ。間違いない。

 先週脱衣所で確認したからその情報の正確さは保障しよう。


「あんまり動かないでくださいね。写真撮ります」


 カメラの連射音が部屋の中でこだまする。


 鳴り止むのを確認してその場で気になったことを確認した。


「写真撮ったらからこれで終わりなわけ?」

「まさか。これは後で気になったところを加筆する為です。絵画が完成したらカメラごと捨てますから安心してください」


 一枚の絵を描くのに高そうな一眼レフを廃棄するなんてもはや驚くに値しない。


「ではこれから書き始めます。動かないようにしてください」


 これからじっとしないといけないわけだが、俺が冷静に保つために何か別のことを考えないといけない。そうしないと俺の母さん(小)が神薙さん(大)になってしまう。


「ねえ弟君」

「口を開かないでください」


 精神統一のつもりでしりとりでもしようとしたが駄目らしい。

 仕方がないから社会のことを考えておこう。


 世界2大財閥は支倉と宝瀬だ。もしその二つが合併すれば世界の半分を占めているといわれている。

 総資産は3:2で支倉の方が大きい。

 それぞれの特徴として支倉は外需、宝瀬は内需が主である。

 支倉は第一次産業第二次産業が、宝瀬は第三次産業が主要財源になっている。


 また支倉は謎の特殊合金など明らかにオーバーテクノロジーを作ることがあるが、これは支倉の創設者支倉罪人はぜくらざいにんが200年前に宇宙人から技術を盗み取り、それを現在に登用したなんて噂があるが真偽は定かではない。


 世界規模なのになんで日本の企業しかないんだとツッコミがきそうだが、それについては一つ仕方のない事情がある。


 ギフトホルダーは全世界に共通して人口の1%。どの国もその比率は変わらない。

 だが、その強弱はかけ離れており、ぶっちゃけ日本のぶっちぎり状態なのだ。

 超者ランクを見れば分かるだろう。


1位 王陵君子

2位 祟目崇

3位 嘉神一樹


 上位は全て日本姓が占めている(帝国が日本の子国であるのも要因)


 だから早苗の事件でジョセフランフォード並びコルネリアランフォードが攻めてきて死んだが、イギリスはかなり大騒ぎになっていたとのこと。

 彼らはその国ではトップクラスの実力なはずなのに、密入国したら死体すら帰ってこなかったという事件が起きてしまった。


 そのあまりにも魔境である日本に、海外からは『クレイジージャパン』『ラストダンジョン』『鎖国してください、何でもしますから』と恐れられているらしい。


 特に最近神陵祭出身の子供は、どこかの国の実力者が子供2人にボコボコにされるという能力者の心を折った事件が起き、更にその中の一人が宗教団体をぶっ潰し、牢獄を宿代わりに使っていたという根も葉もない噂が流れている。


 一体誰なんでしょうねと頭の中ですっとぼけていると


「休憩はさみます」


 早いなと思って掛けていた時計を見てもやっぱり早い。


「まだ20分くらいしか経っていないけどいいのか?」

「はい。20分ポーズを取ってもらって10分休憩を繰り返すんです。そうでないとモデルさんが疲れて動いてしまいます」


 美術館ですぐ疲れるのは歩いて立ち止まり再び動くという運動を繰り返しているためであるように人間動き続けた方が止まっているよりも楽だ。

そう言うことなのかな。


「正直俺は立ち続けても絶対に疲れることはないと思うから、真百合が大丈夫だって言えば問題ないよ」


 こういう時も超悦者は便利だ。

 こんなどうでもいいところで疲れるなんてことをしないで済む。


「それってひょっとして嘉神君が昨日言っていた謎の特訓の成果なのかしら」


 真百合には昨日特訓だけするって伝えて何をしているか伝えてなかったな。


「そうそう、超悦者スタイリストってやつ」

「…………それって結局どういうものなの?」

「なんかそれらしいこと言ってそれっぽい雰囲気になってそれを何となくやることができる体術」

「なんですかそれはぁ?」


 ナツミ(本人がこう呼べとの指定)が当たり前のリアクションを取った。

 口を開くと露骨に弟君が嫌そうな顔をするので、さっきまでずっと黙っていた。


「ねえねえ、ちょっと一回やって見せて」

「そうだな…………真百合、触ってみろ」


 正直そのあまりの早さに驚いた。条件反射で動いたんじゃないかなってくらいに高速で俺の体をめがけて手が伸びてきたがそこは超悦者。


「残念だったな、残像だよ」


 この程度の速さならどうということがない。


「なるほど、もう一回いい?」

「いいけど……何度しても無駄だと思うが」


 いくら真百合でも超悦者じゃないんだから、素のスペックでは捕らえられないだろう。


「……いくわ」


 わざわざ宣言して俺に触ろうとしたが、ほぼ光速移動で残像を作り真百合の背後に立った。


「ありがと」

「!?」


 体が宙に浮く。いつの間にか天地がさかさまになっていた。

 背後を取ったと思ったら逆に背後を取られ、しかも上空に投げられた。


「――――えい」


 両脚を掴まれ、頭を肩にのせるように置かれる。

そのままお互いの体重をかけて自由落下。

 この技を俺は知っている。


―― キン肉バ○ター ――


 確かに超悦者はそういう技だ。

 ゆ○理論の元ネタはプロレスだし、プロレスもそれっぽくそれらしくという雰囲気が存在する。


 真面目にやるならプロレス技になるというのは理にかなっている。


 だがそれでも…………習得速過ぎだろ


 1回だぞ!! 1回見せただけでモノにしやがった。


 一を聞いて十を知る、なんて甘いもんじゃない。

 一を知って千を得る。それがこの宝瀬真百合という女なのか!?!?


「痛くはしていないと思うけれど、平気?」

「あ、うん、あ~っあーあ。おう、へいき? 平気なのか? ありり?」


 絶対に平気じゃない。

 折れた。


 真面目に不真面目な特訓をしてきたのにこんなのってあんまりだろ?


「えっと……釈明しておくけれどこういうのがあるってことは最初から知っていたから。『帝国』の人達が訳の分からない動きをしているの見たことがあるの。だから見ただけで覚えたとか、そういう訳じゃないのよ」


 何度も見て理論を今知った。

 そんな釈明聞きたくなかった。


 最近忘れていたがテーマの一つが理不尽だってことを思い出す。


 これ超悦者だからまだいいものの、他のものだったらどんなに心が折れるのだろう。


「相変わらずの理不尽さです。流石は姉さまです」

「無力感を味わったのは何回かあったけど、挫折を味わったのはこれが初めて」


 しかも俺達の恰好がバスローブを被っているだけだから、余計に決められた時のショックが大きい。


「弟君。ちょっと休憩多めにとって。回復するのに時間がかかりそう」


 精神的に堪えた。

 回復するまでに時間がかかりそう。


「あ、私も。ちょっと鉄分取ってくる」


 真百合を見たくなかった(着衣がバスローブ一枚+心が折れたというダブル精神衛生の問題)が、真百合が顔を押さえて、そこから真っ赤な血液がぽたぽたと零れ落ちていた。

 しかもよくよく見て見ると


「はっ……ぁっ――はぁっ んぅぁ」


 呼吸が酷く荒く、汗? にしては粘液っぽい透明な液体が太ももを伝ってカーペットを濡らしている。


「なあ、このカーペットいくらくらいするの?」

「このブランドで、この大きさだと30万くらいですね」


 はいはいインフレインフレ。

 もうこれ以上マインドレ○プするのは止めてもらいたい。


「ところで弟君のギフトってどんなの? 持っているって話だったよな?」

「う~ん。まあ義兄さんならいいですか。誰にも話さないでくださいね」


 当然のマナーだ。

 別に法律があるわけではないが、皆他人の能力は黙っている。


 近くにいる妹に聞かれないよう小さめの声で俺に伝えてくれた。


絵場縫いダヴィンチモードって能力なんです。『時間』を保存するって能力なんですけど――――分かりづらいと思うんですが、分かります?」

「うんにゃ、全く」


 時間停止系の能力だろうか?

 真百合のギフトが『世界』の逆行で、父親である剣さんのギフトが『時間』の加速と聞いていたためそう考えるとバランスがいい。


「写真の中に入る能力という説明に理解は追いつきます?」

「それは大丈夫。イメージできる」

「その写真が【この地球のとある時間】だと思ってください」

「あ……何となく分かった。女湯の覗きに便利な能力なのか」

「そうですけど……!! そうなんですけど……!!」


 自分のギフトを犯罪行為に使えると納得され、不満があるようだったが理解してくれるという点では文句が言えないのだろう。

 例えば○○時○○分に風呂に入る真百合がいる。その時間にギフトを発動しておけばその後都合のいいときに止まってはいるが覗くことができるわけだ。


 どんなタイミングでも時間停止AVを作れると言えば、分かるんじゃなかろうか。

 最後の1シーンを取れないという弱点が存在するがな。


「弟君サイテー」

「僕でもこのギフト7割方エロ方面にしか役立たないと自覚してますけど……! 本人気にしているんですから」

「あ、そうなんだ」


 でも人類ってとっても偉大だから、大体のことはエロに繋がるんだ。


「それならますます1回ポーズを取れば終了じゃないか? 宝瀬の御氏族である弟君がそんなこと考えないなんて言わないよな」

「当然既に保存済みです。ですが、はっきり言って予備の予備です」

「どうして?」

「姉さまの言葉じゃないですが、見た物をただ描くだけなら写真でいいんです」

「でもだったら写真撮る必要もなくないか?」

「いえいえ。あくまでも保存した姉さまたちは人形です。血も心もないあの時そうだったという記録だけなんです。造形は姉さまと同じですが、僕に言わせてもらえば美しくない」


 確かに時間停止って瞬きとか口の半開きに対応できなさそう。


「とはいっても完成まで数日かかりますし、姉さまの時間をこれ以上使うわけには行きません。僕は絵画至上主義ですが、全体を見ることくらいの視野はあります。その時のための予備だと思ってくれれば幸いです」

「了解。実際俺は雇われている立場だからあんまり文句を言うつもりはないよ。ただ雇われているからには報酬は頼むからな」

「分かってますよ。ただ明後日以降でお願いします。今日明日はこれに取り掛かりたいので」

「そう。話は変わるけど、俺のギフト知りたいなんて思わない? 弟君なら教えてもいいよ」


 変態だが悪い奴じゃない。真百合の弟というのもこう評価で、教えても問題ないと判断した。教えてくれたんだからお返しに教えてやろうという俺なりの善意だったのだが


「あ、いいです。義兄さんは超者ランキング3位。とんでもない能力と把握しています。そしてあなたの情報を知ってしまえば僕に余計なトラブルが降りかかりそうで怖い。僕は絵を描ければいい。それ以外の起因なんていらないんです」

「そうなんだ。ごめんな」

「謝らないでください。教えてくれるなんて信頼の証です。その気持ちだけで十分」


 話をしていたら楽になった。


「お待たせ、休みはもういいのかしら?」


 いつもきれいな肌がもっとハリをして帰ってきた。


「ああ。次進めようか」


 それからは特にいうことはない。

 半日まるまるモデルになってあげた。


 今日一日分の出来を見せてもらったが、まあ今世紀最大の画家が多少の己惚れはあっても嘘ではないといえるくらいに中々の出来だったと、そして弟君も最高傑作になると自負していた。



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