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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
7章後編 プロジェクト ノア
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宝瀬家のゆかいな仲間達 4

これを書いたのが1週間くらい前、読み返して誤字が多すぎて笑った。

 何やら気配を察知し目を覚ます。覚ましただけで数秒何も考えないままの時間を過ごした後ゆっくりと体を起こした。


「起こしてしまいましたか。申し訳ございません」


 どうやら部屋にメイド服のめしべさんが入ってきて、それを察知したらしい。


「朝食のご用意ができたことをお嬢様に伝えようとしたんですけど……どうやら昨晩はお楽しみだったようですね」

「あ、そうですか。じゃあ起こします」

「駄目です。このまま寝かせておいてあげてください」


 そういうのなら寝かしておくが、しかし意外だ。

 勝手なイメージだが真百合って規則正しい生活をしてそうだったから。


「お嬢様基本的に寝不足なんです。こんなにもぐっすり眠るお嬢様は久しぶりにみました」

「そうなんですか?」


 真百合はそれらしい様子を俺に見せなかった。


「ええ。お嬢様は3時間程度で疲れが取れるらしいですけど、それすら取れていませんでしたので。酷い時は睡眠薬を飲んでおりました」


 初耳だった。

 真百合はそんなこと一度も俺に言っていなかった。


 とはいえいった所で俺に何かができるわけではない。


 今日こうやって眠っていることだって俺が何かをしたというわけじゃないんだから。


「起きたら朝食は既に出来ているって伝えておきますね」

「ありがとうございます。それともう一つ言伝を頼みたいのですが」

「いいですよ。何ですか?」

宝塚生罪たからづかなつみ様がご来客なされたと」

「分かりましたけど、凄い名前ですね」


 読みは兎も角漢字が子供につける名前じゃない。


「え? ええ。そうなのですが、お嬢様がすでにお話になられたのですか?」

「いいえ。こっちの話です。そう言うギフトがあると」


 ただのメタで知っただけ。

 使えるのは稀で且つそこまで重要じゃない時にしか使えないがな。


「かしこまりました。ではごゆっくり」


 スカートを掴みお辞儀を、その後音を立てずに扉を閉めこの場から去っていった。

 綺麗とか可愛いとかじゃなくて、あの人は品があるよな。


 真百合は寝てるし、折角だからトイレに言っておこうと立とうとしたがしっかりとがっちり掴まれて逃げれない。


 仕方ないのでそっとシャツを脱ぎ、トイレのついでに着替えをすますことにした。



 用事を済ませ部屋に帰ってくると既に真百合は起きていた。

 その際何やら俺の服を嗅いでいるような恰好だったが……まあ、目の錯覚だろう。


 俺から先に挨拶をして、すぐに挨拶をし返す。


「朝ごはん出来てるってめしべさんが。それと、宝塚生罪が来てるって」

「――――そう」


 反応を見るにそこそこ重要そうな人物なんだろうが…………

 まあ、いいや。今は。


「先に言ってて。女の子はここから時間使うから」


 そう言うのならばと、俺は朝食を用意しているであろう場所に向かう。


 正直もう勝手知ったる何とやらになっている。


 ・・・・・・


 ヒモ言うなし。


「おはようございます、お義兄さん」


 弟君が長拾いテーブルの一席で既に食事をとっていた。


 もはや何回目か分からない表現をする。

 相変わらず豪華な朝食だ。


 家でバイキングをするところ初めて見た。


 取りあえず食べたいのをとり、席に座る。


「弟君はいつまでいるの?」

「後5日程度は、ただ出来によって2週間から1か月くらいは居座るかもしれません!」


 朝っぱらからテンションがハイな弟君。


「そういや聞いて無かったけど弟君ってギフト持ち?」

「ええ。母さまと弟以外はギフト持ちです」

「つまり妹ちゃんもか」


 何気なく言った一言だが


「何言ってるんですか? 宝瀬に女性は姉さまと母さまの2人ですよ」

「ん? 確か真百合は妹がいるって……」


 その一言は間違いなく失言だった。


 弟君だけでなく近くにいた何人かの使用人が何とも言えない顔をされる。

 逆に残りの使用人は「え? 妹なんかいたの?」と言いたげな表情だった。


「…………姉さまのささやかな反抗なんでしょうね。ここならいいですけどくれぐれもそれを他所に言いふらさないでくださいね」

「でも真百合は―――――」

「純粋な宝瀬は5人。

宝瀬家現当主、宝瀬剣ほうせつるぎ

手遅れ末期病人、宝瀬マアラ

満場一致の継承権一位、宝瀬真百合

新世紀最大の画家、宝瀬剃刀

出涸らしのカス、宝瀬薙刀ほうせなぎなた だけです。くれぐれも間違いのないように」


 弟君は初めて俺に余計なことを言うなと言わんばかりの声で、俺を牽制した。

 さっきまでテンションが高かった弟君とは打って変わって人の上に立つべき人間がその業務を果たすかのような、間違っても高校一年が出すような声ではなかった。


 でもこれは宝瀬としては普通の格なんだろう。


 それと評価する人間としない人間でその差が激しい。


「なあ、そのことを詳しく聞いてもいいか?」

「ええ。こういってはなんですけど、実際はいますし。継承権どころか存在すら認知されない子なんですけど」


 やっぱ取りあえずはそれらしい人はいるんだ。


「お前達、下がってろ」


 弟君は使用人に盗み聞きしないようここから離れろと指示を出す。


 完全にいなくなったのを確認してから弟君は俺に話してくれた。


「分かっていると思いますが、オフレコで頼みますよ。これは宝瀬の最大の恥ですから」

「宣誓、誰にもばらさないことを誓う」


 片手をあげ宣誓する。


「七海という僕にとっての姉で姉さまにとっての妹がいたんです」

「七海? 七つの海? 生まれた罪じゃなくて?」

「・・・・・・どこで知った」


 その幼い顔からはかけ離れたドスの聞いた声・

 何だかんだでこいつも宝瀬の一員何だなと実感した。


 答えようとする前に別の人がその質問に答えた。


「ついさっきよ。ついさっき愚妹が我が部屋にやってきたわ」

「姉さま!! それは本当ですか?」


 扉から真百合と一人の女の子が入ってきた。


「紹介するわね。これが私の知り合いであり妹分であり遺伝子的な妹の宝塚生罪よ」


 紹介によばれてやってきたのは、真百合とよく似せた女の子だった。


 ただ残念ながらそれは似せているだけ、全く持って似ていない。


 真百合とペアルックの服装をしているが極端な話同じなのはそこだけ。


 髪の色を同じにしようとしたのだろうが、所々染め残しがあり地毛であろう蜜柑色というべき橙がのぞかせていた。

 また背丈も足りず10㎝ほど真百合と比べて低いのに、上半身の長さはそれほど比較対象と変わっていない。

 また胸も明らかに何かを詰め込んでいるというのが丸わかりだ。

 何より真百合と似ていないのは目線を髪で隠していること。こちらを見ようとも見せようともしない。


 例えるならモナリザとそれを美大の学生が真似して描いた落書きを見比べているようなものだろう。

 後者も絵としては上手いのだが本物と比べてしまったらゴミ同然。


 そしてなぜか本人に罪はないのだが、見ているだけでムカつきそうな意識すら芽生える。


「おいコラ。なに姉さまの恰好をしているんだ。まさか宝瀬に戻りたいなんて言うつもりか?」


 こいつは礼儀正しかった弟君だよな?

 本当にそうなのか、今この瞬間に立ち会わせると疑問が生まれる。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「謝ればすむって思ってるのか? お前はいつもそうだ。何かにとってつけて泣いて謝る」

「じゃあどうじろっていうんですがあ」


 泣きじゃくる宝塚生罪。

 見た目同年代の女の子が外聞厭わず無く姿を見て哀れだと思わずにはいられない。


 ただ、なぜか可哀想っては思えないんだよな。


「可哀想だって思わないでしょ?」

「お? 弟君も俺の考えを読めるようになったのか」

「まさかですよ。ただみんな同じこと考えるんです。こいつが泣くのを見るとみーんなイライラするんですよね」

「そう……なんだ」


 やっぱ俺が感じたことって間違いじゃなかったんだ。


「こいつにとって泣くっていうことは赤ん坊が何かを要求するのと同じなんですよ。嬉しくて泣き怒りながら泣き悲しくて泣き楽しくて泣くんです。泣き虫というより泣き鳥って言うんですかね。それを許されるのが赤ん坊までって気づいてすらいない」

「相当評価が悪いな。人様の家族関係だから他人に教えることでは無いのは重々承知だ。その上で聞くんだけど、聞いていいのか?」


 なんかこれより先は立ち入り禁止のマークを目前にあるのにカーナビがそのまま直進しなさいとアナウンスしている時の気分。

 車を運転したことないがな。


「いいわ。私が許可する……ただ今からする話を理解するために大前提を嘉神君は知っていなくてはいけないわ」

「大前提?」

「お母様、宝瀬マアラの事よ。ちょっとだけ言ったかもだけれどあれは病人ヤンデレって話をしたでしょう?」

「ああ。娘に嫉妬するんだろ? あり得ないよな」


 正気を疑っちまいそう。

 実際正気じゃないって聞いたが。


「それだけじゃまだ足りないわ。そうね、嘉神君は10歳の誕生日に親から特別な贈り物をされたことは?」

「ある。結構いい辞書をもらった」


 俗に言う2分の1成人式のことだ。


「私達はお父様とお母様が二人で映っているビデオを送ってきてもらったの」

「ホームビデオとかか?」


 お金持ちであるため特別な何かを贈るが難しいから、あえての思い出の品を贈るのだろうか?


「いいえ。隠し撮りされたお父様とお母様が性交するビデオよ」

「何やってんだ」

「それでね、タイトルに22XX年5月20日」

「確か真百合って誕生日4月1日だったよな……?」

「ふふ。そうよ、もう分かったと思うけれどお母様は私達に私達を仕込んだ時のビデオを送りつけやがったわ。よりにもよって10歳になったばかりの時に」

「ひでえ」


 そう言うしかないだろう。


「そしてこの行為は最初から計画していないと出来ない事、そんなことを平然とするようなお母様に起きた事件……事故と言った方が正しいんでしょうね。誰よりも被害者だけれど全ての責任は宝塚生罪にある。病んでいたお母様が壊れた話よ」


 前置きを済ませいよいよ本題に入る。


「正直に答えてほしいのだけれど、私とこの弟って兄弟に見えるかしら?」

「ああ。髪の色も鼻先も大体同じだからな。そうと言われたらそうだろうなって感想を抱くな」


 出来の良し悪しがあるとすれば、やっぱりこの姉弟は血のつながった家族なんだと思う。


「じゃあ、こいつと私は?」

「そりゃあ姉妹なんだから似てるところは…………」


 言われてみて気付く。


「本当に妹なのか?」


 胸はない。髪の色も青とは逆の橙。

 目も二重の真百合とは違い一重だし……


 似せようとしているだけで根本が全く違う。

 同じモチーフを描いているのに全く違う印象だ。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 あーあ、再び泣き始めた。

 何の脈絡もなく、またこいつは泣いた。


 謝ればいいと思っている日本人みたいに泣けばいいとでも思っているようだ。


 何というかまよちゃんを思い出す。

 つまりきっとロクデナシってこと。


「そう、似ていないのよ。こいつは全く私達とは。だから念のため私が5つか6つになるときにDNA検査をしたの」

「でも同じ親から生まれたんだろ?」

「そうね。私と妹は同じ母親から生まれたわ」


 同じ母親?


「ええ。産んだのはお母様ね。でも、その父親は違うの」


 え? 違うってことは……


「レ○プでもされたのか?」


 浮気や不倫をしないという前提をさっきしたので残る可能性はそれしか思い当たらない。


「まずお父様もそれを疑ったわ。でも違うと文字通りの身の潔白をお母様は訴えた。そこでもう一度別の機関で調べてもらったわ。それでも結果は黒。宝瀬七海は宝瀬剣の子ではなかった」

「……」

「もっと詳しく調べたらお父様の身内が父親だと判明したわ。今でも覚えている。あの時の家はまさに修羅場だった」


 一族全員が裏切った可能性があった。


「で、結果はどいつの子だったんだ? 叔父? 祖父?」


 誰が犯人だろうと最悪の結果は想像に難くない。


「誰の子でも無かった。この子の親は存在していない」

「存在していない?」

「バニシングツイン マイクロキメリズム」

「どちらも聞いたことない言葉だけど、どういう意味?」

「前者は双子の片方を片方が吸収する現象の事よ。これは結構有名だからそう言われてみれば聞いたことあるんじゃないかしら」


 何故か真百合は俺の感想を先読みできる。

 だからあえて言おう。


 そう言われてみれば聞いたことある。


「マイクロキメリズムは……簡単に言うとキメラね」

「キメラってあれだよな。人面犬とかペガサスとかの」

「う……う~ん、まあそれでいいわ。そういうの。じゃあキメラってどういう意味だと思うかしら?」


 キメラ? なんか抽象的には理解しているけどいざ言葉に出せといわれたら説明しづらいな。


「同一個体内に異なった遺伝情報を持つ細胞が混じっていることを生物学的にいうそうよ」

「へえ。つまり……どういうことだ?」

「つまりはバニシングツインが起きた時に遺伝情報がお父様からではなくその双子から学んでしまった。つまり宝瀬七海の父親は双子の兄弟だった」

「そんなことってあるのか?」


 生きていた中でそんなこと聞いたことないぞ。


「ごく僅かのそれこそ奇跡のような可能性ね。でもあってしまった。それがこの宝瀬七海」


 だから根本が似ていないのか。


「最初からそれを疑えばそれが正解だった。でもそんなこと普通出来るのかしら?」

「男視点の俺から言わせてもらえば、無理だろ。どう考えても不貞を疑った方がいい」


 確率の話だが一万に一人がとある病気にかかっているとする。そこでとある人が正解率99%の検査をすれば、陽性との診断結果が出た。この時その人が本当にその病気にかかっている確率はという問題がある。

 この問題を最初から知らずに直感だけで答えた場合、恐らく9割の人間が99%と答えるだろうが、正解はその真逆で約1%だ。


 なぜなら陽性反応が出る場合は2通りあり、1つは本当にかかっていて陽性と出る。もう一つはかかっておらず、誤診として陽性が出るという可能性があるからだ。


 具体的な数字を出せば1億人用意して、その中に1万人がその病気にかかっているとしよう。

 つまり9999万人が健康状態となるわけで、その人達が検査をすれば9999万の1%である99万人が陽性と出てしまうわけだ。

 逆に本当に陽性の人で正しい結果が出た人は1万の99%で9900人。


 だから陽性と言われてもそうじゃない可能性が高いというわけだ。


 この件もある意味同じだ。

 ごくわずかの遺伝子異常(99%)よりも、当たり前の不貞(1%)のほうが可能性がある。


 聡明であろう真百合の父親は当然の可能性としてそちら側を疑うわけだ。


「女性は身に覚えがなくとも、間違いなくその子はその女性の子なんです。でも男性の場合は違う。どんなに真摯に過ごしても、自分の子は自分の子じゃない可能性が残ってしまう。女性は子育てをするのってある意味当たり前だと思うんですよ。絶対にその女性の子なんですから」


 弟君はそんなことを口にはさんだ。


「正しくあり得ない方の可能性が証明されたのが疑われてから2週間後。それで二人は雨降って地固まる…………なんてことにはならなかった。お母様に深い傷が残ってしまった」


 自分の娘に嫉妬するような人が最愛の人に最低の行為をしたと疑われた。


 心中察することは出来ないが、それでも心の傷が大きかったことは想像に易い。


「でもこの一件誰が悪いのかしら。疑ったお父様? いいえ。そんな子を産んだお母様? いいえ。気づかなかった周りの人たち? いいえ。はっきり言ってこの一件はみんなみんな被害者なのよ」

「うん、そうだな」

「でも誰かが責任を取らないといけない。そこで白羽の矢が立ったのが、この生まれてきたことが罪として宝瀬七海。宝瀬家を破門され更に名前を改めさせられた。誰も悪くなくないけれど、強いていうのならこいつが生まれてきたのが悪い。宝を死に追いやって生まれてきたことが罪な存在。宝塚生罪が誕生したの」


 話を聞く限り本当誰も悪く無くて困る。

 それこそ正義のある所に悪があるがモットーの俺にとって耳の痛い話だ。


 ただこれもごくわずかの可能性として胸に秘めておくとする。


 そんなことを気に掛けていたら大勢を救えなくなってしまう。


「それに僕に言わせてもらえれば、姉さまじゃなくてこいつで本当に良かった。家の次男次女はポンコツですから」

「物の興味で聞くんだけどその薙刀って子はどんな子なんだ?」

「単純に顔がいいってくらいです。顔が良くて金持ちだから何をしても許されるけどそいつ自信は何もできないくらいの低スペックなんです」


 顔が良くて金を持っているなんてそれを世間一般では何でもできるって言うんだ。


「それで、話を戻すとしてなんでお前がここにいるんだ? 門を潜ることを許可されてなかったはずだ」

「うにゅううぅぅ」


 まーた泣いた。

 さっきまで静かだったのに、弟君から少し圧力をかけられただけで泣くのか。


 これ威圧感がある人が脅したらションベン漏らすんじゃないの。


 そしてこの宝塚はもうその質問に答えられそうにないので、真百合が代わりに答えてくれた。


「家出ですって」

「ゴミかよ」


 辛辣ゥ――と合の手を入れるのだが、


「どうやってやったんだ? 宝瀬のことだから結構厳重な警備をしているんだろ?」


 侵入防止と脱走防止の二重の意味で。


「しているのだけれど本気で脱走しようとすれば軟禁は不可能よ。車輪の下、ホイールオブ向日葵の乙女キャシャリン。入れ替える能力が彼女のギフト」


 その能力、どこかで一度聞いた覚えがある。


「覚えていないかしら? 前あなたが捕まっていた時に」

「思い出した。あの時か」


 俺が投獄されてた時に真百合が脱走手段として利用しようとしたギフトのうちの一つ。


「あの時知り合いって言ってなかったっけ?」

「ええ。知り合いに間違いないわ。それに最悪盗聴された可能性があったから余計なことは言えなかったわ」


 そういう所もちゃんと気に掛けていたんだ。


「それにこの子の能力、結構便利なのよ。『視認できる』以外に制限がないから。1tgの岩と1kgの石でも入れ替えることが出来るんだから」

「うわー便利」


 ただなー


 もう俺なら入れ替えるなんかしなくても1tの石を遠投できるくらいは出来るからな…………


 正直タイミングが悪すぎた。


 今はめしべさんのギフトが欲しい。


「これから忙しいからかまってあげられないけれど、私の邪魔をしないというのならここにいてもいいわよ」


 おなかをすかせた赤ん坊がミルクをもらったかのように、泣き顔が晴れ笑顔になった。


「姉さまは甘すぎます」

「妹じゃないかもしれないけれど、それでも身内なんだから。それに本音を言えば剃刀も家に置きたくないのよ?」

「あ、はい。ごめんなさい」


 強いなあ、ほんと。

 こういう時の真百合は強い。


「まあよくよく考えてみれば存在しないのと同じように扱えば問題はないわけですし。それで、いつから始めますか?!」


 弟君も納得してくれたようだった。

 そしてこのテンション、なんの話をしているか分かる。


「俺はいつでもいいけど、モデルになる前はシャワーを浴びさせてもらうからな。真百合は?」

「そうね、私も嘉神君と同じように、シャワーを浴びようかしら。折角だから一緒にどうかしら」

「なんか性交渉する前のカップルのような会話ですぅ。はわわ――すみませんでしたぁ」


 誰も何も言っていないのにまた泣き始めた。

 勝手に泣いて勝手に傷つく。


「そんなことしなくても風呂は複数あるんだから……あっ」


 何やらゴゴゴゴと音を立ててそうな効果音が真百合の近くで聞こえた。


「――――すみませんでしたぁあ!」


 結局お前もすぐ頭を下げてるんじゃないか。


 人の事言えないぞ、弟君。



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