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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
7章後編 プロジェクト ノア
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宝瀬家のゆかいな仲間達 2

「そういや、今日は運転手めしべさんじゃないんだよな」


 確か楠木めしべという外に出るときは執事服、家にいるときはメイド服の薄紫色の女性。


「…………ええ、一応彼女が私の中で一番信用になる使用人だから」


 その言い方で察した。

 偽装工作を手伝ってくれているんだ。


「そういや結局あの人の能力ってなんなんだ?」


 最初だけ考えていてついさっきまで忘れていた。


労働機関オーダーメイド 同時進行するギフト」

「ん? 分かんないから具体例を」

「掃除したり料理をしたりそう言うのを一度に行うことが出来るギフト。イメージするなら存在しない幽霊を何体も作れるって所かしら」

「それは確かに便利だな」


 日常的にも使えるし、戦闘にも使える。


 例えば本体はガードしながら同時進行でパンチやキックが出来るんだから、戦闘能力としても強い。


「ただいくつか制約はあるわね。まず自分も何か働かないといけない。自分だけは休んで働かせるなんてことはできないわ。それとこっちはかなり大きなデメリット。不測の事態に滅法弱い。車をギフトで運転させたら間違いなく事故が起きるでしょうね」


 その通りだがそれを加味しても強ギフトだ。


「帰ってきたらキスしていいわよ。欲しいんでしょ?」

「本人の許可は?」

「認めているわ。気が変わってダメって言っても認めさせるわ」


 それって大丈夫なんですかねえ。


 そうこうしているうちにやっと到着。


 今日はたくさん使用人来ているらしく知らない人がいっぱいいる。


「お嬢様、嘉神様。お待ちしておりました」

「…………なあ真百合、俺ここにくるのって偶然だよな?」


 まるで来るのが分かっているみたいな言い方だっんだが。


「さっき来るって連絡を入れてたから。それにこっちでも嘉神君は有名だって話をしたでしょ?」

「そうだな。そうだそうだそうだった」


 何か気持ち悪かったから聞いただけ。我が誇りにかけて疑っていたわけじゃない。


「姉さま。待ってました」

「うっわ……なんであなたがいるのよ」


 扉から出てきたのは高校生くらいの男。


「紹介するわ。私の弟、宝瀬剃刀ほうせかみそり 嘉神君の一年下で上の弟よ。特に親しくはないわ」


 困惑する俺を見てすぐさま紹介をしてくれた。


「うっそ……だろ――――? 姉さまが男を連れてくるって……まさか!?」

「そのまさかだけれど、何も言わないで、そして何もしないで」


 宝瀬には宝瀬の話があるのだろう。

 全く話についていけない。


 全く話が変わるしここでは関係ないことだが、確か宝瀬って他所の優秀な男を引き抜いて更にそいつと長女が結ばれるっていうのを真百合から聞いたことを思い出した。


 関係ないがな。


「そうは言っていられない。姉さまの異性交友関係なんて宝瀬の最重要項目でしょう?」

「そうかもしれないけど、彼に迷惑をかけることの意味を考えなさいよ」

「うわっ、今まさに母さまと似てた。本気じゃ――――」


 暇だ。超暇だ。


「いいから黙ってなさい。剃刀は何も知らない、それがみんなにとって一番大切な事よ」

「……………分かった。姉さまが言うなら仕方ない。従うよ、ただそうは言っていられないだろ?」

「分かっているわよ。何とかするわ」


 まだかなー、まだかなー。


「自己紹介に上がりました。僕は宝瀬剃刀といいます」


 そう言って名刺を渡してきた名刺は



 ※※※ 23世紀最大の画家 宝瀬剃刀 ※※※



「……」

「自称よ、まだあなたそんなことやっていたの」


 ああ、自称か。真百合の弟だからガチなんじゃないかと思ってしまった。


「姉さま、物心ついた時から筆を握っていた僕に対してそれはあんまりですよ。それにみてください、姉さまに自慢したくてわざわざこんな辺境まで来たんです」


 持っていた表彰状を広げる。

 どこのコンクールかは知らないが銀賞と書かれていた。


「高校生で賞をとったのは初めてなんですって」


 弟君が鼻高々に自慢をする。

 確かにそういう履歴があるのなら鼻が高くなっても仕方ないかもしれない。


「私もそのコンクールで銀賞をとったわよ。小学校6年の夏休みの宿題で」

「…………」


 あ、 ポキィって鼻と心が折れた音が聞こえた。

 そして相変わらずのふざけたスペックである。


 この人が万全且つ本気で戦ったら今の俺でも勝てると自信を持って言えない。


「一応絵を見てあげたけど、私の時代で戦ったら佳作どまりよ。はっきり言って貴方のそれはおまけのお情けよ」

「ぅあうあああああ」


 その場でへなへなと崩れ落ちる。


「そんな酷い事言わなくても……」

「いいえ、本当だったら賞をとれるかどうかも怪しいわ。だってこいつの描いた絵私の絵にそっくりなんですもの」

「え?」

「剃刀、あなた私の絵を意識しすぎ。しかも超えようとしないで近づこうとしている。こんなんじゃ印刷機の方が上手いわ」


 やだ、厳しい事言いながら指導してる。


「ふっふっふっ、はっはっはっ」

「これまずくない?」

「問題ないわ。いてもいなくてもどうでもいいくらいの価値だし」


 辛辣過ぎて乾いた笑いが出てきた。


「いいんです。姉さまがそう言うってことはそうなんですから」


 この弟、意外に従順。

 ただ真百合の家族も真百合が理不尽って認識なんだ。


 この人より優れた人間なんて正直見たくない。


「しかし、しかしです。どのような形であっても僕は賞をとりました」

「それで?」

「約束を果たす時です。忘れたとは言わせません」

「忘れたわ。なんのことよ」


 間髪入れずとはまさにこの事、美しいカウンターで弟君を牽制した。


「僕が賞をとったら姉さまを描かせてくれるって約束をしたじゃないですか」

「あ~……」

「したのか?」

「いいえ、確か剃刀がしつこかったから実力を持ってから言いなさいって誤魔化したのよ」

「そうですっ! そうなんですぅ! やっと思い出しくれましたね」


 この暑苦しさでしつこかったら何事も面倒になるのは仕方ない。


「ですから不肖剃刀、姉さまにお願いしに来ました。姉さまヌードモデルになってください」


 発砲音がした。

 それとほぼ同時に剃刀君の髪の毛が一束落ちた。


「次は当てるけど、辞世の句くらいは姉弟のよしみで聞いてあげるわ」

「すとっ―――プ!」


 間に入って止めに入る。


「嘉神君どいて、そいつ殺せない」

「殺さなくていいから。落ち着こう、まずは話しあってからでも」

「辞世の句なんていりません。ただ一枚、描かせてください。最高の一枚をかけたら僕は死んでもいい」


 こいつも大概だった。


 俺の周りって半分以上頭のネジというか構造がぶっ飛んでいるよな。


 少しは俺を模倣したらどうなんだ。


「お願いします。描かせてもらったら臓器でも何でも捨てますから。どうか一枚だけ」


 涙を流しながら土下座した。


「嫌よ、絶対に嫌。私の体は髪の毛一本全て○○君の物よ」


 う、突然の頭痛が。


 何か比較的真百合と居る時頭痛の頻度が格段に上がる。


「つまりお義兄さんに同意を貰えばいいんですね。というわけでどうか、お願いします。姉さまを説得してください」


 再び土下座。

 一応この子天下の宝瀬財閥の直系だろ。


 そんな子が土下座なんてするんじゃない。


「良い悪いを論ずる前に聞きたいんだけど、何でそこまで必死なわけ? 他ので代用すればいいじゃん。女なんて10億と居るんだぞ」

「姉さまより優れた女性を紹介してください」

「あ、ごめん」


 俺から見ても真百合って理不尽の権化だしな。

 こんな人間によく知り合えたというより、こんなのホントに人間かと聞いた方がしっくりくるというものだ。


「そして何より美しい」


 うんうん、外見ではこの人がトップだって同意する。

 内面は残念ながらカスピトラさん一強なんだがなあ。


「最高の題材が目の前にあるんですよ。画家を志すものとして描きたいって思って同然じゃないですか?!」

「うーん」


 目の前に最高の料理を出されて食べるなって言っているようなものなのかなあ?

 ただ三大欲求と絵を一緒にするのは例えとしてあっているのかは微妙だな。


「それに、姉さままだ処女じゃないですか。匂いで分かります」

「なんじゃそれ」

「良く言うじゃないですか。童貞臭いって。それの処女バージョンです」


 よく言わないし、宝瀬の御子息様が言っちゃいけない。

 こいつ本当に真百合の弟か怪しい。


 真百合はこんな品の無いことを言わな――――

 …………


 なんか確証を持って言わないって言えないんだが。

 あれれ~? おっかしいーぞ?


 そういやついさっき処女談義をしたばかりだった。


「姉さまが処女を捨てる前に、どうしても一枚」


 頭をがつんガツンと地面に叩き付けて懇願する。


 ああ、カッコいい顔がどんどんブサイクになっていく。


「俺美術には全く詳しくないんだけど、ヌードを描くってどうなの?」

「あんなのモテない男が女の裸を拝むための建前よ」


 これは酷いが内心同じことを思っていた。

 そして多分真百合もそこまで詳しくはないと思う。


 誰よりも絵がうまいくせに。


「ううううう。およよよよ」

「弟君、真百合に酷いことを言われて号泣してるんだけど」

「何勝手に泣いているのよ。身内の恥が嘉神君にばれて泣きたいのはこっちの方だわ」


 俺がいなかったらそのままヒールで踏みそうな眼差しで実の弟を見下す女の子が目の前にいた。


「そうだ、こうしましょう。お義兄さん。お願いがあるんです」


 なんだ? と返事をする前に弟君は自分の欲求を要求した。


「姉さまと一緒にヌードモデルになってもらえませんか?」


 踏んだ。


ちゃんと靴は脱いでいるからセーフ。


「ちょっと何踏まれているのよ。私と変わりなさいよ」

「あ、どうぞ」


 弟君を差し出す。


「………違う。違うのよ」

「――?」


 恨めしいのか羨ましいのか分からない表情で弟を睨んでいる。


「大事な部分は見えなくていいですから。お互い抱き合って隠していいですから。ね?」

「ね、じゃねえよ。モノの道理を分かってるのか?」


 首をかしげる弟君。

 何も分かっちゃいねえ。


「僕は処女の姉さまを描きたいだけで姉さまの処女を描きたいわけじゃありません」

「俺なんかがいたらそれこそ画蛇添足がだてんそくってやつだろ」

「そうですね、その通りです」


 分かっているとはいえそうはっきり言われると傷つく。


「でも仕方ないとおもいます。僕の力量が足らなかったから最高のモチーフを使用できなかった。恨むべきものはこの僕です」

「なんかくっそ馬鹿にされてるな」

「いえ、無駄なのは蛇の足だけですから。手や羽が生えているわけではないですし」


 しかし弟君、君は絶対に忘れちゃいけないことを忘れている。


「真百合がいいっていう訳ない――――」

「いいわよ」


・・ ・ ・ ・ ・


「Pardon?」

「いいわよって言ったの。よくよく考えたら剃刀に姉らしいことしてあげたことなかったから、ちょっとくらいなら手伝ってもいいかなって。でも嘉神君と一緒ならばという条件ならよ」


 なんということだ。

 心なしか真百合の息が荒く更に顔も赤くなっている。


 それによく見ると瞳孔も開いており、例えるなら3日何も食べていない狼が黒豚ちゃんを見つけた時の様子。


 三大欲求を…………やっぱいいや。


「流石お姉さま。僕聞いたことあります。こういう時、『さすおね』って言うんですよね」

「それはちょっと……笑えない」


 真百合が笑えない意味が分からんが、そこよりも重大な事がある。


「えっと……まだ俺がOK出してないんだけど」

「給料出しますよ」

「今気持ちお金持ちだから、そこまで欲しい物はないんだよな…………あっ、そうだ」


 欲しいのがあった。


「ちょっと」

「なんですか?」

「ごにょごにょ」


 聞かれないように耳元で話す。


「ごめんなさい。僕それじゃわかんないです」

「マジか。真百合は分かったから宝瀬家全員伝わるって思ってた」

「姉さまは別格ですから」


 そりゃそうだ。

 真百合と居るとたまに何ができたら凄いといわれるか分かんなくなってくる。


「それでさ――――」


 今度はちゃんと話した。

 さぼってないよ。


「それはいい考えです。全力でお手伝いします」


 弟君がいれば百人力だ。


「しかしお熱くて何よりです」

「ん?」

「え?」


 ……察した。

 俺ってば察しがいいな。

 この一連の流れで、察することのできる人間なんて相当限られている。


「どうやら弟君。君は勘違いをしている。俺と真百合は別に付き合ってないよ」

「はははあ?」


 腹から変な声を出された。


 もうこいつは残念なイケメンポジションで確立された。


「え? だって姉さま、この人の事●○なんですよね?」

「う、再び謎の頭痛が」


 やっぱ羽衣会事件のショックが抜け切れていないようだ。


「謎の頭痛が嘉神君を襲う!」

「・・・・・・姉さま、正直に答えてください。ひょっとしてこの人母さまと同類ですか」

「――――――――そうとも言えなくもないわ」


 頭痛が痛い(>_<) うっー!


「ライトノベルとか読む?」

「友人がイラスト描いたことありますから、そういうのには明るいですよ」

「難聴を超えたつんぼ系主人公よ」

「はぁ~~~ 父さまや母様に説明はしたんですかって隠してたんですよね。うわ……災害が目に見える。この人超厄い」

「ん?」


 やっと頭痛が治まり、物が聞こえるようになった。


「何でもないわ。ちょっとした家族会議よ」

「なるほど」


 だったら他人の俺が耳を傾けるわけにはいかない。


 人として当然のマナーだ。


「取りあえず信頼してますけど、確認させてください。この人は大丈夫な人なんですよね?」

「ついさっき百単位で人を殺して、それを友人に怒られ凹む程度にはモラルがあるわ」

「やっぱり厄かった!! やばい、明日の一面知ってしまった」

「ばらしたりしたら分かっているわよね? その代わりモデルをやってあげるんだから」

「はい! ありがとうございます、お優しい姉さま」


 どうやら終わったようだ。


「今日は晩餐会があるから無理だけれど、明日ならいいわよ。いいわよね?」

「いいのか? ヌードで抱き合うっていろいろ不味くないか」


 アートだからセーフと声を上げることは、荒げて力説することはできないぞ。


「私は貴方を信頼しているから」

「おお」


 信頼、いい言葉だ。

 これだけで考えるのを放棄してその人にしたがってしまいそうな甘美で依存性が高い。


「そこまで言うのならこの嘉神一樹、答えないわけにはいかない。弟君、戦艦に乗ったつもりで待っているがいい。

「歪だなあ。あと戦艦って沈没か解体かの二択しかないから全く安心できないです」


 大変失礼なことだが一つ名案を思い付いた。


「ねえ、今日君泊まっていくの?」

「ええ。その予定ですが」

「折角ほんの少し親しくなったんだからもっと親しくなりたいとは思わないかい? 今晩一緒にどうかな」


 常識的に女の真百合と同じ部屋で寝るよりも、この弟君の方がいいだろう。


「あ、それはいいで―――――おっと、これはいけない。そう言えば寝るときは一人じゃないと眠れないんです」


 振られてしまった。残念。


 ただ俺の隣でものすごい寒波が流れてきた気がするのは…………


 嘉神家名物『気のせい』だろう。




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