宝瀬家のゆかいな仲間達 1
あけましておめでとうございます 今年の抱負は7章8章を終わらせることです。
あと今更ですが作者のやる気はサブタイトルが凝っているかで大体わかります。今はやる気マンゴスチンです。
「何度も言っているかもしれないけど、相変わらず広いな」
早苗の所為で真百合の勉強部屋(学校より広い)に移り住むことになった俺だが、この広さにはなれない。
車を使って敷地内を移動しないといけないなんて家としてどうなんだと思うが、防犯的には当然かと、門を潜って思った。
長い車に乗り換えて広いはずなのに妙に真百合との距離が近いが、そのことを指摘したらクーラーで寒いとのこと。
そんなことするなら設定温度を上げるか消すかどうにか出来るだろうと言いたかったが、これくらいが丁度いいと一蹴された。
「そうそう、ちょっと嘉神君に謝らないといけないことがあるの」
「ん?」
「私ちょっと部屋の模様替えをしていてとっても散らかっているの」
「はー」
「それこそ寝場所が無いくらいに」
「へえ」
「だからちょっと私は来客用の一室で就寝をする予定なの」
「ふむ」
「それでね、今お盆でしょ?」
「うん」
「親族とか会社の繋がりでいろいろな人が来ているのよ」
「なるほど」
「それでベッドが埋まっていて」
「あ、大丈夫。廊下でも風呂場でも寝れるから」
野宿でも俺は全然かまわない。
ものすごい生返事になっているが、精神を集中しないと見えちゃいそうなところが見え、見せちゃいけないものを見せてしまうため仕方ない。
「それは駄目よ。お客様に不自由なことをさせてしまったら末代までの恥よ」
「でもどうするんだ? ビジネスホテルでも用意してくれるのか?」
「今日はお盆。どこも空いて無いわ」
そうなのか? ただ真百合が言うのならきっとそうなのだろう。
「そこでね、提案があるの。とっても素晴らしい誰も不幸にならない提案が」
「なんだ? 真百合のことだからきっと名案なんだろ? 否定意見なんて聞かなくても分かっている。で、その名案って何だ?」
「今日は私と一緒に寝ましょう」
「…………」
どう考えても愚案にしか思えない。
「不満がありそうな顔をしているわね。でも安心して、これがあなたにとって一番いい答えだから。何も考えなくていいのよ」
失敗したばかりの俺の為何も言い返せなかった。
「それについてはひょっとしたら途中で帰る人もいるかもしれないし、後で考えるとしてそんな状態で俺を呼んでもいいのか?」
「嘉神君、あなたは超者ランク3位の人間よ。もうどこで顔を出しても恥ずかしくない大物になっているの。私の隣に立っても誰も文句は言わないわ」
しかし自分で言うのも何だがずいぶんと出世したものだ。
4月まで無能力者として生きて、4か月で3位になるとは。
ただ実際は0位と例外と化け物と神がいるから上から三番目というわけじゃないのが悲しいところだ。
「出たかったら出てもいいし、嫌だったら書庫に行くとか映画鑑賞をするとかいろいろできるわ」
「ん……もしも顔出ししたらどうなるのか聞いてみてもいいか?」
「スカウトされるかもしれないわね」
「へえ。因みにいくらくらい貰えそう?」
「……」
真百合は少し黙って思案する。
そしてバッグから硬そうな箱を取り出し、更にダイヤルを回してその中から小切手を取り出した。
「好きな金額を書き込んで。そして私と契約をしましょう」
「…………おお」
ビジネスの会話をしていると気づくのに数秒かかった。
「ちなみに私個人が会長になっている――――」
「ちょっと待って」
「どうしたの?」
「今高校生が使うとおかしい言葉聞こえた」
「別におかしくはないわ。宝瀬だし」
それを言われると9割方納得しないといけないのが酷い。
「それに博優学園の校則ではアルバイトも仕事をつくことも禁止していないわ」
「――――!?」
そういやそんなことどこも書かれていなかった。
「施設費とか人件費のいくつかは私達宝瀬が立て替えているのだからそれくらいのことをしてもいいはずよ」
「むむむむむ」
ぐ~の音が出ないのでむを連呼してみるが特に意味はない。
「ち、ちなみにですけど相場はどのくらいに?」
「私自身あなたより大物に契約したことないから何とも言えないけれど、前金3億――――」
「それでよろしくお願いします」
即決だった。一秒もかからない。
「えっと……そんなのでいいの? ゼロあと2つくらい増やしてもいいのよ?」
「無理無理無理。そんな金勿体なくて使えない」
300億ってどう使えばいいんだよ。
金は使わないと意味ないんだぞ。
経済学的に言えば賢い庶民に金を渡すより、肥えた富裕層に渡した方が正しいのに。
「それに真面目な話お金を手に入れても母さんに取られる未来しか見えないんだ」
「そ、そうね」
だからそのあんまり多すぎるとどうせ手に入らない。
「だから30万辺りで……」
「30万って今すぐ渡せるわよ?」
「渡すな。いややっぱり渡してください。母さんに取られる前に」
危うく契約主にため口を使うところだった。
「確認するけどそんなので本当に良いの?」
「いいんです。真百合には大分迷惑をかけてますしそのお返しということで」
「私は貴方のことを全面的に信じているから裏切らないって分かっているけれど、あなた自身これから裏切りますって言っているようなものなのよ? ハエがうるさくなる未来しか見えないのだけれど」
善意なのに迷惑だと言われた。
泣きたい。
「じゃあ、こうしましょう。その小切手に億単位の金を書いて渡してください。その後真百合にそれを渡します」
「贈与税がかかるから無駄に消費するだけよ」
そうだった。
「嘉神君。優しさだけじゃ世界は救われないの。わかるでしょう?」
「う~ん」
「年間100万の4000年単位でどう?」
「なんかダブルでトンデモな数字が聞こえた」
「これならいいでしょ。正直契約としては怪しいところがあるのだけれど、お互いが譲り合ったら埒が明かないわ」
真百合は多額で契約したい。俺は少額のお金が欲しい。
な~んかおかしい。でもおかしくない。
俺達の関係なんてひょっとしたらそんなものだ。
満足すりゃいいんだよ。
「話がそれちゃったけれど参加するの?」
「そうだ。俺21時から2時間用事があるんだ」
父さんと超悦者の練習をしないといけない。
一日しか経ってないのに、2,3カ月くらいの気分だ。
このネタ毎回使っているな。
「参加したいのなら開始を早めるわよ。それに貴方なら数秒もかからずに好きなところに行けるんでしょ?」
お腹に何かを入れてすぐ動くのもどうかと思うが、そのどうかをどうにかするのが超悦者
それらしいことをそれっぽくするという創作全てに喧嘩をうった反則技。
ただ真百合以外とのコネクションを持つのも悪くないだろう。
「してみる。正直やらかすかもしれないけど真百合の身内ってことは悪い人じゃないんだろ?」
「う~ん…………」
ええ。
「悪いというより欲深いのが多いわね。純正宝瀬は全員欲深いわ」
「真百合の家族構成ってどうなってるんだっけ?」
「弟が二人に妹が一人。お母様の両親はどちらも死んでいるわ。ただお父様の家族が無駄に多いわね。お父様が四男で更に祖父母が全員生き残っているから……40か50はいるかもしれないわ」
この人口が減った世の中に真っ向から挑んだ家系に敬礼を送りたい。
だいたい本当は一人しか子供が作っていない嘉神家や衣川家が悪い。
「その中の何人かは来るでしょうね。誰が来るかは知らないけど」
「そんなんでいいのか?」
「良くないけれど……忙しかったからね」
「その……ごめん」
10割俺の所為だ。
俺の為に労力使って、更に俺の所為で失敗しかける。
それなのに把握漏れを責めるというのは、常識を疑う。
「ただお父様とお母様は絶対に来ないのははっきりしているわ」
「そうなのか? むしろ一番会いにきそうな人なんだが」
「お母様が私と父をあわせたくないのよ」
「なんかお父さんとやばいことでもあったのか?」
「違うわ。まだ体は純潔よ」
体は、というところにこちらとしても憤りを感じる。
詳しくは2章と言ってしまえばそれまでだが、一応簡単に復習をすると
宝瀬の敵対組織が真百合を中心とした生き残りゲームを開催した。
その中で死ねば巻き戻る能力を持った真百合が何度もBAD ENDを繰り返した。
使えない助っ人が着たり俺も死んじゃったりしたが、最後は友情パワーで大勝利。
あー、思い出しただけでイライラしてきた・
折角だから一族根絶やしにしようか。
「あ、安心して。関わった所ほぼ全て潰してあるから」
俺が何かを言う前に言いたいことを言ってくれる。
「お母様がね、気が触れているよ」
「気が触れるって……」
「キチ○イなの」
出来れば真百合にはそう言う放送禁止用語ではなく、おち○ぽやおま○こみたいな方の単語を使ってもらいたい。
「控えめに言ってキチ○イなのよ」
「控えめにかよ……」
身内補正でそう見えるだけなんだよな?
俺も良く父さんのことを悪く言っているが傍から見たら1厘だけマシに見えるはず。
「自分の男が異性と居る事実が嫌なのよ」
「親子だろ?」
「親子でも穴はあるというのがお母様の言い分よ」
「頭おかしいな」
あり得ん。そんな思考をするのは神薙くらいだと思っていた。
「だからもしも私が『お母様』と呼ぶ人型の何かが現れた時は、宇宙人と喋っていると思って。能力は完全に私の劣化だけれど権限は私より持っているから。下手に刺激をすると戦争になってしまうわ」
こっちもこっちで酷い。
「ひょっとして……ひょっとしなくても仲悪い?」
「最悪ね。あれの死因は間接的に私が関わるはずよ」
あれと言い始めた。
「ただお父様との仲は良好よ。とってもね」
だからさらにあの牝が嫉妬するのと付け加えた。
「ただ真百合可愛いから嫉妬する気持ちも分からなくはないけどな」
「え?」
「あ、ごめん」
まさかこの流れで俺が母親の方を味方するなんて想定外だったのかな。
「別に真百合を否定するわけじゃ――――」
「そうじゃないのよ。今可愛いって」
「言ったけど不快だったら謝ろうか?」
「ううん」
抱きつかれた。
相変わらずいいにおいがする。
いい意味で甘ったるい。
「折角だから嘉神君に愚痴を聞いてもらおうって思ったけど、なんかもうどうでもよくなったわ」
「そう、なんか気分がよさそうでよかった」
この人はよく分からない所で機嫌が変わる。
早苗や素子ちゃんも似たようなところがあるが真百合は特にそれが激しい。
女心と秋の空ってこういう意味だったかなと。