超悦者 2
「どうだった?」
俺が携帯から耳を離したのをみて声をかける。
「気分が悪くなった」
率直に思ったことを口にする。
「父さんも初めて知った時同じこと思ったよ」
やれやれと自分と同じ苦悩を持った息子を見る様に……ってリアル息子だったな。
「これマジでみんなやってるの?」
「父さんが強いと思っている人はみんなできるよ。母さんもやってただろ」
銃弾を素手で摘まんだことを思い出す。
「それでどうする? 超悦者になるつもりはあるか?」
「……ちょっと考えさせてくれ。数分でいい」
「いくらでも待ってやる。好きなだけ考えろ」
思っていたのと違う。
てっきり超悦者は、特殊なオーラに目覚めたとか精霊と契約して覚醒したとかそんなんだと思っていた。
だが現実は非道である。
華やかなアイドルになるため芸能界入りしたのに、見たのは暴力団との繋がりや枕という実態を見た田舎娘になったようだ。
全くやってられない。
だがあいつの言っていたことが気がかりだ。
ギフトが効かない敵。
「なあ父さん。ギフトのみが効かないってあり得るのか?」
「……そんな敵一度も見たことが無い。シンボルの利点は真似されない点でしかないと把握してるが。むしろ使い勝手はギフトの方がマシ」
へえ。そういう意見なんだ。
シンボルってギフトの上位互換だと思ってたんだが、そんなことは無いんだな。
でも確かに敵視点を考えれば、コピーとか奪う能力じゃない限り真似されないなんて特にメリットはない。
「じゃあギフトって何か知ってるのか?」
「知らない。ただ神薙さんにそれっぽいことを言われたことはある」
「何?」
「『ギフトでは俺は絶対に倒せない。シンボルを鍛えて出直してこい』」
ギフトでは倒せない!?
「その話もうちょい詳しく聞けないか?」
「この後ボコボコにされてあんま覚えてないんだ。すまんな」
「許さん。謝れ」
「ごメンチ」
ホント使えない。
道頓堀川でおぼれて死んじまえばいいのに。
「そうだな。答えは決まった」
「どうするんだ?」
「習得するだけ習得して、使うか使わないかは相手みて決める」
「そうか。じゃ場所を変える。レッスン3は慣れろ、だ。そのために全ての耐性を一度オフにしてくれないか」
「えー」
こいつの前に無防備になるの嫌なんですけどー
「いいから。父さんお前には何もしてしないだろ」
「しゃーない」
えっと……『時間』すごい。ちょーすごい。ごいすーごいすー
「……天時新命」
「何そのギフト」
「普通に時空間操作」
なるほど。えっと便利だな。
「それってさ、『時間』なの? それとも『世界』?」
「両方。『複合』型」
「どういうのだっけ?」
「例えば時間操作として効果を使えば耐性は『時間』に引っかかり、空間として使えば耐性は『世界』に引っかかる。その代わり自身が耐性を持つことはできない。ま、オレ達はこっちの方がいいんだけど」
確かに耐性なんて口映しが最高であり崇高。
他の能力にそういうのはいらない。
「時間と空間を弄って環境を変えた」
「……ここは」
「超悦者になるために最も効率のいい練習場だ」
「……正気で言ってるの?」
「そうだ。受け入れろ」
修練場と言われどこを思い付く?
道場? 滝? 剣山?
どれも違う。
Q.今いる場所
A.テニスコート
「早速練習だ。テニスをやるぞ」
いつの間にか握らされていたラケットを投げつける。
「ざっけんな!!」
本日何回目のこの台詞か。
しかし父さんはぶつかるときに指をくるくる回し、やんわりと受け止めた。
冷静に考えてこれも超悦者か。
「これは大まじめだ。テニスなら何が起こっても不思議じゃないだろ?」
「ぐぬぬ」
言われてみれば確かにそうだ。
不思議じゃない。
「はっ?!」
「そう。その感覚。一瞬スルーしたろ? その心を養うんだ」
なんということだなんということだなんということだ。
これはよろしくない。
「ラケットを持て一樹。テニスをただのスポーツだと思うなよ」
…………
いやただのスポーツですけど。
最初のサーブは父さんから。
ポンポンと地面にボールを叩き付け、空高くボールを投げる。
ここまではとっても普通のサーブ。
ただなぜかフォームに比べ、放ったボールの速度が遅すぎる気がする。
最初だから手加減してくれたのだろう。
バウンドしたボールを返…………
「15-0」
バウンドしたボールは強烈なバックスピンがかかり前に進むどころか、逆に父さんの手元まで戻った。
「待って」
「テニスに待ったはない。次行くぞ」
掴んだボールを再び天高く放り投げた。
ジャンピングサーブ。
普通にテニスやれよ。
「うぉおおお!!!」
雄叫びと共に強烈な一撃が襲ってくる。
速い! だが対応できない速さじゃない。
跳ね返りを計算し、最善のタイミングでラケットを振る!!
「あれ?」
空振り。
「30-0」
「何した?」
「一樹、お前確か教観福音書ってギフトを持ってたな」
「えっと……なんだっけ?」
「歴史を知るギフトだ」
あー! 思い出した。
一度も使ってなかったから忘れてた。
「あれ使って父さんが何したか知ると良い」
言われた通りにやってみる。
えっと……父さんがサーブを打って……そのボールがグラウンドに衝突して……弾んで……いないし。
「何これ」
地面に衝突した時、すぐに弾まずフィールドにめり込んだ。
その結果威力が相殺され十数センチしか跳ねなかった。
「なあ。歴史ではボールが地面にめり込んでるんだけど」
「そのつもりで打ったからそうだろう」
「クレーターどこいったの?」
周り確認しても見当たらない。
「いいか一樹。人体や周囲の傷が次のカットで無くなっているのは稀によくあることだろうが」
「・・・・・・」
次のサーブはネットに引っかかったと思ったらドライブがかかりするするとこっちのコートまでつたって40-0
もう嫌だ。
「これで止めだ」
止めとか言ってるし。
「とぅ」
特に変哲のないサーブ。
あれ? 普通だ。
むしろ絶好球。
これ入ったら1ゲーム取るから手加減してくれたのだろうか。
ならばせめて1ポイントは取ろうとエアなんとかで返す。
また空振り。
今度はインパクトする瞬間ボールが消え去った。
「今度はなにした」
「特に何も。ただ一樹がそう錯覚しただけだ。さっきのサーブでもう嫌だと現実逃避をした結果、ありもしない現実を見せただけだ」
アホちゃうん。
「それともうオレがやることをツッコむな。何度も言うが今は超悦者の雰囲気になれること、これが重要」
「・・・・・・」
「取りあえず今日はずっとテニスやるぞ。ギフト使わずラケットに当てるくらいは頑張れ」
本当にこれ1時間半やりました。
大の字になって倒れる。
「もう無理立てない」
「お疲れ」
横目で見た父さんは汗がだくだくの俺と正反対で涼しい顔をしている。
「これ」
スポーツ飲料水が入ったペットボトルを手渡す。
「…………あ……ん……」
「どうした?」
「…………ありがと」
「――ぐずっ」
うぉ? なんか泣き始めた。
大の大人が涙を流すなんて恥ずかしい。
あとキモい。
「一樹から初めてありがとうって言ってくれた。いぎででよがった」
ロリコンだからお礼言うの迷ったんだよな……
まさかこんなにキモいとは。
キモッ キモッ。
ティッシュで流した涙と鼻水をふき取りながら父さんは今日の総括をする。
「ラケットに当てたのは3回か。初めてにしては上出来だ」
「参考までに聞くんだけど、モノにするまでどれくらいを予定してるの」
「父さんが完全にそうなれたのは大体一か月」
割と短め。
一年くらいかかるかと思ってた。
「ただ一樹の場合どうなるかは正直さっぱりだ。一樹は間違いなく父さんより才能があるから同条件なら間違いなく一樹の方が早く習得できるだろう。ただ――――」
「ただ?」
「オレに超悦者を教えたのが神薙さんなんだよね」
うっわ。
「分かったと思うが、超悦者はいかに常識を捨てるかにかかっている。この世で最も常識離れしている男に教わったんだからそりゃ通常より早く身につけられる」
そいつと比べて確かに父さんは常識だ。
あれだけど。ロリコンだけど。
「今日はここまでにするとして、明日はどうする?」
「俺が決めても大丈夫なのか?」
「殺し屋ってぶっちゃけ自営業だし。休もうと思えばいつでも休める」
そりゃそうかと納得し、明日もまたこの時間この場所と約束する。
「……ところで聞きたいことあるんだけど」
「なんだ?」
「時間とか止めて練習しないのか? そうした方が効率的だと思うんだが」
「それは無理だ」
「どうして?」
「WTSO 世界時止め機関によって緊急時以外の時間停止は禁止されている」
それ初耳。
「じゃ『世界』は? あんた真百合から奪っただろ」
なんか口にしたら腹が立ってきた。
超悦者身につけたら一発ぶん殴ろ。
「父さんいまそれ持ってない」
「ん?」
「借用書と交換した」
「へえ。つまり今俺が反辿世界を使えば、一発ぶん殴れるのか」
「止めてくれ一樹。そのギフトはオレに効く」
「……」
「止めてくれ」
しゃーない。今日は勘弁してやる。
修行をしないと天才と言われ、かといってするとだれると言われる。
ですので私考えた結果一つの結論がでました。
修行回をギャグ回にすれば、万事オッケー