家族会議 1
「もうだめだぁ・・・おしまいだぁ」
布団の上で大の字になって寝転がる。
「飯を…………飯をくれやんす」
夏休み前最後の連休で、俺の体力はそこをついていた。
備蓄の乾パンは5日前にそこをつき、お金もゼロ。
日本の財布こと宝瀬家長女の真百合にお金を再び借りるという考えはあった。
だがこれ以上真百合に迷惑をかけたくないという悲しい男のプライドにより、この5日水だけだ。
何か自力で食い物を生成しようとしたが、インク味がして食えたものじゃない。
しかもそれだけじゃなく夏場の暑い時期、ゴミすら捨てられない俺は家の中の臭いで精神も参っていた。
幽霊屋敷の所為で、家の中に誰かを呼び、掃除してもらうことも出来ない。
最後の頼みとして3日前に月夜さんにHELPを要請したのだが
『おーい。困ってるんだから助けろよ』
『これほどまでに助けたくない救援初めて聞きました』
『いいじゃん。俺困ってるんだし、さっさと助けろよー。腹減ったよー。飯よーこーせー』
『残念ですが、これからわたし旅行に行くんで無理です。携帯にも出れません』
『え? 何それ初耳なんだけど……』
『初めて言いましたから当たり前です』
『そんな……』
『そろそろ搭乗するんでさようなら』
とまあ、見捨てられました。
「こんなことなら……うぅ………」
愚痴の一つでもこぼそうかとしたが、もうその元気もない。
「ったっだいまー。うわっきったねー!」
無駄にハイテンションな幼女が不法侵入した。
「覚悟してたけど相変わらず酷いね。こんなんじゃ生きていけないよ……ん?」
がたがたと食器をはじめとした小物が揺れ始める。
「地震かな?」
ポルターガイストです。
嘘です。
幽霊共が母さんを見て恐怖でふるえているだけです。
男の子の幽霊が母さん見ただけで泣いてます。
今鎌を持った男が発作で倒れました。
「まあいいや。日本人たるもの震度4程度は誤差の範囲だもんね」
そう言いながらゴミを1か所にまとめ始める。
「あ、そうそう。これお土産」
投げ渡したのは『ゴーヤとレバーのコーラ漬け(イギリス風味)』
「うわっ、見るからにまずそう!」
まずいものを倍々にして、最後に二乗した感じ。
テンション上がってきた―!!
眠くなると無駄にテンションが上がることがあると思うが、今俺はそれと似た状況に陥っている。
「しかも消費期限3日過ぎてるっぅ!! 食さねば!! 一心不乱に食さねばああああ」
パックを強引に空ける。
開けた途端何とも言えない、いや、純粋に酷い臭いが部屋を包む。
「ちょっ!? これ酷い臭い…………」
「知るか。いっただっきまっずうううう」
口に含む前の空気でもうまずいことを確信。
「でも食べる」
お腹すいてるんだもん。仕方ないじゃん。
「まっず まっず」
どんなに腹が減っても不味いものは不味い。
「よくそんなもの食べれるね」
「買ってきた本人が言う台詞じゃないな」
「仕方ないじゃん。一樹くんがパック開けるまではおいしそうに見えたんだもん。つまりパックを開けた一樹くんが悪い」
すっげえ超理論。
だから料理が下手なんだよ。
「あーまずい。もう一杯」
もう一つのパックを開け一気食い。
少し空腹を紛らわしたおかげで、余計にこれが不味く感じる。
「むしゃむしゃ。サンドイッチおいし」
「てめえ! 最初からそっち寄越せ!!」
「えー」
え~じゃねえよ。
「これね、東京の有名なトンカツ店で買った、とっても高級なものなの。一切れ2000円したの」
「おう。かまわん。くれ」
「なんでわざわざこんな高いの買ったと思う?」
「知らん」
「それはね、一樹くんに見せびらかしながら食べたかったからだよ。なのにあげたらおいしさ半減じゃん」
「ファッキン幼女。背にも胸にもそして頭にも栄養にならないなんて、食い物に対する冒涜だと思わないのか」
「イラッ☆」
顎フックからの蹴り上げで宙に浮く。
「ばたんきゅ~」
「母は強し」
勝てません。
主人公最強モノのくせに、戦歴が酷すぎないか。
「冗談、はいこれ」
「おお」
目の前にサンドイッチが。
包装紙からして高そうだ。
「最初から渡せよ」
「やだ」
まあいいや。
「うまうま。やっぱこれだよこれ。素人にはこの美味さは分からんとですよ」
「食ったことない癖にすげえ偉そうでムカつく」
そう言いながら部屋の片づけを始める。
「ねえ一樹くん。母さんに聞きたいことない?」
「もちろんあるけど今は飯、優先」
「そう。だったら何聞きたいか考えといて」
頭の中で何を聞きたいか整理する。
まずはそうだな…………
「何で隠してた? 俺が能力者だという事も母さんが能力者だという事もそのどちらも理由が知りたい」
「母さんの職業が人に言えるような内容じゃないこともあるけれど、一番は一樹くんと一緒にいた女の子いたでしょ。あの子と同じ。母さんたちはあんたにギフトを使ってほしくなかった」
「…………へえ。まるで俺が善悪の区別がつかないガキのような扱いだな」
失礼しちゃうよ。ほんと。
「その理由は聞きたい?」
「うーん。一応聞こう」
この際だ。聞けることは全部聞いておかないと。
「だって一樹くん、何かするごとにろくな結果にならないでしょ」
「失礼だな!! そんなこと記憶にないぞ」
「そんな怒んなくていいよ。それは仕方ない事。そうなるように世界が……いいや、そういうシステムだから悪いのはむしろ周りの方」
「??」
「何もしなければ何も起きない。何もさせなければ何も起こさせない。今まではそのつもりだった」
つまり今は違うということ。
「じゃ、今は?」
「放任。好きに生きてていいよ」
「へえ。言っちゃ悪いが180度方針が変わったな」
「仕方ないでしょ。母さんでもどうしようもないことだってあるんだから」
それって……
「神薙信一」
「……」
沈黙。だがそれは肯定を意味していた。
「神薙信一と母さん……むしろ父さんも含めてだがどういう関係なんだ?」
「一樹くんとあんまり変わんないよ。気がついたら関わっていた。むしろ全く同じなのかな」
「俺達が子孫ってのは本当のことだと思うか?」
「間違いなくそうだと思うよ。そいつと母さんのお父さんが一緒に写った写真を見たことがあるし、父さん……つまりおじいちゃんもあったことあるって言っていたから」
それにしては……俺たち弱すぎる気がするんだが。
あんなよく分からない化け物の遺伝子だ。
化物が生まれるのは……むしろ化け物しか生まないとすらおもう。
でも俺達はある意味、そこまで強くない。
母さんや王陵さん?そして嘉神とトップをとっているのは間違いないが、それだけじゃ何か物足りないような気がする。
「そういや、俺の記憶だと昔はそこまで仲悪そうには見えなかったんだが、なにかあったのか?」
その質問は不適切であったとのちに反省した。
「!!!!」
母さんがまさに鬼のような形相でにらみつけ、委縮する。
「一樹くん!! 何処で……いや、どこまで知った!?」
そこまで取り乱した母さんを俺は見たことが無い。
だから俺も何を言っていいのか見当がつかない。
「いや……えっと…………昔の記憶を」
「どこまで!!」
「古いのは1歳ぐらいの頃で……新しいのは…………5歳くらいのころか? なんかショッキングピンクの女の子と遊んでいた記憶がある。それがどうかした?」
「そこまで!? そこまでしか思い出せない!!??」
「……ああ。うん。そこまで」
それを聞くと母さんは目に見えて脱力した。
「……ならいいや。でも一樹くん。母さんから忠告。これ以上白くなるのは止めなさい。もう十分すぎるほどの力があるでしょ」
「月夜さん……クラスの女の子も言っていたが、そんなにいけないのか。これ父さんによる封印だろ? 元の鞘に収まるだけじゃないのか?」
まだ黒いところの髪をつまみくるくるとひねりを加える。
「いけません。いい加減反抗期から卒業しなさい」
「酷い良いようだな。まあいいや。ぶっちゃけ意図的に白狂なんて出来ないし」
「そう。じゃこの件については終わり。他に質問は?」
そうだな……
「神薙さんの能力知ってる?」
「知らない。あれのシンボル一芽くんは知ってるらしいけど、話にならない能力だから伝えても無駄だって。と言うより知ってどうするの?」
「いや……もしも戦う羽目になった時どうすりゃいいかなって」
それを聞くと母さんは失笑した。
「無理。諦めなさい。あれはあたしたちが野球ゲームで戦っている時金属バットで殴ってくるような男。最初から同じ土台には立ってないし立っちゃいけない」
なんかみんな同じ反応するな。
「じゃあさ、『物語』同士がぶつかったらどうなるんだ?」
昔神薙さんから強制的に止められたのを思い出す。
「知らない。実験してみる?」
「え? いいの?」
「母さんも解んないし、それについてアタシも知りたい」
そういうと母さんは俺の前に座った。
これから俺と母さんがキスをしてその後どうなるかを実験する。
容姿を考えなければ一番平気な相手だし、精神的障害はない。
というわけで実験あるのみ。
「ちゅー」
特に何かを思うわけなく、俺と母さんの唇が重なる。
刹那
本当に刹那。
俺は……俺達は何かを感じた。
確かに何かを見た。
間違いなく何かを聞いた。
確実に何かに触れた。
確定的に何かを匂った。
絶対に何かに触れた。
あれは――――?
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「最終傀」