帰ってきた男 1
日常(笑)
さてさて、ここで一つ絶対に忘れてはいけないことがある。
俺達は学生だという事だ。
俺が帰ってきたのは日曜だからいいものを、月曜は普通に授業がある。
されど俺は半分以上授業を欠席していた身であるため、もう席がないという可能性がある。
そのことを真百合に確認をとったら、困惑しながら席自体は残っていると言っていた。
ただ残念ながら期末テストはすでに終わっているとのことだ。
5教科は中間試験の点数をそのまま使うが実技科目は平均点が自らの点として処理されるらしい。
ある意味俺のおかげで早苗の点数が爆上げした。
出席しなかったのは自分の責任の為しゃーないと納得するが、それでも落胆はする。
真面目な生徒を自負しているのに2年になってから、暴力事件を起こし、やばい事件に巻き込まれ、そして月単位での自主休校。
完全に悪ガキだ。
切腹物である。
とはいえ、この博優学園そのものが進学校ではないので悪ガキ自体珍しいものではないとフォローされたがそれはそれでどうかとおもう。
というわけで、月曜の早朝。
一般の高校生なら、この時間は聞くだけで嫌になるらしいのだが、気持ちは晴れ晴れとしている。
早苗は数日検査をすると言ってしばらく学校には来ないのが残念だが、やはり学生は勉学が本分。牢獄の中でも自主勉していたが、それでも学校の中という空間でやる勉強こそ意味があるというモノだ。
徒歩での登校途中、親友とエンカウント。
「おはよう、シュウ」
「ちーすいつき」
あれから俺達は名前と徒名で呼び合う仲となった。
「髪染めたのか?」
時雨が俺の髪を見て見たまんまのことを尋ねる。
「まあな。白黒で学校に出席するわけにはいかないだろ?」
この学校、髪染めを、黒か茶色そして1色であることを条件にだが校訓として認めている。
俺の地毛は白3黒1の比率になっているため後ろの席から見れば、かなり目につく。
折角の学校なのに授業を聞かないなんて何のために学校に来ているんだと、そしてそうしてしまう俺自身が許せない。
というわけで母さんの髪染めを勝手に使い昨日の夜染めてきた。
母さんと言えばあれから帰ってこなかった。
ただ普通に飛行機で移動すると1日はかかるため数日は帰ってこないだろう。
その間乾パンでの生活になるのが心苦しい。
「そう言えば----」
話の種として今日見た夢のことを話す。
「で、これってただの夢物語と思うか?」
「うんにゃ。おれは普通にあったことだと思うが。師匠自身おれたち子孫だって認めてたし」
「俺も実際に合ったことだと確信はしているんだけどな。いくらなんでもちょっとキャラ違い過ぎないか?」
「そうか? 知り合って一か月だが、あの人基本的にめっちゃ甘いぞ」
それは何となくだが同感できる。
「むしろおれはいつきが夢の中で聞いたギフトが先天性じゃないって話の方が、興味をそそるんだけどよ、そこんとこはどう思ってるんだ?」
「ギフトね、昔は超能力って呼ばれてたんだったよな」
「地球防衛で使われたのが超能力、その後の能力がギフトだろ?」
「冷静に考えるとおかしいよな。超能力だろ? 日本語じゃん。なんでいきなりカタカナになるんだよ」
異能とか魔法とか他に適した言葉はあったはず。
なのになぜギフトなのか。
「そういわれちゃ、そうだよなぁ。もしかして超能力とギフトって全く違うものなのか?」
超能力とギフトが違うモノ、その考え間違えてない気がする。
「……なあ時雨、一つ聞くんだけどな。もしも今から天頂にUFOが忽然と姿を現すとするだろ」
「おう。それで?」
「人類が軍を成したとして、勝てると思うか?」
「余裕だろ」
「だよな」
UFOを使うという事はそれがないと地球に移動できないという事。
つまり宇宙空間では無力。
例えば回廊洞穴でポイすれば、無傷で勝てる。
「だが歴史は、人類は半分、一時期五分の一までになったんだろ? あり得なくないか?」
「でもそれは昔の超能力者が現代のギフトホルダーより弱かったで終わる話だとおもうが」
「そうかもな、でもそれでも引き分け以上には持ち込めた訳だろ? そいつらなんで最初から自分の権利を謳わなかったんだ? テロ起こしても負けなかっただろ」
世間一般に自分たちの存在を知らせることすらしなかった。
「……」
「それともう一つ、数増えすぎだろ。数百人が今は三千万だろ? 200年でそこまで増えてたまるかよ」
自分で言ってこれが一番異常だと思う。
数百が数千万になるのにどれだけの年月がかかるというのか、考えるだけでばかばかしい話のはずだ。
「超能力者って初めから居たんじゃなくて、宇宙人が攻めてきたから自然発生した。これが俺の説なんだがどう思う?」
「いつきがこういう時にする意見だいたい的をえているからよ、案外いい線だと思う。ただその理論だと一番重要なものが抜けてるよな」
そう、現時点人類最大の謎。
解くだけで一生遊んで暮らせるお金がもらえる謎。
「ギフトがなんであるかなんだよな」
「おれが一番好きな説は、人類が外敵に襲われたことによって急激に進化したというのなんだが、どう思う?」
「個人的にそれはない。せめて頭良くなるとか握力強くなるとか、そういうまっとうな進化になるはず。それよりかはギフトホルダーは実は宇宙人説の方がマシ」
「はあ? ねえだろ」
「ああ。ないだろ。宇宙人と人が交わるなんてあり得ないし、ゼロか虚無かの違い」
どちらもあり得ない。
「神様もしくはそれに近い何かが、何らかの目的でギフトを与えた。多分これが一番近いとは思うんだが」
「神様なあ……そういや師匠がギフトは才能だって言ってたんだけど」
「何度も言うが、あれのいう事を一から十まで信じるな。それに本当にギフトが個人の才能だとしたら、ギフトなんて言わないで、才能ってよぶはずなんだ」
なぜわざわざギフトと読ませるのか。
ひょっとしたらそれが答えの足掛かりなのかもしれない。
「ま、実は超能力が何か検討はついてるんだけどな」
「は!? まじて!?」
「時雨、お前も見たことあるはずだからな? だって――――ん?」
と俺的超能力推測をやっていると前方に俺の知っている人影が。
「あまにゃーじゃん」
後輩の天谷真子を見つけた。
特徴? ガチレズだけ覚えとけばいい。
そしてどうしてもこいつに一つ言わないといけないことがある。
「おーい。あまにゃー!」
「おまえそんなこと言うのかよ」
「何を言っても俺とあまにゃーの信頼関係は変わらないからな、何言ってもいいんだよ」
「好きの反対が無関心だってこと、お前といるとよくわかるよ」
失礼な。俺は後輩のことをちゃんと思いやっているのに。
あまにゃー改めあまなっとうは、振り返り俺を確認するとすぐに早足で逃げていった。
「酷くないか? 人を無視するなんてサイテー」
「いやどうだろう。たぶんおれも逆の立場だったら逃げると思うが」
こうなったら仕方ない。
「すまない。ちょっと用事が出来た。追いかけてくる」
「おい止めろ! 絶対にろくでも無い事しかないだろ」
何か時雨は言ったが回廊洞穴で移動した俺には届かなかった。
「じゃじゃーん」
「…………………死ね」
第一声それかよ。
颯爽と現れた俺に対して聊か失礼でなかろうか。
「久しぶり。元気してた?」
「さっきまでは元気でしたよ。センパイに会ってから吐き気が止まらないですけど」
「まじ? どうしよう? 吐瀉物で地面汚すわけにもいかないし……仕方ない。俺の口の中で吐け」
大きく口を開け待機。
すると喉に画鋲?を大量に詰め込まれた。
「うぉおお。喉がイガイガする」
吐き出そうと思ったが、後輩は自分が吐きそうなのを我慢しているのに俺だけが吐くのは忍びないと思い、呑み込んだ。
※※※真似してはいけません※※※
喉どころか胃がやばいことになりそうだったがそこは、回復技と名高い柳動体と鬼神化で何とかした。
吐き気がするのとのどの調子が悪いのを一つの行動で同時にアピールするとはさすがは俺が見込んだ後輩だ。
そしてそれを一瞬で把握する俺の理解力に脱帽する。
「どうしても真子ちゃんに話しておく必要があるんだ」
「さっさと話して消えてください。気持ち悪いです」
本人のお許しが出たところでお説教をしてあげよう。
「同性愛治した方がいいと思うよ」
「な!?」
「あのね、あままこには特別に教えるんだけど、俺冤罪で死刑囚になってたんだよね。その時いろんなクズ人間を見てきたんだけど同性愛者が多いこと多い事。それでね、思ったんだ。うわっ、気持ち悪っって」
「それは男同士だからです」
「まさか、俺がそう言うので男だから女だからと差別するわけないだろ? 平等だよ俺は」
「それで。気持ち悪いからなんだというんです? 真子がそんなこと気にするとでも」
「それだよそれ。それが良くない。例えばさ、真子りんの家の目の前に目に焼き付くようなショッキングピンクの家が建ったらどう思う?」
「それは……」
「かなりイライラするよね。気持ち悪いとすら思うよね。それじゃどうする? 黙って許容する? しないでしょ。しかるべき場所に行って、しかるべきことを言うんだ。例えば『景観が損なわれるから変えるように裁判をしたい。協力してくれ』『見ているとイライラするから別の色に塗り替えろ』って。
でも建てた本人はこういうんだ。『自分は嫌な思いをしていない』『気持ち悪いと思うんじゃなく、それをいいものと認めたらどうだ』
さて、なるほど自分が認めればすべて丸く収まる。なるほどなるほど盲点だった…………
ばっかじゃねえの?
脳に蛆虫住み着いてんじゃない?
気持ち悪いものはどうがんばっても気持ち悪いんだよ。
妥協するのはどう考えてもお前の方だ。
ではどうすればいいと思う? 教えてあまわん」
「…………」
「ひょっとして例えが悪かったかな? じゃ壁にゴキブリの絵とか爬虫類の写真が貼られていると思って」
「じゃあききますけど真子が先輩のこと気持ち悪いって言うのと、センパイがレズを気持ち悪いというの何が違うんですか」
「全然違うよ。真子にゃん読解力大丈夫? エロ漫画だけじゃなく文学書読むことをお勧めするよ。俺達はどっちとも被害者であり加害者だ。お互い気持ち悪いと思っているし気持ち悪いことをしている。でもね、その対応が違いすぎる。
真子ちゃーは受け入れない方が悪いと良い、俺はどうにか恰好をつけてマシになろうとしている。どっちが悪いのか分かるよね」
「同性愛は世間から認められてます!! あんたみたいなゴミと一緒にしないで!!!」
おお、初めて真子りんの怒鳴り声を聞いた気がする。
以外に可愛い声だった。
「一緒にするなって。同性愛者は欠陥品だろ? 一緒も何も俺とそいつらとは初めから違う」
「!!!!」
「あのね、俺はだからと言って差別しているわけじゃないんだ。目が一つしかない赤子を足が異常に肥大した女の子を腕に鱗が生えた少女を気持ち悪いと思うのは間違えているだろうか? 病人に対して差別するわけではなく気持ち悪いと思うのは間違えているだろうか?」
「 」
「俺は別に同性愛者が悪いなんて言ったことないよ。ただそれを病気だと理解して、気持ち悪いものと思う人がいるんだってことを理解して初めて受け入れられるものなんだ。天谷の様に受け入れない方が悪だと、寛容しないことが悪だというが、違うんだなそれが。
正義の反対は悪であり、または慈悲・寛容だというのなら、慈悲や寛容は時に悪になる。
だからごめんね。俺が悪かった。俺はもっと早く言うべきだった。出来れば自分で気づいてほしかったから今まで何も言わなかったけど、それは悪行だったよ。愚者を導くことこそ賢者の務めだというのに。こんなんだからSCOになれなかったんだよな。それでも俺はやるべきことをやらないといけない。
誰かが止めてあげないと真子ちゃんはもっとダメな方に突っ走ってしまう。罪滅ぼしの為に責任を持って真子ちゃんを正しい道に導かないといけない。でも真子ちゃんに今の感性を改めろなんて無理なのは分かってる。
もう残された道は一つしかない。男と付き合って男の良さを知ればいい。でも真子ちゃんのことだ。きっと周りに迷惑をかけてしまうだろう。でもここに迷惑をかけても誰も傷つかないお手頃な人間がいる。
天木……じゃなかった天谷真子。
俺と付き合おう」
「と、いう事がさっきあってフられたんだけど何がいけなかったと思う?」
「アホですか。最初から最後までにきまっているでしょ」
嘉神一樹被害者の会終身名誉幹部天谷真子




