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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
7章 前編 サマーバケーション
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幼子の幼き日の記憶

いつもと比べて短めですが、ここで区切らないと次が異様に長くなるので仕方なくこの短さです。

 明晰夢というのがある。


 夢を見ながらこれは夢だと認識してみる夢のことだ。


 といっても今俺が見ているものは妄想の産物ではなく、確かにかつてあった過去としてはっきりと認識している。


 多分これが俺の覚えている最古の記憶。


 おそらく生まれて1年たったかどうかのころの記憶。


 夢が夢だと分かったのは、俺が普段見ている光景とまるで違っていたから。


 その景色は色が無かった。


 白と黒と灰。


 これだけが俺の世界。


 赤も緑も青もそこにはなかった。


 そして本来俺が視るべき景色がこれだと直感的に理解した。


 場所はどこかの家の中リビング。


 少なくともこんな部屋を俺は覚えていない。


 中にいたのは俺を含めて5人。


 4人ともすでに知っている。


 父さんと母さん。

 そして神薙さんとその付き人。


 なんと俺は神薙さんに抱きかかえられ喜んでいた。


「こんなに喜ぶ一樹、初めて見ました。親として少し嫉妬します」

「いつもより高く抱きかかえられて喜んでいるだけだろ。俺とお前は背丈だけで40㎝以上の差があるんだぜ」

「そういうもんですかね」

「そういうもんだ。親としての責務を果たせば、子はちゃんと懐いてくれる」


 それこそ初めて子育てをする新米の親が、祖父に自分がどう育ててきたかを聞いているように穏やかな会話だった。


「…………私も」

「ほい」


 今度は白装束を纏った女性に抱きかかえる。


 母さんにはない女性特有の温もりはとても心地よかった。


 赤子が求めるものはこういう温もりだろう。


「ああん。一樹くんが知らない女に寝取られた」

「…………寝取ってやった。愛人にしてやる」


 それをきいてかどうかは定かではないが(たぶん普通に違う)幼少期の俺はその女性に小便をひっかけた。


 女性陣は慌てだしたが神薙さんは大爆笑。


「こいつ、この年で愛人に顔射とは将来大物になるぜ」

「……うっう。心配してよぉ」


 なんという和気藹々とした雰囲気だ。


 これは夢なのだが、確かに現実にあったことのはず。


 なんだよな? 現状と違いすぎて不安になってしまう。


「そろそろ本題に入るか。嘉神一芽、お前を主人公から外す」


 主人公? と聞きなれたようなそうでないような単語が聞こえた。


 とはいえ我が両親はそのことを最初から知っていたようだ。


 特に問題なく談話が続く。


「はい。後継人は一樹なんですよね」

「ああ。とはいえすぐに換えるというわけではない。6つになった時その座を譲ってもらう」

「親としては嬉しいようなやめてほしいような、複雑な気持ちです」

「いくらお前の頼みでもこればっかりは譲らねえぜ。これがこの地球の強いては人類の為だ」


 それは会議や交渉ではなくすでに決まっていた事柄に対しての確認のようだった。


「で、それまで俺はこの地球……いや、世界から出ていこうと思う」

「え?」

「正直俺の存在は赤子に悪影響しかおよばさないだろ?」

「まあ。そうですけど」


 驚いた。あの人自分が悪影響を与えるって自覚あったのか。


「やはり子供は親が育ててなんぼだ。部外者がちょっかいをかけるべきではない」

「それは正直ありがたいんですが……それまで何を?」

ギフトの調整・・・・・・はもう終わっているから、バカンスとお掃除をゆっくりじっくりやっていくつもりだぜ」


 神薙さんの発言、前者も後者も絶対にろくでもない答えだというのは直感的に理解した。


「あ、あの」


 するとここで母さんが会話の中に入ってきた。


「言いたいことはすでに知っているが、それでも言葉や思いは自発することに意味がある。なんだい嘉神育美」

「あたしの息子、一樹くんの目を治してください」

「治すも何も、こいつの目は初めからこういう成り立ちだぜ。色を理解する機能が初めから備わっていない。初めからないものを付け加えて、治したとは言わない」


 ちょ? マジ??


 明かされる衝撃の真実今回多すぎ!!


 じゃあ、今まで俺が見てきた色は何なんだ?


「本来人間にあるべき状態にです」

「人間にあるべき状態ね……お前はつまり色盲は人間ではないと?」

「そ、そういうわけじゃ――――」

「別にいいじゃないか。色が見えなくたって死ぬわけじゃない。そして嘉神一樹は色が見えなくても問題ないと言えるほどの色あせない才能を持っている」


 神薙さんは指で赤ん坊の頬をつんつんと押しながら興味なさそうに会話をしている。


「それに何のために俺が口映しマウストゥマウスをこいつのギフトに設定したんだと思っているんだ。嘉神一樹ならハンディをバディとして仲間や恋人と共に生きていける。俺はそう確信している」


 おいコラ待て。

 今ギフトが先天性という前提を根本から覆しかねないことを耳にしたんだが。


「俺ですら信じるんだぜ。肝心の親が信じないでどうする?」

「そういう問題じゃないんです!」

「その通りだ。嘉神育美、お前が言いたいのはそういう事じゃない。もっと別の根本的な事だ」


 傍から聞くだけで分かる意地の悪い問答。


「嘘は人間の美徳だ。故に俺は嘘を愛している。だから俺は嘘を吐くななんてつまらないことは言わない。だが嘘を吐く意味は知っておくべきだと思うぜ。誠意は金額ではなく言葉。誠意を見せろ、嘉神郁美」

「…………あたしが」

「あたしが、なんだって?」

「育てられる自信が無いんです。一樹くんの状態はあたしより悪いのに……自分があったことを考えると----」

「分かった分かった。もういいや。お前が本当のこと言う気が無いのは初めから知っていた。それでももしかしたらと思って期待していたんだが、やはり無理だったか。代わりに俺が言ってやろう。


障害者の息子を育てたくありません…………だろ?」


「そ、そんなこと!!」

「言ってないよな。言わない様に努力していたから当然言ってない。だが間違いなく思っているはずだぜ」

「なんで分かるの―――」


「そんなつまんないこと聞くんじゃない。何でもできる俺にとって、何かをできる理由なんて適当にでっちあげてもそれは正なんだぜ。嘉神育美が思ったこと。それが正解だ」


 確か母さん能力の無力化のギフトを持っていたと記憶しているのだが……


 まあいいや。あれについて考えることが愚行か。


「言えよ。自分が障害者を育てたくないって。一言そう言えばお前の思う通りにしてやる」




 この後母さんがそれを言ったのか、もしくは言わなかったのか、それを見ることは出来なかった。


 これは夢でありしかも、元となった記憶は1歳に満たないころの脳味噌。


 あてにならないと言ってしまえばそれまでだ。


 そしてこの夢について思ったこと。


 俺の立場から神薙さんをフォローするのは、かなりはばかれることをいおう。

俺と言う主観がとった客観的視点で申せば、神薙さん善人すぎるだろ。


 数か月前まで俺の眼は色が見えていたことを考えると、結局治してもらったということ。


 小言を数分聞くだけで大切な人の怪我や病気を治してもらえるんだ。アンコールと十回言ってもおつりが来るというモノだ。


 それにしても早苗の件といい、俺の病気のことといい、本当に甘い。

 ただ日頃の行動や要所要所でえぐい。


 一体全体何者で、何がしたいんだろうか。






 と、ここで夢から覚める。


 目が悪くなるのと反比例して、日に日に体の調子が良くなっていくのを実感する。


 朝起きただけで清々しいと思うくらい目覚めが良かった。





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