嘉神一樹VS時雨驟雨 破
弾幕アマノジャクを購入しそれをやっていたため、ストックが尽きた模様。
再び仕掛けてきたのも時雨からだった。
瞬間移動と錯覚するくらい速い速度で俺の懐までたどり着いていた。
だが今度は何故か見えた。
今がチャンス。
『世界』を止める。
「ッ~~!」
遅れて痛みが。
既にナイフで太ももを斬られていた。
ただ骨まで達していなかったのが幸いだろう。
その場から離れ鬼神化で治療……………
…………出来ない。
回復しない。
斬られたところが再生しない!?
回復封じか?
超悦者。いったい何なんだ。
取りあえず今はこのナイフの延長線上から逃れなければ。
回廊洞穴で、時雨の後ろに立ち左腕を掴む。
解除。
するとズドギャァーと爆弾が爆発したような爆音が轟き、同時に土煙が立ち込める。
土煙が晴れる頃俺は戦慄した。
大地が抉れている。
刃渡り20㎝しかないナイフによって長さ数mのクレーターが発生していた。
今度は逆だ。
時雨のナイフはそこまで速くなかったのに威力が過剰すぎる。
「外したか。まだおれも修練が足りねえってことか」
「……時雨。今俺はお前の左腕を掴んでいる。そして鬼神化を発動している。まいったと言わなければ潰す」
目的を忘れかけるほどこの戦闘はすさまじかった。
「超悦者がなんなのか正直さっぱりだ。だが何となくだが推測はついた。速度と火力の底上げ。そしてそれは絶対に両立しない。速度を上げている時は攻撃できるがそれはただの攻撃であり、火力を上げている時はその攻撃は通常と変わらない」
「これだけの戦闘でそこまで察しがつくのかよ。やっぱ天才だよ。嘉神は」
「今俺はお前の腕を掴んでいる。速度で攻撃するならダメージがそこまでしか通らない。だが火力で攻撃するなら、お前が攻撃し終える前にこの腕を潰す」
心苦しいが仕方ない。
潰した後に治そう。
「だが嘉神、いいのか? 片腕を潰してある程度脅す方が正解だと思うけどよ」
「痛みで口がきけなくなったらそれこそ本末転倒だろ」
「超悦者はそんな柔なもんじゃ使えねえから大丈夫だ。それと――――腕を掴まれたところで攻撃できないなんて思っていねえだろうなぁ?」
「――――!?」
「空、暗くなってるだろ?」
言われてみれば今日の天気は快晴だったはずなのにいつの間にか暗くなっていた。
数分前にも雲が無いと確認したはず。
数分で天候が変わるなんて……――――?!
「おいおい。冗談だろ!?」
「冗談か。俺としては嘉神の存在の方が冗談っぽく思えるんだけどよ。まあ、お互いこんなもん同時に喰らっても死にはしないだろう?」
冗談じゃない。
雷すら落とせるのか。
「おれが雷落とすのとお前が俺の腕を握りつぶして回避するのどっちが早いか勝負するか?」
「…………柳動体を忘れたのか?」
「忘れてねえよ。これも誘導だ。お前は体力を回復するだろうよ。だが流れる大量の光はどうする? それも吸収できるのか? 目くらましにちょうどいい」
雷を目くらましに使うとは、なんという贅沢な戦い方だろうか。
「落ちろ。雷電の霆」
「反辿世界」
この能力は本当に役に立つ。
「悪い。少し我慢しろ」
苦渋の決断として時雨の腕を潰そうと握力を込めた。
「…………」
なるほど。
3度目となると驚きも弱まるってものだ。
鬼神化した状態で腕をへし折るなんて、生身で小枝を折るよりも簡単だというのに、時雨の腕はびくともしなかった。
「火力、速度、そして耐久すら上がるのか」
そして言いたい事がある。
鬼神が生身の人間に力負けしたらしい。
鬼神(笑)。
そしてそう言えば思い出した。
父さん素手で早苗の鬼神化を受け止めていたな。
あれ、これか。
「回廊洞穴」
ダメ元で次元の穴を創り時雨の腕を削ぐ。
失敗前提だったのだが普通に成功した。
「ちょっ?!」
『世界』は止まっていたため血が流れることは無いが、思ったより単純に斬れてしまったため逆に動揺した。
10秒経過。
これが俺の止められる限界。
真百合全盛期は制限なく止められるのにこの差はなんなんだ。
同時に落雷が落ちるがお互いにダメージは無かった。
「いッゥ! やってくれるなあ!」
痛そうに顔をしかめるがその眼は笑っていた。
「大丈夫? 治そうか?」
「いい。見てろ」
そう言うと時雨は自分で斬られたところをナイフ刺し、備え付けられていたスイッチを押した。
目に見えてわかる電流が腕に流れている。
あのナイフ電力を蓄電したり放電したりもできるのだろう。
それが何の意味なるのか最初俺は理解できなかったが、目の前の現象を見て理解した。
時雨の腕が治っていた。
もう驚かん。
「再生?」
「再構築だ。このナイフ師匠からもらった特別性で、これ一個で首都一日分の電力を溜めることが出来る。自分の体が電気の状態でそれを放出し足りない電力を補うって寸法だ」
ファンタジー刀剣きた。
俺も似たようなもの持っているためそんなものあるんだなとしか感想を持てなくなっていた。
「ちなみにそのサバイバルナイフ、天臥って名前で、お前の量産型は点牙って呼ぶんだぜ。かっこいいだろう」
ノーコメント。
「次の技、おれが今使えるギフトで一番新しく会得した技だ。これが効かなかったらシンボルを使う」
ゴールが見えてきて朗報と言うべきか、それともまだ隠し持っていた技を持っていて悲報と言うべきか。
「そうか。かかってこい」
「電工赤火」
時雨が何をしたのか仕組みは分からないが、何をしたいのかは一発で分かった。
なぜなら時雨の両腕に炎が宿っていたからだ。
「炎も操れるのか」
雷と炎が合わさり最強に見える。
……そう見えるだけで現実は非情。
電気だろうが火だろうが、柳動体のカモ。
「ひょっとして柳動体のカモなんて思ってねえか?」
「思っていたら悪いか? 実際その通りだろ?」
「それはこれを喰らってから言うんだなあ!!」
炎を投げつけられるが俺はそれを特に何も感じず手で触れる。
「ゥッ!!」
熱い。焼ける。焦げる。
柳動体が発動しないだと!?
「獲った獣の皮算用」
緊急措置として焼けた腕をトカゲの様に切り落とす。
「この炎はプラズマを利用して発生した炎だ。異能による現象だ。嘉神、お前はサイコキネシスで浮かせた鉄骨を吸収できるか?」
「出来ないな」
「つまりはそういうことだ」
理屈は理解したが、なかなか厄介なものを使ってくる。
「さあ嘉神、これをどう破る!?」
「……二次色の人生」
作るのは消防隊が使う防火服。
火はずっと人類は対策し続けている。
クソ暑いし動きづらいのが難点だが、ただの炎ならこれで通さなくなったはず。
「嘉神、それ多分悪手」
そう言うと手を前にかざし、再びギフトを使う。
防火服が一片も残さず燃えた。
「ぐぁあぁあああ」
両膝を地面につきのたうち回る。
初めてのダウンをとったことに時雨はご満悦のようだった。
「電工赤火は、電子を利用した自然発火。物体は必ず原子や電子が存在する。耐火服もその例に漏れない。それが物体である限りその物体を炎に変えることが出来る。だからお前のその行動、自分から火を被りにいくのと同じだ。本当は人体でやるのが一番だが、柳動体があるから仕方なく服でしたわけだ」
「……………」
完全に初見殺しの技だった。
若干意識が薄れかかる。
「電気を操るってことはプラズマを操るってこと。
プラズマを操るってことは炎を操るってこと。
炎を操るってことは気流を操るってこと。
気流を操るってことは天候を操るってこと。
天候を操るってことは風や水を操るってこと。
水を操るってことは土を操るってこと。
土を操るってことは植物を操るってこと。
植物を操るってことは生命を操るってこと。
生命を操るってことは……それは即ち万物を操るってことだ。
今のおれは天候までしか上手く出来ないがいずれはそこまで到達する。
そしてその時が、おれがお前の前に立つ時だ。立てよ嘉神、この程度でやられるわけないだろ」
・・・・・・決めた。
使う。
「獄落常奴――業火」
自分の体を業火で焼く。
この火は自然現象ではなく概念としての炎。
業火で炎を焼く。
俺は耐性によりダメージはない。
そして初めて使ってみてわかった。
この能力、俺と相性がいい。
初めて使ったのに長年連れ添った妾の様な感覚を感じた。
いける。
これはもう支配している。
俺達二人を包むようにドーム状に業火を。
「これで逃げられない。そして時雨、これの耐性はないだろ」
「――――」
今度は時雨が黙る番だ。
ドームを少しずつ小さくしていき、遂にあと三十センチで時雨に触れてしまう小ささに。
「これで詰みだ。これ以上径を小さくするとお前の命に関わる。降参しろ。まいったと言え」
業火で包んでいるため前は見えないが声は聞こえているはず。
しかし高圧的な俺の態度とは裏腹に、内心焦っていた。
追い詰めているのは俺の方だというのに、冷や汗が止まらない。
それがなぜなのかもう俺には分かっていた。
時雨はまだシンボルを使っていない。
そして追い詰められた時雨が何をするか……もう答えは一つだった。
「混沌回路」
――――!!
ついに……ついに時雨はとっておきのjokerを使ってきた!!
「----……」
顔が引きつるのが自分でも分かる。
混沌回路の気配を感じ取った。
あれは直撃してはいけない。
楢木魔夜の時ですら感じ取れなかった危険信号が体中に走った。
電気が業火を焼き殺し、ついに時雨の顔が見える。
そこにいたのはもう俺の知っている時雨ではなかった。
かつての強さを探し求めた時雨ではない。
己が進む方に強さがあるのだと確信した、迷いのない純粋な目をしていた。