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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
7章 前編 サマーバケーション
117/351

裸の付き合い

前半途中から視点が真百合さん視点になります。

 捕食された。


 あの時何があったかと聞かれればこう答えるのであろう。


 舌を入れられ口内をまさぐられ、少し噛み千切られた。


 いい加減止めようかとしたと思った矢先に、月夜さんは丸めた新聞紙で真百合を叩いた。


「私はしょうきにもどった」

「それ駄目なやつな気がするんですが」


 やっと解放され立ち上がる。


「で、真百合。今のなんだ?」

「………………」


 またフリーズしたが、今度は冷や汗が流れているため活動してるのが見て取れる。


「嘉神さん、1か月前真百合さんが下級生の暴漢に襲われたの覚えてますか?」


 そんな真百合に助け舟を出す。


「ああ。気がついたら死んでたやつね。覚えてる覚えてる」


 ギフト、束縛日記チェーンダイアリー持ち主のだれだっけ?


「それとあなたのお父さんが襲ったことあったでしょ」

「ああ。ほんと余計な事しかしないよな。あの糞ロリコン」

「それでですね。ちょっと真百合さん男性恐怖症になりかけてたんですよ」

「な、なんだってー!」


 それはかなり重要なことでは無かろうか。


「でも安心してください。男性の嘉神さんと過剰にスキンシップをとることというショック療法で強引に治しました」

「すげー」


 さすがは真百合。

 やはり天才か。


「確かにその状態は早く治すべきだったな。で、次はどこ行くんだ?」

「何やら少し急いでいるようですが」

「分かる? 実はかなり眠くて」


 現在8時であるため丸々1日寝ていない。

 しかもギフトを使い、更に反辿世界リバースワールドによるループ。

 そろそろ休まないとまずいと体が信号を上げている。


「だったらこの家貸してもらいましょう。いいですよね、真百合さん」

「――――ええ。客用の寝室もあるわ。めしべ」


 真百合は大きく手を二回叩いた。


 すると廊下奥の扉が開きメイドさんがやってきた。


「お呼びでしょうか。お嬢様」

「命令よ。客室は使えるわね」

「もちろんでございます。お客様を客室にお連れすればよろしいのですね」

「ええ」


 この声この顔、どこかで見たことあるかと思ったら、浄化集会に連れて行ってもらったときに車を運転していた執事じゃないか。


 かなり印象が違っていたから、同一人物とすぐに気付かなかった。


「用意するお部屋は二つでよろしいのでしょうか?」

「いえ。わたしは応接間にいますので彼がすぐに眠れるように準備してください」

「かしこまりました。お食事はどうされますか?」


 言われてみれば俺は、まともなモノ食べてなかったな。

 ただ今から寝ようとするときに腹に何かを入れるのは健康に悪いため今回は遠慮する。


 首を横に振りいらないと合図をする。


「では案内させていただきます。お履物はその場においていてください」


 靴を脱ぎ用意されたスリッパをはく。


 そしてメイドさんの後を歩くこと30秒。


「…………」

「どうされましたか?」

「いや。なんでもないんだ。なんでも……ないんだ」


 分かってた。


 でもこう現実を突きつけられるとね。


「でかすぎだろ」


 なんで個室が俺ん家より広いんですかねえ。


 126インチのテレビジョン。

 どこかの有名画家が描いていそうな絵画。

 純白のダブルサイズのベッドには枕が一つ。


 備品一つで嘉神家全財産を超えてそう。


「ちくしょっお―――っ!!」


 目に涙を溜めながらベッドにダイブ。


「ふわぇぇ」


 母親の胎内の様に優しく布団が包み込む。


 気持ちよすぎて憤りは消え代わりに強力な睡魔が襲ってきた。


「…………やべ。すみません、トイレどこですか?」


 眠ろうかと持ったがこんなベッドを自分の体液で汚してしまったら大変なことになることに気づき、理性を働かせ一気に体を起こす。


「部屋を出て右を真っ直ぐ。その後再び右に曲がって右手側にあります」

「ありがとうございます」


 お礼を言いすぐさま案内された場所に駆け込む。


――5分経過――


「ふう。すっきりした」


 溜まっていたものをだし、さっさと寝るか。


 zzz








side嘉神一樹→宝瀬真百合


「やっぱ理不尽ですよね。なんで自宅のくせに温泉があるんですか。しかも普通に泳げそうなんですけど。こんな広いお風呂逆に落ち着かないと思います」

「あなた人様のお風呂に入りながらその台詞を言っているって自覚あるのかしら。あと訂正するけどこの家にはここ以外に浴室が4つあるから」

「Fuck! Suck!! Bitch!!!」


 ありのままを伝えただけでかなり貶されたのだけど。


「これだから金持ちは嫌なんです。庶民の気持ちなんて考えることが出来ないんでしょうね」

「言っちゃあれだけれど、私ほど庶民派な富裕層も珍しいと思うわよ」

「うぅぅ。庶民の敵…………」


 めそめそとしている月夜幸だが、その眼に本当に涙を宿しているかは分からなかった。

 恐らくは嘘なきであるのだろう。


「さてさて、折角なんで三度女子会をしましょう」

「女子会って、二人での会話を女子会っていうのかしら?」

「細かいことはいいんですよ。そんなことも分からないんですか。無能の真百合さん?」

「…………」

「あれあれ?いきなり黙ってどうしたんですか? 嘉神さんを助けようと奮闘したのに当の本人から嫌われかけて逃亡しちゃった愚かな真百合さん?」


 毎度毎度この女はわたしを罵倒しないと生きていけないのだろうか?


「私、いい加減貴女に言わないといけないことがあるのだけれど」

「なんですか。聞くだけは聞いてあげますよ」


 ならば言わせてもらうわ。





「ありがとう。幸」





「……………………は?」

「聞こえなかったのかしら? ならもう一度言うわね。ありがとう、幸。私はあなたに感謝しているわ」

「ちょっと何言っているのかわからないです。いよいよ本当におかしくなりましたか」


 私の方が逆にそう問いたいのだけれどね。


「真百合さんは罵倒されてお礼を言う人間だったのですか?」

「はいかいいえで答えるならば、私は肯定する側の人種だわ」

「う……そうでした」

「でも私があなたにお礼を言ったのは、罵倒されたからではなくて嘉神君を助けてくれたことよ」

「べ、別にあなたのためにやったんじゃないんですからね」


 今流行りの……むしろ廃り気味のツンデレという奴かしら。


「分かっているわ。多幸福感ユーフォリアにそうしろと言われたんでしょう?」

「そうです。わたしの行動はそうするように言われ、それに従っただけです。結果的にあなたが幸福を感じただけで、わたし自身どうなろうがしったことじゃありませんでした」

「いいえ。あなたは分かっていたはずよ。いくらなんでも私が嘉神君を愛していることを知って、その上で最初に会わせてくれたのでしょう」

「はいそうですね。分かっていなかったと言えば嘘です。でもそれはどうでもいいんです。嫌いな真百合さんのことも救うのがこのギフトの弱点ですから」

「それでもあなたは逆らうことは出来たはずよ。そのギフト最幸手順を見せるだけで、強要はしないでしょ?」

「………………」

「幸、あなたは自分の意思で私を救ってくれた。だから私はあなたにお礼を言うわ。ありがとう」


 幸の顔がのぼせた様に赤くなっている。


「あう~」


やだかわいい。


「かわいいわねあなた。昔の私なら愛でていたわよ」

「うー。あー。」


 幸は何を思ったのか水面に頭を思いっきり叩き付けそのまま湯の中に沈んでいった。


 しばらく浮上しなかったが、数分たてば呼吸が持たなくなり浮上した。


 黄緑色の長い髪が顔を隠し、妖怪濡女みたいな容姿になっていた。


「絶対に私が言うべき台詞じゃないけれど、あなた頭大丈夫?」

「…………心配されなくてもそこまで落ちぶれちゃいません」


 悪態をつくがいつもの覇気がない。


「でもこれでわたしは可愛くなくなりましたよね?」


 …………そういう事ね。


「もしかしてだけどあなた、お礼を言われたり褒められたりするの苦手かしら?」

「……まあそうですね。あなたにだけは知られたくなかったですが、仕方ありません。これも『物語』の意思だとして割り切ります」

「考察するに、好意を向けられるのが駄目なのね」

「――――嘉神さんは鈍感すぎますけど、あなたは察しが良すぎです」


 思わぬところでこの娘の弱点を知ってしまった。

 でもできればもっと早く知りたかったわね。


「自分の行いは善意によるものではなくただそうしなければいけないからやったという偽善だから、純粋な好意を向けられるべきではないなんて考えてる……こんなところ?」

「………………天才め、人が隠している物を、そうも簡単に暴くのか」


 何やらひどい言われようだわね。


「あなた防御力低過ぎよ」

「悪うござんしたねえ。わたしステータス低いんで、回避に極振りしてあとは初期値なんです」

「それでも一般的女子高生に比べれば平均くらいだと思うのだけれど」

「一般人より逸般人の方がエンカウント率高いんですよ」


 それについては同情するわ。


「それでどうしますか? わたしの一面を知ってしまったわけですが。今までの仕返しでもしますか?」

「いいえ、そんなことしないわ」

「………………なぜですか? こう言ってはなんですがわたし真百合さんに結構酷いこと言いましたよね? 普通何か仕返ししたいと思うはずなんですが」


 どうしましょう。

 言ってあげるべきか、言わないべきか。


「聞かない方が良いと思うわ」

多幸福感ユーフォリアは聞くべきと言っています」


 そうだと思ったわ、客観的に思えば言った方が良いものね。


「そう、それじゃ後悔しないでね」

「どうぞ。わたしは逆らったことに後悔したことはあっても従ったことに後悔したことはありません」


 そこまで言うなら仕方ないわね。



「貴女が好きだから」



「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はあああああああああ!?」


 小ぶりな幸から出したとは思えない、まるでマイクの音量調整を間違えてしまった時の音量が私を襲った。


 バスルームにエコーがかかり私は気がついた時反射的に耳を押さえていた。


「ついに本気でトチ狂いましたか?」

「逆に聞くけど嘉神君に会わせてくれた貴女を嫌いになれるとでも思っているのかしら?」

「いや……でも好きなんて。嘉神さんはどうなるんです?」

「彼は愛しているわ。当然よ。この世の誰よりも何よりもね。でもこれとそれは違うでしょ? 飲み物として赤ワインが好き、ぶどうジュースよりそちらを好んで飲む。私がさっき言った好きはそれくらいのものよ」


 私が彼以外を愛するなんてあり得ないけど、好むことはある。


 逆に、彼以外を好まなくなった時、それは本当の意味で人間・・の私が終わるときだろう。


「だからもう私はあなたを嫌うことは無いわ。そして私は好きな相手に酷いことをしたいと思う人間じゃないから」

「やられたら十倍で返しそうな嘉神さんとは逆ですね」

「そうね。私と嘉神君は逆の立ち位置なんでしょうね」

「へえ。意外です。同じになりたいと思っていたんですけど」

「もちろん精神的にも身体的意味なら一つになりたいけど、対極に位置するのは否定しないわよ。むしろそうならないと相性が悪いじゃない? プラスとマイナス、陽と陰、それらが引きつけられるのが自然の摂理でしょ?」


異なっている物を好む。


 同族嫌悪という言葉があるように似過ぎたら嫌われそうで困る。


「S極にいる嘉神さんの為にあえて自分をN極に置くという事ですか」

「私はNというよりM極にいそうだけどね」

「Mを極めるって、貴女らしすぎて突っ込む気にもなれませんよ」


 自分でもかなりうまい例えだと思った。


「ああもう。調子狂いまくりです。わたしの方が本当にあなたのことを嫌いになりそうです」

「その言い方、つまり先月のあれは演技だったのね」

「あッ……」

「ふふ、本当に今のあなた、可愛いわよ」


 何で今こんなことになっているか、普段強かった幸が私なんかで、弄べるのか。


 理由は単純すぎて言うまでもない。


 私は彼女の一面を見られて、かなり気分がいい。


 そして彼女自身褒められるのは苦手だと言っても、嫌いとは言っていない。


 恐らくだが何か私を馬鹿にするのに何かしらの目的があったため、仕方なくしていたのだろう。


 ただこれかなり危険な弱点になり得るわね。


 最悪の場合、罪を犯すことに愉悦を感じる人種を助けかねない。


「もうこの話止めです。分かりましたね?!」

「はいはい。それで、他に何か話はあるのかしら」

「ええ。あと三つほど」

「そんなにあるの」

「はい。最後に話すことは決まってますので、残りの二つで重要なのとそこまで重要じゃないのどっちから聞きたいですか?」

「そうね、重要じゃない方から聞こうかしら」


 先に重要なことを聞いてしまったら後のことが頭に入らなさそうだったからだ。


「お金をください」

「いくら? 一億? 十億?」


 前回百万を上げたため今度もまたその延長だと推測したが、その予想は大きく外れた。


「一千億それも現金で」

「…………」


 これが重要でない方の話なのね。


「無理ですよね、だからもう少しまけて――――」

「いいわ」

「え?」

「一千億ね。それくらいならまだ私個人の裁量で賄えるわ。ただし、二週間かかるわよ。流石にその額は私もいろいろやりくりしないといけないから。土地や株を売ったり会社の名義を私からお父様に移動したりしてその手続きがそれくらいかかるわ」

「頼んだ私が言うのも何ですが、大丈夫なんですか? 無理しなくてもいいんですよ」

「そんな心配しなくてもいいわ。だって―――




私が経済的に困るのは兆からだから」




「    」

「何その顔、土偶?」

「――――ハッ、危ない。殺意の波動に目覚めかけました」

「それで、重要な話って何?」

「早苗さんのことです」


 …………


「助ける目途はあるの?」

「そっちじゃありません。言い方が悪かったですね。あなたが思う早苗さんのことです」

「どういう意味?」

「あなた、早苗さんのこと嫌いでしたよね」

「そうね。それがどうかしたのかしら?」

「理由をお伺いしてもよろしいですか?」


 理由ねえ、言わなくても分かると思うけれど。


「嘉神君を取り合う敵だから」


 これ以上の単純かつ明快な答えは存在しないだろう。


「それは、彼を知った後のことでしょう。貴女は嘉神さんと知り合う前から早苗さんを嫌っていた」

「確かにそうだったわね」

「なぜですか」

「それはもちろん――――」


 何故だったかしら?


「そうよね、言われてみればこれは確かにおかしいわ。なんで私は昔早苗のこと嫌っていたのかしら? 客観的に考えて彼女に嫌われる理由はなかったはず。そして昔の私はそれを客観的に理解できていたはずなのよね」

「それがあなたの今回の宿題です。頑張って解いてください」


 もし幸から出された問いでなければ、適当に理由をつけて納得しただろうが、幸によって出されたというメタ推理でその答えが恐らく重要であり私たちのこれからを担うモノだと思ってしまう。


「最後に――――…………」

「最後にどうしたの?」

「言いたくないです」

「あら、さっきやらなかったら後悔するって言ったのは私の聞き間違いだったのかしら?」

「うぅぅうー」


 悶絶中の幸。


「分かりました。覚悟を決めます」


 スーハーと一度深呼吸をしてから覚悟を決めてわたしにあることを伝えた。


「嘉神さん今から三時間はまず起きませんので、添い寝するなら今がチャンスです」


 そう言って速やかに逃げようとする幸だったが、残念なことに私の方が反射神経並び機動力筋力が上であり浴槽から出る前に片腕を掴み終え、力ずく(握力40over)で自分のいる所まで連れ戻した。


「さっき私はあなたのことが好きだって言ったけど訂正するわ。大好きよ、幸」


 そう言って両手で顔を押さえ頬にフレンチキスを交わした。


 そしてこれ以上ここにいる理由が無いため、滑らない程度で急ぎ身支度をすます。


 ただその時振り返り、幸の顔が真っ赤だったのは私の中で止めておきましょう。


やっぱ主人公つええや。

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