奇行部隊
急いで書いたので誤字脱字その他もろもろが多いと思います。
それと路線をシュールギャグに変更しました。
2015 4/25 改訂
俺と仲野は一週間の停学処分となった。
何でも喧嘩両成敗だとか。
仲野からしたら不遇かも知れないが、そもそも原因はあっちである。
個人的には、あちらが仕掛けて引き分けまで持ち込まされた感があり、若干ながら敗北感がある。
それに母親にはこっぴどく怒られたが、考える時間が出来てよかったと思う。
「それと……だ」
むしろ今は自由に使える時間ができてよかった。
俺は今朝回収した便箋を取り出す。
手紙の内容は英語で書かれている。別に英語は読めなく無いのだが、字が達筆すぎて読めない。
だいたい今更筆記体で手紙を書く奴がいるとは思わなかった。
翻訳するのにほぼ丸一日かかった。
そしてその翻訳した内容がこれである。
『拝啓美しい鬼。
初めまして。
ぼくの名前は【ジョセフ・ランフォード】ただのしがない英国紳士さ
一年前から君を襲ったあの人形はぼくが使わせた物だよ
気に入って頂けたかな?
そうに決まっているね。何せぼくからの贈り物なんだから
惚れたかもしれないが生憎ぼくには妻がいる
残念がらないで欲しい
本題に入ろう
ぼくは君に一目惚れをした
正確には君がなる鬼の姿にだ
勿論愛しているのは妻だがね
だからぼくは君に逢いたくなった
日時は明日なんてどうだろうか
明日の十二時。ぼくは君に逢いに行く
出来れば鬼の姿で待っていてくれたまえ』
何言ってんだこの人。頭おかしいんじゃねえの。
途中、俺の翻訳ミスも何度も疑ったが何度訳してもこの内容になった。
まあいいや。この手紙のおかげで犯人の頭がおかしいことと衣川さんが今日ピンチになるということが分かっただけで良しとしよう。
「で明日って今日のことだよな」
そして今は夜中の十一時四十分。
更に衣川さんは今日本体が来ることを知らない。
「ちょ一樹くん。何外出ようとしてるの!」
母さんに見つかった。
「わりい母さん。男の戦いに行ってくる」
全力で走れば捕まることはないだろう。何せ母さん足短いし(笑)
「なぜ貴様が来た」
朝からご立腹の衣川さんである。
時計を確認すると十二時一分前だ。
「衣川さん、今日あいつが来ますよ」
時間がないので要点だけ話す。
「あいつ?あの化け物のことか?」
頷く。
「なぜそれが分かる」
「時間がありません。あと、十秒」
気配を探る。
「人の話を聞け。この鬼畜魔王が」
衣川さんに言われると結構傷付くのだが。
「3,2,1,0」
どっから来る?
「話聞け!」
やっぱり上か!
満月をバックに漆黒の穴が空いた。中々ロマンチックである。
折角なので雰囲気をぶち壊すために
「ドーナツみたい」
と呟いてやった。
「上」
衣川さんに注意を促す。
「あれは……一体なんだ!?」
俺は昨日この光景を見たから心の準備ができていたが、昨日寝ていた衣川さんはあの化け物が登場する瞬間を見ていないっぽいな。
「あそこから、化け物が出てきます」
俺は両腕両脚に鬼人化を発動する。
ゆっくりと降りてくる化け物の肩には二人の人間が乗っていた。
二人とも格好は同じだ。お揃いの白衣を着ている。
一人は青髪に薄いメッシュの入った欧米人。
もう一人は紫色の髪の毛をしたセミロングの欧米人。
「初めましてだね、鬼」
男が口を開いた。てか日本語はなせるなら手紙も日本語で書け。
「ぼくからのラブレターは読んでくれたかな?」
「手紙?何のことだ?」
「それならここにあるぜ」
ひらひらと手紙をふる。そして、出した本人を目の前にして破り捨てる。
「ラブレターが破れたー。なんちゃって」
残骸を足で踏み付ける。
「猿のくせに」
欧米人が何かを呟いた。
「というわけで衣川さん。手紙の内容知らないんです。残念でしたね」
ざまあ。と心の中で呟く。
「東洋の猿の分際で、ぼくの愛の手紙を勝手に捨て去るなんて!」
こいつ、ちょろいな。
空手二段の見解を言う。弱い。弱すぎる。下手をしたらそこら辺の小学生の方が強い弱さだ。
「だいたい東洋人を猿っていうのは少しおつむが足りないんじゃないですか? アメリカ大陸で大量繁殖した白いネズミさん」
「~~~!!」
「お? あなたもしかして白人じゃなくて赤人ですか。顔真っ赤ですよ?」
肉体的にも精神的にも俺はこのイギリス人に勝っている。
とはいえ油断は禁物。
ギフトは強さも弱さも無意味にする代物。強いか弱いかだけで判断すれば命取りだ。
「その猿。言葉が過ぎるぞ。デートが終わったら調教してやる。それに君もだ。折角のデートの誘いに男を連れてくるなんて。マナーがなっていないね」
俺が勝手にやってきたんだけどな。
「すまんが今何が起きている。嘉神、頼むから説明してくれ」
一生の恥より一時の恥を選んだ衣川さん。
少年説明中……
理解が苦しそうだったが(俺だって理解しているわけじゃない)衣川さんが口にした第一声は
「なぜこのイギリス人はイタリア人のようなことをするのだ」
うん。そうだよな。
妻がいるなら女にちょっかい出す必要性ないだろ。
「話は終わったようだね」
化け物から降りた。
「ぼくのギフトは奇行部隊。触れた物質を化け物にすることが出来る」
ジョセフ・ランフォードは落ちていた石ころを拾って衣川さんに投げつけた。
その石ころは投げられている間に姿を変えた。
「【うぇふぇをにfなおいfんsぢおふぇ】」
それを見た衣川さんは一瞬で叩きつぶした。強。
「やっぱり一秒しか触れていなければこの程度か」
どうやら触れている時間が長ければ長い程化け物は強くなるらしい。
「ああ。そういえば自己紹介がまだでしたね。ぼくの名前はジョセフ・ランフォード。そしてこっちがぼくの妻の
コルネリア・ランフォード。マイワイフは幼い頃から声を出すことが出来なくてね。だからぼくはこうもお喋りになったというわけさ」
聞いていないのに御苦労なことだ。
「だったら私も名乗った方がいいな。私の名は衣川早苗。異能は鬼人化で、自らの身体を鬼にするギフト……といっても知っているようだがな」
何か流れが俺も名乗る必要を感じた。
「俺の名は嘉神一樹。ギフトネーム―――」
「部外者は引っ込んでくれないかな」
ええ。名乗らせてくれないの。
「今ぼくは彼女とのデートの途中なんだよ。東洋の猿に紳士のマナーを求めるのはどうかと思うけど、日本人らしく節度のある行動をオススメするよ」
カチンと来る言い方だな。
「迷惑なやつもいるけど、始めようか。ぼくのギフトと君のギフト。どちらが優れているのかを」
乗ってきた化け物が衣川さんに襲い掛かった。
あれはさっき襲った化け物とは比べものにならない強さだ。
「くっ……鬼人化!」
予想外に速く、衣川さんは最初防御から入った。
「このおおお」
長期戦は不利だと判断したのだろう。完全体となって一気に畳み掛けようとした。
「そうだ。ぼくはそれを見たかったんだ。もっと魅せてくれ。君のその美しい鬼を」
サイコ野郎が。
「鬼人化」
俺は半ば不意打ちで化け物の首に一撃を入れる。化け物は首がもげた。
そして倒れた化け物の体を入念に破壊する。
「ななななななな!聞いていないぞ!何で貴様が鬼になることが出来る!!」
「そもそも俺が名乗ろうとしたときにあんた遮ったでしょ」
それを聞いていないと言うなんて甚だしい。
「あれはぼくが一ヶ月かけて作ったんだぞ!なのに!不意打ちなんかで倒されるなんて」
それが世界の常識だ。
「強いやつは油断か不意打ちで負けるように出来ているだよ。ま、遠くから見ることしかできない弱いあんたには関係のない格言だがな」
さっき無視されたことをみみっちく覚えているのだ。
「こ…この……」
「どうした?今ならまだ頭を地面に擦りつけたら許してやるぜ」
問題は男の方じゃない。今まで一言も喋っていない女の方だ。
こっちの方が強そうだ。
「どうしますか?もう二度と襲わないって誓うのなら逃げてもいいですよ」
それが一番有り難い。個人的に男の方はともかくとして、こいつが本気を出したら、勝てるかどうかは五分だ。
「貴様は、何を勝手に話を進めている!これは私の問題だぞ!」
何で衣川さん怒ってるの?
そっか。俺がここにいるからだ。
そりゃ怒るよな。
「ハハハハハ。そうだ、この手があった!」
しまった。影が薄くて忘れていた。
「ここにあるじゃないか。ぼくが十年間肌身離さず持ち歩いてきた物が」
こいつ何を言っている?
「やはりぼくは天才だ。現れろ!奇行部隊」
こいつ……婚約指輪を化け物に変える気か!?
「………!!!」
現れた化け物は、化け物とは言えなかった。
どう見ても見た目は人間で、身長は俺とさほど変わらない成人男性の体をしていた。
「【我が主よ。何用か】」
遂に、化け物は言葉を話すようになっていた。
「ぼくの子よ。ぼくの命令は一つだ!こいつらを叩き潰せ!!!」
「【了解した】」
少しこっちを見たと思ったら
「―――!!!」
瞬きをした一瞬で十メートルは離れていたのに距離をゼロにされた。
「ぐへぇあ」
鳩尾を殴られる。俺は反射的にお腹を鬼化していたので吹き飛ばされるだけですんだ。
未だ完全に部位を鬼化することは出来ないのに土壇場で出来るなんてついてるな。
「大丈夫か嘉神!!」
大丈夫なのだが絶望した。
吹き飛ばされすぎだ俺。五十メートルは吹っ飛んだぞ。
「【くたばりぞこないが】」
今度は見えた。五十メートルも離れているのに僅か一秒でこっちに向かってきた。
「うおおおおお」
俺は捨て身でカウンターを入れる。
戦闘スタイルは知らないようなのでクリーンヒットをすることが出来た。
が、化け物はそのまま俺に一撃をお見舞いした。
「いってええええ」
腕の骨が一撃で折れた。
「【死ね】」
仕方ない。痛みで動けないがやるしかない。
「雷電の球!」
時雨のギフトだ。片手サイズの大きさしか作ることが出来なかったがそれでも一撃を食らわせ怯ませることが出来た。
「今のギフトは……時雨のか?」
「その話はしないでください」
ようやく治った足で衣川さんの元に向かった。
「そんなことより、あれ時間稼ぎにしかなりません。ビギナーズラックってやつでさっき綺麗に決まりましたけど、多分次は当たりません」
訂正するよ。ランフォード。お前の異能は戦闘向けじゃなく戦争向きだ。
「衣川さん。ここは警察に連絡した方がいいです。明らかにヤバイ」
「嘉神、ここはどこだと思っている。組の敷地だぞ。そんなこと出来るわけ無いだろ」
そういやそうだった。でもこの非常時だったらさすがに呼ぶべきと思うのだが……
「それに貴様もどさくさに紛れて何気安く話しかけている。貴様はこれが終わったら殺す」
なんて強烈な口説き文句だろう。
「まあそうなるように祈っておきます。来ますよ」
個人的には結構遅かった方だ。
「【なかなか面白い。がそろそろ我が主人の命を果たさないといけない】」
来るぞ、来るぞ来るぞ来るぞ。
神経を集中させろ。意識を全てあいつに向けろ。そうでなければここで死ぬ。
今度の狙いは衣川さんだった。衣川さんも反応することが出来ずまず受けから入った。
俺は化け物に足払いをする。
やはりパワーやスピードは段違いだが、テクニックは素人だ。
これなら勝てる。
倒れかけた化け物に拳の応酬を仕掛ける。
仲野の時とは違う、本気で鬼化した両腕の拳だ。
念入りに、入念にこの化け物を壊す。
十、百、千回殴った。
あと二百殴る。そうすればいくらこいつでも動けまい。
「ぷはあ」
口から血が出た。吐血である。
なぜだ。持病があるわけでもなくこの化け物は完全に動きを封じていたはず。
「【ふぇwふぉwねいgねwぽうぇ】」
そっか。新たにあいつが化け物を作り出したか。数の限度言っていなかったしな。きっと何体でも作れるのだろう。
「なにくたばってるんだよ。おまえはぼくの最高傑作なんだぞ。こんなやつに負けていい分けないだろ」
「【すまない、我が主人】」
マジか……。こいつ、何でまだ動けるんだ!?
「【少々こいつの動きから、戦い方を学んだ】」
そんなこと……出来るわけ。
臓器に傷はついていなかったためすぐに回復し、付け焼きの化け物を倒す。
そしてすぐ、倒れている化け物を襲おうとするのだが―――――――――既に立っていた。
こっちは全力の本気で、千回も殴ったんだぞ!何でそれを何もなかった風にして立てるんだ!
「【感謝するぞ。これで我はまた一つ強くなった】」
近くにいた俺を殴った。
さっきまでこいつは殴るというより、拳を突くだった。それを今ちゃんとした拳になっている。
また飛ばされた。なんて事だ……壁が凹んだぞ。
だが回復はそっちだけの専売特許じゃないんだ。俺だってある程度は出来るんだよ。
「鬼人化」
目眩がした。何故か体が重い。
俺はスタミナ切れという訳か。
「邪魔者は消えた。来るがいい」
邪魔者扱いされた。泣くよ。
「【ふっ。笑止。我がさっきまでどうしてお前を狙わなかったか知っているか。お前があいつより弱いからだ】」
「今何といった!私があいつより弱いだと……」
「【その通りだ。貴様何ぞ、本気で戦う必要もないがせめてもの礼儀だ。一瞬で殺してやる】」
駄目だ衣川さん。あいつには勝てない。
化け物は一瞬で距離を縮め、拳を入れようとした。
「きゃ」
というのはフェイクで足払いを仕掛けていた。
あの化け物は一回俺の攻撃を受けただけで学び取ったのか!?
「【ふん。ちぇええええ】」
あれを喰らったらまずい。俺は雷電の球で化け物の気を引いた。
「来いよ化け物。俺はまだ死んでもいないぞ」
体が重い。吐き気がする。
「【くたばりぞこないが、ちぇええい】」
どうやら衣川さん、俺はあんたに殺されることはないようだ。
あの化け物はまさかの腕が伸びた。ビックリである。
その腕で俺の首を掴んだ。
色が反転する。上下も反転する。体に力が入らない。
「【ははははっはああああ。悪あがきはこれまでだ。我がトドメを刺してやろう】」
俺は残り僅かしか残っていない力を使ってあの化け物の腕に、直で電気を送る。
「【ぐあああああ】」
流石に直電気はきつかったか。
よかった。麻痺してくれた。
だが今度こそ体力を使い切った。鬼人化も雷電の球も使うことが出来ない。
「おい……大丈夫か」
衣川さんはぶっ倒れた俺を見ていった。
「大丈夫です……といったら格好いいんですけどね」
正直首の骨が折れてる気がする。
「なぜ私を助けた!私は貴様を見殺しにしようとしたのだぞ!」
変なこと聞くな衣川さんは。
「衣川さん。確かにあなたは俺のことを嫌っているでしょう。俺はそれだけのことをしてきたんですから」
覗いたこととキスしたこととトイレで出くわしたことを走馬燈のように思い出す。
「ですがね。俺は俺を看病して、そして今もこうやって心配してくれている衣川さんを嫌いになんか慣れませんよ」
彼女は優しい。いくら怒ろうが、結局助けるのだ。
「だから衣川さん。ここは逃げて。あいつはあと一分怯んでくれるかどうかも分かりません」
「駄目だ。嘉神を置いてここから逃げるなんて……」
「それこそ駄目です。今その優しさは衣川さんを傷つける」
「私は優しくなんか無い!さっき私は嘉神を見殺しにしようとしたのだぞ!一体どこが優しいのだ!!」
やっぱそうなるよな。
俺としては理由を言いたくないがまあ、しかたないか。
「衣川さんの鬼化した姿が綺麗だなって。綺麗だなって思ったんですよ」
「なっ!?お前正気か?」
そう。つまり俺はあの欧米人とやっていることは真逆だが思っていることは同じなのだ。
「無機質な刺々しいあの状態が?」
「はい」
「赤い人間味の無いあの状態が?」
「はい」
「馬鹿じゃないのか?」
「そういわれると思って俺は今まで隠してきたんですよ」
彼女は何も言わなくなった。
「【ぐあああああ】」
雄叫びが周囲に走る。もう起きるよな。
「【やはり貴様は強い。だが、もう終わりだ】」
体でびりびりと何かを感じる。
「【確か、雷電の球だったか?】」
二回見ただけであれをモノにしたのか!?ギフトとしてではなく単に学習能力だけで!?
さらに言うと俺のような偽物でも時雨のような本物でもない。
大きさが運動会で使われる大玉並にある。
「さすがはぼくの子だ」
外野が騒ぐ。
「【貴様が我を強くした】」
マジでか。どうしよう。
「【何をする気だ】」
「おい!立ち上がるな!貴様はもう限界だ」
分かってるよそれくらい。俺の体が限界だということくらいな。
「下がって。巻き込みたくないですから」
俺が今できるのはこれくらいだ。
「しっかり狙えよ。しっかり俺を目掛けて撃つんだ」
「【よかろう。ただし纏めて葬ってやるがな】」
明らかに本家より巨大な球を作り出している。
「やれ!ぼくの子よ」
「【了解した】」
俺は衣川さんを蹴り飛ばした。
「嘉神―――!!」
衣川さんが俺の名字を叫ぶ。
俺は光の球に突っ込んだ。




