裁きの時
どう考えてもあと3話以上は使いそう
「単純な興味で聞くんだけど、お前たちの記憶システムってどうなっているわけ?」
表人格が裏人格のことを知らずに、裏人格は表のことを知っているのが多いと資料で読んだんだが、まよちゃんは覚えていないと言って、この娘は俺のことを知っていた。逆なのだろうか?
「ん? まよの楽しい事や嬉しい事の記憶だけは魔夜に伝わるよ?」
「そうか」
嫌な事だけを押しつけ、嬉しい事だけを自分は共有する。
この一文だけ読めば酷いかもしれないが、それでも仕方ないのだろう。
彼女は既に壊れてしまったのだから。
「だから目覚めた時驚いたね。この数週間の記憶がみっちり魔夜に伝わってるんだぜい。よっぽどお兄ちゃんのこと好きだったんだね」
「それは違うな。まよちゃんはそんなこと思うわけがないだろ。あの人格の長所は、自分を幼く見せ保護欲を駆り立てることだ。信頼がある相手に酷いことをやりづらいからな。だからまよちゃんのその感情は一種の防衛感情」
「そんなことって……」
「あるに決まってる。普通に考えて男に凌辱された女が、他の男相手に好意的な感情を持つことがおかしいだろ」
だから俺とまよちゃんの非日常的な日常は、互いに嘘をつき合ったつぎはぎだらけの生活だった。
「うん。わかった。魔夜賢いからよく分かった。お兄ちゃんって誰よりも狂ってるね」
「はあ?」
素っ頓狂な声を出してしまった。
「魔夜はそういう少し頭がおかしいところにいたことあるから、何となく分かる。お兄ちゃんこっち側だね」
「……失礼なことを言うな。一応教えておくが初対面じゃなくても頭おかしいなんて言うもんじゃないぞ」
これだからキチガイは嫌なんだ。
「ただそんなことはおいといてな、魔夜ちゃんに質問があるんだ」
「ん? なに?」
「魔夜ちゃんは何人殺した」
「忘れた」
「誰を殺した」
「豚とモヤシとパパとママと名前の知らない弟。あとは友達だったハルカちゃんとたくみくんくらい?」
…………
「でも仕方なかったんだよぅ。まよに免じて許して」
「お前が、誰も殺していないというのなら俺は見逃していた」
「およよ?」
「豚とモヤシだけを殺したというのなら、俺は笑って許していた」
「もしかしてオコなの?」
「だが、関係の無い人間を巻き込んだ。なんでだ?」
「ええー。いいたくなーい」
「言え」
「仕方ないなあ。魔夜とお兄ちゃんの仲だから特別に教えるんだからね。――――だって羨ましかったから」
羨ましい……か。
「だってさ、魔夜とまよちゃんが痛みでひぃひぃ言ってる時に、あいつらぐっすり寝て美味しいもの食べて素敵な恋愛とかやっていたんだ。不公平じゃない?」
「かもな」
「今でも羨ましいんだ。みんなが、笑っていられるみんなが。だからねえ、少しでもみんなが魔夜とおんなじ目にあえば、魔夜はきっと幸せになれると思うんだ」
「…………」
「あ、でもお兄ちゃんは別。魔夜としてもお兄ちゃんは幸せになってほしいし、それに、もしかしたら魔夜なんかよりも不幸な目に合っていたのかもしれないからね」
予想通り、最悪の答えだった。
「だがお前は、巻き込んじゃいけない人間を巻き込んだ。いいか魔夜ちゃん。同年代のよしみで教えてやるが、悪い奴には何をしてもいいが、悪い事された奴が何をしてもいいわけじゃないんだ」
実は楢木魔夜は俺とほぼ同じ年だったりする。
監禁されまともな食べ物を取れなかったため成長が遅れていた。
「ふうん」
興味なさそうに空虚な返事。
「ところでさ、魔夜ちゃん。左足に違和感がない?」
「…………?」
「いやね、まさか俺が何も考えずに魔夜ちゃんを外に出すなんて、そんな馬鹿な事やるわけないよな」
「どゆこと? 魔夜かんがえるの苦手」
「説明しようにも、魔夜ちゃんは覚えていることと知らないことがよく分からないから面倒」
だから自分の中で説明する。
最後の右足についている枷。
俺のは外したが、実は楢木魔夜のだけは外していない。
その代わり枷に、感無量で触覚と視覚では感じ取れないようにしていた。
つまりまだ右足の爆弾は稼働しているわけで……
「鬼人化」
隠し持っていた自分のを強引に投げる。
「同情はするが同調はしない。さよなら魔夜ちゃん」
この爆弾の火力は俺が身を持って経験している。
たった一つで人の四肢はバラバラになる。
例にもれず魔夜ちゃんの体はバラバラになった。
俺は彼女のギフトは召喚系統の能力だとよんでいる。
自身の防御力は皆無のはず。
「……死んだか。地獄で安らかに眠れ。楢木魔夜」
「――――そりゃできないぜ。お兄ちゃん。魔夜は地獄じゃ眠れない」
…………………マジで?
これは予想外なんだが。
殺しても死なないって止めてほしいんだけど・
「おいどうなってんだ。確かに死んだはず!!」
「うん。確かに魔夜は死んだな。間違いない」
既に彼女の四肢は治っている。
「お兄ちゃん魔夜のギフト、なんだと思ってるわけ?」
「……動物みたいなのを召喚する系のギフト」
「んん………はっずれ。まだまだだね」
「じゃあなんなんだよ!」
「地獄を支配するギフト。獄落常奴」
……………ふざけんな。
「一端の餓鬼が、そんな能力使うな!」
ラスボス級の能力じゃないか――!
間違ってもレイプされた少女が使っていい能力じゃない!
バランス考えろ!!
「それだとなんでまよちゃんが、動物召喚みたいなこと出来るんだよ!」
「説明めんどい」
死ね。
「で、さっきの何? 定期的に人を殺したくなる発作? あるよねそういうの。魔夜も1日に6回は感じてるよ」
「一応聞くんだけど、何で生き返ったわけ?」
「自慢じゃないけど魔夜は悪い子なのです。死んだらきっと地獄に逝っちゃうから、そこからまた戻っただけ」
ふぁっきゅー魔夜。
ガチ物の死なない能力かよ。
「ねえねえお兄ちゃん。いきなりそれ酷くない? 仕返ししても文句はないよね?」
「ある! お前のターンねーから!!」
というより、相手に攻撃の隙を与えたらやばい。
「二次色の人生」
拳銃を作り発砲。
当然、死ぬ。
「呼ばれてとびでてじゃじゃじゃじゃーん」
「殺されたら死んどけ!!」
見通しが甘かったと言われれば言い返せないんだが、こんなん考慮しとらんと言い訳させてもらいたい。
「じゃ、魔夜からいっちゃいまーす。獄落常奴」
嘉神君がこんなんわかるかといってますが、分からないにしても普通に考えてレイプ被害者が生き残っていること自体おかしいと思わないのが問題だと思います。