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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
6章 黒白の悪魔
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最後の審判

 伏線って気づかれたら伏線って言わないと思うんです。


 扉を開け最初に飛び込む感覚は視覚ではなく嗅覚だった。


 潮風が俺の鼻をくすぐったのだ。


 まだ辺りは暗いが暗闇というわけではなく、ほんのりと先が見える。


 朝日が昇るまでほんの十数分といった所か。


 タイミングとしてはばっちりだ。


 0時開始だったからあまり早く行き過ぎると脱獄に成功するのは真夜中になってしまう。


 俺はまよちゃんに朝日を見せたかった。


 彼女はお日様を見たいと言っていたからな。


「まよちゃん。ちょっと移動しようか」

「…………うん」


 すでにまよちゃんの瞳は涙があふれていた。


「おいおいまよちゃん。こんなことで泣いてちゃ太陽を見た時いったいどういう反応するんだ?」

「わかんない」


 そうか。


 俺はその時面倒なことにならないよう願うだけだ。




 海岸をめざしゆっくり歩く。


「そういやまよちゃん。何で俺がドラゴンを説得できないって言ったと思う?」

「うーん……あの人のギフトでだから?」

「ハズレ。理由はねまよちゃんの能力は動物と話すことじゃないから」


 ここはあの戦闘中で話したはず。


「そういえばお兄ちゃんはそんなこと言ってたの。でもどういう意味なの?」

「簡単な話だ。普通に考えて、常識がある人間ならわかるはず」

「じょうしき?」


 そう常識。




「動物が人の言葉を理解出来るわけがないだろ」




「ええー」


 犬やカラス多少脳が進化した生物がまよちゃんのいう事を聞いた、ならばそんなこと思わなかった。


 でもまよちゃんが話したと言っている動物は『ゴキブリ、ハエ、蚊』といった脳がほとんど発達していない本能で生きている生物が大半だった。


「だからまよちゃんの能力は動物と話すことじゃなく、人間以外の動物の操作と考えられる。これならばまよちゃんがやったことに対して矛盾は生じない」

「うー。夢が無いの」


 夢が無いね。


 リアリストといってほしい。


「でもお兄ちゃん。それならなおさらまよがドラゴンさんを操れないって言うのおかしいと思うの」

「そうだね、ところでまよちゃん。その前にちょっと聞かないといけないことがあるんだけどいいかな?」

「いいけど、なに?」



「まよちゃんのギフト、名前は何て言うの?」



「え?」

「だから名前、言っておくがないとは言わせないよ。どんな能力でも名前はあるんだから。そうじゃないと力はいらないだろ?」


 俺だって無闇に自分の能力名を明かしているわけじゃない。


 手加減しながらだったら何も言わずに使えるが、本気を出す時は絶対に名前を言っている。


 そしてまよちゃんは答えない。


 答えられない。


「分かんない。でもほんとまよ分からないの。信じて! お兄ちゃん!!」

「うん。まよちゃん。信じるよ」

「ほんと!?」


 ああ。


「で、ちょっと話を戻すけどね、まよちゃんのギフトは『動物を従える』。従えるについては操作するみたいにいろいろ意味合いがあるかもしれないけど、少なくとも似たようなニュアンスであるのは間違いない」

「まよとしては話す方が好きだけど、お兄ちゃんがそういうならしかたないの」


 いい子だ。


「でもね、それもあり得ないんだ」

「???」



 自分の能力をここまで否定され若干思考停止気味のまよちゃん。


「これについてまよちゃんは多分理解できなかったし、例え頭が良くても知識として知らなければ分からないと思うからそんなに悩むことは無いよ」

「で、それじゃあ一体何がおかしいの」


 おかしいか。


 俺視点の話をすればここまで全部茶番なんだよな。


「まよちゃんはさ、俺を攻撃したこと覚えてる?」

「少しだけなら」

「あの時はゴキブリやハエ、ムカデやヤモリで俺を攻撃したよね」


 今思い出すとなかなか嫌な事件である。


「それがどうしたの?」

「それはどうでもいいんだ。重要なのはその後なんだ。まよちゃんはを使って、俺を攻撃しようとしたよね」

「うん」


 それなんだ。


 それが問題なんだ。


 それさえなければ何の問題もなかった。


「でも蚊ぐらいどこでもいると思うの」

「いないよ。どこでもいない」

「寒いところはいないかもしれないけど、あそこ暑かったしジメジメしてたの。いてもぜんぜんおかしくないの」

「育つ環境は申し分ないだろうな。でもね、もう蚊はどこにもいないんだ」

「???」




「だって蚊は、この世界ではもう絶滅したんだから」




「はあ?」


「ちょっと過去の話をするからよく聞いてね。5年くらい前に蚊を媒体とした伝染病が流行ったんだ。伝染力はインフルエンザ並、致死率はエボラよりも高いというふざけた病気。犯人はギフトホルダーで既に死刑になった。

だけど、そんな病気がこれ以上流行れば、ただでさえ少なくなった人類がさらに減ってしまう。


そこで苦肉の策として支倉が独断で蚊を全滅させた。どうやったのかは俺には分からん。


ギフトを使ったのか、それとも公表されていない科学技術を使ったのか。そんなこと一般人である俺は知り得ない。でも確かにその案件以降俺は一回も蚊という生物を見たことが無い」

「……………」

「だからね、最初にまよちゃんが蚊を従えた時、本気で驚いた。ビビったと言ってもいいね。なんで絶滅した動物がこんなところにいるのかってな。まよちゃんがやったことは詰まる所ティラノサウルスや日本オオカミ、カスピ虎、トキみたいな既に滅んでいる生物をいきなり従えさせたってことなんだ」


 だから俺が蚊に刺されたって言ったとき、真百合も驚いていた。


 そして蚊が何でいないのかまよちゃんは知らない。


 そもそも蚊が問題になった時、まよちゃんは暴漢に拉致監禁されていたから。


「つまりまよちゃん、お前の能力は所長さんと同じ召喚系統で間違いない」

「……………」

「でもね、それじゃあちょっと納得できない所があるんだ。なんでまよちゃん、自分の能力が動物と話すことだなんて思ったんだ?」

「そ、それは……」


「動物を従えるのと勘違いする。これならわかる。でも召喚と会話は全然違うだろ。それこそ剣を作る能力と、剣が沢山ある世界を作る能力くらいの差がある。頭がおかしくない限り勘違いするわけない」


「…………」


「でもまよちゃんは勘違いした。嘘をついているように見えなかったし勘違いしたことに間違いはない。じゃあなんで勘違いした? 勘違いしたい理由があったんじゃないのか?」


「知らない。まよは本当に―――」


 そうだろう。


 まよちゃんは本当に知らない。


「まよちゃんは、俺が図書室に行ったこと覚えてる?」

「……うん。ドイツ語でよく分からなかったけど」

「そう。ドイツ語。なんでドイツ語だったと思う?」

「わかんない」

「そう。分からないから。まよちゃんに俺が何を調べているか気づかせないためわざわざドイツ語で調べた」


 英語くらいなら知っている可能性があるからわざわざドイツ語を選んだわけだ。


「何について調べたと思う?」

「わかんない」

「心理学」

「ん?」


 みため小学生じゃわからないか。


「解離性同一性障害。つまり二重人格・・・・

「…………」

「二重人格は基本的に外部からのストレスが原因。まよちゃんが受けたストレスは、言うまでも無く性的暴行。そういうのを否定したくて、自分がそいつじゃないと思いたくて自分の人格を切り離す」


 酷い言い方をするが、二重人格になる要因はいじめやDV程度のストレスが原因。


 幼い少女は性的暴行という最低最悪の下劣行為を受けたんだ。


 二重人格そうなってもなんら不思議はない。


「お兄ちゃんはまよが二重人格だって言いたいの?」

「そうだ」

「それは違う……! と思うの。だってまよ記憶はしっかりしてるよ?」

「そう。それが問題だった。俺が観察している時少なくともまよちゃんは一人だった」


 それらしい様子は一切見せなかった。


「会話は普通にできるし、性格の性別が変わっているわけでもない。俺との記憶だってある。完全に一人の人格だった」

「それがまよに裏の人格が無いって証明になると思うの」


 そういうと思った。


「まよちゃんの裏の人格? あるわけないだろ」

「お兄ちゃんこそ、さっきから言っていることが滅茶苦茶だと思うの。二重人格だって言ったくせに、裏の人格はないっておかしいの」


 何もおかしくはない。



「だってまよちゃん・・・・・裏の人格・・・・なんだから」



「…………」

「証拠の有無は置いておくとして、そう考えると全てつじつまが合うんだ。


監禁される前の記憶が無い理由は、まよちゃんは監禁された後に作られた人格だから。

自分の能力を勘違いした理由は、そうなるように自分から思い込んだから。

まよちゃんがそもそも監獄にいるのだって、自分じゃない人格が罪を犯したから」


 ずっと入れ替わった状態で数年間過ごしていた。


 それがまよちゃんの正体。


「ちがう! まよはまよなの!! それだけ! 他の人格なんて無い!!」


「…………まよちゃんが昼寝をしている時、図書室でとある記事を読んだ。


6年前、一人の小学生が行方不明になった。

その子の名前は楢木魔夜ならきまや

カラーの写真は入手できなかったが、モノクロの写真はまよちゃんにそっくりな女の子。

失踪届が受理されて1年後、警察は捜査を断念。

別の記事で失踪から3年後、同じ県同じ市にいる楢木一家が死体として発見される。

その数日後、中学生が相次いで謎の死を遂げた


……聞いてる?」


「違う!! まよは……まよは―――――!!」

「俺個人の考えでは、物証は全て揃えたつもりだが、まよちゃんからすれば適当に記事をでっち上げたとも言えなくもない。そこでだ、出てきてもらおうと思うんだ。主人格に」

「どうやって!!」


 海岸に辿り着く。

 ボートはない。


 そりゃそうか。


 用意していると言ったが、これは出来レース。

 するわけないよな。


「括目しな。日の出だ」

「………こんな気持ちでお日様見たくなかったの」


 それでもまよちゃんは見る。


 太陽を。


「さて、まよちゃんが監禁され裏人格で、表が出ている時は裏人格まよちゃんの記憶が無いという前提で話を進める。で、これは推測の話なんだが、まよちゃんは自分が監禁されたということを否定するために作られた人格。つまり暗い時や痛い時に現れる人格なんだ。性的暴行を受けているということは犯人がいるという事。恋人同士じゃない限り電気は消さないはず。つまり人工的な光は監禁されたときにあった」


 ゆっくり陽が昇る。


「かといって犯人もずっと犯し続けたわけじゃない。何十時間も放置することもあっただろう。そういう時もまよちゃんの出番だ。

正直主人格が出る機会は無かったと思う。

かといって自分の人格を放棄したとは思えないし、必ず1回以上は入れ替わったはず。

監禁されすぐに収容されるわけはない。病院に行ったりカウンセラーに行ったりした時、少なくとも一度くらい太陽は見たことあるはずなんだ。でもまよちゃんは無いって言った。だから―――――」


 そしてまよちゃんは大粒の涙を流す。


「は………あははは…………」




「人格が入れ替わるスイッチは、太陽なんじゃないのか?」





 俺がそう言い切った時、まよちゃんに異変が起きる。


「アヒャヒャはyヒャハyヒャひゃはyはyはyひゃはy」


 狂ったように笑い、いいや確実に狂っている。


 そうならなければ、生きていけなかったのだろう。


 正直同情してる。可哀想だって思ってる。


 でも俺は…………


「ぎゃあぎゃううあうあああうあああああああああああああああ」

「………………」

「あああああああああ……あああ………あ……ふう」

「…………」

「外だああ!!!! ひぃやっっほううう。3年ぶりか?! やったねまよちゃん! ぱーふぇくとだ!!」


 まよちゃ……そいつは俺のことを無視し欲しかった玩具を手に入れた子供のように絶叫している。


「喜んでいるところ悪いんだが、自己紹介した方が良いかな?」


「ん? ん~~? 必要なかったりするよ。お兄ちゃんのことはちゃんと覚えてるから。でも魔夜だけは自己紹介しとくね。初めましてお兄ちゃん。楢木魔夜です。よろしくね」


 予想通り、面倒なことになりそうだ。



 ※ネタバレ有





 言い訳タイム


 私は、毎章認識の相違ネタを入れるルールを自分の中で設けています。


 蚊については個人的に結構伏線を立てているつもりでした。

 似ているようで違う世界というのを6章では強調したつもりです。

 読み手視点では、幹部たちのコードネームは絶滅した生き物縛り、その中でモスキート(蚊)がいる。つまりこの世界では蚊は絶滅していると考えることができるという、作者からの絶対にわからないサービスがありました。


 もし今回の話で何か感想があるなら感想としてではなく、私に直接メッセージをくれたら幸いです。


 最後に魔夜ちゃんのギフトは考えるだけ無駄ですので、考えない方が良いです。

 それでもしたいというなら楢木魔夜で推測してください。 

 ろくでもない能力とだけはいっときます。








※ネタバレ有

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