天国への扉
前回5話くらいといったせいで今回は無駄に長いです。
急に体に力が入るようになる。
どうやら能力が解除されたようだ。
しかしそんなことは今の俺にとってどうでもいい。
「……母さん?」
「そうだよ」
見上げてみるが確かにそれは我が母、嘉神育美。
間違いない。
「なんであんたがここに?」
「ここ母さんの職場」
「なにそれ」
俺はずっと母さんが何をしているか聞いてこなかったので、これが母さんの仕事と言われたら納得するしかない。
「なあ、俺なんか母さんが能力を使ってる気がするんだけど」
「うん、母さん能力持ちだもん」
「……初耳なんだが」
「初めて言ったからね」
「俺、母さんが無能力者とも聞いたんだが」
まさかと思うが。
「まさかと思うけど一樹くん。母さんのいう事一から十まで全部信じたわけじゃないよね?」
「最っ低だ!! この親!!」
親がそれをいったら子は何もできないだろ。
「なあ母さん。あんたが『死神』で間違いないのか?」
「うん。母さんが『死神』だよ。一樹くんはあたしクラスが何人もいた方がお好みかな?」
いえ結構。
「いろいろ積もる質問はあると思うけど、今一樹くんは脱獄中だからすぐに答えられる質問以外は却下するよ。何か聞きたいことは?」
そりゃもうたんまりと。
「母さんの能力は?」
「無ノ少女、簡単にいうと能力の無力化。そして『物語』」
「まじかよ」
俺の予想7割ずつ合っていたという事か。
「だが母さん。それだとさっきの戦い?で納得できないことがあるんだが」
銃弾を躱したり受け止めたり、また、俺が動けなくなった理由も説明がつかない。
「動けなくなったのは母さんの能力。銃弾関連については別の能力。両方とも説明すると地味に時間がかかるからパス。ただ後者について能力の名前だけは教えてあげるね」
「なに?」
「超悦、そして持っている人間のことを超悦者と呼ぶんだ」
「それって、ギフトとしてじゃなく?」
「そう。どっちかっていうと体術に近い。これ以上の説明は省かせてもらう」
うーん。後はな……
「なんで運営側が俺と母さんの関係を気づけなかったんだ?」
冷静に考えてあり得なくないか?
「そうだね。まず前提条件としてあたしと一樹くんが致命的に似ていないというのがあるね。何せ真百合ちゃんが似ていないっていうんだ。普通の人間に見た目で親子関係が見た目で分かるわけがない」
母さんって真百合と面識あったっけ?
俺の知らぬところであるのだろうか。
「次に母さん達は、お互いの名前をコードネームで呼ぶんだ。ウルフやモスキート、トキやカスピトラだったりね」
その名前は……そういうことね。
「母さんの場合コウノトリという名前があったんだけど、『死神』のあだ名が無駄に広まってこっちの方がらしいからという不名誉な理由で広まってしまったんだよ」
それは仕方ない。
同僚に同情しよう。
「だからね、この職場で母さんの本名を知っている人はいないんだ。正確にいうと【空亡】育水を知っている人はいても、【嘉神】育美を知っている人はいない」
「ちょっと待て。空亡って……あの空亡か?」
空亡。
数十年か前に能力者によるテロ行為があったと聞く。
その首謀者の名が空亡だったはず。
「そうだね。母さんはテロリストの娘だよ」
「…………そんなことはどうでもいい。母さんはそれに加担したのか?」
「まさか。そんなことしたら、今頃世界は能力者だけになっていたよ。母さんは逆に止めさせる方だった」
ならいい。
もう俺に経歴も糞もないのだが、母さんがもし加担していれば。オレの父親が殺し屋で母親がテロリストという自殺するしかない状況に追い込まれる。
自殺良くない。
駄目絶対。
「納得してくれたかな?」
まあ半分くらいはこういう状況になったか理解した。
「お兄ちゃんお兄ちゃん」
「ん?」
「早く鍵貰うの」
そうだったな。
「母さん。鍵くれ」
「はい」
母さんは鍵を手渡す。
「それにしても母さんが子供の頃は考えもしなかったよ」
「なにが?」
俺は首輪を外した。
これで俺を縛った鎖は全て外された。
「その鍵、純銀製なんだよね」
「…………それがどうかしたのか?」
「昔は、金とか銀とか結構希少価値があったんだよ」
そう言えばそうだったな。
ギフトが蔓延るこの社会、物の価値というのが極端に下がっている。
例えば姉さんのギフト大小織製は、自分で元に戻さない限り永続なので三十年前なら借金なんて無かっただろう。
でも今はそういう能力は、5万とは言わないが5千はいる。
酷い時なんて同じ重さでパンの方が値段が高いなんてこともあった。
今は全ての貴金属が1グラム100円で取引されているので安定している。
「昔と今の常識は違う、か」
「そういうこと」
当たり前だ。そんなこと普通に生きていたら分かる。
それこそ、その場面だけをかいつまんで見ている人以外分かっていて当たり前。
知っていて当然だから今まで一々説明しなかったし、最も文化レベルが近いとされる200年前も違うところはちゃんとある。
「これからどうするの?」
「外に出るよ。まだやらないといけないことがあるからな」
「そう。じゃ、母さんは足止めでもしておくよ」
頼もしい。
「行こうか、まよちゃん。もうすぐ外に出られるよ」
「うん! 最後くらいはまよも歩くの」
まよちゃんの顔は希望にあふれていた。
「いってらっしゃい。頑張ってね」
「ああ。またな」
俺はある意味いつも通りに適当に後ろを振り向かず手を振った。
「――――大丈夫。大丈夫。あたしはまだ勝てる。だから今はまだ一樹くんを殺さなくてもいい」
いよいよ最後の階段を上ろうとした時。
「――――待ちなさい」
「………所長」
所長さんが肩から息をしながら、俺達の進行方向に立っていた。
「どうしたんですか? そんなに息を切らせて」
「監視室から走ってきたからね。アダシも年ね」
お疲れ様ですと心の中で労をねぎらい
「なんのようですか?」
「よう? そんなの言わなくても分かるでしょ」
そりゃそうだ。
俺達は脱獄囚。彼は看守。
「まさか死神があなたの母親とはね。もっと似ていれば気づけたかもしれないのに」
やっぱ気づかなかったのか。
父の遺伝子強くてありがとうとほんの一瞬だけ感謝したが、やっぱロリコンだから撤回。
「ここに来たという事は戦うんですよね?」
「そうね」
所長自身も戦える戦力を持っているのは初めてあった時から何となく分かっていた。
「お兄ちゃん。そんなことしないでまよお外でたいの」
「うるさい。少し黙ってろ」
というよりまだ出るのは早い。
あと三十分は出たくなかったりする。
それをまよちゃんに伝える気はないがな。
「先手譲りますから何かあるならどうぞ」
「そう。ならお言葉に甘えちゃおうかしら」
所長はナイフで自身の左手を抉る。
「幻獣中尉」
流れ落ちた血から、モンスターが召喚される。
そいつはかつて俺が戦った無名の化け物ではない。
見た瞬間、なんなのか分かった。
吸血鬼
糸切り歯が異様に発達し蝙蝠の羽が生えているそいつを、こう呼ばない人はいないだろう。
「獲物よ。やりなさい」
「……」
黒いマントを翻し、消える。
「ぐはっ」
下から、否影からの攻撃。
「幻獣中尉」
「………」
次に現れたのは天狗。
真っ赤な顔に握れるほどの鼻。
「幻獣中尉」
まだ続くか。
すごいな。
ただここまで能力を使うとどんな能力かは分かった。
伝承における化物の具現化で間違いないな。
吸血鬼や天狗、そして今回召喚したキョンシーなどを具現化できるか。
そして代償は血。
「どう? なかなかやるでしょ」
「ええ。素晴らしい能力です。ですが、それだけですか? もっと召喚してもいいんですよ?」
「……」
まだ召喚できる数にも限りがあると。
「ではそろそろ行きますね。その前にまよちゃん。歯を食いしばれ」
「え?」
腹パン。
「ぐふっ」
とても女の子から出たとは思えない声をだし、その場でノビた。
足手纏いだから仕方ないね。
のびた彼女を片腕で抱きかかえ
「鬼神化、獲った獣の皮算用、二次色の人生」
体を鬼神に、機動力を上げるため羽を生やし、そして片腕だと決定力が足りないため剣を作成。
「何よあなた……もう見た目も悪魔じゃない」
所長が何か口走った気がしたが気にしないでおこう。
取りあえず一番弱そうなキョンシーの首を刎ねる。
とはいえ死体なので死ぬわけはなく、首が刎ねられた後も動き続けた。
「――――フンッ」
天狗が団扇を仰ぎ突風が吹き荒れる。
「おっとっと」
空中にいる俺はその勢いのまま壁に叩き付けられる。
なれないことするもんじゃないなと油断していると、影を利用し俺の背後にいた吸血鬼が首筋を噛んだ。
そういえば吸血鬼に血を吸われるとき性的快感を得ることができるとあるが、確かにこれは気持ちいい。
これが快楽という奴か。
「だが、悪い奴をぶっ殺す方が何倍も気持ちいいな」
自分の体ごと剣で吸血鬼を突き刺す。
この剣は銀として作ったので、伝承通り吸血鬼は動けなくなった。
「幻獣中尉」
倒されたところを見てすかさず狼男を召還。
そう際限なく召喚されるのは戦意をそぐ意味で十分意味を成す。
倒しても減らないなんて戦士にとってはやってられないからな。
「所長さん。そこ動かないでね」
銀の刀剣を創作し、辺り一面にまきちらす。
「妖怪の弱点、大体銀だから」
素人知識を晒し全ての妖怪を倒した。
「……ったく、どんだけあなた化け物じみてるの」
「いえいえ。そういう所長さんもなかなかですよ」
「嫌味?」
「まさか。本当に素晴らしい能力だと思います。ただ相性が悪い」
「あなたに相性のいい能力って逆に何なのよ」
……………なんだろうな。
あとで考えておこう。
「で、そろそろ降参してくれません」
「いやよ。幻獣中尉」
おおおお!!
今度の召喚はなんとドラゴン。
西洋の竜。紅蓮の図体は俺が知っているそれと全く変わりはない。
男なら生涯に一度見てみたいものトップ10に入っている物を見て俺は血を吸われた時以上に興奮していた。
「そんなことも出来るんですか!!」
「…………」
ただ所長さんの活気が失われている。
血を流し続けているからそろそろ止血しないとまずいか。
楽にしてあげないと。
「……お兄ちゃん」
俺が動き回った所為か、まよちゃんが目を覚ました。
「お腹痛いんだけど」
「妖怪の仕業」
嘘は言ってない。
だってあいつらがいなかったらこんなことしなかったから。
だからもう一度
「全ては妖怪の仕業なんだ」
「まよの記憶ではお兄ちゃんが腹パンしたんだけど」
「それも妖怪の仕業」
「……もういいの」
それはよかった。
「で、あれ何?」
目覚めたらドラゴンがいたなんて、すぐに呑み込める状況じゃないか。
「ドラゴン」
「それは見てわかるの。――――ねえ、お兄ちゃん。まよにいい考えがあるの」
「なに? 言ってみな」
期待していないが。
「まよのギフトを使えばいいと思うの。動物とお話をすることのできるまよのギフトなら、ドラゴンさんを説得することができると思う!!」
「おおっ!」
驚くほど筋が通っていた。
でもね。
「出来るわけないだろ。常識的に考えて」
首を横に振るように、手首を左右にふった。
「ええ……? でもやってみないと分からないし、それに少しでもまよ、お兄ちゃんの役に立ちたい……」
嬉しいこと言ってくれるじゃないか。
でもねまよちゃん。
大きく誤解している。
「まよちゃんのギフト、動物と話ができるじゃないから」
「……え?」
「その話は後、言えるのはまよちゃんの能力じゃ絶対にこの状況を打破できない」
いい感じに時間を稼いだし消耗した。
「あの時、俺は未熟だった」
能力を手にし、混乱していた四月中旬。
あの時もある意味こういう状況だった。
自分で戦わず、能力で戦わせる相手。
鉱物を化け物に変えるギフト相手に、死闘をした。
それは一歩間違えれば死んでいるのは俺とう命を賭けた戦いだった。
再生能力は鬼神化より上で、一度使った技術やギフトは120%の力でコピーされる。
今でも再戦したくない敵NO.1。
一撃が重くそして激しかった。
一発の雷電の球で、柳動体で吸収できなくなるほどの出力を放ち俺は気絶した。
だが今は違う。
いろいろな能力を使えるようになり許容量が増えた俺は滅多なことでスタミナ切れを起こさなくなった。
ある程度消耗をし多少、体力に空きがある今なら――――――
「回廊洞穴柳動体」
ドラゴンに触れる。
幻想種は俺自身に吸収され、跡形もなく消え去った。
「――――!!」
体力が回復される。
「所長さんのことですから本当は分かっていたはずです。何であなた自身最初から戦わなかったか? 理由はこれでしょう。あなたの能力は柳動体と相性が悪すぎる」
「…………」
俺にとってあなたのその能力は、三時のおやつにすぎない。
「分かっていたことだったけどね、出来るなら最初から使ってなさいよ。嫌な希望持っちゃったじゃないの」
悪態をつき、苦笑い。
逆の立場だったら俺も笑っていただろう。
どうしようもない。
「やってられないわよ」
所長はそれだけを言い残し倒れた。
「おっと」
出血多量で意識が昏倒したのだろう。
鬼神化で治療する。
そっと壁際において
「そろそろ行こうか」
「うん」
俺達は一段一段踏みしめ、ついに扉の前に立った。
「わくわく」
「そんな期待するものか?」
「もちろん、やっとお日様見ることができるんだよっ!!」
……
「ああ。そうだな」
まよちゃんは期待を込め、そして俺は覚悟を決める。
これで最後。
どうしても最後にやらないといけないことがある。
それが残っていたから俺は最後の鍵を手に入れた時点で脱獄しなかった。
仕込みはすでに終わっている。
伏線も張った。
だから頼むから神様。
あ、メープルじゃ無い方ね。
まともな方の俺が知らない神様。
進行なんて一度もしたことないけれど少しぐらい、俺の気持ちを考えてもいいだろう?
どうか、何事もないように。
次回6章の総まとめ
6章だけでもいいですので読み返した方がいいと提案します。




