Stairway to Heaven vol.2
あまりにも投稿の間が空きすぎたので軽く6章のおさらい。
正キチこと嘉神一樹は、支倉の企みにより収監される。しかし所長は『こいつを捕らえ続けることなんて出来るわけねえだろ。生かしておくとろくなことしでかさないからさっさと殺せ』との方針を獲った。しかし嘉神一樹は殺されても死なないというラスボス仕様。仕方がないので最強の切り札『死神』に殺してもらうため、所長は嘉神一樹を檻から出した。それが吉と出るか凶と出るか……
そんなことをお構いなしに嘉神一樹はせっせとゴミ掃除をするのであった。
では
残る鍵は左足と首の2つ。
「この調子で頑張るの」
「まよちゃんはなにも頑張っていないけどな」
「酷いの! まよだって頑張ったの」
50階で2回目の休憩中。
再び30分の休憩。
「そろそろまよちゃん歩かない?」
「……出来る限り頑張るの」
重力操作は体力的にきついのではなく、調整が面倒くさいのだ。
俺がこれほどまで休んでいるのも精神的疲労のためだ。
「でなんとまよちゃん、ここでいいお知らせが」
「なんなの?」
「50階から45階までに死体が3組あります。やったね」
「……やっぱ歩くの止めるの」
おお、意外にさとい。
何度も往復することに気付いたらしい。
「もやしっ子のまよに、階段はきつすぎたの」
「それでもいいけど、外に出るのが遅くなるだけだからな」
「別にいいの。1時間でも1日でも、まよは待つの。だってずっとお日様を見るために1年以上も待ってたの」
……
「うん。そうだな。がんばろっか」
「えいえいおー! なの」
階段を往復し、死体から鍵が無いか確認したが残念ながら持っていなかったり、既に俺達が開錠を終えている鍵しかもっていなかった。
「残念だが仕方ない。さっさと上いこっか」
「……うん」
その前に八目十目
「うわ……」
「どうしたの?」
「看守たちが一か所にまとまっていた」
そこ通らないと絶対に鍵手に入らないというわけか。
「うーん」
「どうしたの?」
「いやね、どうやって攻撃しよっかなって」
あんまり傷つけたくないがな。
「ビリビリしたら?」
「そうだな」
雷電の球の威力を調整し
「まよちゃん」
「ん?」
「えい」
まよちゃんに攻撃。
「うぎゃあああああ」
まよちゃんはその場で倒れる。
「どお? 痛い?」
「ものすごく痛いの!! 死ぬかと思ったの!!」
それは困ったな。
「でもこれ以上電力落とすと攻撃にならないしな……何かいい案はない?」
「その前に謝るの!!」
「何度も言わせるな。いい男は謝らない」
謝りたくないでござる。絶対に謝りたくないでござる。
「むー」
「実際問題、まよちゃんこれくらいしか仕事ないから」
「わかったの。痛いのも慣れっこだから…頑張る」
「……」
痛いので思い出した。
「痛み与えるだけでいいな。うん」
「……最初からそれでよかったの」
痛みを与えるだけのギフトを使えば何の問題もなかった。
これも俺のギフトの弱点。
使わないギフトは忘れる。
俺が持っているギフト強弱や好みはあれど、どれも多種多様でいらないギフトはない。
いざというとき、すぐ使うためにもできるだけいろんな経験を積んでおかないとな。
「それじゃあ、行ってみますか」
「えいえいおー! なの」
感知通り、たくさんの看守が俺たちの通路にいた。
「きたか、悪魔め」
既に看守たちは覚悟を決めているようだ。
「悪魔だって」
「誰のこと?」
「さあ? きっとまよちゃんの魔性の魅力を悪魔の力って勘違いしたんじゃない?」
無責任にないことを言う。
「おお。まよは大人のレディだから仕方ないの」
そしてまよちゃんもまんざらでもない様子。
「……オペレーション13、始動」
そんな俺たちのやり取りを無視し、リーダー格の看守が合図をすると、俺の後ろの壁が爆発した。
「??」
床が崩れるかと思って、とりあえず俺も宙に浮く。
しかし爆発は壁だけだった。
しかしその爆風によって生じた土煙から10匹の虫が。
「……白仮面」
そういえば確かに説明されてた。
ここには白仮面がいるって。
「………………状況が変わった。殺そう」
看守たちが強引に戦わせるという事は、つまり死んでも構わない存在だという事だ。
そして看守たちがそう思うという事は、俺にとって死んだ方が良い存在という事。
ただ俺が決心した時すでに白仮面組は攻撃態勢に移っていた。
「軟硬不落」
衣服が硬くなり身動きが取れない。
硬くする……いや、硬度を変えるギフト。
「……で。それだけ?」
「……………」
看守ならび白仮面は手榴弾を投げつける。
「…………それ悪手。やるならマシンガンぶっ放す方が効果的」
目視できる攻撃にいったい何の価値があるのか。
「二次色の画用紙、回廊洞穴」
白仮面の周りに城壁を作り閉じ込め、回廊洞穴で、手榴弾を放り投げる。
壁に遮られ爆音はあまり聞こえなかった。
「解除」
壁を解除し、その中から灰色の煙が吹きあふれる。
恐らくその中で焼け焦げた虫けらの死体がわんさかいるのだろう。
興味ないのでさっさと鍵を貰いに行く。
「鍵をください」
看守は何も言わない。
「お兄ちゃん! 危ない!」
まよちゃんが俺に警告をする。
振り返るといや、振り返る前にことは済んだ。
白仮面の一人が生きていた。
そいつが見えない刀で俺の首を刎ねた。
なんで生きているのかと考える。
こいつは硬度を変える能力だったはず。
…………空気を硬くして衝撃を和らげたな。
そして今は硬くして、ナイフみたいにしたというわけか。
完全に不意を突かれたので防御できなかった。
頭が地面に叩き付けられる。
「やった! やったぞオレはっ!!」
仮面をかぶっているので表情は見えないが声だけで喜んでいるのが分かる。
ご苦労なことだ。
「これで、外に出られるんですよね。妹に会えるんですよね」
「ああ。ただし一週間だけだ」
「やった……オレはやっと…………」
ゆっくりと立ち上がる。
「とはいえ、すぐにとはいかない。必要な手続きだけで……2日……………」
はあ。なんか嫌だな。
こいつは妹のために頑張るという素晴らしい目的を掲げていたが、白仮面という事は人殺しという事。
妹のためを思うなら最初から人を殺す選択肢を取らなかったらいいのに。
自覚の無いクロは、正直やるのは不快。
でもやらないと。
「雷電の球」
こいつの周囲を覆うように電気の球を作り電波を集め、マイクロ波で攻撃。
「え?」
電子レンジの要領でこいつの体内を熱する。
「軟硬不落」
「あ……やめとけ」
数秒後、白仮面は爆発した。
「爆発四散、慈悲はない」
ゆで卵を電子レンジにいれると爆発するのと同じ原理がおきる。
「お前! なんで生きてる!!」
「別に、脳と心臓さえ無事なら、たとえ首が斬られても大丈夫だからなんじゃないの?」
これが髪の毛が白くなった効果。
枷が一つ外れたようだった。
「戦いますか? まだ」
「…………」
看守たちは何も言わず、鍵を投げ消えていった。
「ついに、ついに4つそろったの!」
「おお。そうだな」
まよちゃんは喜んでいるが、正直ここまで出来レースなんだよな。
カスピトラさんが言っていた、『死神』
これが所長の切り札であり、これがあるからこんな囚人たちに脱獄させるような愚行をとることができる。
『死神』は首の鍵を持っているため、絶対に戦わないといけない。
「お兄ちゃん、早く外して」
「…………ああ」
感無量
「はい。外したよ」
「ありがとうなの」
……さて、脱獄した囚人も残るは俺達を含め2組。
なんだかんだあのBBAが生き残っている。
そして以外にもかなり上に、それこそ地下一ケタまでいっていた。
まだ動いているので生きている。
その動きは、音速といっていいほど速い。
戦っているな。
『死神』と。
死神がどう戦うのか、ちょっと覗いてみるか。
八目十目を使い、戦闘状況を確認。
「…………おい」
「どうしたの?」
八目十目であのBBAの周りを見ても、誰もいない。
ただぽっかりと黒い物体があった、
動画に黒いモザイクをかけたような、強引にかき消された完全な黒。
大きさは小学生程度。
それがゆっくりと動いている。
「……いやね、えっと……これヤバいな」
能力が何なのか……いくつか候補が上がるがどれも勝てる気がしない。
「あ、死んだ」
同時じゃなかったから、全体即死技じゃないのは朗報。
死因はなんだろう。
いきなり倒れたからな。
「勝てそう?」
「……1割」
「結構高いの」
「相手になる可能性が1割。フルボッコにされる可能性が9割」
「……………」
「まよちゃん、悪いけど覚悟しといて。次の戦い、今までのように手を抜いて闘うことができないから」
少しでも気をぬいたら死ぬ。
「でもお兄ちゃん。まよ足手まといにしか……」
「大小織製、二次色の人生」
まよちゃんの大きさを変え、拳くらいの大きさにし、俺の肌に貼り付ける。
これなら足手まといにはならない。
『それ出来るなら最初からすればよかったと思うの』
「しても良かったんだよ。俺がこのまま死ねば一生その空間に閉じ込められたままになるんだが、それでもいいか?」
『…………』
「実際俺は死なないけど、流血はするから血でまよちゃんが塗りつぶされたら元に戻らないからな」
戦い方を見るに、血を流す攻撃、つまり銃や刀剣を使った攻撃はしていなかった。
「じゃ、俺の体力が完全に回復してから進むから。何か言い残したことは」
『頑張って。お兄ちゃん』
「…………おう。頑張ってやるよ」
脱獄して3時間33分。
生存者残り1組。