第三話ー精霊との契約と俺ー
俺は今、ゴブリンの巣の奥に居る。
俺の周りにはゴブリンの肉片やら何やらが散らばっている。
そして、俺の目の前には巨大な透明な結晶に閉じ込められている銀髪褐色美女が居た。
今から遡ること2時間前。
俺はゴブリンを殺しながら森を周っていた。
今までゴブリンに会わないように生活して来たのはやはり初日の事がトラウマだったからなんだろうが、ゴブリンと戦っていると、レベル100で序盤の敵を倒している感覚がしてならない。
俺は例の槍、名前が『朧月』というんだが、朧月の三日月型の刃のの部分でゴブリンをバラバラにしたり心臓を貫いたり柄の部分で薙ぎ払ったりと、ゴブリン無双をしていた。
森の中のゴブリンを粗方倒し終わった俺は、ゴブリンの巣を探し始めた。
「あ~一匹残しときゃ良かったな」
ゴブリンを殲滅してしまったので巣の位置が全然解らなかったが、しらみつぶしに探した。
「ゴブリンの巣は何処かな~」
俺は森を疾走しながら巣の気配を探る。
何だかんだで一時間ほど走ったり戦ったりしたが、全然疲れてない。やはり修行の成果が出てるな。
しばらく疾走していると、かなりの数のゴブリンが密集している場所を探知した。
ゴブリンの他にもゴブリンに酷似した何かの気配を感じるが、ファンタジー物の定番で、ゴブリンシャーマンやらゴブリンキングとかだろうとたかをくくった。
というわけで俺は巣に向かって全力疾走を始める。修行を終えた俺のトップスピードは、湖を2秒で回れるほどだ。
「ひゃっはー!汚物はしy(ry」
テンションのおかしくなった俺は叫びながら巣に向かっていく。途中でゴブリンにぶつかった気がするが無視した。
普通ならかなりのスピードで走る俺がゴブリンに当たると大怪我しそうだが、俺の身体能力強化魔法は力の増加の他にも耐久力が大幅に上昇するので、俺の体には傷一つ付かない。
まあ何んだかんだでゴブリンの巣に到着した。
「ひーふーみーよー……。うん、数え切れないほどいるな」
巣にはゴブリンが二百体以上居た。しかも奥からもかなりの気配を感じる。
まあゴブリン程度なら大丈夫だろ。
「とにかく死んでくれや!」
小物臭がするセリフと共に俺はゴブリンの集団に突っ込む。
まず薙ぎ払い。
密集している場所で薙ぎ払いをすると普通なら振り切れずに終わるのだが、身体能力強化をしている俺は違う。
元々の身体能力と身体能力強化魔法で俺の筋力は化け物みたいになっている。
俺の薙ぎ払いで十数体のゴブリンが肉片になる。
次に刺突。
これも修行の成果なのか、目にも留まらぬ速さで刺突を繰り返す。最初に薙ぎ払いをしたのは、刺突をするための間合いを開けるためだ。
ゴブリンは俺に近づく事も出来ずに、その命を散らしていく。
一秒に五体は殺しているが、その数は減らない。むしろ増えているようにも感じる。
「持久戦ね……。上等!こちとらスタミナだけは有り余ってんだよ!」
殺しても湧き出てくるゴブリンを殺し続ける。
殺して殺して殺し尽くすと、ゴブリンが湧き出てこなくなった。
「ふぅ、終わりか?」
俺は少し乱れた息を整え奥に進んでいく。
「……この先にゴブリンより巨大な気配を感じるな。ゴブリンキングか?いや、ゴブリンキングとは違う気配だな」
ゴブリンキングとは別の気配に警戒しつつも、巣の最深部へ近づいて行く。
途中、ゴブリンシャーマンやらなんやらにあったが難なく倒して先に進む。
奥に進んでいくと、目の前には通常のゴブリンの数倍の巨体をもつゴブリンがいた。
手下を倒されたせいか、こちらを血走った目で睨んでいる。
そしてゴブリンキングの周りには、ゴブリンとゴブリンシャーマンが数体いる。護衛だか取り巻きだか解らないが、通常の奴らよりも強そうだ。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「さて、最後の仕上げといきますかっと」
ゴブリンキングの咆哮を合図に、戦闘が始まった。
まず取り巻き共を処理して行くことにする。
近くに来たゴブリンを朧月で切り裂き、ゴブリンキングの頭付近まで跳躍する。そのままゴブリンキングの顎を蹴り抜き、ゴブリンキングを怯ませる。
その隙に、取り巻き共を殺して行く。
「はぁぁぁぁぁ!」
やはり力が強いといってもゴブリンなので、さほど時間はかからなかった。
怯みから回復したゴブリンキングは、取り巻きを殺した俺に怒っているようだ。そして手に持っている大きな棍棒で殴りかかってきた。
「ぐがぁぁぉぁぁぁ!」
その攻撃のスピードは遅くて余裕で避けられたので、避けるついでに棍棒を持っている手を切断した。
ゴブリンキングは腕を切断された痛みで悶えているが、そんな隙を俺が見逃す筈もなく、俺はゴブリンキングの頭上まで跳躍する。そして朧月をゴブリンキングの脳天に突き刺した。
「はぁ、終わったか」
ズドンという鈍い音と共にゴブリンキングが沈んだ。
「さて、帰るか……ん?」
ゴブリンキングも倒したし帰ろうとすると、あるものを発見する。
「なんだ……あれ……」
戦闘に夢中になっていて気づかなかったが、かなり大きい透明な結晶があった。この結晶からはさっき感じたゴブリンキング以外の気配を感じた。そしてその中には……。
「女の……人?」
銀髪褐色美女が閉じ込められていた。
というわけで冒頭に戻るわけだが、どういう事だろうか。
「うわ、めっちゃ美人だな」
その容姿は元の世界では見たことないくらい整っていて、耳は尖っていた。
耳が尖っている+褐色=ダークエルフ
の方程式が完成した訳だが、なんでこんなところで閉じこもって居るのだろうか。
「ま、まさかっ!これなんてエロゲ状態に陥って、ゴブリンから身を守る為に結晶に閉じこもって居るのでは!?」
叫んでしまった俺は悪くないと思う。だってダークエルフとか始めて見たんだもん。しかもすごい美人だし。
とにかく俺はこの結晶を砕く事にした。
「とりあえず身体能力強化!そしてぇ、貫く!」
アイスピックではないけど、少しづつ削っていくことにした。
「そいそいそいそいっ!」
今の俺の刺突のスピードは、さっきゴブリンを屠った時の速さの三倍はあるだろう。
そのせいもあるのか、みるみるうちに結晶なヒビが入っていき……。
「ラストォォォォ!」
渾身の力を込めた突きが結晶を砕いた。
結晶を砕けば褐色美女は落ちてきてしまうわけで。
「あ、やべっ!」
俺は武器を投げ捨てて、褐色美女を抱きかかえた。
「ふぅ……セーフだった」
無事受け止める事が出来てホッとする俺。
それにしても近くでみると、その美しさが良くわかる。
俺は無意識のうちに生唾を飲み込んでいた。
しばらく固まっていると、褐色美女が目を開く。
「ん……?あっ、ゴブリンに破られたの!?いやだっ!ゴブリンに犯されたくない!」
美女は目を覚ますと同時に俺の腕の中で暴れ出した。
「う、うわっ!ちょっと、俺はゴブリンじゃないですって!」
俺は全力で宥めた。だって褐色美女にゴブリン扱いされるの悲しいじゃん。
冷静になって状況が把握出来たのか
「あ、あれ?ゴブリンが居ない?あれ?あなたは?」
はてなマークでいっぱいの彼女を一旦下ろし、説明する事にする。
ゴブリンが増えてきた事、俺がゴブリンを殲滅した事、そしてあの結晶を砕いた事を。
すると彼女は驚きで目を見開いた。
「え?あなたが防御結晶を砕いたんですか?もしや貴方は有名な魔法使い……?」
「いやいや、俺は身体能力強化魔法しか使えないからね。あと精神干渉阻害魔法かな」
「え!?身体能力強化魔法だけで防御結晶を?ありえません……。あれには私の半分以上の魔力を込めたのに……」
「まあ出来ちゃったものは仕方ない。で、なんであんなところにいたの?あともしかして、君ダークエルフだったりする?」
彼女から負のオーラがで始めたので、話をそらす事にする。
「え?あぁ、私はダークエルフではありません。確かにダークエルフだったことはありますが、今は精霊と呼ばれる種族に昇華しました。……話が長くなりますがいいでしょうか?」
「うん、大丈夫」
とりあえず、彼女の説明は専門用語やらが多くて分かり辛かったが、要約すると、まずエルフやダークエルフというのは精霊に愛された種族である。
エルフは風や水、光の精霊から。ダークエルフは火や雷、闇の精霊からそれぞれ愛されている。
エルフやダークエルフは、精霊に最も近い種族といわれていて、精霊の力を行使出来るらしい。
そして稀に精霊に愛されすぎるエルフやダークエルフが生まれる。
そのエルフやダークエルフは、死と同時に精霊へと昇華するらしい。
精霊とは魔力で出来た生命体で、実体を持たない。ただし実体化は可能で、意識すれば簡単に実体化出来るらしい。
精霊が使う魔法は強力で、精霊が本気を出せば大陸が滅びるらしい。
精霊は、瘴気や空気中の魔素と呼ばれる物体を魔力に変換して生きている。そのどちらともほぼ無限に存在するので、魔力無限ということになり、魔力無限+強力な魔力=最強という方程式が成り立つわけだ。
だがそれだと疑問に思うことがある。
「じゃあなんで君はゴブリン程度に防御結晶?だかを使うことになったんだ?」
「それはですね、私達精霊は瘴気や魔素を魔力に変換して生きていると説明しましたね?これの欠点として、瘴気や魔素の変換スピードには限界が存在するんです。特に瘴気に関しては、あまり速く変換出来ないんですよ。ですが、少し前に大量の瘴気が私に流れ込んできてその処理の為に力が弱まった時にゴブリンキングに連れ去られてしまったんです。私はパニックになってしまって……。それで防御結晶を張って今に至るというわけです」
そんなわけがあったんだな。
「それで……あれ?」
彼女が何かを話そうとした時、彼女はふらっと倒れてしまった。
「お、おい!大丈夫か!?」
「まずい…かもしれません……。私の魔力が……朽ちかけてます。魔力変換…出来るほどの力も残ってないですね」
苦しそうに言う彼女は、とても弱々しく感じた。
「どうしたら助けられる!?」
俺は時間がないと悟り、単刀直入に聞く。
「契約を」
「契約?」
「は…はい。『我、契約に基づき汝と共存せん』と唱え、キスをして魔力を……流します」
キス!?キスか……。彼女居ない歴=年齢の俺にはハードルが高いな……って言ってる場合じゃない!
「なあ、俺と契約しないか?」
「え?」
「俺と契約しよう。そうすればお前は消えなくて済むんだろ?」
「で、ですが……この契約には魔力がかなり必要なんです。人間がこの契約を行うには精霊側からの魔力供給が必要不可欠なんですよ?」
「大丈夫だ。俺には魔力沢山あるからな」
それっきり彼女は喋らなくなってしまった。そして少しして口を開く。
「なんで、そこまでしてくれるんですか?」
この疑問には俺も同感だった。実際、初対面の彼女にここまでする必要はないだろう。
でも……でも何故か助けたくなった。救いたくなった。
どうせ今まで直感で生きてきたもんだし、今も直感で生きるのみ。
「わかんねぇよ」
「え……?」
「ただ、お前を助けたくなっただけだ」
俺は唱える
「『我、契約に基づき汝と共存せん』」
俺は彼女にキスをして、全力で魔力を流した。
「んっ、んんんん!」
彼女が卑猥な声を上げているが、俺はそれどころではない。
体の力が抜けていく、だけど流すのは辞めない。
流して流して、俺の頭に声が流れる。
『契約が完了しました』
俺は彼女から唇を離す。
そして「ご主人様っ!」という彼女の声と共に意識を手放した。
え?ご主人様?
新キャラ登場!
展開が急なのはご愛嬌。
タイトル変更しました。