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BF4.身を滅ぼす正義

※この物語には青少年に悪影響を及ぼすであろう描写が含まれております。決して男尊女卑の意図はありません。また、現実と虚構の区別が付く方のみ、先へお進みください。

 しばらく冷たい湧き水で手を冷していると、刺すような痛みも薄らいでくる。ケロイド状に痕が残るかと思っていたが、半円形に赤くなった程度で済んでいる。後は、湿らせたハンカチを巻いて焚き火まで戻ろうとする。

 その時だ、あまり聞きたくもない雑音が鼓膜を震えさせたのは。

「おい、もっと腰を振れ。まだ一時間ぐらいしか経っていないんだぞ」

「俺達を満足させねぇと、終わらないぜ」

「……うぅ……あぅ」

 二、三人の男が口々に言い合う声と、なにやらくぐもった声だ。

 声の聞こえてくる場所の当りをつけると、そこは農民が使い古して捨てた農具を入れる小さな納屋である。

「おらッ、濃いミルクをたっぷり呑みな」

「あ、うぅッ……」

 正直、納屋で何が行われているのか、想像に難くはない。換気用の木戸から覗き込めば、案の定、十代後半らしき少女へ陵辱を働いていた。

 小さく溜息を吐くソルフ。

 できることならば、他の部隊の遣り方にケチを付けたくはなかった。長期の作戦で、基本的な人間の欲求も溜まってはいるのだろう。それを、仲間を殺された怒り、憎悪に換えてぶつけるならばまだ見過ごせた。

 けれど、他人の尊厳を踏み躙るような行為を見て見ぬフリをするなど、ソルフはそれほど人間ができていない。特に、前途ある年半ばも行かぬ少女の体を貪るなど、軍人の風上にも置けない。

 尋問と称した淫猥な台詞、身体検査という名目で衣服を引き千切り、拷問という名の背徳行為が行われる。

「俺が指揮官に納まっている内はそういうの禁止」

 独り言など呟いて、表情を作る。

 できる限り、波風を立てないように捕虜を助けるために、意地の悪い上官を演じる。

「楽しんでるみたいだな。折角だ、俺のもやらせろよ」

 ノックもせず、卑下た笑みを浮かべながら納屋の扉を開く。

 上官が入ってきたことに男達は僅かな驚きを見せたが、第一声のお陰か取り繕うこともせず捕虜を手放す。

 麻縄で後ろ手に縛られ、梁に吊り下げられた少女が、虚ろな表情でこちらを見据える。壁の格子窓から差し込む月明かりが、少女の薄い褐色をした生まれたままの肌を照らした。髪は明るい薄茶色のボブカットで、黒い瞳に微かな生気が見て取れる。

 縛られた手首が赤く擦れていることを除けば、肉体への拷問は男の欲()だけに留まっているらしい。

「尋問、ご苦労様。コーヒーでも飲んで、ゆっくり休んできてくれ。続きは、俺がしておくからよ」

 正直なところ、こういうキャラは好きではない。しかし、こうでもせねば偽りの尋問が続くことになるだろう。

「分かりました。頑張って吐かせ――吐き出してください」

 そう言い残して、男達は納屋を出て行った。

 男達が完全に焚き火の方へ行ったのを確認し、二度目の溜息を吐く。とりあえず邪魔者は去った。

「い、あぁ……おぅ、あぇ……」

 引き千切られた服の切れ端を口に詰め込まれた所為か、少女の口にする言葉は赤子も同様だ。けれど、必死に拒み、涙を溜めて懇願しているのは、直ぐに見て取れる。

 ソルフは借りていた野戦服を脱ぎ、腰のサバイバルナイフを抜き放つ。

 何をされるのかと怯えた少女が、必死に首を振り回す。

「安心しろ。今から外してやるから、静かに話を聞いてくれ」

 麻縄を切り、バランスを崩す少女を抱きかかえてやる。手を冷していたハンカチを半分に噛み千切り、擦り切れた手に巻いてやった。

「……ッ」

「痛むか? 内の馬鹿どもの代わりに、俺が謝る。すまない」

 こうなってしまった以上、なんと謝罪しても許されることではない。自分が悪いのではないと分かっていても、少しでも少女が自分の話を聞いてくれればよかった。

 頭を下げている間に、少女はゆっくりとソルフから距離を取る。あまり大きくない胸元を隠し、身を屈めるようにして、鋭い視線をこちらに向けながら後退る。

「あまり気分は良くないだろうが、これで我慢してくれ」

 まだ気力が余っているのを見て、安堵しながら迷彩色の野戦服を少女に投げ渡す。丈は膝ぐらいまで隠れる長さなので、ボタンを閉じておけば問題はなかろう。ちゃんとした服を用意してやりたかったが、生憎ここには野戦服ぐらいしか置いていない。

 少女が服を着てから、持っていたサバイバルナイフを彼女の方に滑らせる。

「武器は何もない。そうだな、俺はソルフ=セイプ。君は?」

 安全だということをアピールして、簡単な世間話から警戒を解きほぐそうとする。もちろん、名前を聞いたのは不便だからに過ぎない。

「アーシェ(Areshe)……クラウッド(Clawood)。どうして……?」

 片言の東方言語で、アーシェが問いかけてくる。

 南西系のアーシェが共通言語ではなく東方言語を使ったことを訝しんだものの、決して珍しことではないのでその時は差ほど気にしなかった。

 どうして助けたのか。改めてそんなことを問われると、答えに悩んでしまうのがソルフの悪い癖だ。ウィンディを保護した時も、周囲に問いかけられて逃げ回ったことを思い出す。

 単純に言えば、見過ごすことのできない状況だったこと。そして、現状でわざわざ捕虜を捕まえて来たことに違和感を覚えたから。

「そうだなぁ。アーシェと同じ年ぐらいの息子がいてな、息子のお嫁さんに来てもらおうかとグハッ……」

 冗談半分で誤魔化そうとしたところを、アーシェの投げた靴が顔面にクリーンヒットする。恩を仇で返されるとは思って居なかった。

 いや、元気で結構。

 これだけ気丈ならば、直ぐに本題へ写っても大丈夫だろう。

「冗談は、さて置き、だ……。どうしてまた、捕虜なんかに?」

「食糧を調達に出てるところを、捕まっただけ」

 簡素な答えだけが返ってくる。

 おおよそ、通りかかったハーバー達のジープに忍び込んだところで、お縄といった状況だったのだろう。

「じゃあ、その……色々とされる前に、何か聞かれなかったか? ゲリラの構成人数とか」

「上官みたいなのが来た。同じ南西系の。あれを動かしたのか、って」

「グロウブが……? それに、『あれ』って何のことだ?」

「分からない。あそこを占領した直ぐに、私は捕まったから」

 同じ南西系のグロウブが尋問に来るのは分かる。しかし、尋問の主旨が作戦の前提とずれている。

 捕虜から聞き出す事項として、まず敵の構成人数や武器の状況が挙げられる。だが、それらを差し置いて訊ねたのは、『あれ』という物体の使用だ。

 しばし間を空けたところでアーシェが、けれど、と言葉を繋ぐ。

「危険なもの。存在を許してはいけない兵器」

 それを聞いて、ソルフは眉を顰める。

 重要な戦術拠点と聞かされていた施設が、よもや兵器の隠し場所などとは思わなかった。もちろん、アーシェがソルフの人の良さに付け込んだ狂言である可能性も否定できない。

 もう少し詳しい話を聞きたいところだが、長々と話している時間はない。夜も更けた今、別の誰かが見回りに来ないとも限らないのだ。

「とりあえず、君をここから逃がす。土地勘はあるだろうから、西に逃げてくれたら後は俺が何とかしておく」

 鼻頭を押さえて救出に来た正義というのも見っとも無いが、手間が省けて良かったとも思う。

「後で、滝のところで合流しよう。君には聞きたいことが色々とある。さぁ、行け」

 ジャングルの西にある河川を合流地点に決め、アーシェを納屋から逃がす。

「逃げた! 捕虜が、逃げたぞッ!」

 アーシェが木々に姿を隠したところで、焚き火を囲んでいた奴らに叫んだ。南に逃げたことをアピールしながら、大袈裟に喚き散らす。

 無論、僅かながら捕虜逃亡の責任を負うだろうが、味方というカテゴリから外れるつもりのソルフには関係のないことだった。


~どれそれ羊狼ラジオコーナー~

「……あの」

「話しかけないでくれます? 作者ことヒスイさんが、こんな人間だったなんて思いませんでした」

「ローナさん……私とて、本意ではないのですよ。もしかして、最終話まで出番がないことを怒っていらっしゃる?」

――以下放送事故――

「ひ、酷い目にあった……。まぁ、注意書きは書いたから、運営に睨まれることはないだろう。ちなみに、この回を読まなかった読者方のために、次回にはあらすじを書いておきますのでご安心ください」

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