第8話 「世界」の最期(その11)
鍾乳石が落ち、石筍が倒れて荒れ果てた“女王様の間”を光の雪がひらひらと舞っている。
その中を、冬祐たちは出口を目指す。
常に閉じていた“出発”と書かれた扉は、すでに主を失って終焉を迎えたパラサイティブゾーンゆえか全開だった。
“女王様の間”から“出発”の扉を過ぎて“カウンターのある部屋”に続く通路に入る。
通路の中程に、アニーが立っていた。
冬祐に側頭部を吹っ飛ばされたままの姿で。
そのアニーが冬祐に声を掛ける。
「お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」
何事かと顔を見合わせる冬祐と竹児だが、アニーに誘導されるまま壁面に開いた扉へと進む。
その部屋がどこかは、冬祐も竹児も知っている。
最初に自分たちがここに漂着した“同心円の描かれた八角形の部屋”である。
部屋の奥からアニーが振り返る。
そして、同心円の中央に立つ冬祐と、ホーネットに支えられた竹児に告げる。
「あなた方を元の世界へ戻します」
その口調も、表情も、そして、たたずまいまでも、カウンターで冬祐の出発を見送っていた時や瑞行をかばっていた時とは、まるで別人のようだった。
竹児が問い返す。
「できるのか」
「“母上様”が力尽きたことで、パラサイティブゾーンは私だけになりました。今は私だけが“母上様”の遺伝子情報を継ぐ者として、すべての権限を得ております」
違う雰囲気を漂わせているのは、そのせいなのだろう。
「好奇心から瑞行を保護して二百年……瑞行の記憶を読み取ることで知った別世界の話たち……そんな様々な世界を滅ぼすことに疑問を抱いて……今となっては、つぐなえることではないけれど……せめて、あなたたちを元の世界へお戻ししましょう」
竹児がよろよろとホーネットから離れるが、すぐにバランスを崩して転倒しそうになる。
その竹児を冬祐が支える。
「冬祐……」
「竹児……」
互いに見つめ合い、頷きあう。
冬祐はホーネットに目を向ける。
目が合ったホーネットは、冬祐と竹児へ無言で手を振る。
初めて見せる笑顔で。
冬祐も手を振り返す。
「お元気で。そして、お幸せに。先生にもよろしくお伝えください」
アニーが冬祐と竹児に声を掛ける。
「では、御客人方。これにて……」
降り注ぐ光雪の中で、部屋を出るホーネットの後ろ姿を見送る冬祐の視界が暗転した。




