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第8話 「世界」の最期(その8)

 当たった?

 効いた?

 “女王様”の身体が、上半身を支えていた石筍の向こうに転がり落ちた。

 呆然としている冬祐のとなりでヒザをついた竹児が、ホーネットに問い掛ける。

「なぜ……どうやって、ここまで」

 ホーネットが答える。

「金庫室でオマエらを見送って引き返したんだが、この街を出てすぐの所で変態野郎の悪趣味なトレーラーと合流した。そこで完成したこれと――」

 言いながら上げた右手首ではブレスレットがぼんやりと淡い光を放っている。

 さらに左手で冬祐の銃を指差す。

「――それを渡された」

「これ?」

 ぽかん状態からまだ抜けきってない冬祐が、銃把の底からエネルギーカートリッジを引き抜く。

 定睦の言葉で言うところの“地を這うナメクジが空を飛ぶ鳥にダメージを与える”という、次元を超えたエネルギー弾を生成したカートリッジである。

「完成したんだ……打開策が」

 カートリッジを見ながらつぶやく冬祐に、ホーネットがささやく。

「ヒメだよ」

「ヒメ?」

「変態野郎が言うには……夜明け前に、ヒメが変態野郎を訪ねてきた。そして、言った。次元の壁を越えるには“同じ次元の物質”をぶつければいい。自分は“母上様”と同じ遺伝子構造を持つ存在だから。自分は“母上様”の一部だから。快復した今の自分の身体で作った銃弾なら“母上様”を倒せるはずだと。そして、もし、銃弾の精製が冬祐たちの出発に間に合わないようなら、余った自分の身体で自分に代わって第三者が侵入できるキーアイテムを作ってほしい。それを使って、銃弾を届けてほしいと」

 “キーアイテム”のブレスレットが、明滅する。

 その光が、冬祐にはヒメがドヤ顔で笑っているようにも見えた。

 ホーネットは冬祐の手の中にあるカートリッジに手を伸ばし、側面のスライドスイッチを入れる。

 カートリッジの上に、ぼんやりとヒメの姿が投影された。

「ヒメ……」

 名を呼ぶ冬祐に、投影されたヒメがぶつぶつとひとりごちる。

 ――えっとねえ。なにから言おうかな。最初からでいいか――

 その様子から、最後に録画したものらしいことがわかる。

 ヒメは改めて姿勢を正すと、冬祐へ語り掛ける。

 ――時間がないから、用件だけ言うよ。私の服を“母上様”に頼んでくれたこと、名前を付けてくれたこと、知佐を人質にとった“デブ”を見に行くと言った時とか知佐のタブレットに侵入した時に心配してくれたこと、ボラガサキ市で連れ去られた時に助けに来てくれたこと、そして、昨日の夜に言ってくれたこと。全部が嬉しかったよ。直接、ありがとうが言えずにごめんね。……じゃあね――

 ヒメの姿が消えた。

 冬祐はカートリッジを握りしめる。

「ヒメ……。こっちこそ、ありがとうだよ」

 “女王様”が倒れたことで世界が絶望死から救われたのなら、その世界を救ったのはまちがいなくヒメだった。

 その時、どこからか聞き覚えのある音が耳に届いた。

 この音は――自動扉?

 冬祐が顔を上げる。

 そして、気付く。

 “女王様”の上半身を支えていた石筍の向こうにある“奥の間”への扉が開いていることに。

 冬祐は竹児を――

「お願いします」

 ――ホーネットに預けて、石筍を回り込む。

「!」

 そこにあるはずの、冬祐がヒメの銃弾で倒したはずの“女王様”の上半身がない。

 “女王様”は生きている。

 そして、逃げた。

 “奥の間”へと。

 冬祐が“奥の間”へと駆け込む。

 そこへ飛び出してきたのは――。

「冬祐様あっ」

 翠だった。

「え、なんで、どうして」

 戸惑う冬祐に、翠が背後を指差す。

 力尽きた“女王様”の骸が、横たわっていた。

「もしかして“女王様”が死んだから戻れた――のか?」

 呆然とつぶやいた冬祐は、改めて翠を見下ろす。

 翠はきらきらと輝く笑顔で、涙を浮かべて冬祐を見上げる。

 そして、合った目を、はにかみながら逸らす。

 その愛らしさに、冬祐は思わず抱きしめ――

「起きろっ」

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