第8話 「世界」の最期(その5)
そこは、中央に小さなテーブルと二脚の椅子があり、壁ぎわにはシングルサイズのベッドが置かれている――そんな、これまで見てきた部屋とは明らかに雰囲気の異なる“プライベートスペース”だった。
しかし、そこにひとつだけ場違いなものがある。
冬祐の目は、その“場違いなもの”に釘付けとなり、立ち尽くす。
それは中央に置かれたテーブルのすぐ脇で、天井から吊されている若い女の姿。
手錠を嵌められて目と口を塞がれているが、その服装と欠けた側頭部から一目であのアニーとわかった。
アニーは駆け込んできた冬祐の気配を察したらしく、身を捩らせてうめき声を漏らす。
そこへ開け放したままだった背後のドアから、ひときわ大きな悲鳴とけたたましい笑い声が聞こえた。
默網塚姉妹のどちらかの悲鳴とどちらかの笑い声なのだろうが、もちろん、今の冬祐はそんなものに構うつもりはない。
改めて室内を見渡す。
もうひとつの扉があった。
“あそこから出られるに違いない”と、冬祐はアニーを刺激しないように静かに足を進める。
そして、レバータイプのドアノブに手を掛けるが――アニーのうめく声に振り返る。
「なんか……後味、悪いよな」
自身に諭すようにつぶやいて、部屋の中央へと引き返す。
「撃ちますよ」
ささやいて銃口を向ける。
しかし、その言葉で自分が狙撃されると思ったのか、アニーのうめき声と全身のくねくねが激しくなる。
「そうじゃなくて。そうじゃないんで、じっとしてください」
冬祐は慌てて言い直し、引き金を引く。
発射したエネルギー弾が天井からアニーを吊している手錠の鎖を断ち切った。
床に落ちたアニーは、自由になった両手で目と口を塞ぐ拘束具を荒々しくむしりとる。
一方の冬祐は、その様子を見届けることなく扉へと走る。
ナビ子の介入があったとはいえ、自分が側頭部を吹っ飛ばした相手なのである。
さすがに顔を合わせるのは、なんか気まずい。
そのまま扉を押し開けて、部屋の外へと飛び出す。




