第8話 「世界」の最期(その4)
「痛ってえ」
冬祐は落下して打った尻をさすりながら、周囲に目を凝らす。
その部屋には見覚えがあった。
水族館の展示水槽のような、液体を満たされた太い柱が林立する――電源室である。
透明な柱の中では初めて見た時と同じく、ケーブルにつながれた老女が苦痛に身を捩っている。
默網塚姉妹は、この老女たちに反応したようだった。
黒美が叫ぶ。
「悲鳴悲鳴、直接、聞きたい聞きたい聞きたい聞きたい、悲鳴をはやくはやく」
白美も叫ぶ。
「聞いて聞いて聞いて、おねえちゃあああああん、悲鳴悲鳴いいいいいいいい」
由胡の身体から生える姉妹のものらしい四本の腕が、一本の柱を抱きしめる。
そして、その柱をぼきぼきと音を立てて粉砕する。
砕けた柱の中から液体が噴き出し、老女が転がり出した。
初めて柱越しに見た時にはなんとも思わなかった冬祐だが、昨夜の瑞行の話を聞いたあとでは“最初に搬入した上半身だけのアンドロイドが人になった姿”にしか思えなかった。
床の老女は悲鳴を上げてのたうち、痙攣し、動かなくなった。
もちろん、そのていどで満足する默網塚姉妹ではない。
「他にも悲鳴、他にも悲鳴」
「おねえちゃん、あっちにもこっちにもそっちにも」
「ああああああああ悲鳴悲鳴悲鳴、もっともっともっともっと」
「柱の中よ、柱の中よ、柱の中に悲鳴が詰まってるのよ、おねえちゃあああああん」
しかし、次の瞬間、悲鳴を上げたのは黒美と白美の方だった。
柱の陰から不意に伸びた、巨大なタコの腕足に身体を締め上げられて。
「ひいいいいいいい」
「おねえちゃんの悲鳴すてきすてきすてき。ひいいいいいいい」
「白美ちゃんの悲鳴だってすてきすてきすてき。ひいいいいい」
我に帰った冬祐はつきあってられるかとばかりに、かたわらの扉を蹴り開く。
扉の先には、上階へと続く階段があった。
駆け上がり、突き当たりの扉を開く。




