第7話 真相と覚悟(その12)
「先生は、ずっと部屋に?」
問い掛ける竹児に、見送りに出てきた知佐が頷く。
昨夜からずっと研究室にこもっているらしく、あのあとで定睦を見た者は誰もいなかった。
「つまり、今の時点で打開策は見いだせてない、か――」
苦笑交じりに言う竹児が肩に担いでいるショットガンは、ここのアンドロイドに見繕ってもらったものである。
「――ま、それでもオレの意思は変わらないけどね」
「ボクもです」
「私も」
最後に冬祐。
「もちろん」
どうせ“女王様”を倒さない限り、この世界ごと死ぬのだ。
ならば、ここでその時をおとなしく待つ必要はない。
ましてや、翠のことがある。
たとえ、倒せなくても爪痕のひとつは残したい。
たとえ、爪痕を残せなくてもウラミゴトのひとつも聞かせてやりたい。
そんなことを考えていた。
「とはいえ……黙って出発するわけにもいかないよなあ」
ひとりごちた冬祐は、直通カードを取り出して刻印を撫でる。
しかし、反応はない。
「だめか?」
竹児が覗き込む。
「だめだ。最後にあいさつしたかったんだけど……電源を切ってるぽい」
「電源を切ってるのが“ジャマするな”って意図なら、先生はまだ諦めてないってことですよね」
ケイタが、期待を窺わせるような口ぶりでつぶやく。
しかし、竹児がたしなめるように。
「でも、それを待つ時間がないんだ」
その目は、ケイタの手に乗った瑞行を見ている。
これがもうひとつの“想定外のできごと”だった。
昨夜まではネコサイズだった瑞行だが、今朝はネズミサイズまで小さくなっていた。
さらに、時折、意識も朦朧とするという。
その原因が体質変化によるものか、あまりにも長くパラサイティブゾーンにいたことが影響しているのか、あるいはその両方かはわからない。
ただ、ひとつ言えるのはパラサイティブゾーンの外では、異常な速さで衰弱が進んでいるらしいということだった。
パラサイティブゾーンを離れたことで、本来ならこれまでに経ているはずだった時間経過が一気に押し寄せているのかもしれない。
玉手箱を開けた浦島太郎のように。
「長く生きられないでしょうが“パラサイティブゾーンの入口を見つける”という私の使命は、なんとしてもやりとげるつもりです」
そう言って気丈なところを見せる瑞行だが、それゆえに出発を急ぐ必要があった。
瑞行が力尽きては、パラサイティブゾーンへの侵入は二度とできなくなるのだから。
一台のワゴン車が管理庁舎の前で停まった。
ロボットと一緒に定睦を奪還に向かった時、そして、翠と一緒にボラガサキ市へ向かった時と同じ、冬祐にとってはすっかりおなじみになったワゴン型の自動運転車だった。
運転席から下りてきたのはホーネット。
「クルマの用意ができた。出発しよう。変態野郎には私の方から言っておく」
運転はホーネットが担当することになった。
パラサイティブゾーンの入口を探しながらの移動になるので、これまでのように自動誘導機能は使えない。
運転だけならケイタにもできるが、ホーネットが“なにか手伝わせろ”と暴れ出しかねない勢いだったので頼むことにしたのだ。
竹児が、ケイタの手の上の瑞行を見る。
「とりあえず、どっちへ」
瑞行が答える。
「南東の方角に感じます」
ケイタが頷く。
「ボラガサキ市ですね」
竹児が冬祐を見る。
「じゃ、行くか」
冬祐が応える
「ああ、行こう」




