第7話 真相と覚悟(その11)
翌朝。
管理庁舎のエントランスで、冬祐は解けかかった右手の包帯をごそごそと巻き直していた。
修復を終えた翠とここを出発する前に替えて以来だから、そろそろ交換すべき時期だったのかもしれない。
とはいえ、今になって周囲に交換を頼もうとは思わなかった。
痛みはほとんどないことから巻いてなくてもいい状態に過ぎず“せっかくだから巻いておこう”ていどのものでしかないのだ。
それゆえに周囲の手を煩わせたり、気を遣わせたりするのも申し訳ないと思った。
なによりも、頼まれ事が嫌いな冬祐は頼み事も苦手なのだ。
というよりも、頼まれ事を拒否する以上は頼み事をするべきではないというポリシーがあった。
人からの頼まれ事を断っているようなヤツが人に頼み事ってどうなのよ――という感覚である。
そんな個人的事情から――左手だけなので苦戦していることは確かだが――周囲に頼もうとは思わなかったし、また、周囲から声を掛けられることも本意ではなかった。
「まあ、こんなもんでいいか」
適当に巻いて妥協する。
それよりも、今朝になって想定外のことがふたつあった。
ひとつは――ヒメがいなくなった。
朝になって、知佐がガーゼを替えに行ったらいなくなっていたという。
竹児の話では、ナビ子から聞いたところによると“係留世界”で“妖精”に危害を与えられる者は存在しないと言う。
なので、体力さえ回復すれば不死身で無敵な存在となることから、心配はいらないだろうということだった。
冬祐は昨夜のヒメを思い出す。
最後の様子から察すると、自分がなにか機嫌を損ねたのかもしれない。
なにしろ、ヒトヅキアイは人一倍苦手なのである。
小学生の頃から気付かないうちに周囲を怒らせたり傷つけたりして、ショートホームルームでクラスの女子軍団からフルボッコにされる常連でもあったのだ。
そんな感じで、気付かないうちに自分がなにかしてしまった可能性はおおいにある。
あるいは、ヒメが“冬祐と一緒にいたくない”と考えるようなことがあったのかもしれない。
単純にナビ役としての使命が終わったことで、自由の身になりたかっただけなのかもしれないが。
いずれにしても、ヒメの意思で自分のもとから離れたのなら冬祐に言えることはなにもない。
ましてや、これからヒメにとっての“母上様”を討伐に向かうのである。
冬祐たちの“パラサイティブゾーンからの脱出”を助けてくれたことは確かだが、それにしたって葛藤があったのかもしれない。
いや、あって当然だったろう。
そんなヒメの心中を慮ることなく“一緒に母上様を倒しに行こう”などと、どんな顔で言えるのか。
どの口で“これまで同様、フォローよろしく”などと言えるのか。
だから、冬祐は心の中でヒメに告げた。
寂しいけれど……今までありがとう――と。




