第6話 翠(その6)
冬祐と竹児が破壊した扉から出ると、そこは公衆トイレだった。
「大丈夫ですかっ」
“謎生物”を抱いて外で待っていたケイタが、声を掛ける。
“ああ”と右手を挙げて応える竹児の横で、冬祐は掃除用具入れの壊れた扉を振り返る。
そこはバケツ、モップ、洗剤、そして、補充用のトイレットペーパーが入れられた、普通の掃除用具入れだった。
その様子が“女王様の世界”との接続を切られたように見えた冬祐は思う。
“女王様”は“こっち”の世界に介入するつもりはないのだろうと。
公衆トイレの外へ出ると、夕日に照らされた小さな駅舎があった。
掲示されている駅名は“ヅギバオカ第四駅”。
雑木林に囲まれた駅の周辺にも、駅舎越しに覗くホームにも、人の姿はない。
いわゆる、秘境駅である。
「ここって……知ってるか?」
その口調から、竹児にとっても初めての土地らしい。
「いや、知らない。初めてだ」
答える冬祐に、竹児が周囲を見渡す。
「どこか、ゆっくり話ができるとこがあればいいんだが」
人の気配どころか人家すら、それどころか舗装された道路すらない。
雑草の生えた土が剥き出しの駅前広場で、冬祐は少し迷ってポケットのカードを取り出す。
刻印を撫でると、すぐに定睦の声が返った。
――どうした。どこにおる?――
「えーと、ヅギバオカ第四駅です。ちょっと、いろいろあって。どこか落ち着きたいんですけど」
――タクシーは乗ったことがあるかの?――
「タクシーは……」
里村夫人の屋敷から乗ったが、すべてメグ任せだった。
「乗ったことはありますが、よくわからないです」
答えながら“こどもみたいだ”と情けなく思う。
そんな冬祐に定睦は。
――翠ならわかるじゃろ――
冬祐は即答する。
「今は一緒じゃないんです」
そう言うしかない。
そこへ横からケイタが口を出す。
「タクシーなら大丈夫です。ボクの方から呼び出すこともできます」
冬祐はケイタに頷いて、定睦へ告げる。
「タクシー、大丈夫です」
――なら、今からサダチカ・シティの座標を伝えるから、それで来い。料金は気にするな――




