第6話 翠(その5)
「冬祐っ」
――する寸前に、冬祐が押し倒される。
その頭上を通り過ぎた光球が、弾けて消える。
「間に合ったな」
冬祐を押し倒したのは、竹児だった。
「逃げるぞ、冬祐」
我に帰った冬祐が“奥の間”へと手を伸ばす。
「いや、翠が……翠が」
竹児がずいと顔を寄せて、声を荒らげる。
「わかってる。だが、今は逃げる。事情はあとでゆっくり話す」
立ち上がった竹児が“出発”と書かれた扉へと、冬祐の手を引いて走り出す。
しかし、これまで自動で開いていた扉は、電源を切られたかのように開かない。
「冬祐、撃てっ」
目の前で怒鳴りつけられて我に帰った冬祐が、数メートル後ずさりして銃を撃つ。
撃ち出されたエネルギー弾が、扉を吹き飛ばす。
ふたりは先の通路へと駆け込み、走り抜ける。
その終点に位置する扉も、冬祐が同様に銃撃して破壊する。
扉の向こうはカウンターのある部屋。
アニーも“謎生物”もいなくなったカウンターの向かいに位置する“外へとつながる扉”へと走る――が。
「!」
「?」
冬祐と竹児が、いきなり現れた光のカーテンに弾かれる。
「なんだ、これは」と竹児。
「出られない?」と冬祐。
竹児が忌々しげに、冬祐が戸惑いながら見つめるカーテンの表面を、くるくるとミズスマシかアメンボのように舞っているものがある。
それは黒い点から次第に大きくなり、竹児と一緒にいた“妖精”ナビ子の姿になった。
「裏切ったか」
詰る竹児に、ナビ子が笑う。
「最初に言いましたわ。私は母上様の一部だと」
冬祐が半ば無意識に銃を構える。
ナビ子が“あら?”という表情を向ける。
「私を撃つんですの?」
冬祐は竹児を見る。
竹児はカーテンに張り付いているナビ子を睨んでいる。
そして、冬祐に告げる。
「かまわん、撃て」
冬祐が引き金を引く。
しかし“単眼スライム”に撃った時と同様に、着弾したエネルギー弾は“カーテン”の表面に波紋を広げて揺らめかせるだけで手応えはない。
「ダメだ。このカーテンは破れない」
冬祐が吐き捨てた時、背後から閃光が走る。
閃光はカーテンに接触すると、そのまま全面に微細な紫電となって拡散する。
それまでかすかな笑みさえ浮かべて、冬祐と竹児を見ていたナビ子の表情が苦悶にゆがむ。
「く、く……まさか、そんな、ですわ」
そして、それまでの口調とは一転して絶叫する。
「なにをやってるかわかってんのか、貴様あああああああああっ」
次の瞬間“ぱん”と弾ける音がして、ナビ子もろともカーテンが消えた。
なにが起きたのかわからず、ぽかんと見ている冬祐と竹児の前で、カーテンを覆っていた紫電が集束し――
「ヒメっ」
――ヒメの姿になって、床に落ちた。
駆け寄った冬祐がヒザをついて、両手でやさしく抱き上げる。
「ヒメ、ヒメ。大丈夫か、しっかりしろ」
ヒメは薄目を開けて、力なくささやく。
「冬……祐……早く……ここから……逃げて」
そこへ外への扉が開かないことを確かめた竹児が、扉を蹴飛ばして冬祐に声を掛ける。
「冬祐、頼む」
冬祐が扉へ銃口を向ける。




