第6話 翠(その4)
静かに目を開けた翠は、冬祐を見る。
そして、困ったような照れたような表情を浮かべるが、すぐに泣き顔に変わる。
その泣き顔を必死に押さえて、笑顔を作ろうとしている。
冬祐は無意識のうちに部屋を飛び出していた。
“女王様”の正面に立ち、そして、怒鳴る。
「騙したなああああああっ」
しかし“女王様”は淡々と答える。
――騙してなどいません。最初に言った通り、私は“人間になりたいアンドロイド”の願いを叶えます。御客人も見た通りです。しかし、狭山快翔と対面して戻ってきたメイブ九二C六六四七Gは“人間になりたくない”と言いました。御客人と出会う前の、解体工場で解体されていればよかったと泣きながら。なので、その体をもらい受けたのです。もちろん本人の了承は得たうえで。騙してなどいません――
目眩と全身が痺れるような衝撃の中で、冬祐は力が抜けそうになるのを、その場に崩れ落ちそうになるのをこらえて“女王様”を睨み付ける。
そんな冬祐へ“女王様”が続ける。
――もっとも、私は嘘をついていないわけではありません。ひとつだけ、嘘をついてます。それは御客人に対してのひとつだけ――
冬祐はうめくようにつぶやく。
「それって……まさか」
“女王様”が冬祐にした約束――思い当たるものはひとつしかない。
――私がついた唯一の嘘は“メイブ九二C六六四七Gを連れてきたら、御客人を元の世界へ帰す”ということだけです――
冬祐は知る。
“騙されていたのは自分だった”ということを。
冬祐の全身から、ついに力が抜ける。
その場でヒザをつく。
“女王様”の右手で光球が集束し、ふわりと離れる。
――御客人はメイブ九二C六六四七Gを連れてきて、そして、自身も“糸”として完成しました。つまり、役割を終えたのです。なので……死ね――
光球が冬祐へと飛来する。
抜け殻状態でヒザ立ちの冬祐は、避けることができない。
冬祐の頭によぎるのは、翠との日々。
解体工場で吊されて泣いていた翠。
ヒメから願いを叶えに来たと聞いて興奮する翠。
由胡の空間歪曲で負傷した冬祐の右手を心配する翠。
里村邸でメグから料理を教わり、瞳を輝かせる翠。
その数時間後にオーナーを思い出して泣く翠。
白美の電撃銃から冬祐をかばって動かなくなった翠。
快翔の手前、冬祐の気持ちに応えられないと泣く翠。
ボラガサキ市の多目的ホールで、定睦と一緒に負傷したアンドロイドを修復する翠。
そして、そして……。
思い出の数々が溢れて、無意識にその名をつぶやく。
「翠……」
同時に光球が冬祐に着弾――




