第6話 翠(その3)
――いかがでしたか? 感動の再会は――
「いえ、まあ」
出迎える“女王様”の言葉に、冬祐は“思い出したくもない”とおざなりに返す。
“それよりも……”と周囲を見渡すが、どこにも翠の姿はない。
正体不明な不安感が増長してくるのを感じて落ち着けない冬祐に“女王様”が問い掛ける。
――メイブ九二C六六四七Gが気になりますか?――
即座に問い返す。
「どこにいますか」
“女王様”が首を傾げた。
――なぜ、気になるのでしょう?――
「なぜって……」
――私との約束は“御客人がメイブ九二C六六四七Gをここへ連れてくれば元の世界へ帰す”というもの。そして、御客人はここに連れてきてくれた。そこで目的は果たしたはず。すなわち、御客人とメイブ九二C六六四七Gの関係はそこで終わっているのでは?――
そう言われて、冬祐は初めて気付く。
そうなのだ。
自身が帰るために、翠をここまで連れてきたのだ。
石台に翠を横たえて“女王様”に引き渡した時点で、冬祐と翠の関係は終わっているのだ。
しかし――。
冬祐の口を衝いて、言葉が溢れる。
まるで冬祐自身の意思とは無関係に、まるで催眠術でもかけられたように。
「確かに僕は自分が帰るために翠を迎えに行った。でも、今の僕は……なんて言うか、それだけじゃない。翠の笑顔が見たかった。夢が叶うところを、幸せになるところが見たかった。それを見届けたかった」
“女王様”がぽつり。
――ヒトはそれを愛と呼ぶ――
思わぬ言葉に、冬祐は戸惑う。
自分の翠に対する感情は“愛”だったのか?
“女王様”が続ける。
――以前にここへ漂着した者の言葉です。ところで……――
さらに冬祐にとって、予想外の言葉を告げる。
――……メイブ九二C六六四七Gがここへ戻ってから、すでに七十時間が過ぎています――
「七十時間……」
翠が戻って、七十時間後に自分が帰ってきた?
確かに予想外ではあったが、しかし、それほどの驚きはもうなかった。
冬祐の感覚は麻痺していた。
これまで空間を飛び越える旅を散々してきたのだ。
いまさら時間を飛び越えたところで、なにを驚くことがあるものか。
そんなことよりも今は翠のことが心配だった、一刻も早く会いたかった。
――メイブ九二C六六四七Gは“奥の間”にいます――
その言葉に“まだ、奥に部屋があったのか”と目を向ける。
“女王様”の背後に、確かに扉があった。
――なにがあったのでしょう、相当落ち込んでいた様子。会って、慰めてあげますか?――
「は、はい」
答えながら、扉へと走る。
自動扉が開く。
そこは鍾乳洞から一転した、倉庫のような部屋だった。
見える範囲を埋めるように、何台もの軽自動車ほどの機械が並んでいる。
その様子から、立体駐車場のワンフロアにも見える。
しかし、どこにも翠の姿はない。
「翠、どこだ」
どこかに隠れているのか?
自身の声が反響する中へ足を進める。
そして、整然と並ぶ機械の間に目を配りながら、声を掛けて歩く。
「気にすることはないよ。元気出せよ。いつもみたいに……」
その時、機械の一台がうなりを上げた。
驚いた冬祐が立ち止まり、顔を向ける。
機械のフロントパネルが開く。
現れたのは液体を満たされた円筒。
その中にケーブルをつながれた翠の首が沈んでいた。




